2022/07/15人物, 専門家, 教育

【社会福祉】アクアを通じて障がい者の自立支援を☆就労支援センターアクア(大阪府寝屋川市)の挑戦

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障がい者の自立を目指して、去年6月に開所した就労継続支援B型(一部生活介護)「就労支援センターアクア」。アロワナなどを複数の水槽で飼育管理し、販売用に出荷作業まで一貫して行っています。アクアリウムが社会福祉に結びついている、全国でも珍しい貴重な取り組み。水槽の水替えはもちろんエサやりなどの作業を通じて、魚の成長を見守る健気な姿がありました。

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◆アクア経験ときのこの成功体験

大阪府寝屋川市の閑静な住宅街の一角。坂道を上ったところで、アクアの3文字が見えてきました。周辺には大規模な浄水場や治水緑地など、何かと水にまつわる施設も多い土地柄でもあります。

 

建物全体を見ると、水をイメージしたカラーリング。深みのある上品なブルーが周囲の環境ともマッチしています。去年6月1日にオープン以来、まる1年を迎えました。

 

何とおしゃれなエントランス。Aqua houseの文字が効いています。まるでまちなかのカフェのよう。ライブロックでアレンジされた水槽は、海水魚かと思ってしまうくらいビューテホー(笑)。もちろんレンタル水槽ではなく、施設そのもののコンセプトを象徴する大切なシチュエーションなのです。

 

数種のアフリカンシクリッドたちが出迎えてくれました。

 

「私自身がアクアリウムにハマっていたことがあったんです」と、施設を統括する村上智康さん。でしょうね、そうだと思っていました(笑)。古代魚を飼ったり、水草水槽にハマって眠れないほど悩んでみたり(笑)。そんな自身の経験を生かせないものかとあれこれ思案。結果、水槽を管理しながら生きものを育てていくという体験を、作業所に取り込むことになりました。いわく、「人に真似されない仕組みを構築したかったんです」。

 

B型の事業所というと内職や軽作業が多いのが一般的ですが、「アクア独自の変化のある作業に携わることで、技術的な側面はもちろんやり甲斐にもつながり、人間形成に大きく関わってくると確信しました」。

 

全国的にもあまり例をみない新たなケース。実は村上さんには、5年前同じ寝屋川市内に立ち上げた「就労支援センターきのこ」の成功体験がありました。しいたけの栽培から収穫・出荷までの作業は、対象が異なるだけで仕組みはまったくアクアと同じだったからです。「どちらの作業もモノを大切にする心が養われるだけでなく、集中力やコミュニケーション能力の向上にもひと役買っています」。きのことアクア。今では2本柱として、地域福祉に大きく貢献しています。

◆大量の水を扱うこと

施設の2階にある水槽メインの作業場は、まるでアクアショップのバックヤードか専門学校の実習室のよう。120㎝の特注水槽を中心に約100本が、びっしり3段に並んでいます。

 

エサやりやメンテなどがしやすいよう、水槽の高さは通常よりやや低めに設計されているほか、水替えなどの作業が比較的容易なベアタンク方式を採用しています。人にやさしい作業環境が印象的です。

 

最上段の水槽は汲み置き用の水スペース。これほど大量の水を扱う作業というのも、かなり珍しい部類に入ります。

 

それぞれの水槽の水温とPH値を記録することが、一日のスタート。こうしたルーティンをしっかり身につけることが規則正しいライフスタイル確立につながります。

 

すべての作業が終わったら、それぞれの水槽に上フタをして一日が終わります。フタをしておかないと魚が飛び出してしまうことも、体験を通じて今や周知の事実。

 

生体のメインはアフリカ産のシルバーアロワナ。成長すると1m以上に。少しずつ成長していく姿を目の当たりにできることが、やり甲斐や大きな喜びにもつながっています。

 

えーっと、これは何という品種だっけ?ぼんやりとつぶやいていると、別の作業をしていた男子が気づき小走りでこちらのほうへ。そして元気よく、「これはセネガルという魚です!」。何という気配り。そして素早い反応。これがコミュニケーション能力の高さなのかと、驚かされました。

◆アクアに取り組んできた成果

ついつい使いっぱなしになりがちなホースなどの片づけも、自分たちの手でちゃんと。まだ10代のR君は、特別支援学校を卒業して最近入所したばかりの最年少。体が大きいし力もありそう。「いいえ、そうでもないっす(笑)」と、照れたような笑顔で答えてくれました。いやいや、絶対に力ありますって(笑)。

 

ところどころにタオルが掛けられ、その上には「手」の文字が。聞くと、『作業で濡れた手をむやみやたらに服などで拭かずタオルを使いましょう』という意味だそうです。作業手順に関わることはできるだけ習慣化することが理想ですから。

 

水槽をよく見ると、スネイクヘッドの稚魚が生まれたばかりでした。

 

「スネイクヘッドはオスがマウスブリードするのが一般的ですが、孵化したあとはメスがフィードエッグといわれるエサ用の卵を産み、稚魚はそれを食べて成長します。なので、お母さんと一緒の水槽で暮らしています。ちょっとお母さん、恥ずかしがって見えないところに隠れちゃってますが(笑)」とは、さすが元ネイチャーアクアリストの村上さん。こうした知識や生態なども、少しずつ覚えて新しい刺激になっています。

 

12㎝まで成長したタイガーオスカー。日に日に成長する魚たちを観察するのも、ここでは重要なファクター。きっと充実感もハンパないことでしょう。

 

これまで入退院を繰り返してきた施設最年長のNさんは、超真面目に社会復帰を望んでいる一人。「魚が大きくなっていく姿がとってもうれしいです」とニコリと答えながら、その眼はずっと水槽の奥の魚にあったのが印象的でした。通所理由はさまざまですが、初めてアクアにふれたことで性格が明るくなり社交的に変化していくケースも少なくありません。

 

取材の様子をどこかで聞きつけてきたのか、テンションMAXのY君登場(笑)。あれこれ注文つけたら、ちゃんとそれらしいポーズをとってくれました。何をしても長続きしなかった苦い過去がありますが、ここへきてからは自己新記録を更新中。将来何になりたいの?「カメラマンです!」と言うや否や、「うそ!芸人になりたいって言うてたやん!」と横から鋭いツッコミを入れてきた女子との微笑ましいやりとりを見ていると、ここが最良の居場所であることを実感させられます。

 

「ぼくも写真撮って欲しいです!」とまた一人エントリー(笑)。長身のK君は魚が大好きで、釣り具メーカーに就職したかったのだそうです。なので、魚の世話は得意中の得意。水槽をしっかり点検しながら、撮影が終わったら「ありがとうございます!」と元気よくあいさつしてくれました。

 

作業は水槽の維持管理だけではありません。オフィスでパソコンに向かって作業していたK君は、最近やりたいことが見つかり以前よりずっと自信が出てきました。だからでしょうか、キワメテ水族館のサイトをじっくりチェック。何かヤバいことでも書いてた(笑)?

 

Mさんは、パソコンを使ってオークションサイトに魚を出品する係。なかなか難しい作業だとは思いますが、「水槽をいじるのも大好きです」。そんな積極姿勢が功を奏して、最近就職が決まりました。今一番社会に近いMさん、きっとみんなの模範になることでしょう。

 

ふと見ると、1階エントランス付近にも水槽作業場がありました。2階と違って、こちらはより実践的な環境で、てっきり村上さんの趣味の部屋だと思いました(笑)。「いえいえ、毎日アクアを仕事にしていたら、趣味なんかとてもとても(笑)」。

 

アルビノオスカーやグッピーのほか、飼育しやすいメダカも少々。

 

中には、村上さんと十数年の付き合いがあるベテラン看護師・中西ふさよさんのコレクションもありました。これは意外でした。『ふ』と書いてあるのが中西さんのマイフィッシュ。ナースの中西さん、みんなに負けないようしっかり飼育していってくださいね(笑)。

◆アクアに確かな手応え

単に黙々と作業を繰り返すだけでなく、常に変化と抑揚のある作業の連続。プロセスがモノをいう作業だからこそ緊張感を伴い、集中力も育まれるのでしょう。

 

しかも、相手は生きもの。自分が受け持つ水槽の魚が、日々成長する姿を目の当たりにして、繊細な感性が芽生えないはずがありません。

 

さらには、ふだんなかなか体験できない産卵=命の誕生というドラマチックなシーンに何度も立ち会えることで、感動を享受できるのもアクアならではといえるでしょう。

 

もしかしたら、この先アクア関連のショップや企業に就職するケースがあっても、まったく不思議ではないのです。アクアに取り組んできたことが花開いて、夢をかたちにできるチャンスかも知れないのです。

 

スタートからまる1年。早くもさまざまな相乗効果が生まれ、「アクアをやってきてよかったなと思います」という村上さん。今、きのこ同様確かな手応えを感じています。アクアという目的意識を持てた作業環境こそ、理想の作業所であり彼らや彼女らの心地よい居場所であることは間違いありません。

 

イエーイ(笑)!あの子もこの子も、屈託のない笑顔が印象的です。やっと見つけた自分たちの居場所。でも人生はこれから。アクアできっかけをつかんで、これからのステージは君たちが主役なのだから。

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