アクア歴わずか3年で水槽総数27本。このうちの7割がエビに特化。仕事でも趣味でも、可能な限り科学的な根拠を導き出し、得た教訓を成功に変えてきたS・Tさん。しかも夫婦揃って、おしどり夫婦ならぬエビ好き夫婦。コロナ禍以降に走り出したアクアライフは急加速。自身のユニークなこだわりにも耳を傾けてみました。
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◆清流・千種川に抱かれて
兵庫県赤穂郡上郡町。大阪からでも特急でわずか1時間半。思えば遠くへきたもんだ。
県の南西部にあり、人口は約13,000人。町の大半が300~400m級の山地や丘陵地で、国指定の史跡や観光地も結構たくさんあるみたいです。
栄養豊富な緑黄色野菜の栽培も盛んで、特にモロヘイヤは地元の特産品としてのシェアも高いのだそう。これは意外。
町の中央部には、南北に清流・千種川が流れています。水深が浅く流れが速いため、川底の石のコケの育成がよいのだとか。兵庫県下でも屈指のアユ釣り場としても有名なのは、そういうことも理由になっているようです。
特筆すべきはその水質。兵庫県南部の水道水として利用されている千種川は全国名水百選に、さらには町全体も「水の郷百選」に指定。人々のくらしも名産品も、千種川の恩恵にあやかっているところが多いのでしょう。
◆全貌が明らかになる瞬間
ピンポーン。初めまして。おお~、玄関先にイキナリ水槽やん。水槽だけではなく、爬虫類らしきケージも。冒頭からワクワク感満載です。
60㎝水槽にはプラティほか代表的な熱帯魚がわさわさ。久しぶりに見るアクアなエントランスはとっても新鮮でした。
ちなみにこちらのケージにはリクガメが。どうやら長男クンのリクエストで、晴れてこのおうちの住民となったようです。
話には聞いていた、変わることのないエビ愛。玄関先にエビは1匹もいないということは、このあととんでもない光景に出くわすのでは?と心の準備もそこそこに、いよいよリビングにログイン。
リビングに通してもらって最初に目に飛び込んできたのは!あれ?カラの水槽でした。いずれはここにエビをわさわさ投入する予定なのだとか。ということは、主役のエビは屋外のプラ舟かどこかに?
やがて気づいた1枚のドア。このドアの向こうには、きっと想像を超える新しい未来が待っているに違いありません。
ん?トロピカルフィッシュルーム?やっぱりここでしたか。アクアリウムではなくトロピカルフィッシュ。
いよいよ開封の儀ならぬ開扉の儀。ワクワク。
ちょい見せ。ドキドキ。
キター!わーすごすぎ!あまりにも圧巻の風景にカメラを持つ手が震えるどころか、広角レンズを向けても水槽全部が入りきりません。無理〜。
ちょっと引いてスマホでやってみても無理か。実は事前の情報がまったくなく、あえて不安と期待の半々でやってきたのですが、これはえらいことになりそうです。頭クラクラしてきた!
◆水槽の緑がかった端っこ秘話
2畳半のトロピカルフィッシュルーム。はやる気持ちを抑えながら水槽を数えてみると、全部で25本。上段と下段にそれぞれ効率よく配置されていて、中央に人がひとり横になれる程度のスペースが確保されています。
おうちは7年前に建てられたそうですが、当時はこんなことになろうとは想定外だったみたいで、ここはフリールーム的な存在だったそうです。当然、水槽を置くことが決まって床の補強工事にも着手。晴れてトロピカルフィッシュルームが誕生しました。
本当にここだけ?「そうですよ。私は、魚もエビも横見派ですから」。素晴らしきかな、横見派。
水槽の7割がエビ。しかも30㎝キューブ水槽が中心。「このサイズだと、どの角度からもいい感じで見えるでしょ?自分のつくった世界観をじっくり楽しむには、このタイプがベストなんですよ。水槽というスペシャルな箱の中で、生きものや植物が世代交代を繰り返しながら生態系を保っている姿がたまらなく愛しいんです」とニヤニヤ。会社では神経を使いながら精密機器を扱いつつ、自宅で思う存分アナログワールドに没頭できる格好の趣味を見つけました。
「しかもココが好きなんです(笑)」。え、どれ?「ココですよココ」。意味がわかりません。「KOTOBUKIのレグラスのファンだからなんです」。どんなところが?「だから、ココが好きだからなんですって(笑)」。あー、誰か通訳を!
よくよく聞いてみると、水槽の端面部分が完全な透明ではなく緑がかっているところがお気に入りなのだそう。「透明のほうがいいと言う人が圧倒的だと思いますが、私はそう思わないんです。この緑がかった端っこの感じこそ、モチベが上がるカッコいいアクセントとなっているんです!」。ヘー、変わってますね。こりゃ初耳だわ。思わず横にいた奥様と首をかしげながら大爆笑するしかありませんでした。
◆pHが下がりにくい水道水
水温や温度計、湿度計が至るところにあります。
除湿機や空気清浄機も余裕で。
これは?「住宅内に空気を取り入れる装置なんですが、冬は冷気を入れたくないので勝手にラップを貼っちゃいました(笑)」。よくよく聞いてみると、おうちは高断熱&高気密住宅。特に断熱に関してはトップクラスで、豪雪地帯の青森県とほぼ同ランク設計なのだとか。真冬の取材だったのに、わずかなすきま風の気配さえ一切感じなかったのも、そのせいだったんです。
エビたちのためにエアコンは24時間フル稼働していますが、驚いたことに電気代は通常より0がひとつ少ないほどコストパフォーマンスに優れているのだそう。家計にもやさしい高断熱&高気密住宅、アクアユーザーならぜひおすすめかもです。
pHモニターもあちこちに。「色々調べてみると、うちの水道水はほかと比べてpHが高めに維持されるみたいなんですよ。水替えをしたあとでもほとんど中性~弱アルカリのままで、さほど大きな変化はないんです」。へー、それも驚きです。エビ飼育で善し悪しが問われる水質に神経を使うあまり、水替えに慎重になるエビユーザーは多いと思いますが、「それまで使っていた飼育水と新しい水とを水替えの時に比べても、水質の差がほとんどないんだと考えています」。
それはもしかしたら、水道水として利用されている千種川特有の水質のせいかも、と推察するTさん。あ、それピンポンかも。「今のところ科学的根拠はないんですが、これまでの傾向として結果が出ているのは確かなんです」。水量が豊富で水質のいいとされる清流・千種川。400年前もの昔から上水道設備が発達していたといわれる地域もあり、これは単なる偶然ではないかも知れません。
ちなみに、千種川が流れている兵庫県のエリアは、上郡町を始め、佐用郡佐用町、赤穂市、相生町、宍粟市など。このエリアにお住まいの人は、一度pHを調べてみてはいかがでしょうか。また水質にお悩みのアクアユーザーは、思い切って引っ越ししちゃいます?
◆これが私たちのお気に入り
エビのスタンダードともいうべきレッドビー。みんな大好きレッドビー。「私からするとやっぱり王様的なポジションで、柄と色、赤白のバランスがやっぱり王道にして一番美しいエビです」。
4年前、コロナ禍で知り合いにメダカをもらったことがきっかけでアクアに目覚めてしまったTさん。当初は魚がメインでしたが、お掃除用に投入していたミナミヌマエビに、あろうことか奥様が超絶反応。あれまー。「可愛い!もっときれいなエビが欲しい!」と懇願する奥様のひと言がきっかけで、本格的にエビ沼にハマりました。
地中海の宝石のような彩りを放つターコイズブルー。そんな美しさに魅了されたTさん、「やっぱり青さと白さのバランスが絶妙なんです。白が強くなるにつれてエメラルド色に青色が変化していくさまが大のお気に入りです!」。レッドビーもターコイズブルーも、どちらかというと弱酸性の水が適しているのだとか。
魚と違って、ライフサイクルが1年に4回も体感できるのもエビの魅力なのだそう。「生まれてからメスが抱卵し卵を生んで、そして世代交代が行われる。このプロセスが1年に4回も見られるなんて、こんな贅沢はエビユーザーでないとわからない醍醐味だと思います」。
金眼が特徴のエクリプス。おお~、これが金眼というやつでしたか。「金眼好きとしては避けて通れない(?)最高種です。生まれてくる個体の柄の多彩さがあって、作出する楽しさがあります。といっても、私の場合まだ飼育し始めたばかりなので、よくわかってませんが(笑)」。
いやいや、アクア歴わずか4年でよくもここまできたものです。よほどエビが性に合っていたんでしょうね。「飼う楽しみ、増やす楽しみ、掛け合わせる楽しみ、そして見る楽しみ。たくさんの楽しみプラス質を高めて量も増やしていきたいんです」。
めちゃくちゃきれいなゴーストシャドー。「ゴーストシャドーは水槽内のすべての色に対して負けない白で、見ていて一番可愛いエビです。ツマツマしている仕草は断トツのナンバーワンです!」と太鼓判。
エサに沢山のエビが群がっている「エビダンゴ」も楽しみのひとつ。「あと、メスが脱皮した時に発するにおいをかぎつけてオスたちが躍り狂う“抱卵の舞”も見応えありますよ(笑)」。おお~、それは見たことないです。
さて、ここからは奥様のコレクション。そうなんです、Tさんがエビにはハマったきっかけをつくっただけじゃなくて、今や自らのコレクション。「そうなんですよ~、ごめんなさい(笑)」とケラケラ。赤色、黒色の1色の体色に金の眼が力強くて美しいレッドダイヤモンド。
この子たちも寄ってたかって目がキラキラしていますね。「最初これを見た時、なんて美しいんだろ!と感動してしまったんです。以来、すっかり金眼のトリコです」。
こちらも奥様お気に入りのブラックダイヤモンド。レッドダイヤモンドもブラックダイヤモンドも、どちらかというとpH的には高めの領域。
ということは、Tさんがお気に入りのエビと奥様お気に入りのエビとは、pH7を境にしてくっきり分かれています。お互いの領域に入り込まない&干渉しない。まるで夫婦とはなんぞやを指南してくれているような。知らんけど。
このほか、コリドラス(コルレア、ゼブリーナ)や、インペリアルゼブラプレコ、オトシンネグロたちも少々。どうやら魚たちは奥様のチョイスなのだそう。
「欲しいものを見つけてくるのが嫁、そしてそれを育てて仕上げていくのが私なんです」もはやこれがこのおうちの家事分担なり。
◆目指すは西のさと美えび
リビングに置かれたこの水槽でいずれエビを?「実は30㎝以上の水槽でエビを飼うのは難しいんです。水槽が大きいと水量も増え、そのため水質が悪化してきていても急激な変化がないため、ユーザーとしては意外と気づきにくいんです」。
仕方のないこととはいえ、それは困りますよね。「ついつい油断してしまう感じです。逆に、30㎝以下の水槽だと水質の変化が急激なので、何かあった時にも気づきやすく、比較的早く対処しやすいんです」。なるほど、Tさんが30㎝キューブを推すのはそういう理由もあるからなんですね。
いずれよせよ、清流・千種川の恩恵を受けつつ、高断熱・高気密住宅というフィールドは、エビたちにとって最良の環境が維持できている要因になっているようです。次男クンまでがリビングでエビ反ってのびのびしているのも同じ理由かもね。
これからやってみたいこと。それは、30㎝キューブで今の2倍、つまり200匹を飼ってみたいとのこと。そんなに密集させてどうするんですか?「はい、200匹のエビが生命体となって水槽全体に広がり、どこからみてもエビだらけ、という状態をつくってみたいんです」。
その時も緑がかった端面の水槽で?「もちろんです(笑)!」エビといえばほとんどがソイルの上でツマツマしているイメージがあるので、水槽全体の高密度飼育というのは迫力ありそうです。
特筆すべきは、夫婦揃ってエビの繁殖に精力的に取り組んでいる点。全国に名だたるエビのトップブリーダー「さと美えび」が夫婦揃って関東で活躍しているのにあやかって、「じゃあ、“西のさと美えびさん”になったら?って言われたので目指しています(笑)」。まだまだ若い2人だし、今までにいなかったタイプだし、ちょっと面白そうだし。
そうなったら屋号も必要ですよね。播州えび?上郡大自然えび?千種の恵みえび?さてどうする?