もう終わったはずだった、蔭山和宏さんのアクアライフ。おとなしくそのまま立ち飲み居酒屋の店主に収まっていればいいものを、そうはいきませんでした。このままいくと、どうやらメインはディスカスになりそうな気配濃厚。店の一角にとどまることなく、もしかしたら近い将来、アクアのある立ち飲み屋ではなく立ち飲みもできるアクアショップになってたりなんかして。
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◆頭の片隅にやっぱりディスカス
こちらはディスカスのいる唯一の水槽。ん?ん?ディスカスは卒業したはずだったのでは?「酔った勢いでポチってしまったんです(笑)」。ところが、なぜかそのディスカスは出品者の都合で手に入れられずショボーン。それでもどうしても気になったので、「以前レッドショルダーエンゼルを購入したショップで(ディスカスを)7匹買ってしまいました。ラッキーセブン。なんちゃって(笑)」。
水槽にはロイヤルコバルトフレーキーが2匹、レッドロイヤルブルー(現在はスーパーレッドターコイズという名称に変更?)が3匹います。
やや青味がかったロイヤルコバルトフレーキー。サンタイザベル産レッドショルダーエンゼルを買ったショップで購入。
やや赤っぽいレッドロイヤルブルー(スーパーレッドターコイズ)。
購入先の違う合計14匹から再開したディスカスの飼育でしたが、いきなりの試練が。「スーパーレッドターコイズが病気を持っていたみたいで、全部アウトになりかけたんです。焦りました。光を遮って真っ暗にしたり、飼育水の温度を上げたり、塩浴をさせたりするなどして治療に専念。何とか持ち直してくれるまで、1カ月以上かかりました」。
肝心の繁殖については?「産卵はしてくれるのでメスがいることはわかっているのですが、肝心のオスがいるのかどうかが不明なんです。どうかオスが1匹でもいてくれるようにと祈るばかりです」。そう、これからですね。
どこで何を買ったとか、誰と知り合いになったとか、あそこでアレとアレがああなったとか。話題も豊富で、長時間に及んだ取材。「しゃべることがめっちゃ好きですねん(笑)」。蔭山さんの激アツな観察眼と記憶力には脱帽するしかありませんでした。
◆夢にまで見た「店舗付き住宅」
そうこうしている間に、次男の侑汰君(小5)が来店。クリクリ坊主で「こんにちは~!」。初対面なのに、なんと愛想のいい子なんでしょ。小学校ではソフトボールをやっているスポーツ少年です。
アクアに興味ある?と、ありきたりの質問をしてみようかと思いきやサッサと給餌開始。すっかり刷り込まれているというか、ごく当たり前の日常というか。やらされている感はまったくなし。休みの日には、水換えなどのメンテナンスなんかもちょくちょく。さすがアクアのDNAはしっかり継承されているのでしょう。
あれ?もしかして店に貼ってあったポスターも侑汰君?サマになってる。
そうこうしているうちに三女の安寿ちゃん(小4)も「こんにちは~」と店にやってきた。
さらには、さっきまで外で買い物をしていたという高齢の女性も蔭山さんと何やら親しげな様子。営業中でもないのに、なぜこんなに人が続々?
極めつけはこれ。事態が飲み込めるまで、しばしポスターに釘付け。階段横に貼ってあったのは市販のポスターではなく、蔭山さん作のオリジナル。登場人物は全員家族。そう、まさかまさかの多人数家族だったのです。
しかも、店の3階以上が住居になっていて、現在は3世代8人が絶賛生活中。さっき出会った高齢の女性は、蔭山さんのお母さん・和子さんだったのです。
これは一体どういうこと?「商売をしていく上で、店と住まいを一緒にするのが私の長年の夢だったんですよ~」。いわゆる店舗付き住宅。仕事とプライベートを切り離したいニーズがはびこるご時世、これにはびっくりでした。そう、子どもたちは店に遊びにきたのではなく、ただ1階に降りてきただけだったのです。
まさかお店の上がおうちだったとは。外からは想像もつかないシチュエーション。もしかしたら、蔭山さん自身が子どものころに体験した手狭だった住体験が夢のベースになっているのかも知れません。
さらに驚かされるのは、子どもたちがお店を手伝うことも珍しくないという事実。働きものの安寿ちゃんはだし巻き卵が得意なのだとか。今度行ったらぜひ頼んでみようーっと。
店舗付き住宅で暮らしたいという亭主の夢に振り回されながらも、しっかり蔭山さんについてきた奥様の美恵さん。かつて上高地のリゾート施設で働いていた時に蔭山さんと出会い、わずか7カ月で婚姻届を提出。曰く、「有言実行のかたまりみたいな人です(笑)」。店の女将として、5人の子どもを持つ母として、忙しくないはずがありません。
実をいうと美恵さんの祖父はかつて東京・新橋で酒屋を経営していた過去が。その血を継ぐべく、屋号をそのまま継承することになったのだそうです。そんな過去の写真も店内を観察すると何点か。
◆子どもたちに生きもの体験を
2年前、少6だった次女・美春ちゃん。当時、3階自宅にあった水槽にはミッキーマウスプラティが。蔭山さんがアクアを再開したのは、これが大きなきっかけになっているのだそう。「たぶんこの子がプラティを飼いたいと言い出したからだったと思うんですが、侑汰に言わせると違う、と。まあ子どもが5人もいると記憶も曖昧になってしまって(笑)」。※
水槽を店の1階に移動したころは、水草の剪定も手がけていた美春ちゃん。蔭山さんの撮る動画では、剪定作業をする美春ちゃんの様子が初々しく見られました。それにしても、お母さんと見間違えるほどクリソツ。※
また、かねてから侑汰君の希望であり、また子どもたちの教育の一環という意味もあり、侑汰君の通う小学校の理科室には水槽が置かれています。カワムツやカワヨシノボリ、アブラハヤなど、いずれも蔭山さん自らが大阪府南部で採取したものばかりです。※
以前から学校の玄関に置かれているコイが泳ぐ水槽にも着眼。「校内にある池にコイを泳がせて、この水槽には別の魚を入れたいんですけどねえ(笑)」。※
ご近所の幼稚園にもいくつか。こちらは熱帯魚らしい魚ばかりですが、「今の子どもたちは生きものに触れる機会がとんでもなく少ない。水槽をじっくり観察したりエサやりをすることで、その距離はうんと縮まると思うんです。ゲームなどインドア派の子どもが多い時代ですが、アクアを通して生きものを育てることや命の大切さを学んでくれたらな、と」。※
◆自宅の水槽エピソード
最後に、4階ご自宅のカウンターに置かれている水槽も見せてもらいました。おうちとは思えないラウンジのようなヤバさ。
え、レインボースネークヘッド?今までシクリッド系が多かったアクアライフですが、少し魔が差したのでしょうか、詳細不明。
名前は「お富さん」。そらあれよ、魚に似合ってないよハッキリ言うて。おーん。
ある日、夜中にガラスブタの小さな隙間から飛び出してしまって幸いにもシンクに着地。家族の誰もが☆になったものだと思いきや、「生きてたんです!死んだと思ったんです!だからなんです、死んだはずだよお富さん~って(笑)」。ここ、爆笑するところだそうです。
子どもたちがお世話をしているというアカハライモリのいる水槽も。
アカハライモリは、これまで何度もユーザー訪問で見かけましたが、引っ込み思案でなかなか姿を表してくれないのにこの子は違いました。むしろ、見て~とアピってるような。なぜこんなに陽気なんでしょ。
最近、マルキンならぬウオキンという名のブランドを立ち上げ。早速手始めにTシャツの販売を開始させました。意外なことにミシン仕事も得意で、縫製などもすべて蔭山さん自身がやってのけるというから驚きです。
アクアから遠ざかって30年あまり。そして2年前に再燃。コロナによる休業要請の影響もあって、「ほかにやることがなかったから(笑)」始めたアクアリウムでしたが、第2次飼育期としてまた新たな一歩を踏み出しました。
◆エピローグ
店舗付き住宅という夢をもつかみ、まさに順風満帆。次の夢は?と聞いてみたら、蔭山さんが指差す壁にこんな作文が飾ってありました。
長女の・京香さん(高2)の夢は、お父さんとおしゃれなパスタ店を開くこと。忙しすぎるお母さんは休ませてあげたいから、と。何より印象的だったのは、「店舗付き住宅が理想です」というくだりでした。
この日、家族のみなさん全員と会うことはありませんでしたが、蔭山さんにとって子育ても魚の繁殖も、根底にあるものはまったく同じに違いありません。
その答は、新年会や歓送迎会のついでにぜひアクアのあるマルキン酒店でどうぞ。
ついでに、朝は小学生の通学を見守っていますので、見かけた時はぜひ黄色いオジサン!と声がけしてあげてくださいね。たぶん喜んでくれると思うよ、おーん。※
※=蔭山さん提供