ヤドカリや海水魚をメインに扱うアクアショップ・やどかり屋。2年前、大阪市内から和歌山県湯浅町に拠点を移してから1年少し経ちました。この地に身内がいたわけではなく、マーケティング的な戦略があったわけでもなく。温暖な気候と自然に包まれながら、まったりとした移住生活を送っています。
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◆湯浅というところ
湯浅といえば、全国に名だたる醤油発祥のまち。今でこそ醸造所や醤油蔵は少なくなりましたが、伝統的建造物が数多く残り、日本遺産の名を欲しいままにしています。
まるで小京都のような古いまちなみ。みかんやしらすなどの名産品とあいまって、のんびりとまち歩きを楽しむ観光客も少なくありません。
となりまちまで足を伸ばせば、遠浅の海だってめっちゃきれい。
やどかり屋の新天地は、主要幹線道路・国道42号のすぐそば。国道をはさんだ向かいには、醤油や金山寺味噌などを製造する直売所があります。醤油蔵の見学もできることから、湯浅へお越しの際は観光コースとしてセットでどうぞ。
現着。JR湯浅駅からでも徒歩圏なのでとっても便利。
◆7年ぶりの再会
お久しぶりです!笑顔で迎えてくださったのは、オーナーの友永賢治さんと奥様の治美さん。そして愛犬の茶々ちゃん。治美さんが抱えているのは、あのさかなクンがプロデュースした特大マグロのぬいぐるみなのだそう。
ああ、玄関先に置いてあったリアルなぬいぐるみは、さかなクンプロデュースの品々だったのですね。それにしてもデカくてリアル。ちなみに、治美さんが抱えた特大マグロのゆいぐるみは、ン万円もするそうな。
友永さんご夫妻に初めてお会いしたのは、7年前に大阪で開催された「ジャパンペットフェア」でした。ステージイベントでもさかなクンと息の合ったところを披露していたのが印象的でした。ジャパンペットフェアは、今思えばアクアも充実していて楽しいイベントでした。
その後、当時大阪市天王寺区のショップへもお伺いし、たっぷり話し込んじゃったりなんか。いやはや、何もかもが懐かしい。2人ともお元気で何よりです。「でも主人は引っ越しで5㎏も痩せたんですよ(笑)」と治美さん。そうでしたか、夢の移住計画は他人が思うほど楽なものではないのですね。
◆ リゾート的わくわく
まるでリゾート地のペンションのようなエントランス。気持ちをわくわくさせてくれます。
ペットの同伴OK。これならワンちゃんたちが一緒でもゆっくりショッピングが楽しめます。
玄関先に置かれたオオシャコガイの貝殻。2枚合わせて70㎏もあるそうな。現在は輸出入が禁止されている貴重な生きものなのだとか。
サンゴもたくさん。潮のかおりが漂ってきそう。
子どもたちも楽しめるお絵描き広場。地元の人たちにも人気のスペースです。
建物だけでなく、これほど広いガーデンスペースがあるというのはいいですね。ちょっとしたイベントだってできそうです。何より、気持ちがゆったりします。大阪市のど真ん中だとこうはいきません。いいところに新天地が見つかりました。
◆元銀行が「ヤドカリビル」に
建物の全体を見ると。おお、ビルじゃないですか。「元はJAさんの建物だったんですよ。その後骨董屋さんが所有していたんですが、手放されることになってタイミングよく買うことができたんです」。ああなるほど、言われてみれば。今はアレンジされている屋上の5文字の看板はきっと「J」「A」「ゆ」「あ」「さ」だったことは容易に理解できます。
今は2階以上がご自宅。ってことは店舗付き住宅。「そんな物件が欲しかったんです。どうせ移転するなら、終の住処にしようと思ってましたから。なので思い切って買うことにしたんです。大阪市内だとこんな物件、とても手に入りませんから(笑)」と治美さん。
そう、買っちゃったからここは「ヤドカリビル」なんです。「せっかく自分のものになったんだから、好きな名前をつけたんです(笑)」。賢治さん曰く、オールカタカナ表記にしたのは、画数がめちゃくちゃよかったからとのこと。かつては不動産に携わっていた賢治さん、設置する水槽をきれいに保つことを信条としてゲンを担ぐあたりは、7年前と同じでした。
ご近所からも歓迎ムードは上々。店の看板を好意的に掲げてもらったり、回覧板を届けた時も話が弾んだり。でも一番インパクトがあったのは、「何年もの間真っ暗だった空き家の建物に、明かりがともってホッとしたことだそうです(笑)」。
湯浅町の観光案内パンフにも広告が。移転から1年少し。地域にもすっかりなじんで知名度も高まってきた様子。
湯浅町のPR冊子にも紹介されました。そう、移転ではなく移住。暮らしながら働くというのが大きなマインド。「私たちが移住のモデルケースになればいいと思いました」とのコメントが、いかにもご夫妻らしいな、と。
◆ヤドカリたちもお引っ越し
早速店内へ。おお~、さすがに人が集まる施設だっただけにこの広さ。大阪市内の時は2フロア構成だったので、使い勝手なども考えるとこのほうがいいですね。事務スペースやバックヤードのスペースも増えてラッキーでした。
床は全面リフォームしたものの、「壁面などはほとんどいじってないんですよ」。いやいや、全然きれいですよ。天井が高いのも魅力です。
普通の引っ越しだけでも大変なのに、水槽を始めこれだけの什器を運んできたとは。
これはこれは金庫の扉じゃーあーりませんか。さすがにこれを取っ払うのにはコストがかかりすぎますよね。「というより、面白いので残しました(笑)」(賢治さん)。
お店のウリは何といってもオカヤドカリ。沖縄など南のエリアに棲み、主食となるガジュマルやマングローブとともに共存しています。飼いやすいので子どもや女性にも人気があります。ちなみに、「オカヤドカリを展示している場所は、JAにこられたお客さん用のカウンターだったところなんです。リフォームはしてませんけどね」(賢治さん)。いやいや、全然大丈夫。
何といってもユニークなのは、ヤドカリたちの「おうち探し」。体が大きくなってくると、今より大きいサイズの貝殻が必要になりますが、「私たちが何もしなくても、この子たちはちゃんとわかってるんですよ」とヤドカリ担当の治美さん。
ヤドカリの引っ越しを未だかつてリアルタイムで見たことのないキワメテスタッフ。そろそろおうちが手狭になってきたに違いないムラサキオカヤドカリに着目。そろそろ引っ越ししませんか?広いおうちはいいですよ~。
この物件はどうです?せっかく引っ越しするんだったら、今度は洋風っぽい白いおうちなんていかがでしょうか。というわけで、熱心にアプローチしてみると。。。
ご入居おめでとうございます!半日ほどかかりましたが、ご覧の通り引っ越しは無事完了。いやいや、感動してしまいました。「ヤドカリにも好みがあって、色や模様が気に入らないと引っ越しをしてくれないんですよ」(治美さん)。物件探しもひとまず一件落着。
お店には、「移転先候補」の貝殻も多数用意。絶賛入居者募集中。こんなノリはまるで賢治さんの前職・不動産屋さんそのもの。やどかり屋で行われた、ドラマチックなヤドカリのお引っ越し。店もヤドカリも、これにて無事お引っ越し完了。
オリジナルのアクリル製飼育ケース。アクア同様フィルターや底砂などがセットになり、長年にわたる販売実績も十分。ユニークな三角屋根もすっかりトレードマークに。最近では違うパターンの屋根も登場。ヤドカリ飼育といえば、やっぱりこのおうち。お店の主力商品でもあることは今も変わりありません。
「この子たち、切ないくらい可愛くてたまらないんですよ~」。オカヤドカリに興味のある人はヤドカリ愛あふれる治美さんのアドバイスにぜひ耳を傾けてみてください。
◆観葉植物もラインナップに
もちろん海水魚の在庫も豊富。ここからは賢治さんのテリトリー。誰もがよく知るカクレクマノミ。湯浅は海にも面した立地ですが、さすがに南の海までは手が届きません。
ゆったりと。ひたすらゆったり泳ぐマンジュウイシモチ。久しぶりの海水魚取材ですが、海という大自然で優雅に泳ぐ海水魚、やっぱりいいですね。沖縄へ行ってみたくなりました。「現在は通販がメインなので、移住に関してさほどリスクはなかったです」と賢治さん。そんな下地があって正解でした。
ハマクマノミがサンゴイソギンチャクの上でこちらをガン見。キミにとっての居場所はそこなんだね。
物思いに耽っているかのようなスカンクシュリンプ。
目がクリクリした可愛いクルマダイ。あの子もこの子も、みんなゆったりした気持ちで泳いでいるように見えます。人だけでなくヤドカリや魚たちにとっても、この移住は大成功だったのでしょう。
最近はヤドカリや海水魚だけでなく、観葉植物も扱っています。当然、ご近所からも熱い視線が。
さかなクンのお母さんから贈られてきた花に添えられていたメッセージ。もともと和歌山には少なかったアクアショップ。もちろん湯浅町では初。大阪で開業してから、今年5月でまる20周年。移住を機に、新たなステージの始まりでもあるのです。
◆移住は茶々ちゃんとともに
ちょっとだけ2階のご自宅へもお邪魔させていただきました。なんですか、このエモい光景は!「ここで泊まられた人もいますよ(笑)」。そうなんですか!泊まりたい(笑)!
まるでモデルルームのような素敵なキッチンに羨望のまなざし。ヤドカリのスペシャリスト・治美さんも、ここへくれば奥様としての顔に。素晴らしき居住区。
できそうでできない、移住。夢やあこがれが強くても、実利が伴っていないと難しいのも移住。2年前のコロナの影響も大きかったそうです。店をやめるか存続するか、崖っぷちに立たされた結果の移住。「開き直りましたけどね(笑)」。いや、時としてそれも必要なことなのでしょう。
最も気がかりだったのは、今年13才になる愛犬・茶々ちゃん。実は心臓に持病を抱えていました。急に発作を起こしてパタッと倒れて動かなくなったり、何事もなかったようにまた起き上がったり。「大阪にいる時は何軒もの病院を受診しましたが、どの獣医さんも完全にお手上げでした」(賢治さん)。いうまでもなく茶々ちゃんはわが子同然。ところが、和歌山へきたらまったく発作も起こさず元気になったそうです。茶々ちゃん、本当によかったね。
ご夫妻にとってもワンちゃんにとっても、よほど湯浅の環境が合っていたのでしょう。「いやいや、単に暖かいところに住みたかっただけなんですけどね(笑)」とさらりと言う賢治さんですが、かつてない移住プランに相当神経をすり減らしてきたことは5㎏もの激ヤセぶりで想像がつきます。
あ、「4人家族」でしたね。
すっかり暗くなった湯浅のまちで、ほっこりと明かりがともるヤドカリビル。ご近所にとっては安心の道しるべ。
やどかり屋の移住物語、一巻の終わり。