2019/09/26取材, 地域社会, 専門家, 技術, 未分類, 歴史, 水族館, 淡水魚, 自然, 観光

【自然】サカナたちよ幸多かれ☆水のある風景vol.35全国で初めて誕生した青野ダム多自然型魚道のプライド(兵庫県三田市)

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サケやマス、アユなどの遡上魚が川の上流へ移動できるよう人工的につくられた「魚道」。全国各地にはさまざま魚道があり、魚たちにやさしい自然環境づくりに一役買っています。兵庫県三田市の青野ダムに併設されているのは、ダムで分断された生態系を回復させるために整備された全国最初の多自然型魚道。10月いっぱいまでは間近に見学できるユニークな観察施設もあり、早速訪ねてみました。

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◆完成後31年が経過した青野ダム

兵庫県の山間部にある青野ダムは、利水・治水・都市用水の確保などを目的に、1988年に完成しました。

 

貯水池としては兵庫県では最も広く、現在は千丈寺湖の愛称で親しまれ釣りや登山・サイクリング、キャンプなどのレジャーも盛んです。

 

青野ダム記念館は、ダムの目的や周辺の歴史を紹介する見学施設。千丈寺湖が間近に迫りんるなど、自然と一体化。レストスペースはまるでホテルのよう。湖だけでなく有馬富士も望めるというレイクビューで優雅な気分に浸れそうです。

 

ダムサイド公園のこちらも、まるでブライダルガーデンのようなたたずまい。祝福された新郎新婦が歩いていても違和感はありません。

 

さまざまなオブジェも目に飛び込んできます。「水の庭」といわれる場所には、「水の木」「星の立像」と呼ばれるオブジェが。設計者は関西出身の新宮 晋さん。風や水で動くアートが得意なアーティストで、なるほど自然をうまく取り入れた作風はダムとの調和が図られています。

◆10月末まで見学が可能

さて今回の主役は、青野ダム完成から13年後の2001年につくられた「多自然型魚道」という施設。魚道というと、一般的には川そのものを改良したり川の側面に設置されていることが多いようですが、上流と下流が分断されるダムに魚道を併設させたのは、全国でもここが初めてでした。今では全国数カ所のダムにも魚道が導入されていますが、その先駆けでもありました。

 

資料のパースをみると、ダムと魚道の位置関係が一目瞭然。魚たちは下流部から魚道をさかのぼり始め、中流部・上流部へ経て再び千丈寺湖に帰っていく仕組みです。魚道の長さは726m、川幅約3m、水深約1.1~0.2m。そして高低差は18mもあります。

 

ダム堰堤付近から見下ろすとこんな感じ。白く際立っている部分が放流個所。魚道の起点はさらに下のほうにあります。多自然型魚道の名の通り、魚道周辺は緑いっぱいの自然に囲まれていることがよくわかります。

 

魚たちを上に導くための水位調整は、閘門式の魚道ゲートによって行われています。つまり、ダムの水位を調整する際に魚道ゲートを作動させることで、魚たちが上っていきやすいような環境を確保する仕組みです。いってみれば、スエズ運河に船を通航させるために水位を上げ下げしているガツンロックなどの閘門と理屈は同じ。この仕組みは、当時としては画期的でした。もしかしたら、「自分たちの治水や利水のために魚たちの生活環境を奪うダムであっていいのか!?」と声を上げたヒーローがいたのかも知れません。

 

まるで遊歩道のようなほのぼのとしたたたずまい。さらさらゆく春の小川のよう。魚道のベースには自然石が使用され、周りには多くの植物が植えられています。このため、魚だけでなく小鳥や小動物にとっても好環境のオアシスとなっています。

 

まっすぐだったり、くねくねと曲がっていたり。できるだけ勾配を緩やかにして、さまざまな種類の魚が遡上できるよう配慮されています。

 

階段状の構造。一部カットされた部分が魚たちの通り道です。

 

魚道がつくられてから確認された魚は10種類以上。オイカワやヨシノボリ、ニゴイ、カマツカなどなど。噂によると、ウナギも確認されたことがあるそうです。ダムという人工施設でありながら、智恵と工夫で手を施せば自然はちゃんと帰ってくるのですね。

 

魚以外にもさまざな鳥や小動物たちも数多く表敬訪問。イノシシやミサゴ、ホタルなどのほか、タヌキジュニアまで迷い込み、なんとか無事山に帰っていったこともあるそうです。

 

実はこの魚道、毎年7月1日から10月末まで、魚道の一部が無料開放されています。ということは、今月いっぱいまで見学が可能。PR不足のためかあまり知られていないのがもったいない気がしますが、興味のある人はドライブがてらにぜひ訪ねてみてください。

 

◆水中探索を疑似体験できる「自然の水族館」

魚道に沿って小さな白い建物を発見。よくみると、沿うというよりほぼ魚道とくっついてるようにも見えます。

 

下流方向からみるとこんな感じ。明らかに魚道に沿って建てられ、何か目的があるような気がしてなりません。ということで、あの白い建物に向かってみることにしました。

 

あらまあ、水族館?しかもこんなところに?期待と不安が入り交じりつつ、はやる気持ちを抑えて内部へと進入。

 

おお~、これはすごい!長さ5mはあるでしょうか、さきほど歩いてきた魚道の一部が真横から見れるんです。上から見えた小さな白い建物は、これだったんです。こんな観察施設まであるとは知らなかった!

 

魚道の水面がほぼ大人の目線にくるという設計も心憎い!外の様子が見えつつ水中も見えるという、ハイアングルとローアングルのダブル構造。誰ですかね~、こんな粋な計らいの展示手法を考えた人は(笑)

 

2年くらい前からタニシが多くなったとのこと。2年かかったかかってようやくみつけた自分たちの棲み家。彼らたちにとって、ここが一番居心地いい場所なのです。

 

水面のところまで顔を近づけてみると、水の流れる音も聴こえてきて臨場感たっぷり。こんな目線で川を見ることはめったにないので、これは楽しい!

 

真正面から見ると、魚道の全体構造がよくわかります。向かって右側が上流、左側が下流。単に水族館風に見せようとしただけの施設かも知れませんが、水族館の水槽のように限られた魚が上下左右するだけではないところがポイントです。そう、ここには下流からいつやってくるかも知れない魚たちを待つ楽しみがあるんです。

 

おお~、いましたいました!上流へ向かって懸命に泳ぐ魚たちが2匹!感動ものです!

 

速い速い!なかなかカメラが追いつかないほど素早い動きです。体長は約10㎝ほど。姿かたちからすると、おそらくニゴイだと思われます。川を必死で上っていく姿がこんなに近くで見れるなんて、リアルすぎてすごすぎます!

 

ちなみに、9月から10月にかけて魚が多く見られるとのこと。まさに今がベストシーズン。10月いっぱいまで平日も見学OKですので、ぜひ遡上する魚たちの目撃者になってくださいね。

 

施設内から外を見るとこんな感じ。魚道とは透明アクリル板で仕切られ、厚さはなんと4~5㎝もあるのだそう。スタッフのみなさんが毎週メンテをしているので、アクリルでありながら本当にきれいです。こうしてみると、まさに自然の水族館。ここではブクブクもフィルターもライトもフィッシュフードも必要ありません。自然の営みをじっくり見れる観察施設。できることなら一日中滞在していたい気分です。もうテンションMAX(笑)!

 

◆ダム建設に協力した地元住民にできること

しばし魚道の水中探索を終えて再び外へ。最初はベタな名称だなあと思っていましたが、本当に自然のままを見せる観察施設なので結局これがベストなのでしょう。ただ、この名称だけでは中身が少しわかりづらいので、「自然の水族館 ~ギョギョッと魚道体験してみよう~」みたいなサブタイトルなんかつけてみてはどうでしょ(笑)

 

見上げれば青野ダム。魚道を経てあそこまで魚たちが上がっていくのかと思うと、感慨もひとしおです。ダムをつくった人間もすごいけど、あそこまで川を上っていく魚たちもすごい!魚道の見学ができるエリアはここでジエンド。まだ全体の約1/4ほどしか下りてません。このあたりはまだ上流で、この下にはわんどもあるらしく、アクアファンならさらに興味はつきませんよね。

 

魚道そのものはダムの付帯設備にすぎないのでしょうが、人々の生活を守りながら魚の営みを守る魚道の存在にあっぱれです。そして、観察施設をつくった人たちにもあっぱれです!欲をいえば、期間限定ではなく、せめて春から秋までの半年間くらいは見学できるよう配慮してもらえたら、サイコー(笑)!しつこいようですが、見学できるのは10月31日(木)まで。10時から16時までとなっていますのでぜひ。

 

立派なダム横のオブジェに比べたら、こちらはちょっとマイナーっぽくてマニアック(笑)。でも取り組みは立派なもの。単なるかけ声だけでなく、人と魚とが共存している世界がちゃんと存在してるのですから。改めて「キワメテ!水族館」はこの施設、イチオシです!

 

ダムの上にはタイムカプセルが。まるで涙を流しているようにみえるのは、自分だけでしょうか。だとしたら、ダムのために水没した家屋87戸、215ヘクタールの田畑や山林の持ち主たちの「よくぞ自然もたくさん残してくれた」といううれし涙に違いありません。

 

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