ここ最近、台湾やマレーシアなどの諸外国でグッピー愛好者が急増し、かつて「熱帯魚はグッピーに始まりグッピーに終わる」といわれていた国内のブームを追い越す勢いです。グッピー愛好家のはじりよしをさんは、文字通り西日本のグッピーの火付け役でもありました。昭和の高度成長期ともにグッピー沼にハマること50数年。負けず嫌いの性格が講じて、何度も悔しい思いをしてきた自身の振り返ると「まさにクソッタレ人生でしたわ(笑)」。そんなはじりさんのグッピーハウスをみせてもらいたくて、寒風吹きすさぶ京都の里山を訪ねました。
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◆ここは天空のグッピーハウス
京都縦貫自動車道・大原野インターから約4キロ。周囲を山々に囲まれた京都市西京区の里山が、はじりさんのフィールドです。ふもとには洛西ニュータウンや京都市立芸大などもありますが、一歩山へ分け入ると別世界に。そう、知る人ぞ知る天空のグッピーハウスのふるさとなのです(笑)
何げに看板をみると、関係者以外立入禁止の表示が。ここは大原野土地改良区という市内でも別格エリア。建物がむやみやたらに建てられることもなく、至って自然のままの風景が現存しています。
はじりさんに案内されるままにテクテク。「このあたりには魚を飼育するための水道がありませんねん」。え、じゃあどうやって生活を?水槽管理を?と食い下がってもフッフッフッと笑うはじりさんが不気味でした(笑)
ちょっと山に足を踏み入れると、手つかずの竹林が広がっています。京都市西京区といえば、知る人ぞ知る竹の産地。この一角は、去年の台風の影響でかなり倒れてしまっていました。
集落には家が10軒たらず。まるでテレビ番組「ポツンと一軒家」を地でいくような(笑)。平日の昼間では、さすがに人も歩いていないし車も走っていません。
小高い場所からは、比叡山が目の前に。京都の市街地もみえます。夏になると花火大会の様子がここから見えるそうです。もちろん夏はエアコンいらず。そして、シカやイノシシ、アライグマ、ハクビシン、テン、タヌキ、キツネ、イタチなどが棲み、動物王国さながら。とはいえ、こんな里山にグッピーまでが生息しているとは誰も思ってないでしょうね(笑)
ようやくおうちに到着。築100年以上は経っているとあって、堂々の風格。三角屋根の母屋には『丸に隅立て四つ目』の家紋が。あの佐々木小次郎や作家・宮沢賢治と同じです。
はじりさんがこの地に引っ越してきたのは10年前。奥様の実家を引き継ぐべく、京都市内の中心部からここへ。「最初きた時は、ここほんまに市内なん?って家内に聞いたことがあるくらい驚きました(笑)」。今は心身とも健康そのもので、田舎ぐらしにもすっかり慣れました。
早速グッピーハウスへ案内してもらいましょう。「個人的に何度かこられた人はいますけど、こうやって公にお見せするのは初めてなんですよ」。ってことは本邦初公開!読者のみなさん、どうか正座してごらんくださいね(笑)
◆グッピーたちの住み処を本邦初公開
グッピーハウスは母屋から山のほうへ少し登ったところに。パッと見たところでは、ただの倉庫にしかみえません。
シャッターガラガラ。ん?全然グッピーらしきものがどこにもいないんですけど。「ここには津軽錦と土佐金が冬眠中なんです(笑)」。へー、グッピーだけでなく金魚もいるとは。実はこの建物、もともとトラクターや耕運機など格納する倉庫でした。それをあれこれいじって、建物の半分をグッピー専用の飼育スペースに改造したのだそうです。
そしていよいよグッピーハウスへ。はじりさん、さっき言ってた水のことを教えてくださいよ(笑)。「ああ、あれね。山から涌き出る水をこのタンクで一度ためて浄化して水槽に使ってるんです」。なるほど~自然の恵みをそのまま使えるなんて、何というハイコストパフォーマンス!
一方生活水は、タンクの手前に切り替えがあり、普段はそこから屋内に配水されているのだそう。さらにその上にある大きなタンク2個によって、ゴミなどを取り除く役目を果たしています。ちなみに飲み水は浄水器で浄化。またに人間とグッピーがこのようなかたちで自然の恩恵を共有していることになります。
グッピーたちにとって重要なライフラインが、足下を通っています。
みなさま、このたびはようこそ京都彩美庵へおこしやす。さすが京都、まるで着物サロンみたいなノリですね(笑)
入口ドアには「京都グッピークラブジャパン」の名称も。そしておなじみの可愛いキャラクターが。これって当然グッピーですよね?「息子がつくってくれたんです、親父に似てるやつを、ってね(笑)」って、こんなに可愛いかったっけ(爆笑)?愛称とかあるんですか?グッピーの学名『ポエキリア レティキュラータ』の一部を切り取って「きりWO」と呼んでいるそうです。よしを&キリオか。親子漫才ができそうですね(笑)
◆水槽の水をカメラ目線でゴックン?
ハウスに入るなり、もわっとした暖気に襲われました(笑)。あちゃ~、たちまちメガネもカメラもレンズも真っ白に曇る曇る(笑)。はじりさんの姿も見えづら~い。それもそのはず、グッピーのために石油ストーブ2台を使ってハウス全体をあったかく。というか、ハウス内があったかすぎるのではなく、外が寒すぎるということで一件落着(笑)
ハウスのスペースは広さにして約10畳。元農機具倉庫といっても、かなり広いです。そこに230の水槽が整然と置かれています。まさにグッピーファクトリー。約1,000匹の個体も、はじりさんとともに10年間を歩んできたのかと思うと、感慨もひとしおです。
水温は約23度に保たれています。
地元のFM局がお気に入り。ハウスでの作業中、ずっとポップなBGMが流れています。作業効率もよさそうです。
カメラを構えてはじりさんを追いかけていると、突然計量カップを取り出して水槽の水をサッとすくうやいなやゴックン。まさに一瞬の出来事。しかもカメラ目線&ドヤ顔(笑)。えええええ、そんなん飲んじゃっても大丈夫なんですか?「PH7ちょいの弱アルカリ性。人間に悪いわけありませんでしょ(笑)?」。なるほど、アルカリイオン水が健康にいいことは実証されてます。この里山の水がきれいだったことも、グッピーを育てるためには好条件だったのです。
◆何度も痛感「クソッタレ」
はじりさんが最初にグッピーと出会ったのは、5歳の時。当時水槽は贅沢品だったので買えず、「ほらほら、味付け海苔が入った大きなガラスのビンがあったでしょ?あれを代用してました(笑)」。そういえば昔は飲料水も牛乳もビンでした。
小学6年生でキングコブラグッピーを飼い始めて、わずか高校1年生で地元のグッピーコンテストに出品。はじり少年にとって、これが記念すべきファーストコンテストでした。ドイツイエローを5,000円くらいで買って、それをブリードして出品。当時の5,000円といえば相当高い買い物だったはずでしたが、その甲斐あって結果は堂々の2位。初出場にしては上々の成績でした。「あきませんねん。優勝したかった。自信はあったんですよ。で、どうしても結果に納得できなくて主催者側に聞きにいったんです。主催者いわく、尾びれにほんの少し黒い斑点があったことが減点の対象だったんだそうです。「一生懸命頑張ってブリードしたのに、くそっと思いましたね」。根っからの負けず嫌いは母親ゆずり。いうまでもなく、これがはじりさんの人生最初の『クソッタレ』でした(笑)
この結果に心が折れて、一時は大型セキセイインコの飼育に転向したことも。多い時は200羽もいたことがあるそうで、コンテストへの出品経験も多々。「おかげで遺伝の法則を学ぶことができました」。
そして30代前半に、再びグッピーに復帰。息子さんからの励ましが背中を押したそうです。「勢いでコンテストに出品したら、また2位(笑)。自分にとって勝つということは、1位以外なかったんです」。これが人生2度目のクソッタレだったことはいうまでもありません(笑)
20数年間のサラリーマン生活では学歴の差を痛感し、何度も悔しい思いをしました。ここでもクソッと(笑)。40代で念願のグッピー専門店を開いたこともあり、一時は順調に業績を伸ばしました。そのままお店を続けていればよかったのに。「それがね、商売人に向いてなかったんですわ(笑)。親魚とそうでないのを分けていたんですが、親魚を親しいブリーダーさんについついあげてしまうんです。結局手元に残るのは、親魚以外の個体ばかり。これじゃ商売になりませんわな(笑)」。要するに、ブリーダーの気持ちに寄りすぎた結果だったのです。ああみえてもはじりさん、結構やさしい人なんですよ(笑)
母屋に置かれた楯の数々。2位ばっかりやと仰ってましたが、20年前のグッピービューティーコンテストなど優勝経験は多々。クソッではなく、ヤッタ!と。
最も印象的だったのは、埼玉県所沢市で開催されたグッピーコンテストに出品したことでした。当時、関西から関東へ出品する人は誰一人おらず、はじりさんがその壁を破った第1人者だったのです。これをきっかけに、関西以西の人でも関東のコンテストにも出品するようになり、ブームの立役者となりました。当時の東西の壁は、それほど厚かったみたいです。
はじりさん提供画像。ウワサの所沢熱帯魚さんの前で。グッピーコンテストといえば、全国でもこのお店が有名でした。余談ですが、はじりさん今とあまり変わってませんね~。しかも20年前だというのに茶髪とは(笑)
◆何といってもドイツイエロータキシード
これまで創作していたはじりさんお気に入りの個体を一挙ご紹介。いずれも思い入れのある個体ばかりです(以下の個体画像はじりさん提供)。
まずはこれ、はじりさんのグッピー人生を代表するかのような一番のお気に入り・ドイツイエロータキシード。これに勝るものは今も出現していません。
続いて、ルティノードイツイエロータキシードリボン。東の国からやってきた親魚が、素晴らしい個体を産んでくれました。
かつてのグッピーブームで火付け役となったブルーグラス。青い尾びれが美しい、人気の品種です。
超難易度の高い究極の創作個体・ヴァイスドイツイエロータキシードスワロー。はじりさんだから創作できた個体です。
リアルレッドアイアルビノフルレッド。フルレッドのグッピーがアルビノになったもの。アルビノ系の中でも体が白っぽいのが特徴です。
現在創作中のとっておき個体・ドイツイエロータキシードリボン。これからが本当に楽しみです。やっぱり日本でもグッピーブーム再来といきたいものですね。
以上、はじりギャラリーでした。
◆海外の自由度に刺激を受けて
現在のはじりさんは、午前中に仕事を終えると自宅に戻って農作業に精を出したりグッピーの世話をしたりして、好きなことを好きな時間に使っています。現在は独自のサイトによるネット販売が中心です。そういえば、はじりさんを取材中に1本の電話がかかってきて「いやあ、もう昔みたいに手広くやってませんので」と、大手ネット通販サイトからの誘いをていねいに断っておられたのが印象的でした。
――毎日めっちゃ楽しんでおられるようにみえます。
「最近、やっと自分なりの道がみえてきたという気がします」
――それってどういう意味ですか?
「商売には向いていない人間だとわかったので、趣味として自分が納得したやり方をじっくり模索していこうと」
――なるほど、自分が納得のいく個体をつくっていこうというわけですね。
「そんな生き方が定まってきたということでしょうね」
――もしかして以前よりもおだやかな性格になったとか(笑)?
「ああ、そうかも知れませんね、何せクソッタレばかりの人生でしたから(笑)」
――時代は変わりました。
「ここ数年、海外にコンテストの審査員として招待されることも多くなったんですが、やっぱり海外へ行くと見聞が広がり考え方も変わりましたよ」
――特に台湾やマレーシアでは日本よりもはるかに活発だと聞いたことがあります。
「グッピーに対する関心は強いですね。日本は負けてます。それだけではありません。日本だと尾びれのかたちや色など、かなり細かいところが審査の対象になるのですが、海外ではあまりこだわってないんです」
――どのような審査基準が?
「単にきれいだとか、かたちがいいとか、ある意味パッと見が評価されることが多いんです。これは意外でした。今まで国内にしか目を向けてきませんでしたが、これからはこうじゃないといけないのかなと思うようになりました。パッと見で善し悪しを判断するのも、ある意味正解かも知れない、と」
――もっと自由でおおらかなスタンスのコンテストであれば、日本でもまたファンが増えるかも知れませんね。
「そうあって欲しいと思います。飼育や交配に関する情報交換も昔より公開されることが多くなりましたから」
――情報が広まってきたのはネットの影響も大きいでしょうね。
「情報が多くなった反面、これ本当?と疑いたくなるような情報も多いので要注意ですけどね(笑)。まずは自分で試してみてから善し悪しを判断するようにしています」。
◆5月に待望のグッピーコンテスト大阪で開催
マレーシアの無二の親友・レイモンドさんと。彼は、はじりさんのことを『はじり先生』と慕い、フレンドリーな間柄でありながらも日本を代表するグッピーの大御所にひと目置くことを忘れていません(はじりさん提供画像)。
ちなみに今年6月にはマレーシアで、また11月にはインドネシアでもコンテストが行われる予定で、いずれも日本からの審査員として出向く予定です。
今年5月には、関西では久しぶりのグッピーコンテストが大阪で開催されることが決まりました。京都はもちろん大阪や奈良のグッピー愛好家にも参加を呼びかけ、そのとりまとめをはじりさん自らが行います。もしかしたら、海外からも出品があるかも知れないとのこと、果たしてどんなグッピーが見られるのか今から楽しみです。このコンテストが1回きりで終わるのではなく、これをきっかけに2回・3回と定期的なグッピーイベントになれば、第3次グッピーブームも夢ではありません。そういった点でも、このコンテストの開催意義はとっても大きい気がします。
――うっかり聞くのを忘れていましたが、なぜお名前がひらがな表記なんですか?
「ああ、それね(笑)。昔コンテストに出品する際、名前について電話で聞かれたんです。『はじりよしを』とは、どんな字を書くのか、と。羽根の羽、お尻の尻、吉に夫と答えていたんですが、だんだん面倒臭くなってしまって(笑)。以後、『ひらがなでいいですから』って言うようになったんです。
――なるほど、一番聞きたいことが最後にやっと聞けました(笑)
「でも『よしを』ではなく、たいてい『よしお』と間違ってます(笑)。ほんまにクソッタレですわ(笑)」
今年8月で満63歳。2年後からはフルに年金が受け取れる年齢に。羽尻吉夫さん、田舎ぐらしをのんびり満喫できているのですから、クソッタレ人生にもそろそろピリオドを打つ時期かも知れませんよ(笑)
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