今年7月に大阪市内で開催された「アクアブリーダーズフェスタ2018」に初出品。友人とともに出店した屋号は「キンペコ屋」でした。この名を聞いてピンときた人は、よほどのアクアマニアかと(笑)屋号の由来は、「キングロイヤルペコルティア」という品種のプレコから。プレコに限らず、アクア歴は30年以上。自宅のガレージは、今や魚たちにとってかけがえのないオアシスとなっています。
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◆飼育のルーツは出雲ナンキン
――アクア歴30年のきっかけは?
「自宅の近くに小さなお店があって、1回50円で金魚すくいができたんです。子どものころ、そこへ行くのが楽しみでした。いつの間にかそれが身についてしまって、気がついたら金魚に熱中してました(笑)」
――その後メインで飼育していたのは?
「出雲ナンキンという金魚の品種でした。その名の通り島根県が産地の金魚で、日本三大地金といわれるうちのひとつです」
――三大地金って県の天然記念物ですよね?
「そうです。ちなみに過去に2度、繁殖させた生体が天然記念物として県の指定を受けたこともあるんです」
――ほー、それはすごい!出雲ナンキンのどんなところに魅力が?
「キラリと光るような白い色、ふっくらした体型でありながらスマートな顔立ちとかに魅力を感じました」
――逆にどんなところが大変でした?
「当時は庭先で飼育していたんですが、日当たりがあまりよくなかったせいか個体の色がよくならないことに苦労しました。それと、そろそろ水替えの時期かなと感じると、すぐにやらないといけない点も大変でした。ごまかしがきかないというか、待ったなしというか。今思い返せば、冬以外ほとんどバタバタしていたような気がします。ほんと、よくやってたなあって(笑)」
島根県で開催される品評会での優勝・入賞は数知れず。しかしながら、飼育場所にも限界を感じて飼育を断念。10年間にもおよぶ格闘は幕を下ろしました。ちなみに、ピーク時には1,000匹以上も稚魚がいたこともあったそうです。
いずれにせよ、野本さんにとってアクアの飼育や繁殖のルーツとなったのが出雲ナンキンでした。「でも学ぶことも多かったので、結果的に色々なことが体験できてよかったです」。
現在は出雲ナンキンは1匹もいませんが、それに代わるものとして錦鯉の原産地として知られる新潟県で生み出された品種・玉サバを飼育中。「まだ金魚に対する未練が知れませんね(笑)」。そりゃそうでしょ、青春時代を出雲ナンキンに捧げたようなものですから(笑)
◆かつてはライヤープラティの繁殖も
堺市のおうちを訪ねてみると、おお~、「キワメテ!水族館」のステッカーが。自宅のガレージを改造した、ここはまさに「野本水族館」のエントランスでもあります。
看板に偽りなし。元ガレージの内部は、まさに水族館。さまざまなサイズの水槽が所狭しと並んでいます。熱帯魚愛好家というより、繁殖家そのものです。よくみると、水槽の奥には電気温水器が省エネに貢献しています。
こちらの水槽には、かつてプラティがいました。繁殖が難しい出雲ナンキンと並行して、卵胎生のプラティも飼育していたとはちょっと意外でした。「これも夢中になりました(笑)。飼育していたのはライヤープラティという品種でした。尾びれや背びれの一部が伸びて、すごくカッコいい希少な品種だったんです。ところが、SNSに写真を投稿してみると欧米ではめっちゃウケるのに日本の人の反応はイマイチで(笑)」、オリジナルまでつくり出せたのに数年で飼育をやめたそうです。ちょっともったいない気がしないでもなかったり。
その名残りとでもいうのでしょうか、今はこのプラティを飼育中。赤ちゃんもたくさん産まれています。
まるで魚のマンションのような水槽も。コバルトロージーなどのカラシンが心地よさげに泳いでいます。どの水槽も、野本さんの愛情が感じられて魚たちも快適そうです。
あ、そんな中にインペリアルゼブラプレコ(以下「インペ」)の姿を発見!よほどよ~くみないとわかりませんが(笑)。そうなんです、現在野本さんが熱中しているのがプレコなんです。
◆特注のサイドフロー式水槽がプレコたちの棲み家
まずはプレコの住環境のご紹介をズラリと並んだ水槽は計16室。もちろん、すべてプレコがメインの住まいで、現在約200匹が寝食をともにしています(笑)。
16室サイドフロー式。去年アクアショップに依頼してつくった自慢のオリジナル。後方に設置されたパイプを外すと半分の水が排水される仕組みです。
一番下にはろ過槽が。サイドフロー式にすることで、下にいくほど水質が悪くなるというもらい水にありがちなデメリット解消にも一役買っています。
これから立ち上げる予定の水槽。こちらもサイドフロー方式で、「アピストの繁殖用にするつもりです」。中古の部材をアレンジして用い、京都のプレコ専門ショップに依頼して製作しました。
◆お気に入りは「キンペコ」
ご存じのように、プレコというとセルフィンプレコが一般的です。水槽のお掃除屋さんとしても知られ、ナマズ化ゆえの可愛いキャラクターは女性にも人気があります。
でも野本さんの場合は違っていました。どちらかというと、小型のプレコに魅力を感じて飼育するようになりました。「白と黒の模様を見た時、何か面白いな~と思って」とシンプルな回答(笑)。これまで出雲ナンキンやライヤープラティを苦労して飼育してきた野本さん、プレコに関しては理屈なく直感的なラブを感じた結果なのかも知れません。
プレコの中でも、キングロイヤルペコルティアが一番のお気に入り。マニアの間ではキンペコと呼ばれています。だから「アクアブリーダーズフェスタ2018」の時にキンペコ屋だったのですね。キンペコは、ワイルドよりブリーディング個体のほうが価値があるらしく、特に体の白い部分が多いプレコが人気があります。
黄色いキンぺコもいます。この子をペアリングさせても、すべてが黄色になるとは限りません。掛け合わせていくうちに、隠れていた遺伝子が出てくるのも繁殖の醍醐味です。
育成ボックスにいる子世代と、メインの水槽にいる親世代。赤ちゃんの時に気に入った柄や体型であっても、育っていくうちにそれが徐々に変わっていってしまうことも珍しくありません。「そんな想定外なことが起きるところも、プレコの面白さなんですよ」。
素人からみたらどれも同じに見えてしまいますが(笑)。「そんなことないですよ~。一体一体柄も大きさも違います」という野本さん、プレコが好きで仕方ない様子が印象的です。
キンペコもインペも、改めて色々見てみると、シマシマもいればドット柄もます。繁殖によってお気に入りの個体ができた時は、プレコを中心に扱っているアクアショップがお買い上げ。過去には、何と50万円で売れた個体もあったのだとか。ちょっとしたお小遣い、いやそれ以上になるかも知れません。
巷では単価が高いとされるインペ。今年初めて2匹の稚魚が産まれてすくすく育っています。
あいにくのスタンディングオベーションでごめんなさい(笑)。なぜかこのキンペコだけ名前があります。その名はコナンくん。可愛いドット柄が出ているので気に入っています。某ホームセンターで買ってきたからそう名付けたそうで、どこのホームセンターかは言わなくてもわかります(笑)
こちらの水槽にはグラミーが同居しています。この子たちの仕事は、キンペコのエサであるブラインシュリンプやオカメミジンコから勝手にわいてしまうヒュドラを食べることだそうです。まさに持ちつ持たれつ(笑)
先日、プレコ関連のフォトコンテスト「ヒパブリコン2018」に13位入賞。「やっと入賞できました!今後は、さらに白い部分の多いプレコをつくっていきたいと思っています」。ちなみに、プレコのコンテストには繁殖個体でしか出品できないという規定があります。ハードルがやや高い環境だからこそ、いい個体が出来上がる可能性もあるのでしょう。
◆プレコにとって大事なミネラルの含有量
キンペコは雑食性。プレコ専用のエサ以外にクロレラも与えています。
稚魚の育成にはミネラル分が必要。「純度の高い水が飼育にもいいとは限らないんです」
そのため、水にどのくらいのミネラルを含んでいるのか、導電率を調べるツールでまめにチェックするのも大事な仕事です。
ただいまブラインシュリンプわかし中。生後間もない時はブラインシュリンプでOKですが、もう少し成長したらオカメミジンコに切り換え。「そういえば、昔はこのあたりでもミジンコがたくさん採れたんですけどね」。
あ、こんなところにFLY MIXが。「まだ試してみたことはありませんが、ショップで聞くと評判いいですね」。でしょ?でしょ?ぜひいずれ試してみてくださいね。
◆自由に繁殖が楽しめるのは先人あってこそ
――これだけの数の生体を飼育していたら毎日忙しいでしょ?
「確かに(笑)。仕事との絡みもありますから、毎日2時ごろに寝て朝5時過ぎには起きてます」
――それは大変ですね。でもやめられない?
「仕事のある日は帰宅後水替えなどのメンテをしているんですが、水回りもいい独立したスペースで飼育しているのでその点は楽ですよ」
――今後プレコのブリーダーとして目指すものは?
「色地が多くて、胴が長くてシュッとしていて、しかも尾びれの長い個体をつくっていきたいと思います。ショップなどでは白い部分が多いプレコがよく売れるので、それも意識していこうと思っています」
――ショップとの連携も大切ですね。
「売ったり買ったりを繰り返しながら、お互いの立場を尊重して信頼関係を築いていくことが何よりです。そのためには、変なしがらみに巻き込まれたくないですし、プレコがいい環境で育てていくにはどうしたらいいか、それだけに集中してやっていきたいです」
――いいブリーダーがいると、さらにいいプレコが産まれることなりますね。
「でもそれは、先人の礎があってのこと。いくら新しくて珍しい個体を誕生させたとしても、それは手柄にはならないと思います。元はといえば、先人がいたからこその結果であって。なので、いつも基本に立ち返って初心を忘れないようにしていきたいと思っています」
よくよく考えてみると、これまでのアクア歴で夢中になった生体のほとんどが、ちょっと変わっているものばかりだという点。そして、オリジナリティーを重視しているという点も見逃せません。「だからしんどい思いばかりしてきたんでしょうね(笑)」
でも、先人を立てる謙虚な気持ちも決して忘れてはいないところに、野本さんらしさを感じる部分も少なくありません。今後どんなプレコが産まれてくるのでしょうか、またアクアブリーダーズフェスタに出品するのだとしたら、来年の夏にお目にかかれることになりそうです。お気に入りのキンペコを引っ提げて、お気に入りの屋号「キンペコ屋」の店主として。
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■新製品プレミアムフード「FLY MIX」12月中旬発売決定■
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