2019/11/01コンテスト, ベタ, 取材, 技術, 流木, 淡水魚

【ユーザー訪問】“平井スマイル”に隠された強さとは☆とことんワイルドベタにベタボレ中の平井久美子さん(大阪府堺市)

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今年の「日本ベタコンテスト2019」で、総合優勝を果たした平井久美子さん(大阪府堺市)。しかも受賞したのはショーベタではなく、ワイルドベタ。ワイルドベタが総合優勝を勝ち取ったのも、コンテスト始まって以来の快挙でした。ベタというとショーベタばかりが目立つ傾向にありますが、平井さんに限ってはワイルド一筋。その意志の強さは、いつも笑顔を絶やさないあの平井スマイルからは想像できないほどコンプリート(笑)。果たして、どのような環境でハイクオリティーのワイルドが生まれるのか、希少な女性ワイルドブリーダーの自宅を訪問させていいただきました。

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◆ワイルドベタのユニークな審査基準

いつもニコニコ、えくぼもクッキリ、でもマスク(笑)。マスクはともかく、そんな愛くるしいキャラの平井さんに最初に出会ったのは、3年前のコンテストでした。いいタイミングでワイルドベタが生まれたのをきっかけに、思い切って初出品。以後平井さんは毎年出品し、さまざまな賞を受賞。今一番脂の乗っているベタ女子かも知れません。

 

とはいえ、コンテストに出品されるベタはやっぱりショーベタが中心で、コンテストにエントリーする女性もほとんどがショーベタ。そんな中にあって、平井さんは常にワイルドベタだけでのエントリー。ブラックウォーターの影響もあり写真を撮るのもひと苦労。ぶっちゃけ、ついつい色がきれいで華やかさのオーラが全開のショーベタばかりを追っかけてました(笑)

 

ワイルドベタとは、簡単にいえばベタの原種。繁殖させて改良するにも、かなり制約があってコンテストに入賞するのもなかなか難しいのだとか。そういう点でいえば、改良に改良を重ねてきたショーベタとはまた違った難しさと味わい深さがあります。

ブラックウォーターとシェルターの2大パーツが必須アイテム。コンテストでは、オスやメスだけといった単体ではなく、ペアでエントリーするというのが条件。さらに、あらかじめ届けられた品種と出品された品種が合致しているかチェックされ、ヘタするとそこで失格というケースも。そして、発色のよさはもちろん、カップルの仲のよさも審査の対象になるのだそう。上辺だけの仲のよさなんて、審査員の手にかかれば、簡単に見破られちゃうのです(笑)

 

そして今年のコンテスト。平井さん所有のフォーシーが、完全制覇を果たしたのです。これはもう快挙というしかありません。よくみると、シェルターの中で仲良くチューをしているようにもみえます。何というファンタジックな世界なんでしょう。これがきっかけで、さらなるベタ女子が増えればいいですね。ワイルドベタのコンテストは、ある意味カップルコンテスト・夫婦コンテストかも知れません。不倫カップル?ああそれは文春でなくてもダメダメ(笑)

 

◆コンプリートなタワマン水槽

いつもの平井スマイルで出迎えてくれました。玄関は結構暖かい。しかも玄関に入るやいなや、平井さんよりはるかに背の高い水槽がばっちりコンプリート。全部で6段に仕切られたシェルフは、まるでタワマンHIRAI(笑)。小柄な平井さんがさらにコンパクトにみえちゃいます。

「以前、家の中で水漏れを何度かさせてしまったので、ここしか置くところがなくて(笑)」。今は玄関周りに集中的に置かれた水槽。水替えは、1~2週間の間隔で。すべの水換えには、やはり丸1日必要ですが外に近いので排水は楽になりました。それにしてもちょっとポカポカ暖かすぎない?「そうなんです。夏とかは日が当たりすぎるので、影をつくるように工夫してます」。

 

それぞれの段の仕切りには、黒いダンボールで開閉自由。もちろん自作。これって、今ショップなどで主流になっているタイプのものですよね。

 

こちらはエサコーナー。今話題のFLY MIXだってちゃんとありました。

 

ブラックウォーターづくりに欠かせないアルダーシード(通称ヤシャブシの実)。ヤシャブシは日本固有種で西日本に多く自生しています。樹高が高くなる落葉樹で、熟した実は黒褐色になります。この熟した実を、煮沸消毒したり水洗いした上で水槽に入れるとタンニンが溶け出しブラックウォーターの完成です。これらのツールは、「もちろん長年お世話になっているベタ専門ショップフォーチュンさんで買いました!」。販売店としてのポジションだけでなく、コンテストの事務局であり、ベタ飼育のよきアドバイザーでもあり。「これからもよろしくお願いします!」とのことでしたよ~(笑)

 

こちらもブラックウォーターづくりに使用するマジックリーフ。本来はトロピカルアーモンドという実際に食べられる実をつける樹木の葉です。元々タンニンを含んでいるので、水に入れるだけで水の色が変化します。ヤシャブシ同様、水質を弱酸性にしたり抗菌作用があったりで、水槽環境をレベルアップする効果があります。

 

「以前、病気に気づかずスポイドを使い回していたら病気が広がってしまったので、それ以来複数のスポイドを使って使用ごとに洗うようにしているんです」。たかがスポイド。されどスポイド。ちなみに、ワイルドベタがかかりやすい病気といえば、やっぱりコショウ病と水カビ病。治療にはまずは水替え、その後塩を入れてブラックウォーターの色を濃く。ここで約1週間様子をみて、治りそうになかったらグリーンFゴールドのリキッドを入れるそうです。

 

◆いくらカップルでも大事な距離感

それでは、タワマンHIRAIの住民たちをご紹介。まずはコンテストで総合優勝を果たしたフォーシーから。この日は見慣れない取材スタッフに人見知りしたのかあまり本来の色が出なかったので、平井さんに後日写真を提供してもらいました。こうしてみるとやっぱり美しいですね。

フォーシーはマウスブリード系ベタの人気種で、尾びれの美しいスペードテールが特徴。成魚は約7㎝で、成長するにつれて体色が出てきます。何といってもメタリックできれいな色合いが魅力です。

 


こちらはペア。ベストショットは諦めましたが、その様子をみていると確かに仲がいい。さすがです。「おいお前、そろそろ帰るぞ」「はい、アナタ♡」なーんて会話が聞こえてきそうな気がしました(笑)。

普段から同じ水槽でペア飼育を?「そうとも限らないんです。あまり仲良くなさそうなペアに関しては、コンテストの直前までわざと別居状態にすることもありますが。コンテスト当日、仲良くなってくれることを祈るばかりなんです(笑)」。ああ、カップルにも新鮮味が必要ってことですね(笑)。そうそう、いくら好き同士といっても多少の距離は必要なのと同じように。

 

ワイルドベタ マクロストマ。ワイルドベタの最高峰として君臨する「ベタの王様、王様のベタ」。ボルネオ島北西部に分布するユニマクラータ・グループの大型種で、成長すると全長10㎝以上になることも。全身から燃えるような鮮やかな赤色を発色し、尾ビレや背ビレに描かれた独特の紋様は、一度見ると忘れられないほどのインパクトがあります。

 

こちらはマクロストマの幼魚たち。何だかみんなすました顔して泳いでいます(平井さん提供)。

 

ワイルドベタ コッキーナのオス。体の中央に小さなグリーンやメタリックブルーの斑紋が入る種類です。体色は個体差が大きく、この模様がまったくない品種のものもあるそうですが、こちらは美しい模様がきちんと入っています。

 

マクロストマの超どアップ。実は平井さんのお母様・宣子さんが大のお気に入り。「エサを上げようとすると寄ってきて可愛いんですよ~。よくみるとほら、ブルドッグに似てません(笑)?」とお母様。

ところで、ワイルドベタにぞっこんの平井さんをみてどう思います?「旅行とかに出かけてしまうとエサをやらないといけないから大変。この子にはこのエサをこのくらい、などとかなり細かい指示が飛んでくるので間違っちゃいけないのでと気が気ではありません(笑)」。と仰るものの、娘に頼まれることがまんざらでもない感じのお母様(笑)。親子とはいえ良好な関係を保つことは、魚たちにとっても好環境を保つことにつながります。あの平井スマイルが絶えないのも、いい環境で育った証しに違いありません。(平井さん提供)

 

タワマン水槽とは別にこんな水槽も。ショーベタを中心に、ヤマトヌマエビやワイルドベタアルビマルギナータが混泳中。水草は、ウォータースプラウトを水中化させたものとクリプトコリネを投入して快適環境を保っています。

 

◆スタートはトラベタから

さてさて平井さん宅には、タワマン水槽以外にも“別館”があります。勝手に名付けて「HIRAIファーム」それがこちら。「だんだんこっちの部屋まで侵され始めてるんですよ~(笑)」とお母様。ああやっぱり。本来ならお母様の趣味・ボタニカルアートのアトリエであるはずなのに、何と親不孝な(笑)。かつては日本の名山をほとんど制覇したことがあるというスパルタンなお母様、パフフルなところはまさに親譲りといえるでしょう。

 

こちらには、ショーベタも多数。野生のベタに最も近い姿をしているといわれるプラカット。ヒレが短いタイプです。

 

何とまあ可愛いプラカットの稚魚たち。生後約2週間目で元気に成長中です。

ショーベタには最初から興味なかった?「そもそも初めてベタを飼ったのは、地味なトラベタだったんです。簡単に繁殖して育てる楽しさを知ってから、もっときれいなベタを求めてフォーチュンさんへ行ったんです」。そこでショーベタと出会った。「はい、華やかさに惹かれてハーフムーンなどを飼ってみましたが、繁殖しづらくまた仔魚が取れても育ちにくくて、私には向いてないのかなと感じたんです」。なるほど、もしショーベタの飼育がうまくいっていたら、ワイルドベタには手を出していなかったかも知れません。でも、いずれにせよベタに「べた惚れ」だったことには違いないんです(笑)

 

ワイルドベタ デニスヨンギーのオス。メスが生んだ卵をオスが口の中で育てるマウスブリードタイプのワイルドベタで、尾びれがスペード型なのが特徴です。現在子育てに専念中。

 

ちょっと見づらいと思いますが、デニスヨンギーの幼魚たち。お父さんの元を卒業して若魚たちだけになりました。このあと、生後半年から1年以上かけてコンテストレベルにまで育てるそうです。若魚たちが落ち着けるように水槽内にはウォータースプラウト、マツモ、ミクロソリウムなどが投入されています。ベタも人も緑は大事!

 

ワイルドベタ アルビマルギナータのメス。「最初に手がけたワイルドベタはこのタイプでした。今も大好きな気持ちは変わらず、飼い続けています」。混泳させていてもペアになりやすいのでよく増える品種だそう。どちらかというとワイルドベタの中でも小型で、それぞれのヒレは黒いフチ取りの外側に白いフチ取りがクッキリと入ります。ラテン語で“白いフチ取り”という意味を持つアルビマルギナータ。台湾ではパンダベタと呼ばれるなどして、可愛い色彩や姿が人気のようです。

 

生後約2カ月のアルビマルギナータ。3カ月経つとオスにラインが表れてくるので、オスメスの判別が可能になるのだとか。この画像でもうっすらとヒレにラインが入り始めているのがわかります。

 

平井さんお気に入りのアルビマルギナータ。「ショーベタの飼育がうまくいかなかった時、ワイルドベタの存在を知りました。仔魚と成魚の体色があまり変わらず、繁殖期のアルビマルギナータのきれいな婚姻色に惹かれたからなんです。これならいける!と。それからは、地味なワイルドベタ一辺倒で今に至っています」。(平井さん提供)

 

◆必見!お母様の暴露話

子どものころから生きものが大好きだったという平井さん。子どものころは、ザリガニを獲りにいったりカマキリを飼育していたことも。そこで再びお母様登場、暴露話の幕開けです(笑)。「子どものころは家にいることがほとんどなかったんですよ。家の裏山などで夜暗くなるまでずっと外を走り回っていました」とお母様。へー、意外。一人物静かで本ばかり読んだり、時たま詩なんかをしたためたり。そんなお下げ髪が似合うインテリ女子だとばかり思ってました。

さらにお母様は続けます。「いえいえ、とんでもない(笑)。遊びに出かける友達は男の子ばっかりで、自分の服に赤やピンクがちょっとあるだけでもこんなの着たくないって言ってたくらいなんですよ~(笑)」あらまー、さらにさらに意外。きっと自分も男の子になりきって、男友達を仕切っていたのでしょうね。いやはや、生い立ちなんて聞いてみないとわからないものです。これは意外すぎました。今日の取材で一番の収穫でした(笑)

 

最近では、「アクアブリーダーズフェスタ」でもほぼレギュラーの顔に。しかも出品したワイルドがいつも早々にSOLDOUT。これにちなんで、「完売の女王」なる称号も生まれたとか(笑)。

 

アクアは元々ネオンテトラが最初でした。「魚を飼い始めたのは高校生くらいだったと思います。その後は金魚飼育や水草水槽に挑戦したこともありましたが、いずれも性格に合わなかったからギブアップしてしまいました(笑)」。その後はエンゼルフィッシュなどの飼育を通じて、飼育そのものより繁殖して子育てすることのほうが向いている、と自己評価。繁殖が魚の価値を決めるコンテストという年間目標は、平井さん自身のアクアライフの大きな原動力になったことに違いありません。

 

ベタコンテストだけでなく、ブリーダーズフェスタでは平井さんが育てていたワイルドベタをリーズナブルな価格で来場者に提供。売ることが決して目的ではありませんが、「これからも趣味として楽しんでいきます。ほかのベタにくらべてワイルドベタは寿命が若干長いので、ゆっくり時間をかけて飼っていきたいと思っています。ハイブリッドタイプのワイルドベタもいますが、私はあくまでもワイルドオンリー。今手元にいる系統を大切に守っていきたいんです」と、しっかりした口調で語ってくれました。

 

今年のコンテストで総合優勝した賞状やトロフィー。チャンピオンに輝いたことで、これからは追われる立場に。「女性ユーザーがもっと増えてくれるとうれしいです!」と、最後まで平井スマイルを忘れていませんでした。

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