東京都在住のヒラタカメオさん(仮名)といえば、カメファンならブログやツイッターなどで一度は聞いたことのあるカメ飼育の達人。アクアに比べればまだまだ飼育人口は少ないジャンルですが、なぜか大半が熱帯魚などの飼育経験があるアクアOB。ヒラタさんも同じで、かつては小型魚から大型魚までひと通り歴史を刻んできた正真正銘のアクアリストです。魚から亀へ。魚類から爬虫類へ。その魅力は一体どこにあるのでしょうか。
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◆転職してもライスタイルは不変
ヒラタさんは青森弘前市出身。上京後30年経過していますが、大学生のころデパートの屋上で魚と出会ったのがきっかけでアクアに没頭。以来、サラリーマンになってもライフスタイルは不変でした。マンションのワンルームでランチュウやグッピー、ディスカス、ノーザンバラムンディー、アロワナなどを徹底飼育。給料のほとんどを魚につぎ込んできたという、フダつきの困ったちゃんでした(笑)。
というわけで、もっぱらカメ御殿とうわさのあるヒラタさんのおうちを訪問。昔、「突撃!となりの晩御飯」というテレビ番組のコーナーがありましたが、「となりのカメ」というのは初の試みです(笑)。ヒラタさんを知るカメファンのみなさん、ついに潜入しましたよ~!
おお~、これぞまさにカメ御殿。でも思っていたよりスッキリしていてホッ(笑)。それぞれのLED照明が演出効果を果たし、しかも水槽のサイズごとにビルトインされていることもあり、よりインテリアチックです。メンテのことまでしっかり考えられている整理整頓ぶり。メンテのたびに、微妙に模様替えをするのが楽しみのひとつなのだそうです。
こちらは、ニオイガメの極小ブリーディングルーム。いわゆる産婦人科病棟(笑)。ニオイガメは小さなもので7㎝程度、大きくても18㎝くらいのコンパクトサイズなので、メンテも楽なのだそう。真ん中にある60㎝水槽の背の低い水槽に砂場がつくられていますが、ここはまさに産卵のための神聖な場所でもあるのです。
◆カメ飼育の真髄は「緊張と緩和」
仕事が変わっても、アクア熱は変わらなかったヒラタさん。「アクアに関係する仕事に就きたかったんですが、なかなかそうもいきませんでした」が、20代後半に運よくフィッシュフードを取り扱う外資系の会社に就職。そして、ほぼ同時期にカメと出会ったことが本格的なカメ飼育のキックオフとなりました。「自分なりに好きなアクアを極めたという満足感があったので、悔いも残らず卒業できました」。何度か転職してきたのも、自分自身のステップアップのため。そういう点でいえば、アクアを卒業してカメ飼育に没頭していったのも、自身のステップアップのひとつだったのかも知れません。
――またどうしてカメを?
「アクアをやってたころによく通っていたデパートの屋上にアクアショップがあり、魚を買いに何度も訪れているうちに、クサガメが気になり始めたんです」
――そういえば昔は、デパートの屋上では金魚を売っていたり遊園地があったり。
「小学生のころ縁日で買ってきたカメを飼育していたことがありましたが、何10年かぶりに出会ったカメにビビッときたんです(笑)」
――長年のアクアの経験も役立ったでしょう?
「何といっても飼いやすいんです。それまで魚ばかりで結構大変でしたから。それに比べると飼育はとっても楽で、眺めていても楽しくて癒されます」
――可愛い?
「それはもうたまりません(笑)。日々成長する姿をみていると、自分も頑張らないと!とついつい気合が入ります。まさに緊張と緩和ですね」
さてさて、ヒラタさんのプロフィールはこのくらいにして(笑)、現在飼育中のカメたちをご紹介しましょう。
まずはこれ。頭が巨頭化する愛くるしいオオアタマヒメニオイガメ。独特なプロポーションで、アメリカのジョージア州やフロリダ州に生息しています。ちょっと怪獣チックですが、何でもよく食べ飼育も簡単なのだとか。カメ初心者でも繁殖が可能だそう。
アメリカ・ミシシッピ州サビーン川流域の限られた場所にのみ生息するサビーンチズガメ。目の上に丸く白い点があるのが特徴です。
おっと!これまたド迫力のバーバーチズガメ(笑)。アメリカジョージア州西部やアラバマ州東部、フロリダ州北東部に生息。まるでプロレスラーが覆面をかぶったような風貌が印象的です。最近、国内のブリーダーさんによってベビーが生まれ販売され始めているのだそう。例によって、ヒラタさんも2020年のオリンピックイヤーに向けて、自家産ベビーの繁殖を計画中です。
アラバマアカハラガメ。アメリカ・アラバマ州南部に生息しているとされていますが、なぜか昔からほぼ幻のカメといわれています。この個体は数年前にEUで繁殖されたものを入手。日本にいるのはわずか数匹という激レア中の激レアガメ。数あるコレクションの中でも、1~2位を争うお宝カメなのだそう。
キイロドロガメ。アメリカ・テキサス州など西部の州に生息。以前はアクアショップなどでも安く販売されていましたが、数年前から入荷が激減。そのせいでしょうか、繁殖に努力している日本のブリーダーさんも少なくないのだとか。きれいな黄色の甲羅が印象的で、冬にも強く飼育にもオススメです。
アメリカ・ミシシッピ州に生息するミシシッピチズガメ。比較的ポピュラーな種類ですが、今後カミツキガメのように特定外来種に指定される可能性もあるそうですが、いずれにしても育児放棄は絶対ダメですよ~。
オオヨコクビガメ。南米北部から中部にかけて生息。何と最大1m近くにまで成長する大型カメなんです。アマゾン出身だからでしょうか、うっかりしているとカメの爪でヤラれます(笑)。自宅などで生涯飼っていけるという自信のある人がいたらよろしくです。
おやおや、本物に飽き足らずフィギュアや剥製なども。好きなものがみつかると、関連グッズをコレクションしたくなるものですよね。旅行先などではきっと、「またカメ買うのかよ~。これで一体何個目?すでに家にもいっぱいあるんだろ~?参ったな~しかし。。。」なーんて、人にからかわれているに違いありません(笑)
◆モンキーヨコクビガメに愛を贈る
現在70匹と同棲中(笑)。多い時は100匹いたこともあるそうですが、やっぱり初めて出会ったモンキーヨコクビガメにひときわ思い入れがあるそうです。南米のアマゾン川やオリノコ川に生息し、顔が猿に見えるためこの名がついたのだとか。そして、首をしまう時にクビを横にするのでこう呼ばれているのだとか。へー、カメってどれもまっすぐ首を引っ込めるものだと思ってました。
日光浴中のモンキーヨコクビガメ。昔、埼玉県の伝説の店のオーナーが「黒いカメほど太陽光が必要なんだよ」と言っていたことを、きちんと定期的に実行しています。
そうそう、さっきから気になっていたんですが、ネットネームの「ヒラタカメオ」。カメオは何となくわかるんですが、ヒラタって一体何なんでしょ。きっとカメ仲間のみなさんも疑問に感じていることだと思いますが。「聞かれると思ってました(笑)。実は、アメリカアラバマ州北部のブラックウォーリア川水系に生息するヒラタニオイガメという種類のカメがいて、甲羅がほかより平たくなっているからそう呼ばれているんですが、扱っているショップも少なく繁殖させている人も少ないんです。自分にとっては貴重な存在。だからネットネームに反映させました」。現在は保護対象動物に指定されていて、輸入は禁止。とはいえ国内で繁殖するのはOKなので、やりようによっては今後ブレイクするカメかも知れません。
主にヒラタニオイガメをペアで飼育し繁殖にも成功させています。これが産卵シーン。年に数個しか産みません。60cmの水槽に砂場をセットすると、器用に砂を後足だけで掘り起こし産卵します。埋め戻しする瞬間は、まさに感動ものです。
聞くところによると、決まって大潮の日に砂を掘って産卵することが多いのだそう。不思議ですね~、自然の摂理というのはあまりにも神秘的です。
ヒラタニオイガメの卵をいよいよ掘り出し開始。ちょっとした宝物探しのようで楽しい時間です。カメには、冬眠~給餌~交尾~産卵というサイクルがあり、1年のうちほぼ定期的で変わらないそうです。花で季節を感じる人は少なくありませんが、ヒラタさんはカメのサイクルで四季の移り変わりを感じているのでしょう。
カメは種類によって2カ月から3カ月で孵化します。この時点で有精卵かどうかもわかるのだそうです。小さな命でも、命は命。できることならすべてが有精卵であってほしいですね。
殻を破って生まれたオオアタマヒメニオイガメの赤ちゃん。生まれたばかりなのに、小さい甲羅がちゃんとあります。命の尊さを改めて思い知る瞬間です。
大人の指と比べてもこんなに小さくて可愛い。決してアワビではありませんので(笑)
そして初泳ぎ。早くも元気に泳ぎ回っています。いやあ、こうして産卵シーンを目の当たりにしていると実に感動的です。ウミガメの産卵シーンに負けないくらいの感動。せっかくこの世に生を受けたのだから、このまま元気に育っていって欲しいものです。人もカメも健康第一!
◆フィッシュフード商社の経験を生かして
――アクアに比べて管理面では?
「水替えの回数もアクアほどではなく、電気代もあまりかからないんです。体も比較的丈夫で、最大50年くらい生きてくれたカメもいました」
――カメは万年(笑)
「不安なのは、病気になった時にちゃんと診てくれる専門医がいないことです。カメは爬虫類なので、動物病院に連れて行くしかありませんから」
――ああ、それは前に神戸のレプイベントでも聞いたことがあります。
「幸い、都内には最先端の医療技術を駆使してくれるレプタイルクリニックがあって、そこはカメもOK。とっても信頼がおけるのでイザという時に安心です」
――主にどんな病気が?
「リクガメには尿路結石の病気など色々ありますが、普通の獣医さんだとカメの首でさえうまく出せず診察ができないので、カメの名医が現れることを期待したいです」
――普段健康に気を使っていることは?
「何といってもエサですね。以前フィッシュフードの会社にいたこともあって、自分なりに研究・理解しているつもりです」
――エサに関して知っておいたほうがいいことってありますか?
「カメはエサを食べたあとに体を温めないと消化できないんです。カメ飼育に陸場が必要なのはそのためで、さらにいえば水温を25~26℃に保っておくことも大事です。ちなみに、繁殖期にはメスがオスに噛みつくことがあるので、オスの逃げ場としての陸場も必要なんです」
◆アミノ酸を含んだ昆虫原料のフードに注目
――カメは雑食ですよね?
「基本的にはそうですが、いいエサを食べると糞も少ないんですよ。糞が少ないと水も汚れにくいので、ある意味一石二鳥といえます」
――どんなエサがいいんでしょうか。
「ドイツでつくられているものは、プロバイオテクスという概念がないんです。最近は納豆菌やバチルス菌を用いたフードも多く販売されていますが、もっとも注目すべきフードはアミノ酸を持っている昆虫原料なんです。加えて、パッケージに成分表示がしっかり書かれているかどうかも大事だと思います」
――KOTOBUKIの「FLY MIX」を使ったことは?
「今、メインで使っています。アメリカミズアブという昆虫が主成分になっているものはこれまでなかったですし、アミノ酸に着目するカメ仲間の中でも評判がいいみたいです。フィッシュミールや小麦粉よりもはるかにいいと」
――昆虫食がベストだというのは昔からいわれてました。
「極端な例ですが、人間の未来の食料枯渇問題を解決するのは昆虫食だといわれているくらい栄養価が高いんです。アメリカミズアブに各国のエコロジストや研究者が注目しているのもそのためです」
――カメへの効果は?
「空気の含有量が少ないので、同じ1粒でも栄養価は高いと思います。発売されてから1年近く経ちましたが、あまり水中でもバラけませんし水が汚れることも少なくなりました。カメそのものの成長も、以前より早くなったような気がします」
カメの健康を左右するのはやっぱりエサ。食事が健康上大切なのは、人もカメも同じです。
◆カメと女性の相性
以前、神戸で開催されたレプイベントで会った女性もカメ飼育に熱中している人でした。カメもヘビもカエルも、「目が可愛い」という理由で飼っている女性の声もよく耳にします。インテリア感覚でカメを飼育している女性もいます。もしかして、カメは女性のほうが相性がいい(笑)?
「以前よりもカメ人口は増えているような気がします。とってもうれしいことです」。昔は、田んぼで拾ってきたカメをタライやバケツで飼うという泥臭いイメージでしたが、時代は確実に変わってきています。多様化する種類もさることながら、飼育方法も用品も近代化してきました。「願わくばペアで飼って、感動的な繁殖を体験してみるとやみつきになるかも知れません」というヒラタさん、ニオイガメ飼育のノウハウがぎっしり詰まったブログを楽しみにしているカメファンも増えています。
カメ御殿が今後どう進化していくのかも気になるところです。ある日突然、アクアのように「カメ飼育から卒業したんです」なんてサクッと言わないでくださいね(笑)。