沖縄の海に惚れ込んで、何度も何度も美ら海に足を運んで、ついには自宅の庭先に水槽小屋までつくってしまって、それに飽き足らず地元の幼稚園で移動水族館までやってしまった「うみばこファーム」の河村達也さん(京都府亀岡市)。本職が別にありながら、すでに数回実施しノウハウも十分。ここまで没入できる情熱は一体どこからくるんでしょ(笑)。そんなプロ顔負けの河村さんが、春先に開催されたある移動水族館の様子を「セルフ取材」。写真だけでなく、現場レポートまでいただきました。あざ~す(笑)!
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◆準備は常にぬかりなく
今回は約10種類、約30匹のいきものを水槽小屋などから準備し、朝6時からパッキングを開始。さすがにプロではないので作業に時間がかかり、これが一番大変な作業でした。結構、体力仕事(笑)。もう少しスキルUPが必要だと痛感しました。
いきものたちを水槽小屋から出すと、その足で自宅リビングへ。そしてパッキング。この繰り返し。水温が低い時も想定して、カイロなどの保温材も必須です。いきものたちは、神様ですから(笑)
ハリセンボンなどのように体に針があり、そのせいで袋に穴があく可能性のあるいきものは、小さなバケツで養生してから梱包するなどして工夫。このひと手間が大事なんです。
また、水質変化による生体への負担をできるだけ少なくするよう、飼育水を多めに持参しています。いきものにとって水はやっぱり生命線ですから。いつもかなり気をつけているので、毎回イベント当日はもちろんイベントが終わったあとも元気でいてくれています。ちなみにポリタンクは断熱材で保護しています。
会場となっている地元の幼稚園に到着。長女も長男も、この幼稚園でお世話になりました。こうやってまた移動水族館が開催できるのは、先生がたや保護者のみなさんのあたたかい協力があってこそ。早速園内にいきものを搬入後、タライや水槽に袋を浮かべて水合わせを開始しました。9時45分開場のため、9時過ぎにはいきものたちを放流して落ち着かせなければ。ここからは時間との戦いです。
やはりいきものの状態管理が第一優先。いよいよ開場時間が近づいてきました。ワクワクドキドキ。この緊張感がたまらないんです(笑)。
◆始まった「いちにちすいぞくかん」
いよいよ開会、「いちにちすいぞくかん」。今回も、園の先生が用意してくださいました。手づくりのイベントポスター。当日に披露するいきものを事前に伝えさせていただき、イマジネーションを高めて絵にしてくださっています。ちょっと感動。泣きそう(笑)。
会場では、大きく2つにゾーニング。ひとつは、子どもたちが実際にいきものに触れられるタッチプール。青いプラ製のタライを4つ用意しました。そしてもうひとつは、じっくりいきものが観察できるゾーンとして水槽が2つ。さらに、クリオネ専用のガラスビン1つを用意しました。ちなみに観察用水槽にはKOTOBUKIのレグラスフラットF-900S、レグラスフラットF-3040を使用しています。フレームレスで観察しやすく、安全で丈夫なため以前から使用しています。このようなイベントでは本当に助かります。
いよいよ子どもたちが入場。まずは、いきものに対する注意をレクチャー。何といっても今回の主役はいきものですから。子ども向けのイベントであっても、ルールはルール。家庭や幼稚園同様、これは大事です。ちなみに、今回は感染対策の一環としてクラスごとに時間を区切って実施しました。
自作のフロアガイドを手にした子どもは、早くもテンションマックス(笑)。これをガイドがわりに持ってもらって会場を見て回って、おうちに帰ってからも家族みんなで思い出話に花を咲かせてくれたらいいなぁ。
まずはこちらのタッチプール。ズバリウナギ。「ニョロニョロや~!」と早速黄色い歓声(笑)。食卓で見ることはあっても、こうして生きたウナギに触れるのはめったにない機会。その感触はまさにつかみどころなし(笑)。そして、ただ触ってもらうだけでなく、海で産卵・孵化を行い淡水に遡ってくるという独自の生態系についてもしっかり説明しました。
こちらは、タッチプールの定番種ともいえるネコザメ、イヌザメ。肌の感じや、意外とおとなしい性格に注目です。ネコザメは背びれにトゲがあるのが特徴。ネコザメは目の上の突起がネコの耳っぽいからかなあ(笑)。ということはイヌザメは顔が犬っぽいからなんでしょうか。
どちらも口が下についているので、手を下に回り込まさない限り噛まれることはありません。こういうことも、写真や図鑑ではなく直接目で見て触れて初めてわかることなんだと思います。今回持ち込んだネコザメの体長は60センチ以上もあり、どの子どもたちも怖がってなかなか手を出せずにいましたが、色々説明して納得してくれたのか、最後はやさしくナデナデしてくれていました。
◆人気はやっぱりヒトデ
続いてこちら。ウミウシのアメフラシやイソアワモチなどなど。特に目を引くのは、沖縄から送ってもらった巨大ウミウシ。大きいでしょう?
アメフラシは日本海で採取されたものですが、手にのる小さなイソアワモチは奄美や沖縄などの南西諸島方面に生息。地元の島々では、食材として用いられることも多いそうです。
見た目は同じようないきものですが、少しずつ感触が異なるところを観察して欲しいんですよね。触ると柑橘系の匂いがしてくるのも意外な発見。このウミウシ、イベントの次の日に水槽で産卵していました。みんなにやさしくタッチしてもらえたので、安心したのかも知れませんね。
最後のタッチプールがこれ。子どもたちにはやっぱり人気です。アオヒトデ、コブヒトデ、イトマキヒトデ、クモヒトデ、ニセクロナマコ、ルソンヒトデ、イボヒトデ、ソデカラッパ(カニ)、ホシダカラ(タカラ貝)。このうち、何種類かは沖縄在住のSNS友のご厚意でたくさん送っていただきました。ヒトデはいつも大人気なので、大変感謝しております。
◆ 「おっちゃんだれ?」
一方、観察用水槽では、ハリセンボンとクリオネを熱心に見入る子どもたちの姿が。特にクリオネは珍しく、水族館でないとなかなか見ることができません。そのせいもあって、この日初めてクリオネを見たという子どもがほとんどでした。
子どもたちにミノカサゴの説明を。背びれにはどくがあるから絶対にさわったらダメ。この前刺されて大変だったんだからね、と過去の苦いエピソードも添えて。大人だってやらかしてしまうことがあるんだよ(笑)。
質問砲も容赦なく飛んできます。「なんでネコなの?なんでイヌなの?」「川にいるの?海のどこにいるの?」「このヒトデは生きてるの?」「あー、前にこれ水族館で見た!」などなど。面食らったのは、「おっちゃん、だれ?」というごくシンプルで当たり前の質問でした(笑)。そりゃそうだ!
イベントでは自由に観察やタッチがOK。とはいえ、うっかり水槽に手を入れてヒーターに触ったり、コードに足を引っかけてしまったりしないか、あるいは間違った触りかたやいきものを水から出しっぱなしにしていないかなど、子どもといきものの安全を考えていると、最後まで気が休まることはありませんでした。
このあとは別室へ移動し、ウミホタルの発光観察実験を行いました。そう、あのウミホタルです。あいにく暗い場所のため写真は撮れませんでしたが、以前同じイベントで発光した時の様子がこの写真です。乾燥したウミホタルに水を1滴垂らすと、思いのほか強く美しく青く光るので、子どもだけでなく先生も「めっちゃ明るい!」「これって電気?」「ほたるみたい」と喜んでくださいました。
この日は、クラス数分計5回をリピート。みんなに気に入ってもらえたかなあ。
◆いきものへ尊敬の念をこめて
年長さんにはパイプウニのトゲをプレゼント。こんなに太い硬いトゲを、突っ張り棒のようにしてどんな荒波にも流されないよう耐えている健気なパイプウニ。トゲをプレゼントしたのは、卒園して小学校に行ってもこのパイプウニのように社会の荒波に耐えて強く生きて欲しいから。それがきっとお父さんやお母さんの願いに違いないから。
パイプウニのように、命の灯が消えても大切なことを教えてくれるいきものがたくさんいます。そんないきものたちのメッセージを、これからもちゃん子どもたちにも伝えていきたいと強く思いました。
子どもでも大人になっても、海のいきものから学ぶことは本当に多いと実感。いきもきのに対する尊敬の念も深まるばかりです。今回もイベントを開催してよかったと思いました。運営に携わってくださったすべてのみなさん、本当にありがとうございました。そしていきものたちにも、ありがとう!