今年も金魚のまち・大和郡山市の柳町商店街で「金魚ストリート祭り2023」が開催されました。大小さまざまな商店が力を合わせてあれやこれやと工夫。 イベントが12年も続いてきたのは、そんな商店街の活力があってこそ。同時開催された「第3回全国ポイ投げ選手権大会」もその一環。シュールで「しょーもないイベント」に、今年もまたなぜか心惹かれて取材に勤しむのでありました。
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◆泣き出しそうな空模様
朝から曇天の柳町商店街。別名金魚ストリート。そして肌寒さも。今にも降り出してきそうな空模様。イヤやで~雨だけは。確か去年も小雨がパラつくあいにくのコンディションだったような。降るなら降る、降らないなら降らない。どっちかにしてくれ~。中途半端はイヤよ(笑)。
今年で3回目を迎える全国ポイ投げ選手権。え、全国?そうなんです、このような平和なイベントが全国に広がり、日本中が笑顔の絶えない平和な空気に包まれた時代になればいいなという、主催者側の温かい思いが込められているのです。知らんけど(笑)。
金魚すくいで使うポイをどこまで遠くまで飛ばせるか。ただそれだけのこと。競技は至ってシンプル。見方を変えれば、それを公のイベントにしようなんて思いつくはずがありません(笑)。まるで子どもの遊びのようではありますが、それを大のオトナがガチで取り組むことに意味があるのです。
「実にしょーもないイベントです(笑)。でもしょーもないからこそ、世代を超えて誰もが夢中になれる。そんなイベントを今年も大いに楽しみましょう!」と上田清大和郡山市長。市長はこのシュールなイベントが大好き。大人げないオトナの一人(笑)。「昨日も夜、家で練習してましてん」って、ウソでしょ(笑)。市を司る激務の中、たまには日頃のストレスを発散しなきゃですよね。
受付開始後、長蛇の列ができて早々に100人の定員は締め切り。おっと、毎年ヤバすぎるほど人気の高いイベントだと感心している場合じゃない。ああ、ついにきたか~。空から小さな水の滴りがポツリポツリと。霧雨のような細かい粒が風に煽られて舞う柳町商店街。昭和の演歌みたいになってきた(笑)。
◆3回目にして定着
「よ~い、ポイ!」すっかりおなじみになった上田市長の掛け声による始球式。41代女王卑弥呼の一人も一緒にポイ。「ムズイですうぅぅ~」。女王卑弥呼の名を仰せつかってから早半年。まさかこんなイベントに自分も参加するとは、邪馬台国も思っていなかったに違いありません(笑)。
「テレビで観てきました」「去年も参加したのでまたやってみたいと思って」などなど、参加者の出場動機はさまざまですが、確実に認知度・注目度ともに高まっています。にしても、「キワメテを見てきました!」ってヤツはおらんのかい(笑)。
計測チームは、今年もならっきーでおなじみの奈良信用金庫のスタッフのみなさん。絶対数字には強いはず(笑)。
今回も奈良の地元企業から数々の商品が。今年も水槽メーカー・KOTOBUKIからも60㎝の水槽セットが提供。アクア系イベントならでは。ポイ投げるだけなのにね(笑)。
最も目を引いたのが、特製オリジナルトロフィー。今回から導入されました。1位から3位まで、まるで光輝くメダルのような完成度の高い仕上がりにビックリ。ま、プラスチック製なんですけどね(笑)。
提供は地元企業のmITAKA(ミタカ)金属工業さん。各種精密加工の分野で幅広いシェアを誇る企業で、光造形3Dプリンターを駆使してこの日のために仕上げたのだそう。去年まで入賞トロフィーがなかったことを懸念した同社の高橋社長が提案、実現に至りました。プラ製ですけど(笑)。
ちなみに、ポイ投げ選手権にも3人がエントリー。しかも社長を筆頭に、工場長、営業課長の精鋭揃い。これは注目です。はてさて、いかなる結果となったのでしょうか。
◆自作自演と言わないで
相変わらず降ったり止んだりの柳町商店街。それでもポイ投げは続きます。せめてポイ投げの時だけでも止んでくれたら、と神にも祈りたい気持ちでしたが。
出場者にとっては、そんなのカンケーねえ(笑)。ひたすら願うのは、遠くへ飛んでくれ~。その結果は、神のみぞ知る。
午前11時に始まったポイ投げもそろそろ終盤。
おお~、金魚すくいの帰りかな?
ちなみにこれまでの最高記録は、去年14m90㎝を叩き出した東大阪市からお越しの女性。今年も自己ベストを更新するべく参加しましたが、残念ながら、あともう一歩のところで手が届かず。今年、この大記録を更新する人はいたのでしょうか。
そしてそして見事1位・2位を独占したのは、あのプラ製(笑)トロフィーを製造したmITAKA金属工業さんから参加したメンバーでした。おめでとうございます!ウソのようなホントの話(笑)。まさか自分たちがつくったトロフィーの最終的な納品先が自社になるとはね(笑)。1位は植本工場長(写真右)、2位は山口営業課長(写真左)、それぞれ13m80㎝と11m60㎝という好記録でしたが、残念ながら全国記録には及ばず。ちなみに、高橋社長(写真中)は惜しくも4位。惜しかった!でももし1位から3位まで独占していたら、きっと忖度があったに違いないと疑われますから、結果的にはこれでヨシ(笑)。ガックシ肩を落とす高橋社長でしたが、女王卑弥呼の肩モミモミで勘弁してね(笑)。
ちょちょ植本工場長!賞品にもらったKOTOBUKIの60㎝セット水槽、どうするの?「もちろん会社で立ち上げます!」。え、マジで?ということで、工場長が放った一言が出まかせなのか真実なのか、後日取材して検証してまいりますのでみなさんお楽しみに!
ちょっとドラマチックな「第3回全国ポイ投げ選手権大会」は、こうしてエンディングとなりました。イベントに携わったすべてのみなさん、雨の中お疲れ様でした。
◆金魚ストリートの原点
去年に続いてあいにくの雨となった、柳町商店街。それでも、年に1回のイベントとなって、多くの人でにぎわっています。
ところで、今年からイベント名が変わりました。去年までは「柳神くん祭り」といわれていたんですが、今年からは「金魚ストリート祭り」にリニューアル。4年前から「商店街に金魚を泳がそう」と、既存の店舗約30軒の金魚水槽をアピールするためのコンセプトそのものがイベント名になったというわけです。
金魚ストリートのきっかけとなったのは、北谷呉服店さん。最初は趣味の一環で始めたユーモラスな金魚ディスプレイが、観光客にも大人気。ほな金魚をもっとアピールしていこうやないかとスタートしたのが、金魚ストリートだったのです。
現在は店内にも頂天眼などが数匹。店内が広いこともあり、商店街の打ち合わせがしょっちゅう行われている、コミュニティーの場でもあり憩いの場でもあり。
創業は90年以上も前。それでも呉服店としてはまだ新しいほうなのだそう。全盛期のころの展示会では、全国からお客さんが多数やってきて一日中大忙し。「朝から晩まで、ご飯を食べさせてもらえないくらい忙しかった子どものころを今も覚えていますよ(笑)」と、3代目オーナーの光德さん。
タカラヅカジェンヌ出身であり大物女優でもあった月丘夢路さんが来店したことも。これが当時の写真。客としてだけでなく、「ほかのお客さんの接待までしてくれはりました。うちの主人(右側・三男さん)も喜んでましたわ(笑)。ほんま、ええ時代でした」と懐かしそうに話してくれたのは、光德さんのお母様でもある博美さんでした。
父親の影響で子どものころから生きものが好きだったという光德さん。金魚を商店街のシンボルにしたいという思いは、お父さんの影響が大きかったのかも知れません。
生活様式の変化で着物を身にまとう習慣は激減しましたが、日本文化としての着物を伝承していくべく、光德さんの責任は重大。これからの接待はぜひ金魚にしてもらいましょう!
◆かつての人出は心斎橋さながら
数年前までは、商店街に流れる放送のMCで有名だった玉井時計店のオーナー・玉井康道さんは4代目。こちらも創業100年以上。
以前は時計やメガネだけでなく、レコードやレコード針、楽器なども扱っていた痕跡が。こんな昭和チックな懐かしいコーナーが昔のまま残っています。
震災以降止まったことがないというドイツ製の柱時計が今も健在。
「信じられん話やと思いますが、ここは今の心斎橋筋商店街と同じくらい多くの人が歩いてはったんですよ~」。由緒ある城下町にある商店街という土地柄、人が集まってくるのは当然といえば当然でした。「そういえば、歌手の藤圭子(故人・宇多田ヒカルの母)さんや演歌の水前寺清子さんがキャンペーンで来店したこともあります。えらい人が押し寄せてね~、玄関のガラスが割れたほどなんですよ(笑)」。
お店にはそれぞれ趣の異なる2つの水槽が置かれ、品種も違う金魚が泳いでいます。
今回のイベントのスタンプや今人気の金魚御朱印は店内に配置。お客さんに店内に入ってきてもらって、少しでも商店街の様子に触れてもらいたいという玉井さんならではの発想です。
ん?これは?「柳神くんを祀ってあるんです」。ああ、去年までイベント名にも使われていた?「実はイベント名を変えることにすごく反対したんですよ(笑)」。
「柳神くんは地元の郡山八幡神社の神様のお使いといわれていまして。商店街の人たちはみんな郡山八幡神社の氏子で、神様が商店街に富をもたらしてくれると信じているんです」。なるほど、お祭りでは八幡神社に感謝する思いが柳神くんに込められていたのですね。
最終的には新しいイベント名で落ち着きましたが、「これからは若い人たちの時代ですからね。結果的には金魚が商店街というコンセプトにも合っていますし、今思えばこれでよかったかなあと」。
現在は弟さんと2人で経営。後継者もおらず、「自分たちの代で終わるつもりです。昔のように人であふれ返る時代は無理としても、せめて地元や周辺地域の人たちが足を運んできてくれる、そんな親しみのある商店街であって欲しいです」。そのための金魚。観光大使。ポイ投げ選手権も、そんな人を呼び込むきっかけづくりにほかなりません。
◆廃業は新しいチャンス到来?
少ししんみりしたところで、気を取り直して柳花簾さんへ。もともとお父さんが畳屋さんだった建物を、下窪多恵子さんがリニューアルしてオーナーに。現在は、書店やガラス工房、お料理教室などがテナントとして軒を連ねています。
お父さんは畳職人の4代目として経営していましたが、畳替えの需要が減って廃業。「その後両親が亡くなって、スペースを空いたままにしておくのはもったいないから何かしたら?と、周囲の声に推されて約10年前にスタートしたのがきっかけでした」。
とほんさんが、金魚ストリートが始まる少し前に金魚を置き始めたのが金魚とのお付き合いの始まり。「金魚がいることで、お客さんが奥まで見に入ってくれるので好都合です(笑)」。
ちなみに柳町商店街界隈には今も数多くの井戸が残っていますが、柳花簾さんの中庭にも井戸水を貯めた石囲いがあり中に金魚が泳いでいます。
おお、これは懐かしいリンゴマークのパソコンが水槽代わり。
柳花簾さんのように、まったく新しい業態の店舗にリニューアルしたり、あるいはレトロなまちなみの魅力に惹かれてオープンしたりするカフェやフードショップも少しずつではありますが増えてきました。
そんな救世主が今後も現れてくれば、後継者問題で頭を悩ませることもないのでしょうが、まだまだ現実は厳しいようです。
「金魚ストリートと銘打つからには、金魚で観光客を呼ぶことができればベストですね」と下窪さん。新しいコミュニティーの姿を、とほんさんなどと共同で模索中。ぜひこれまでになかった新しい発想で、商店街に新しい息吹を吹き込んでくださいね。
◆「柳神くん」を忘れない
運よくここに商圏を見い出して開業した表具屋さんがいます。かたや400年も続く伝統菓子を今風 の味にアレンジして「自分が継ぐのは当たり前」というオーナーもいます。時代や業態は違っても、このまちを愛する人の気持ちだけは変わることはありません。
柳神くんとゆかりの深い郡山八幡神社は勝負の神様ともいわれ、なぜか野球のグローブが奉納されています。金魚ストリートにも勝算あれと祈るばかりです。
イベント名からは消えましたが、柳神くんのことは誰も忘れてはいません。商店街のみなさんの心の中に、今も息づいていくに違いありません。
そう、ポイ投げ選手権で市長も女王卑弥呼も祈っていたではありませんか、「神様お願い!どうかポイが遠くへ飛んでいきますように!」と(笑)。
金魚ストリートは、2年前に中小企業庁の「はばたく2021商店街30選」にも選出。商店街活性化のモデルケースとして話題を呼んだのは記憶の新しいところです。ぜひまた第2弾、第3弾と、新しいことにチャレンジしていってもらいたいものです。
以前として小雨が降ったり止んだり。そして午後4時、「金魚ストリート2023」は今年も無事終了。イベントに携わったすべてのみなさん、本当にお疲れさまでした。
消防団所有の真っ赤な消防ポンプ車。金魚が攻めのアイテムだとしたら、消防車はまさに守りのシンボル。赤いもの同士、仲良くしていきましょうね(笑)。