一見、水草レイアウト水槽ガッツリのお店かと思いきや、初心者にもやさしい店長の今田洋さん。アクアショップや用品メーカーなどの経験を生かして、2020年に独立開業。「毎日新しい発見があるのを楽しんでいます」と、まさに店名通りのポリシーを貫いています。
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◆想像をかき立てる提案
大阪府豊中市の郊外。すぐ近くに緑豊かな服部緑地公園、歩いて15分のところに服部緑地公園駅。周辺には美容室や郊外型レストランなどもありますが、緑も多く便利でありながらどこかホッとするまちの一角にあります。
ドアを開けると、ふ~っあったかい。冬はアクアショップに限る?
色々と目に入ってくるのは、春を待ちわびているかのような魚や植物たち。こうして見ていると、水のゆらぎさえも生命が宿っているような気さえしてきます。
大小さまざまなサイズの水槽は、多様化するアクアライフの提案演出。こんなシーンがリビングに加わったらいいなあ。キッチンだったらもっと食事が楽しくなるかもよ。店内をゆっくり歩いていると、アクアを取り入れたくてわくわくするユーザーの声が聞こえてきそうです。
まるで自然のあるべき姿を、ひとつの水槽にぎゅっと閉じ込めたような世界観。魚たちも何だか幸せそう。
◆店はコミュニティの場
店長の今田洋(いまだひろし)さん。お店に入った瞬間から、素敵な笑顔で迎えてくれました。「子どものころ、自宅が近くにあったこともありよくこの界隈を自転車で走ってたんです。だから商売をするのだったらこの界隈がいいな、と」。土地勘があったのも背中を押してくれました。
――生きものたちもイキイキしている素敵なお店ですね。
「このくらいの広さが理想だったんです。今のところ店員は私だけですが、お客さんとじっくりお話ができるためにも、今くらいの規模が自分には合っていると思います」
――どんなお客さんが?
「色々ですね。初心者のかたも多いですし、すでに水草を育成されているかたもいらっしゃったりで幅広いです。色々楽しみかたがあっていいと思っていますので、そのお手伝いができればいいですね」
――水草レイアウト水槽が専門だとばかり思ってました。
「専門ではありません(笑)。それに、アクアだけでなく熱帯雨林植物やパルダリウムも得意としています。もちろん、ジャンルを専門的に突き詰めていける趣味でもありますが、それだけがアクアの楽しみかたではありません。そのためにもお客さんとのコミュケーションが大事だと思っています」
――それがポリシーですね。
「人が集まる場所であって欲しいと思うんです。人が集まれば、私とお客さんが言葉を交わすだけでなく、いつの間にかお客さん同士がアクアについて語り合い盛り上がっている。そんなコミュニティが活発になる環境こそが、自分が目指してきたショップのあり方だと信じてます」
――路面店ならではですね。
「そうですね。昔はそんなお店が多かったような気がします。買い物だけでなくても、そこで何かを発見してくれれば価値はありますから」
――ディスカバリーたる所以でもあります。
「極端に言えば、今みなさんがSNSでやってることが、この店で展開できればいいですね」
てっきり水草レイアウトがメインだと思ってた、浅はかなキワメテスタッフ。そして、今田さんが目指しているのはもっと先。接客ではなくコミュニティという言葉も、利益優先ではないという証でもあります。「私もお客さんも、好きでやってることですからね(笑)」という当たり前のひとことが印象的です。
◆水槽に凝縮されたコンセプト
お店のメイン水槽をご紹介。こちらはお店に入ってすぐのところにあるシンボリックな120㎝水槽。光の恩恵を受けてイキイキしています。いわば、「魚と水草を楽しむ」がテーマの水槽。エキノドルスを中心とした水草で占められています。
水草の間を縫うように泳ぐのは、さまざまやカラシン系の熱帯魚やオトシンやコリドラスたち。水草レイアウトといえばソイルが一般的ですが、ここではあえて昔から使われている砂利を使っています。「水草水槽では、定番の小型魚以外にもソイルでは飼育が難しいといわれるコリドラスなどの魚を楽しめるなど、魚種の豊富さも砂利ならではです。要は、お客さんがどんな遊び方をしたいか、に尽きると思います」。
クルクルしているこのユニークな水草は、ヘランチウム ボリヴィアヌムの突然変異から作出されたベスビウス。
ユニークなのは照明効果。水に当たる光がキラキラしていて、まるで大自然の大河や巨大水族館のよう。初めてみるシーンについついうっとり。動画でないのが残念なくらいです。「できるだけ自然環境に近づけたくて、自然光に近いゆらぎが表現できる照明を選びました」。
用品に関しては、国内外問わず今田さん自身が実際に使ってみて、いいと思ったものをお客さんにも推しています。「とりわけ照明はレイアウトの見え方を大きく左右する要素でもありますので、明るさだけではなく波長や光の質にこだわってみるのも面白いですよ」。
こちらの120㎝水槽は、少し趣が違います。「水草の色を楽しんでもらう」がテーマのダッチアクアリウムです。水草の繊細な色彩の差を表現できるようにと選んだ照明は、8種類の素子を贅沢に搭載するタイプなのだとか。水草の育成にも効果的で、色とりどりの有茎草がイキイキと育っています。
よく見るとディスカスが1匹遊泳。ほどよいアクセントになっています。ディスカスは水草レイアウトと相性が悪い印象がありますが、低床やメンテナンス方法を工夫すれば、水草水槽でも飼育OK。「あえてチャレンジしてみることで得られる発見も、アクアの醍醐味のひとつだと考えています」。
シュートを伸ばす姿が印象的なエキノドルスが、レイアウトのアクセントとなっています。シュートには、花や子株をつくりそこにエキノドルスの力強い生命力を感じます。
◆パルダリウム拝見
パルダリウムも見せてもらいました。熱帯植物をまるで自生地のように再現したパルダリウム。苔むしたジャングルのような世界観が印象的です。
ショップでは、熱帯雨林の宝石ともいわれる美しいヤドクガエルも数多く取り扱い。特にラビスラズリを思わせる神秘的なカラーのアズレウスが一番人気です。
ヤドクガエルの魅力は、色彩だけでなく繁殖の方法にもあるのだそう。「陸生のカエルなので葉っぱの上などに産卵し、ふ化したオタマジャクシを親ガエルがおんぶして水場まで運ぶんです。中にはオタマジャクシのいる水場に、エサになる無精卵を産み落として給餌する種類もいるんですよ」。実に興味深い子育て。そんな可愛らしい姿をケージの中で観察できるのも、パルダリウムの面白さかも知れません。
そんなカエルたちのための産卵用シェルターも完備。
今田さんお気に入りのバードウィングファン。その名の通り、鳥が翼を大きく広げているように見えます。シダのなかまで、縦に登っていく性質を持つクライマー植物だそうです。
◆「ヤドク愛」がとまらない
生きもの以外にこんな小物もラインナップ。京都のアクアショップと共同でヤドクガエルのために手がけた京焼シェルター「ケロケロハウス」。ヤドクガエルの隠れ家としてはもちろん、適度に水分を保持させることで産卵床にもなります。これ以外にもひと回り小さいサイズのタイプもあり、通常サイズの上部にスタッキングするとケロケロマンションにバージョンアップできますよ(笑)」。
こちらは「ケロケロベッド」手にとってみると、陶器独特のあたたかな風合い。個体ごとに違った味があり、ヤドクガエルがうらやましくなる逸品でもあります。
こちらは、すべて実際にいるヤドクガエルをモチーフにしたマグネットフィギュア。「昔から仲よくしていただいているブリーダーさんの奥様が作家さんで、ハンドメイドで一点ずつつくってくれています」。ホンモノは飼育ケースの中。でも分身はいつも手元に。そんな作者の思いが伝わってきます。今田さんのヤドク愛は止まりません。
◆知人ネットワークの賜物
こちらはコーヒーカップ。元アクアショップスタッフの友人作。独特なタッチで白いカップに手書きで書き込まれた魚たちが印象的です。「ちょっとマニアックな個体もありますけどね(笑)」。もちろんお店限定のオリジナル。水槽を眺めながらコーヒーを飲むリラックスタイムがあってもいいですよね。
「これ、素敵でしょ?」え、これって水草の押し花アート?「いえ、押し花ではなく押し葉です」。押し花のように押し葉にして保存したもの。大切に育ててきた水草の姿を、インテリアとしても楽しめるというアートです。「水草は枯れてしまいますが、こうしておけば大切に育てた水草を残しておくことができます。自分でサンプルをつくってみて、みなさんに見ていただいています」。
フレームケースでデコレーションされたコウホネの葉もこんな感じ。光で透かしてみると、葉脈がしっかり見てとれます。まさか水草で押し花ならぬ押し葉なんて、発想が斬新すぎます。
◆好きな趣味を続けてほしいから
――オープンして変わったことは?
「過去にアクアショップで10数年勤めたあと、アクア用品メーカーでは営業職としてアクアショップをたくさん見てきました。ショップという存在を中からと外からと両方見てきたことで、アクアの世界を客観的に見られるようになったことでしょうか」
――内外両方の経験は大きいですね。
「開業してから3年少しになりますが、お客さんをはじめとする関係者のかたがたに教えていただくこともまだまだ多いのが現状です。過去の経験に加えて、それらをしっかりと把握して経営に反映していくことで店の魅力につながれば、と思っています」
――路面店だからこそできる自由度であり、オリジナリティでもある。
「なので、過去にいくら豊富な経験があっても今が大事です。この先、お客さんと一緒になって楽しみながら、ディスカバリーという存在をどのように育てていけるか、楽しみでなりません」
――今後もアクアユーザーが増えて欲しいですね。
「外出がままならないコロナ禍で、アクアユーザーが増えたといわています。しかし重要なのは、一人でも多くの人に長く楽しんでいただくために、同じ趣味を楽しむ一人として私たちは何ができるのかを考えていく必要があると思うんです。そこに、店としての存在意義があるような気がしてならないんです」
――まさにそれがコミュニティということですね。
「人によって趣味を楽しむ環境もさまざまです。趣味はくらしを豊かするためのもの。なので、それぞれに合ったかたちで無理なく楽しんでもらえればいいのではないでしょうか。縁あって訪ねていただいたお客さんには、長く楽しんでいただきたいですから」
そういえばうちにも水槽が余っている。リセットもできない水草水槽もある。再開するには不安がある。どこから始めていいのかわからない。コストも心配だ。。。もしそんな迷えるユーザーがいたら、ぜひお店を訪ねてみてください。
◆店内は冬知らず
これは?「3年前にコロナの時に幼稚園へ行けなかった近所の子と仲良くなりまして。その子が描いてくれたんですよ。残念ですが引っ越していきました。生きものが大好きな子だったんですけどね」。オープン時、そして小学生になったオープン3周年まで、3年間交流を温めました。今田さんにとって、初心を思い出させてくれる大切な宝物となっています。
外は冬。春はまだもう少し先。それでも生きもたちはホットな冬を過ごしています。
お店の隅っこで繁殖中のヤドクガエルのオタマジャクシも元気で春を待ちわびています。
どんなことでも否定をしない今田さん。こうでないといけないという決めつけもしない今田さん。「アクアは色々なスタイルがあっていいと思うんです」とニコニコ顔で話す言葉には、余裕すら感じて仕方ありません。
アクアという楽しい趣味を、アクアユーザーに伝えていく今田さん。初心者に対しても。上級者に対しても。まさしく、「アクアの伝道師」そのものでした。