日本初の水生植物専門店として、2023年に創業60周年を迎える杜若園芸(京都府城陽市)。最近ではアクア部門を強化しつつあり、水生植物とアクアとの共存を目指しています。後編の今回は、大幅にリニューアルされたアクアがメインの店内の様子を紹介します。
☆ ☆ ☆
◆水中でも成長が早い理由
入社早々、デモンストレーション用レイアウト水槽製作のために、水上葉で育成した苗をそのまま使用しようとして悪戦苦闘を強いられた副店長の牧野さん。「こんなはずじゃなかった」。もしかしたら、心の中でそうつぶやいていたかも(笑)。しかしながら、今まで経験したことのなかった局面を何とか乗り越えたことで、逆に水生植物に対する知識やノウハウも身につきました。「一番驚いたのは、成長のスピードの早さでした。グロッソも成長するまで1カ月もかからない。グロッソに限らず、すべての水上葉が水中葉に変わったあとも、元気でたくましく育ってくれたんです」と驚きを隠せない牧野さん。今までほとんど無縁だった水上葉で育成した丈夫な苗の特性を認識したことで、大きな自信につながりました。そう、苦労は買ってでもしないと(笑)。
拒否反応もなく、思っていた以上のスピードで成長してくれた水上葉でしっかり育てられた水生植物たち。この要因は、やはりすべての水生植物が自社生産だったからにほかなりません。聞くところによると、会社の近辺は昔から伏流水などの水脈に恵まれ、今も枯渇することのない井戸水も豊富という好条件。しかも日照時間が長いことから、水と関わりの深い水生植物が育つには絶好のコンディションだったのです。今も国内シェアナンバーワンを誇れる理由は、先人が苦労して築き上げてきた好環境を維持してきた結果なのでしょう。これが「杜若スタイル」だったのです。
例を挙げてみましょう。これが水上葉の状態のプロセルピナカ パルストリス。アクア系の水草の中では人気があります。
これが水中葉になるとこんな感じに。え、これって同じ植物?と思ってしまうほどの驚きです。
続いて、丈夫なこともあり初心者でも扱いやすいウォーターウィステリア。
水中ではこんなに変化。こうやって比較してみると、水中葉を使い慣れているアクアユーザーから見ると逆に水上葉の形状のほうが意外に見えるかも知れません。
最後はこれ。ルドヴィジアアクアータ。
水中ではこんな感じに。水上葉の時と比べると、シュッとした形状だけでなく葉までが変化しているのがわかります。どの水中葉も元気で丈夫。悪戦苦闘の体験をした牧野さん、改めて自社生産しているからこそのクオリティーに何度も驚いたそうです。
◆テーマの異なる水槽が隣り合う意味
レジに一番近い場所には、10種類以上の水草を使いつつ90㎝水槽でレイアウトされたデモンストレーション水槽「ダッチアクアリウム」。前景から後景にかけて傾斜をつくり、水草の種類や成長、色の変化などが楽しめる、いわば水中ガーデニング。昔ながらの水草だけを浸かったシンプルなレイアウト水槽。これこそが、牧野さんが長年アクアの理想として追求していた水草レイアウト水槽の行き着く先だったのです。
よく見ると、水中から成長して水上葉に変身したエイクホルニア アズレアなんか少し。
こちらはジャイアント アンブリア。水面を境にして、水上・水中それぞれの形状の違いがよくわかります。これこそが、昔から生命の営みが行われていた水辺の植物そのものの自然な姿。「普通はレイアウト水槽の観点から見ると、迷わずカットしてしまう部分なんですけどね(笑)。お客さんに説明する意味でも、カットしないで水上部分も残しています」(牧野さん)。
そんな経験をいかして、水上葉を水中でも手間なく簡単に育成できるようコンパクトにして販売を開始したのも牧野さんのアイデア。アクアユーザーならきっとこんな水草が欲しいはずだ、と。時間と手間をかけず、すぐに即水槽で使えるようにして販売したところ、アクアユーザーからの受けもよく売れ行きも好調。
牧野さん曰く、「背の高いタイプよりも、やや小振りなサイズが受けています。特に、メダカユーザーや小さめのガラス容器を買われるお客様が、背の低いものを選ばれる傾向にあるからなんです」。
すぐとなりにも、牧野さんが製作した90㎝水槽が。ただし、さっきの水槽とはテイストが異なります。コウホネやベニコウホネ、日本の水草に熱帯スイレンを合わせた水槽を中心に、テラリウムの要素も取り入れた水槽に仕上げました。題して「TOJAKU style aquarium」。わかりやすくいえば、日本の水景にメダカを融合させたメダカアクアリウム。こちらは、まさに杜若園芸そのものの存在を示す、いわば会社のコンセプト水槽でもあります。
水草の間を縫うようにメダカが泳ぎ、植物と生体がそれぞれ共存して時間を享受する様子を水槽で表現。まさに、創業以後社名を変えずに水生植物という伝統を守り抜いていた証しがここにあります。
水上で、今まさに熱帯スイレンが花を咲かせようとしている瞬間に遭遇。まるで、疫病も戦争もない平和な地球でありますように、と祈っているかのよう。
いずれにせよ、それぞれコンセプトの異なる水槽が隣り合ってディスプレイされていることに、杜若園芸が新たな転換期を迎えたことを物語っているようです。そして、これからの時代は水生植物とアクアは共存していかなければならない、とのメッセージが込められているような気がしてなりませんでした。
◆以前よりアクア色が前面に
それにしても、2年前から比べるとずいぶん売り場が広くなりました。以前はどちらかというと、水生植物の付随施設という感がありましたが、このシチュエーションはまさしくアクアショップそのものです。
店内のゾーニングは、ほぼアクア色が前面に打ち出されています。こうした店内の導線とディスプレイを考え的確にリューアルを施すのも、花田さんのデザインワーク。「これまで以上にアクアへの比重が高くなることで、新しいお客様の獲得やリピーターが増えればいいなと思っています」。牧野さんが入社したのとリニューアルとのタイミングはほぼ同じ。牧野さんのことだから、きっとプレッシャーを感じていることでしょう(笑)。
こちらのメインはビオトープ。見本鉢を中心としたディスプレイは、まさに杜若園芸の真骨頂。
特に、植物の成長を促進する高輝度ライトを使った室内ビオトープが印象的でした。
苔テラリウムの水槽も。ここではシダリウムと称し、苔だけでなくシダや食虫植物などを巧みに使った水槽でもあります。
え、牧野さんってマッキーと呼ばれてるの(笑)?しかもキャンプ云々など、私的なエピソードもふんだんに。何か、いい雰囲気。
ちっちゃな苔テラリウムの販売も。
水の上でぷかぷか浮いている緑のボールのようなものは一体?まさかマリモじゃないですよね(笑)。店頭では「モス丸くん」と称していますが、品種的にはクリスマスモス。中には何が入ってるのでしょう?「それは企業秘密ですから(笑)!」と花田さんのノリも最高潮に(笑)。
◆目指すはヨーロッパ制覇?
店内には、若手スタッフが製作したパルダリウム水槽も。入社1年ちょっとの石川 藍さんは、コロカシアブラックマジックやフイリワスレナグサ、アジアンタムなどを使って仕上げました。聞くと園芸関係の高校出身とか。近い将来、こんな若いスタッフが台頭してくれることを祈らずにはいられません。頑張れ、藍ちゃん!
店長の鈴木さん作のビオトープ。2年間、事務所の机の下で眠っていた熱帯スイレンに、何とか花を咲かせようとチャレンジしたそうです。このことは、動画配信サイトでもずいぶん話題になりました。それを目当てにはるばる遠方からやってくるお客さんも少なくなく、リアルとSNSの相乗効果もなかなかのものです。
あ、キワメテに気を使ってくれてありがとうございます(笑)!店長でありながら、生産現場にも繰り出し、動画配信を積極的に行い、しかも多くの見本鉢の製作も。みなさんがこれほど元気なのは、水生植物同様やっぱり自社生産のせい(笑)?いや、どのスタッフも魂込めて植物に寄り添っているからです。
聞くところによると、ヨーロッパでは園芸とアクアは同じカテゴリーに属するのだとか。多くの水生植物専門店は、アクアも取り扱っているのだそう。これは意外でした。園芸とアクアとの垣根が、そろそろ取っ払われてもいい時期なのかも知れません。
文化の違いといってしまえばそれまでですが、水という共通点を以ってすればお互いのジャンルが刺激し合い共有すれば、それぞれの市場がもっと広がるのかも知れません。
日本で最初に水生植物を手がけた杜若園芸。来年は創業60周年。地元に自社のフィールドを置くことにこだわり、水生植物に特化し生産し続けるスタンスは、昔も今も変わっていません。「この機会に、これほど品質の高い水生植物があるということを、アクアユーザーのみなさんにもぜひ知っていただきたいと思っています」と、牧野さんの鼻息が荒かったのも印象的でした。
陽光うららかな日、熱帯スイレンが美しく開花。そんな美しさを保つために努力してきた園芸のプロ集団が目差すのは、次なるステージ。店舗のみにとどまらず、京都の有名社寺におけるガーデン事業や本格的なビオトープとなる池づくりにも着手しつつあるのは、これまでの実績に上積みされたものであると同時に、常に先を読む鋭い洞察力があっての結果なのでしょう。
杜若三羽烏が一堂に(笑)。ビオトープのスペシャリストやディスプレイデザイナー、そしてアクアが得意なスタッフが加わりました。水生植物ファンのみなさんはもちろん、アクアユーザーのみなさんもぜひお越しを!