昭和のレトロ感が漂う大阪市北区の中崎町界隈。小さいながらもユニークな雑貨店やカフェが多く、国内外の観光客たちの人気スポットにもなっています。ちょっと摩訶不思議な雰囲気の「カフェ マラッカ」もそんな一角に。確かにユニーク。まぎれもないアジアンテイスト。オープンからまる3年。可愛くて小さな魚たちも居心地がよさそうです。
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◆アジアンテイストの摩訶不思議なカフェ
お店は天五中崎通商店街に面した角っこに。日中も夜も人通りはさほどありませんが、梅田のターミナルから歩いて15分ほど足らずと、意外に便利。
正面からみると、カフェなのか雑貨店なのか、ちょっとビミョー(笑)。でもどことなくアジアンテイストなのはわかります。
キャラクター化された魚の切り絵が貼ってあるくらいだから、魚と無関係のお店でないことも確かです。
「前から気になっていたお店でした」「ちょっと入りにくい感じがするけどゆったりくつろげました」「ユニークなカフェや料理が楽しめます」などなど、ネットなどの感想をみていると、なかなかの評判です。
あそうそう、以前取材したことのある近藤熱帯魚店さんはここから歩いても1分足らずのところにあります。ああ、あの取材の時も「最初の一歩が踏み出しづらい」なんて評があったような。何でもチャレンジ精神が大事ですから(笑)
メニューは評判通りかなり豊富。アジア系が多いのはいうまでもありませんが、このお店がすごいところはほぼほぼ年中無休だという点。しかも毎日12時から24時まで、カフェも食事もOKというのもうれしいです。この界隈では貴重な存在です。
店内に入り、螺旋階段を上がって客席へ。おお~、オリエンタルな風がプンプンと。壁面には古きよきアジアを思わせるような写真や絵が、まるで博物館のよう。
席が整然と並んでいるので、何となくオリエント急行に乗車しているような気も。いや、乗ったことはありませんが(笑)
◆プラナカンという文化と美意識
アジアといっても、店内のテイストは中国でもなければ韓国でもなく。かといってフィリピンでもインドネシアでもなく。何といっても店名がマラッカですからね。う~ん、アジアだってことは雰囲気でよくわかるんですが、一体どこの国を意識したお店なんでしょ。
「プラナカンです」。え、プランタン(笑)?「違います(笑)。プラナカンとは中国系移民の子孫のことで、マレーシアやシンガポールなどの東南アジアにいらっしゃるんです」と話してくれたのは、店の共同経営者の一人・田畑 葵さん。京都出身の日本人。どことなく元ピンクレディーのケイちゃん(増田恵子)を思わせるスレンダー美人。週明けの月曜日、しかもまだ10時すぎだというのに、お互いテンション高い高い(笑)
15世紀以降、中国からマラッカ海峡周辺などの東南アジアに渡り現地人と結婚した華人は、中国人とは異なる文化や習慣を持っていたのだとか。建物が明るいパステルカラーだったり、きめ細かい美しさが特徴のビーズ刺繍だったり、カラフルではっきりした模様が食卓を彩る食器だったり。元々ベトナムや香港映画が好きだったという田畑さん、スクリーンに登場するプラナカンのコーヒーカップや雑貨に魅せられ、「気がついたらプラナカンの人たちの美意識にヤラれてました(笑)」
マレー半島の文化とヨーロッパの文化をミックスさせたような生活スタイル。なるほど、それを踏まえて店内を見渡せば、確かに純中国など一般的なアジアテイストでないことがわかります。ああ、だから「カフェ マラッカ」だったと納得した次第。いっそのこと「カフェ プラナカン」にすればよかったのに。「いやぁ~、それも考えたんですけどね。まだそこまでプラナカンに精通しているわけではないですし、もっとよく知ってる人からみればなんじゃこれは、と思われてもいけませんから(笑)」ということで、現在の店名に着地しました。
日本でも上映されたマレーシア映画「アイス・カチャンは恋の味」(初戀紅豆氷)は、まさに華人が多く住む小さな町でのラブストーリー。タイトルのアイス・カチャンとはマレーシアのかき氷の意味で、田畑さん曰く「もちろんうちでも夏になったら出してますよ(笑)!」
ここは3階。まるで隠れ家的スペース。まるで東南アジア一色のギャラリーのようで、お店に対する田畑さんの思い入れが見え隠れします。ええっと~、プランタンやったっけ?「プ・ラ・ナ・カ・ンですっ!」(笑)
ネットでちょっと調べてみたら、プラナカンの情報が結構多くて意外でした。シンガポールにはカラフルな建物が残っていたりするせいでしょう、インスタ映えする写真をSNSにアップする旅女が多いみたいです。そうそう、その昔、シンガポールを建国したのも華人の子孫なんです。
またマレーシアには、プラナカン博物館もあるそうです。田畑さんの話を聞いていると、ますます興味が出てきてマレーシア観光をしたくなってきてしまいます。「わざわざ遠くまで足を伸ばさなくても、お店にきてもらったらいいですから(笑)」とちゃっかり。外観からは想像もできないほどのゆったりとしたスペース。このあたりのカフェとしては席数も多く、プラナカンに興味のある人には喜んでお話しさせていただきます、と約束してくれました。
◆バイカラーの名前は「桃子さん」
さて、そろそろ本題に入らないと。店内の魚をご紹介しないといけません。また何で魚を置くことに?「近所の人が立ち寄ったお店に魚がたくさん置いてあって、それを動画で撮ったものを見せてもらったんです。もう一目惚れしちゃいまして!」。
思い立ったが吉日。善は急げ。この近くで魚を調達するのだったら近藤熱帯魚店しかない!「もちろん(笑)!」というわけで、オーストラリアやニューカレドニアなど南の海に棲むバイカラードティーバックの海水魚に決定。
ちなみに、ご近所の人が動画を撮ってきたのも近藤さんのところだったことは、いうまでもありません(笑)
人工サンゴなどでカラフルにレイアウトされた水槽。現在は1匹ですが、「なかなか気の強い子なので」って、もしかしたら田畑さん似(笑)?
上半身が赤、下半身が黄色。目のまわりはロイヤルブルー。東南アジアの魚ではありませんが、それこそマラッカ海峡にいても不思議ではないカラフルな色が印象的です。
海水魚の飼育は難しいとよくいわれますが、近藤さんが近くにいるだけで何か心強い気がするのは自分だけでしょうか(笑)
ちなみに水槽が置いてあるのは、いつも田畑さんがいるレジのすぐ前なんですけど。もしかして、お客さんに見せるというより自分のそばに置いておきたいから?「当たりです(笑)!」
この魚には、実は名前があります。「名前は桃子さん。由来は上半身がピンク色だから」。赤色なんですけど(笑)。赤がピンクにみえる田畑さん、長年プラナカンに魅せられてきたことで美意識も変化したのかも知れません。
誰の考案かはわかりませんが、生体についてちょっとした解説も。
もう一人の共同経営者さんが撮ったという「桃子ギャラリー」。スマホで撮ったとは思えない傑作ばかり。桃子愛、ハンパないって(笑)!
最近ではTシャツなどの桃子グッズも販売中。Tシャツ以外にも色々あるので、気になった人はぜひご来店を。
実はうさぎちゃんだって飼っています。名前は小梅ちゃん。あいにくこの日は取材できませんでしたが、小梅さんと桃子ちゃんのコラボが嵩じた絵ハガキもあったりします。これも共同経営者さんが描いた逸品。ユーモラスでシンプル、それでいて擬人化されているのでLINEのスタンプにしたら売れると思うんですけど~。
◆いずれはブリーダーとしてベタコンスト?
桃子さんの次はというと、ベタ。そうタイが原産地で、アジアという括りではお店と関連性がなくもありません。もちろんベタも近藤さんところから調達。
中2階の壁面を利用して、計5匹がいます。ユニークなかたちのガラスびんやフラスコがベタたちのわが家です。
「あまりにもおとなしすぎて、お客さんがこれって生きてるの?ってよく言われます(笑)」
ベタを見るのは初めてだというお客さんも多いそうですが、「なぜかベタではなくベラというお客さんもおられます(笑)」
桃子さんだけでは飽き足らず、もっとたくさん飼いたい!でも簡単に飼いたい!やっぱり可愛いのが飼いたい!という田畑さんの3つの願いを、近藤さんが叶えてくれました。
そして、3階にも4匹のベタがいます。中2階とはまた違う、摩訶不思議なアジアンテイストとの相性もグッド。
「飼育するのは本当に簡単でした。小さいスペースでも元気でいてくれます。本当ならもっと数多く飼いたいんですけどね~」。飼いましょう、飼いましょう!
もしかしたら、何年か先には水槽がたくさん増えて、ベタコンテストに出場する日もくるかも知れません。
となると、今度取材にくる時はカフェのオーナーではなくブリーダーとしての田畑さんかも。そんなことになったら、お店の経営はどうするんやろって、余計な心配してしまいまいました(笑)
◆大人がひとりでも楽しめる空間づくり
こぢんまりしたお店が多い商店街にあって、2フロアあって席数も多いので、ゆっくり自分の時間をすごすには最高の環境です。
マレーシアから来日するたびに来店するお客さんもいるのだとか。こんな商店街(失礼!)の中に、まさか母国をテーマにしたカフェがあるなんて、最初はきっと驚いたことでしょう。
そのお客さんが必ず日本を経つ前に飲むというホワイトコーヒー。練乳が添えられているからホワイトコーヒーなのではなく、コーヒー豆が限りなくプレーンに近いからそういうのだそうです。何と何と、ホワイトコーヒーを提供しているのは全国でもこのお店だけだそう。ほんまに?「ほんまほんま(笑)」
以前マレーシア旅行で買ってきたという、現地のいわば「お重」。このほか、店内に置かれている絵や写真などはお客さんからのプレゼントもあるのだとか。オープン後3年、すっかりこの場所に根付きました。
つい最近、メルカリでみつけて衝動買いしたという古時計。何と120年前なのにさすが日本製、今でもちゃんと動いています。30分ごとに鳴る時報がゴーンゴーンと、まるでどこかの自動車メーカーの渦中の人みたいで(笑)
これからはどんなお店にしたい?「せっかくなので、プラナカンに関連した雑貨などを扱ってみたいです」。日本でも珍しいプラナカンアンティークショップ。それは大賛成。ちなみにインスタグラムで【#プラナカン】で検索してみると、旅女が多数。旅で出会ったアンティークな雑貨や昔ながらの建物に心惹かれた女性が、これほどたくさんいたとは驚きました。
仕事が忙しくて、年に1度くらいしかマレーシアに行けないという田畑さん。それでも「今は好きなことをやりたいようにやれている気がするんです。店をやってると色々ありますが、東南アジアのほうを向いていると元気が出るんです(笑)」。会社勤めの経験もある田畑さん、今の生活が一番性に合っているのでしょう。
これからも目指していくのは、「大人がたったひとりでも楽しめる空間づくり」。イメージ的には、昔からある「喫茶店」「純喫茶」。何度も言いますが、お店に入ってしまえば本当に落ち着きます。これは実際に来店してみないとわかりません。でも、「動画を再生中に大きな音量を出したり、市販されているお菓子を持ち込んで平気で食べたり。少数派ですが困ったお客さんがいるのも事実です。落ち着きすぎるんでしょうかね(笑)」。
今回、取材を通じて初めて耳にしたプラナカン。カフェ マラッカで、ゆったりシートで東南アジアに思いを馳せながら、小さなガラスびんで泳ぐベタをながめながら、ゆったりとした時間を。もしかしたら、自分だけのとっておきの隠れ家になるかも知れません。
もう「入りづらい」とはいわせません(笑)
★カフェ マラッカの公式インスタグラムはこちら