創業は1981年。関西屈指の老舗アクアショップ。店名は、てっきりアフリカンシクリッドに由来したものと思いきや、意外や意外。あ行から始まる当時のタウンページで最初に目につきそうだったから。。。そんな単純な理由の店名由来だったとは、ウソのようなホントの話。アロワナ全盛期のころには、オリジナルネーミングの生体が流通していたことも。やはり老舗とうならせる、あまりにもクセがすごすぎる38年の実力に脱帽するしかありませんでした。
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◆オーナーは奄美大島を満喫中
「ああ、熱帯魚屋さんでっしゃろ?昔からこの辺では有名でっせ。大阪だけやなしに、他府県からのお客さんが乗りはったこともありますわ」と、近鉄八尾駅から乗車したタクシーの運転手さん。聞いたところによると、運転手さんのお姉さんもアクアリストで、何度もお店を利用したことがあるのだそう。「今は有馬温泉の近くに住んでますねん。ごっつう大きい水槽が何個もありまっせ!取材でっか?今度紹介しまっせ!」って、ホンマかいな(笑)。まだ取材前だというのに、クセがすごすぎる河内のオジサンに持っていかれてしまいました。
タクシーで10分ほど。飲食店が数多く建ち並ぶ大通りに位置する路面店。オーナーは九州出身の中村一秀さん。同店の創業者でもあります。現在は奄美大島に在住で、細かい経営にはノータッチ。現在は、24年目のキャリアを持つ店長・藤原友介さんにほぼ一任されています。
◆海水魚ファンを大切にする理由
店に入ると、いきなり海水魚コーナー。これは珍しいシチュエーション。それでなくても海水魚を扱っているショップは少ないのに、わざわざ一番前に持ってくるとは。
あまりほかではお目にかかったことのない各種用品も。しかも用品にしては結構高そう(笑)。「海水魚ファンには、生体や水槽レイアウトにこだわりのある人が多いんです。たとえば、飼っている生体が死んだらまた同じ種類のものにしたり、用品にはとことんお金をかける人が多かったりで、そんなこだわりに応えられる体制を整備しておかないといけませんから」と藤原店長。海水魚を扱うのをやめようとは一度も思わなかったのも、そうした固定客が少なくなかったからでしょう。
渦巻き模様が可愛いタシジマキンチャクダイの幼魚。「それがいいと仰るお客さんがいましてね。成魚になったら幼魚と交換しにこられるんですよ(笑)」。へー、そんなこだわりが。
こちらが成魚のタテジマキンチャクダイ。水族館やアクアイベントで見た人も多いと思いますが、渦巻き模様の幼魚と同じ種類だとは思えないほどカラフル。個人的にはこちらのほうがビューテホーだと思うのですが、みんなと同じなのはノーというのが海水魚ユーザーのポテンシャルなのかも知れません。
◆アクアに忖度はないのか
固有種が多いというオージーサンゴ。その名の通り、オーストラリア産です。サンゴというとブラジルやフィリピンのイメージがありますが。「ASEAN諸国に保護区が増えたせいで、年々入手するのが難しくなってきてるんです」。アクアの世界にも政治介入?「それに中国が高値をつけて大量買いしてしまうと、日本に入ってこなくなるんです」。近年、沖縄ではサンゴが減りつつあり、逆に温暖化の影響で関東エリアの太平洋でもサンゴが増えつつあるというややこしい時代。自然界の危機に加えて、国際政治の影響も見過ごしていられない時代になってきました。
海水魚のトリーメント用バックヤードには、カクレクマノミが。映画「ファイティング・ニモ」の影響もあって、2003年ごろに起きた空前のニモブーム。あのころの海水魚はすごい人気でした。「うちの店で海水魚を扱うようになったのもそのころです」。
そういえば2016年に「ファイティング・ドリー」という映画があったような。「ありましたありました。ニモの第2弾ということで、海水魚ブーム再来かと思われたんですが、前作ほどインパクトがなくて結局ダメでしたよね(笑)」。映画に限らず、何か大きなきっかけがあるとアクア全体にも火がつくのですが。
海水魚水槽にも対応できる大型ライト。こんな大きなサイズは初めて見ました。聞くところによると、問屋さんにもなかなか在庫がないらしいとのこと。こういった商品がしっかり点灯で確保されているのが、このショップの強みでもあります。
ん?これは?商品名は「べっぴん珊瑚」。ひとことでいえば、アミノ酸を使ってサンゴを色鮮やかにし、そして成長を促進させるというサンゴ専用の添加剤。純国産でありながら、企業が営業ベースで製造しているわけではなく、つくったのは大阪在住の有名ブロガーさん。へー、これは初耳です。
一個人が製作した商品を老舗のアクアショップが販売することに抵抗はなかったのでしょうか。「うちの海水魚水槽でもずっと使っているくらい、製品そのもののクオリティーが高く安心して使っています。今では全国にテスターがいて、結構有名になりました」と、商品に対しては高く評価。取り扱っている店はほとんどなく、全国でもほぼここだけ。購入すると後々までケアしてくれるそうで、「自分たちが使っていいと思った商品は、やっぱりお客さんにも勧めたいですから」。アフリカさんお墨付きとあれば、安心して継続購入できるという利点がこんなところにも表れています。
飼育が難しいといわれる海水魚。だからこそ、無責任なアドバイスや提案はしません。飼育するのはあくまでもエンドユーザー自身。主役がエンドユーザーである限り、ショップはあくまで手助け的な存在であるのが理想なのかも知れません。
◆目指すキーワードは「自立」
続いて奥のゾーンは用品コーナー。上からみるとこんな感じ。広いスペースに、これでもかというくらい用品がぎっしり詰まっています。年末年始などの長期の休みには、結構遠方からくるお客さんも少なくありません。そう、駅からタクシーに乗って(笑)
2年前には公式アプリを公開し、販促に役立てています。最近では通販利用者が多くなりましたが、以前からショップブログはかなり充実していました。今ではどこのショップでもブログによる在庫情報は当たり前になりましたが、広告媒体としてのブログによる情報発信を積極的に行ってきたのも、このショップが草分け的存在だったとは知りませんでした。
結構大きいサイズのわりにはよく売れているという、バイオーブのブランドで知られるアクリル大型水槽「ライブ」。ライトとフィルターの2つのパーツを1つのコンセントでまかなえるように設計。専門店ならではの品揃えです。
KOTOBUKIのロータイプ水槽レグラスも。「初心者のお客さんがメダカを飼育するにはぴったりなので、極力在庫を切らさないようにしています」と藤原店長。ショップ自体、どちらかというと中・上級者がターゲットかと思いきや、「あまりそういう区別はしていません」と意外な答が。
ただ、「アクアは“自分でやる”ものなので、初心者のお客さんに対してもそう言ってきています」。生体から水槽までを適当に揃えて売りっぱなしということはせず、お客さんが本気でアクアに取り組み自立できるようサポートしています」。もっといえば、安易な考えでアクアを始めてはいけない、という警鐘でもあります。
ということはリースなんかもやっていない?「うちは全然やってません。経営的にはやったほうが収益があるのはわかってるんですが、リースに伴う各種作業がすべて業者任せというスタンスがどうも馴染まなくて(笑)」。なるほど、人まかせ・業者まかせでは知識もノウハウも身につかないし、よくない飼育環境で結局生体を弱らせることにもなります。飼育であれリースであれ、エンドユーザーに望むのは「自立」。創業以来ここまでやってこられたのは、そんなポリシーを貫いてきたからにほかなりません。
自立=自主性という点でいえば、スタッフに対しても同じです。海水・用品・淡水それぞれのコーナーには担当スタッフが配置されていますが、レイアウトや品揃えなどをすべて一任しています。勤務歴が長いスタッフも多く、中には藤原店長と変わらない20年近いキャリアを持つスタッフも。こうなると責任重大。それぞれのコーナー担当者は、きっと経営者感覚で日々の在庫管理にあたっているのでしょう。
◆ワラワラと混泳水槽
一番奥が淡水魚コーナー兼水草コーナー。水族館さながらのライブ感。
コーナーをスタッフが任されるということは、スタッフ独自のカラーで演出することでもあります。それがぴったりハマれば、お客さんとのパイプもきっと強くなるのでしょう。「らしさ」は大事です。
コーナーをじっくり見ていると、多くの魚がワラワラとたくさん泳いでいる水槽があります。ここではオリノコシルバーアロワナのワイルドやアルビノセルフィンPなどが混泳。
ここにもアロワナ軍団がワラワラと。
熱帯魚の王様・ディスカスもワラワラ(笑)
ゼブラキャットやバンデッドピラムターバも。
もう何種類が混泳しているのかわかりません(笑)。思わず水槽に釘付けになってしまうコーナー。こうした展示方法もスタッフに一任。「やりたいようにやってるんでしょ(笑)」(藤原店長)。信頼関係の厚さを物語っています。
水草関係もワラワラと。中でもおすすめはMsp.ホンナロー。産地偽装が多い昨今、あくまで本物にこだわって入手したのだそうです。ミクロソリウムのナロータイプ、流木付きのものや石付きのものなど、在庫はさまざま。
アグラオネマやウツボカズラといった植物系も。こんなところにもスタッフのこだわりがあります。もし女性層をターゲットにしているのだとしたら、近ごろ食虫植物好きの女子が急増中なので、そのトレンドは間違ってませんよ(笑)
◆エキゾチックウォッチの謎
2階では、かつて集中ろ過水槽を配置・管理していたことがあるそうです。ショップスペースが広いことの利点です。
今では中古用品販売コーナーと化していますが、奥ではビッグヘッドフラワーホーンコーナーが。ユニークで愛くるしいフェイスマスクをしていますが、決してみかけだけでなくすぐに人馴れするので飼育しやすいため人気があるそうです。しかしこれほど多くの種類があったとは。
そういわれて改めてみると、アクアというよりかなりペットっぽい風貌(笑)。ただし生体単独でしか飼えないのが残念なところ。成魚になると100ℓ水槽が必要なのだとか。
ん?こんなところに物々しい立入禁止の表示が。そう書かれていると余計好奇心がメラメラ湧いてくるのが「キワメテ!水族館」スタッフの本性(笑)。さてさてこれは一体?
まるで鉄格子のような構造のさらに奥を見ると、え?エキゾチックウォッチって?よくみると、「高価・買取・下取」って。う~ん、ますますアヤしい(笑)
実はオーナーの中村さんは、かつて相当なモノマニアでした。そして、アクアショップなのにレアものの腕時計の販売を皮切りに、何とロ〇ックスの名品をこのスペースで大々的に販売していたことがあったのだそうです。へ~、そうだったんですか。エキゾチックウォッチとは、その片鱗。10年間ほど本格的に販売していたそうで、当時としては画期的な試みだったみたいです。今ではとっくにやめていますが、それでも元の取引先や顧客からロ〇ックスに対する問い合わせがあるのだとか。それにしても、エキゾチックウォッチというこれまたイージーなネーミングに、またウケてしまいました(笑)
販売をやめた理由は?「ある日の早朝、窃盗団にゴッソリとやられしまったんです(笑)」。えええ、それってプロの仕業?「間違いなくそうでしょう。シャッターが車で引きちぎられるように壊され、警備会社が駆けつけたころはすでにもぬけの殻だったんです」。その後も何度か盗難に遇い、防犯上の理由で結局ロ〇ックス部隊は退散することになりました。
長い歴史の中で、そんなプロモーション&重大な事件まであったとは。こんなことまで書いちゃっていいんですか?「実際にあったことですからね~、いいんじゃないですか(笑)?」とクールな藤原店長。エキゾチックアフリカ、やっぱりただ者ではありませんでした(笑)。でもちゃんと伏せ字で配慮してますので(笑)
ちなみに、何百万円もするロ〇ックスが光り輝いていた当時の商品陳列ケースが、今もショップのどこかに今も商品展示用として有効活されています。さて、どのコーナーにあるでしょうか。ぜひ実際に足を運んで、宝探しのごとくみつけてみてくださいね(笑)
◆実は初心者にもやさしい意外性
藤原店長が入社した20年数年前は、アクアブームの余韻がまだ残っていました。「そのころに培ってきた知名度と信用が今につながっていると思います。当時のお客さんには今も支えてもらっていて、単にブームに振り回されなかったことがよかったんじゃないでしょうか」と当時を振り返ります。
現在は、マイナス要因も多々。少子化に加えて20~30代が生きものを飼わなくなったこと、アクアの入口であるはずの金魚すくいの場が減っていること、特定外来種指定などの法律の壁が厚くなりつつあること、震などの自然災害がきっかけでやめてしまう人が多くなったこと、などなど。それぞれの懸念が老舗のアクアショップの見解だけに説得力があります。
上級者のみが通う店というイメージがこれまであったようですが、決してそんなことはありませんでした。初心者は相手にしないということではなく、生きものを飼う以上最後までは責任を持って飼ってほしいという言葉の裏返しにすぎなかったのです。本気でないなら飼育はやめておいたほうがいいですよという、生きものに対するやさしさだったのです。
たかが趣味、されど趣味。「アクアを本気に取り組むのであれば、スタッフは全面的に応援しますよ」という藤原店長の言葉が印象的でした。
夜の帳が下りて、すっかりエキゾチックな雰囲気に。闇夜に浮かび上がるアフリカ大陸が印象的です。これからどうすればアクア人口が増えていくのでしょうか。その先にある課題は、まさにアフリカ大陸のごとく果てしなく。店名とアフリカとはまったく関係ないのに(笑)
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