初心者からブリーダーまで、幅広い層に人気の高いメダカ飼育。コロナ禍で飼育者が急増し、より高品質なメダカへのユーザーニーズも年々高まっています。去年3月、東大阪市でオープンした改良めだか専門店Meは、トップブリーダーとメダカユーザーとをつなぐ橋渡し役的なポジショニング。地道な努力とずば抜けた目利きのよさが功を奏して、オープン後1年足らずではありますが、多くのメダカユーザーたちの拠り所となっています。
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◆難易度高いメダカの水槽飼い
近鉄電車・布施駅から歩いて5分少し。近鉄の高架と道路に沿ってひたすらまっすぐ西へ行けば道路沿いにある、めっちゃわかりやすい場所。少し北側へ入ると飲食店が多く並び、昔ながらの昭和レトロな歓楽街が広がっています。
まず目に飛び込んでくるのは、プラ舟で立体的に構成されたメダカ池。ある意味、店のアイキャッチ的存在。これがあるのとないのとでは大違い。日本庭園という店舗イメージとして、店内の大きなアクセントになっています。
日本庭園のイメージはこんなところにも。天然石風のソフトタッチの床材。これなら万一メダカが水槽から飛び出すことがあっても、大ケガをすることはなさそうです。
水槽がズラリと並んだ店内。透明度がハンパなくきれいです。太陽光が適度に殺菌してくれる屋外飼育と違って、室内飼育では水質管理がとっても大事。パッと見ではきれいでも、その実はかなり汚れていることが多いから。でもこんな状況を見ていると、そんな心配もなさそうです。きっと水質に一番気を使っているからなのでしょう。
この時期、水槽内の水温は23℃で統一。水温を低めに設定しているのは、店舗の水槽内で産卵してしまうのを防ぐとともに、持ち帰ったユーザーがすぐに繁殖を楽しめるようにとの配慮だそうです。
高品質なメダカだけでなく、初心者向けのメダカもひと通りラインナップ。比較的飼育がしやすいといわれるメダカ、キャリアや嗜好性に応じて選べるのがいいですね。
◆話せば長くなる2年間
出迎えてくれたのは、桃田一成さんと桃田雅奈未さん。2人とも30歳を超えたばかりの若夫婦。以前同じ職場にいた者同士であり、そして今はメダカ大好き同士。「最初はまったく興味なかったんですよ。飼育が簡単なことは知っていましたが、メダカって川にいっぱいいるやつやん!って(笑)」と雅奈未さん。その後、一成さんの自宅のベランダがメダカに占領されているのを唖然としたり、ネットオークションで30万円もするペアを見て驚愕したり。一成さんとの縁はまさにメダカとの縁でもありました。
好きなことを仕事にできれば、と一念発起。オープンまで2年間の道のりは「色々ありすぎて大変でした。でももうやるしかない、と」(雅奈未さん)。確かにメダカ販売という大きな夢に向かっていたことは事実ですが、それだけではありませんでした。好きなことをやっていくことと同時に、家族4人の生活ありきだったからです。話せば長くなる、あまりにも壮絶な2年間だったので、ここではひとまずカット(笑)。
オープンは2021年3月27日。メダカのシーズンに合わせました。それに先駆けて、メダカのことを徹底して勉強した雅奈未さん。「どうしても大阪発の希少な改良メダカ専門店にしたかったんです。そのために、SNSを使って準備からオープンまできめ細かい告知をすると同時に、個人のブリーダーさんが開催する即売会などのイベントも徹底的にマークし、現地に出向いて顔を覚えてもらいました」。
どちらかというと、人当たりのいい雅奈未さんはSNSを使った広報や接客に徹し、職人気質の一成さんはこれまでの経験と人脈を生かして、トップブリーダーとの仕入れ交渉に全力を注ぎました。この役割分担がジャブのように効いたのでしょう、オープン時には「怖いくらいお客さんがきてくれました(笑)」(雅奈未さん)。また一成さん曰く、「全国屈指のブリーダーさんが育てたメダカを実際に見てもらえる店にしたかったんです」。よほど努力の甲斐があったのでしょう、今では誰もが知る有名ブリーダーからの仕入れが可能になりました。その後、雅奈未さんのSNS発信も相乗効果となり、オープン1年も立たないうちに人気店に成長しました。
◆横見でも楽しめるキラキラメダカ
メダカにとってはシーズンオフではありますが、だからといって品薄状態ではありません。ここでは、トップブリーダーから仕入れたとっておきの改良メダカを一成さんに紹介してもらいました。
・朱紅玉(三色 体外光)。元アクアリストの菊間さんがブリード。朱紅玉のスペシャリストですが、メダカ以外にもプレコや小鳥、ダックスフントなどのブリードも手がけています。一成さんによると、「さまざまな種をブリードされる能力の高いかたですよ」。赤・白・黒の三色で体外光を持つ紅玉に、赤がさらに強い種が朱紅玉です。菊間さんがブリードする朱紅玉は体外光がしっかり乗っていて、ヒレの先もキラッキラでとてもきれいでした。1ペア50,000円。
・プラチナダイヤリアルロングフィン。熱帯魚のブリーダーさんでもある中里さんが作出。「リアルロングフィンは通常のヒレ長とは異なり、ヒレの形状を維持したまま通常の2倍の大きさになる形質を持つヒレ長です。オスメスともにしっかりとヒレが伸長することや、優性遺伝することでさまざまな掛け合わせも行われており、これからもリアルロングフィン品種が続々作出されていくと思います」(一成さん)。キラキラ光るプラチナカラーが印象的なプラチナダイヤリアルロングフィン。1ペア15,000円。
・ホワイトモルフォ亜種。Azuma medakaブリード。「幹之でヒレが溶けてきてしまう種を固定したのがモルフォといわれています。さらに、モルフォの中でも本来はヒレのフチなどに集まり光る色素(グアニン色素が)が、ヒレの中に集まるタイプが亜種と呼ばれています」(一成さん)。ん~奥が深い(笑)。今はヒレのところどころに白い光が見られますが、成長とともにヒレ全体が白くきれいに光るそうです。尻ビレは、最終的には丸くなる個体もあるそうです。1ペア8,500円。
めだかは上見が一番といわれていますが、今回紹介してもらった3種のようにキラキラ光る種類やヒレに特徴のある種類なら、横見の飼育にも向いている気がします。ただし、水槽の水換えはきちんとやりましょう。
野生種は身近に見られるメダカですが、ブリーダーさんの努力により毎年新しい種類が発表される改良メダカ。今後も目が離せません。
◆千社札ばりのステッカー
これは一体?「メダカ愛好家のみなさんオリジナルのステッカーです。名刺代わりにつくって配っておられますよ」。そうなんですか。いつからこんな習慣が?メダカだけですよね?「う~ん、私もよく知らないんです(笑)」。へー、これは知りませんでした。約10㎝四方のステッカーには、個々の特徴がデザインに反映され、これだけズラリと並んでいるとなかなか壮観。どういうわけかメダカ愛好家の中でちょっとしたブームになっているそうで、いつ誰がどのタイミングで始めたのかまったく不明。もし知ってる人がいたら、ぜひ教えてください(笑)!
こちらの面はすでに埋めつくされていました。名刺よりもはるかに効果のあるコミュニケーションツール、まるで千社札のようで見ていても楽しいです。
僣越ながら、「キワメテ!水族館」のステッカーも貼っていただきました。同じようなサイズでよかった(笑)!ありがとうございます!
今年は改良めだかを全国に発信すべく、ネット販売も開始する予定です。そして、去年コロナ禍で実現できなかったメダカオンリーの即売会などのイベントもやっていきたいとのこと。そして、「できることなら、将来的には2号店・3号店をオープンさせていきたいとも思っています」と、かなり前向き。若いエネルギーは、アクア業界にとっても頼もしい!
取材のこの日、たまたま来店していたリピーター客のHさん。自宅でブリーディングにも精を出すアクア歴30年以上のベテランユーザー。なぜこのショップを?「この人(一成さん)がいるからですよ(笑)。彼ほど目利きのできるオーナーはほかにおらんからです。今では彼が勧めるものしか買いません(笑)。メダカを見たら、この子がどういう環境で育ってきたか、その人の育て方がわかりますから」と絶賛。メダカ飼育には、愛情と敬意が必要だと熱っぽく話していたのも印象的でした。せっかくいい話をしてくれたのだから写真をと思いきや、残念ながらNG。あのキャラクター、載せたかったなあ(笑)。
ブリーダーとショップとユーザーと。これらが信頼という強い絆に結ばれていることが一番。いやいや、口で言うのは簡単ですがこれが一番難しいんです。それを1年でやってのけたのだから、すごいとしか言いようがありません。さらにいえば、激動の昭和を生き抜いてきた昔気質のブリーダーから、発想が柔軟で情報発信力も強い30代・40代がブリードの中心になりつつあることも、新たな品種を生み出してきた要因のひとつになっているのかも知れません。これはメダカに限ったことではないと思いますが、こうしたいわゆる世代交代の動きがアクアの世界でも追い風になればいいですね。
ちなみに、店名のMeとはメダカのメであり、桃田さんの2人のお子さんのイニシャルから取ったものだそうです。でもよくよく考えてみたら、「自分本意」「自分のため」の意味でもあります。高品質なメダカを追い求めるのもこの仕事を続けていくのも、すべて自分のため=自分への誓い、自分への励まし、という意味も込められているかも知れませんね。