「店の中に川をつくりたい」。そんな思いがついに実現しました。アクアショップとしてはもちろん初。たぶん(笑)。でも誰もがやりたかったショップ内演出。奇想天外な発想で生まれた、ショップ・イン・リバー。やると決めたらやらないと気が済まない、メダカに賭ける男のロマンがありました。
☆ ☆ ☆
◆アクアに寄った「メダカリウム」
「星龍目髙」は、工場倉庫を利用したユニークな店構えのメダカショップ。といっても生体販売がメインではなく、水槽やメダカ鉢などを巧みに使ってメダカの見せ方を提案するのがウリでした。
どちらかといえば、これまで和テイストだったメダカをアクア寄りにシフトさせ、生み出したキーワードが「メダカリウム」。メダカ飼育をインテリアチックに、スタイリッシュにブラッシュアップしたメダカリウムの追求こそ、星龍目髙のコンセプトそのものでもありました。
だからこそ、星龍目髙のメダカは一流のパフォーマーでなければなりませんでした。ハコが水槽であろうとメダカ鉢であろうと。飼育環境が家庭であろうとオフィスであろうと。そして、上見であろうと横見であろうと。
そこでたどり着いた先は、ほかならぬ川でした。メダカたちのポテンシャルが存分に発揮されるのは、やっぱり川であると。川があるからこそ、メダカは最高のパフォーマーになるのだと信じて。
カーデザイナーでもあるオーナーの久保田昌良さんが、何が何でも絶対つくりたかった川。店内がいくらスタイリッシュに仕上がろうが、メダカリウムとしてのテイストが盛り込まれていようが、それとこれとは別(笑)。グランドオープンに照準を合わせてプランを練り、材料を調達し、作業に取りかかり、あーでもないこーでもないとテストを繰り返し、ようやくその全貌が明らかになったのです。
◆特注水槽以外はハンドメイド
店に入ると、早速目に飛び込んできたエモーショナルな空間。これが星龍川(勝手に名付けました)の完成形。ついにやりましたか。なおこの日、取材が許されたのは「キワメテ!水族館」だけでした(笑)。
向かって右側の上流から下流に向かって、コの字を描くように春の小川がさらさら。そっと耳を澄ませば、心地よい水流のサウンドに身も心も癒されます。
川の全長は約6m。幅は約30㎝。今まで体験したことのない水の空間で、メダカたちが心地よさそうに泳いでいます。まさに水を得た魚。上見でもなく横見でもなく。この日のために選ばれたメダカにとっての新しいセッションは、間違いなく「川見」です。
サタンや幹之、夜桜などなど、一カ所に集まるメダカたち。「こんな光景を見ていると、ついつい童謡のメダカの学校を口ずさんでしまいそうになります(笑)。できるかどうか不安もありましたが、つくってよかったです」と久保田さん。久しぶりに見る顔は、やり切った感が満載でした。
スタイリッシュな白を貴重にしたメダカリウムのスペースに比べて、星龍川はどちらかというと木のぬくもりを感じさせる和テイスト。大東市の養殖場で余剰となったパレットで基礎をつくり、ベースとなるアクリル水槽を別注し、水が自然に流れるように段差をこしらえ、木の質感を大事にした化粧板を随所にかましてフィニッシュワーク。手先の器用なスタッフの大宅秀仁さんとの共同作業により、プロジェクト完了。そのほとんどがハンドメイドというから驚きです。
上から見るとこんな感じ。ドローンを飛ばして(ウソです♪)。画像だとわかりづらいかも知れませんが、もともと倉庫にあったクレーンを大胆に使って、LED照明が4基取り付けられています。まるで上空から太陽が降り注ぐかのごとく。
◆星龍川の源流を訪ねて
ポンプで汲み上げられた水は、3つのメダカ鉢でオーバーフロー。まさにここが星龍川の源流です。
もちろん、ここにもメダカはいます。水流の関係もあり、「絶対いつもここにいるとは限りませんが(笑)」と久保田さん、それもこれもその日のメダカの気分次第というわけです。
上流の小滝。落差約20㎝。勢いよく水が流れ落ちてメダカが驚かないように、絶妙な曲線を描いたアクリル板に沿って、水がやさしく川に注ぎ込まれていきます。
川に見立てたアクリル水槽をほぼ横から見るとこんな感じ。メダカが泳ぐ様子を見ていると、メダカだけでなくアユやアマゴなどの淡水魚も泳がせてみたくなります。サワガニとか案外いいかも(笑)。
ふと見ると、上流から中流にかけて川のほとりにはプラ舟が並び、生体の販売コーナーも。
お客さんに心地よく川のせせらぎを聞いてもらいつつ、財布のヒモがゆるんだところを「お買い上げありがとうございます!」 と一気呵成する作戦なのかも知れません(笑)。
意外だったのは照明でした。川をライトアップするLEDには白色を使わず、星龍川ではすべて電球色をコンバート。しかも上からではなく、水槽の側面から。まさに電球色推し。木目調のシチューエーションともマッチし、より自然でどこか懐かしさを感じるやさしい明かりでした。
照明器具は市販のテープ式LEDを使用。そのせいでしょうか、どこに照明が組み込まれているのか、すぐにはわかりませんでした。
第2の滝。ここも落差約20㎝。こちらはごく自然に上から下へ落下。エアレーションの役目も少々。
もちろん人が入れるスペースもちゃんと確保されているので、ギリギリ川べりまで近づけます。ただし、ここではバーベキュー禁止ですが(笑)。
下流近くのほとりには、いくつもの緑とうるおいもあります。シラサギカヤツリやミニシペラス、グリーンロタラ、ウォーターバコパなどなど、どれもビオトープには欠かせないものばかりです。
久保田さん曰く、「将来的には水生植物も販売していきたいと思っています」。今度は新たにビオトーププロジェクトが本格稼働するのも、時間の問題かも知れません。
最後となる第3の滝を経て、星龍川の旅はそろそろエンディングを迎えます。
時折、見たことのない速さで下流に向かう単独メダカがいたり、集団でじっとその場でとどまるメダカがいたり。川だからこそ繰り広げられる、メダカのパフォーマンス。通常サイズの水槽では見ることのできない、意外なメダカの生態を知ることができるかも知れません。
そして、下流で集約された水は再びパイプを通って上流へ。いわゆる循環型河川環境保全システム(笑)。いやはや、素晴らしいシーンを堪能させていただきました。
◆ネクストステージへ再び
「ほかのショップにはない、無駄にきれいな場所をつくりかった」という理由で生まれた、星龍川。残念ながら、まだ国土地理院の地図には載っていません(笑)。
ショップのデモンスレーションではありますが、時間も手間もかかった独自の仕組みは、間違いなく大きなセールスポイントとなっています。
これで星龍目髙のオープニングストーリーは完結かと思いきや、「まだまだやりたいことがあります(笑)」。さて次にくるものは一体?
確かにこれで終わりと思ったら、進化はそこで止まってしまうもの。思い続ける夢があるからこそ成長があり、ネクストステージにつながっていくのでしょう。
夢を描き続けることは、輝き続けること。
きらきらと夜空に輝く星のごとく。
天高くしなやかに舞う龍のごとく。
最高の居場所で、命を育むメダカのごとく。