念願叶って、ついに販売所をオープンした目高堂彩。イベント出店などで去年が一番忙しかったという藤村隆秀さん。1月には大寒波によるダメージもありましたが、それはそれ、これはこれ。春の訪れとともに、本格稼働は目前です。
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◆人もうらやむ好環境
広っ!思わず声をあげてしまった2階は、もう何年も飼育をやってるかのようなシチュエーション。これまた愛好家にはうらやましすぎる光景です。南向きのため明るく、冬でも日中はポカポカ。だからこそ、水道管が破裂するなどまったくの想定外だったのです。
観葉植物用の照明をメダカ用に流用。光量がいい具合に分散していて、使いやすいとのことでした。
メダカのためのメダカ生産現場。そんな中に、聞き慣れない異色の魚がいました。
鉄魚はフナ系の生体。生まれて約半年。鉄魚は、もともと山形県花沢市で発見された固有種で、現在では宮城県魚取沼に生息しています。絶滅危惧種に指定され、地元では4部門に分かれて品評会が行われるなどして、愛好家の手によって大事に飼育・研究されているそうです。「地元だけでなく、より多くの人に知ってもらいたいんです」。今は鉄魚推しの藤村さん。イベントには必ず鉄魚と一緒にいるのをご存じの人も多いことでしょう。
◆羽衣のような優雅な鉄魚
鉄魚はよく見ると、尾びれがVの字にまっすぐ後ろへ伸びたものと、ヒラヒラと羽衣のような形状をした尾びれのものと、大別して2タイプがあるようです。
ひらひらしている尾びれの魚は、体色が赤いこともあり何となく女性っぽくて、ついつい見入ってしまいます。ほんと、天女の舞いみたい。「あ、それはオスですけどね(笑)」。こりゃ失敬!人も魚も、見た目で判断してはいけません(笑)。ちなみに、オスよりもメスのほうが体全体がふっくらしているとのこと。横見ではわかりづらいですが、上見だとその違いがよくわかるそうです。
ショーベタを思わせる優雅な尾びれを持つ鉄魚ですが、「長い尾びれのために泳ぎが上手ではないんです。なので、食事も上手ではありません。なので、自分的には2つのタイプを掛け合わせた第3のタイプが理想なんです」。
鉄魚特有の鉄錆色がお気に入りの理由。「でも地味でしょ(笑)?今日も京都からわざわざ鉄魚を買いにこられたかたがいましたが、これからはもっと広めていこうと思っています」。金魚飼育が講じて、鉄魚にも心を奪われてしまった藤村さん。「性格も平和的なところもお気に入りなんです。まるで私みたいです(笑)」。
金魚雑誌の表紙絵を描くことで知られている大分の人に描いてもらった鉄魚絵。市販のカレンダーと比べても、その大きさがわかります。
こちらにも鉄魚の絵。複数になると、まるで水墨画のような世界観を醸しだしています。やっぱりひらひらとした尾びれが素敵です。
◆金魚、鉄魚、そして銀魚
取材も終盤にさしかかったころ、「“金魚”というくらいだから、“銀魚”というのがいてもおかしくないですよね」とボケてみたところ、「いますよ、うちに」。え、マジっすか(笑)。日本ではなかなか手に入らず、入手元は中国中心。右側の3匹が代表的な体色ですが、銀というよりいぶし銀。左側の赤い魚は三つ尾の和金(更紗)ですが、実は背びれがなかったり整ってなかったりしているのが銀魚の特徴だといわれています。
成長すると色がのってくる銀魚ですが、フナ尾のこんなきれいなタイプも。こうして銀魚をのんびり上見できるのも、ここだけかも知れません。「交配が難しいからではないでしょうか。とにかく時間も手間もかなりかかりますから」。
こちらは、銀魚の中でも絶滅危惧種にも指定されているガトウコウ。どことなく大阪ランチュウにも似ています。しかしまあ考えてみれば、赤い色をしているのに金魚というのもどうかとは思うんですが(笑)。
基本背びれがないのが特徴(左)ですが、1本だけ背びれがシュッと立った特徴的なものも(右)。「個人的にはサムライと呼んでます(笑)」。おお、いいネーミング。いかにも和テイストでいい感じ。
目高堂なのに、今日はメダカの話を聞く時間がほとんどありませんでした。それはまた今度(笑)。「メダカは、オスがメスを包み込む時に尾びれを使うんですよ。要するに、求愛のサインです」。このひとことだけが、メダカに関する唯一のエピソードでした(笑)。
◆愛好家に開放したいスペース
メダカも鉄魚も、愛好家とのコミュケーションが一番大事と話す藤村さん。販売所をオープンしたことで、目の前にある100坪程度のスペースも自由に使えることになりました。近い将来には飼育用のビニールハウスを建てる予定ですが、それまでの間は土日に格安で愛好家にスペースを開放したいとのこと。「なかなかイベントができない人たちの手助けになれば、と考えています」。
井戸水を引っ張ってこれる水道も、すでに2カ所に設置済み。もちろん今年の10月2日には、オープン1周年の記念イベントを開催予定。「朝からバーベキューなどで盛り上がれば最高です(笑)」。きっとこの日はとことん盛り上がるのでしょう。
もちろんメダカの品種も増やしていきます。「でないと、メダカ事業部の面目が立ちませんから(笑)」。そりゃそうだ!
自らを「ガラスのハートの持ち主だもんで(笑)」と、たびたび方言を交えて謙虚に話す藤村さんですが、今回のダメージ以外にも、さまざまな苦境を乗り越えてきた自負があります。車の整備という熟練のスキルも大きな武器です。2023年は藤村さんにとって飛躍の年。色々とお話を聞いていて、そんな気がしました。
ん?このドアは?販売所の1階にある6畳ほどのこのスペースは、藤村さんのプライベートルーム。ということは24時間いつも魚と一緒にいられる?「はい。24時間監視カメラもいりませんし、最近はほとんどここで寝起きしています(笑)」。まさに「男の隠れ家」。ここもまた、うらやましすぎるシチュエーョンでした。