その数、全1,500種以上といわれているコリドラス。ナマズの仲間で、2~3㎝の小さいサイズから10㎝の大型のものまで実に多種多様。しかも模様や色のバリエーションも多いのが特徴です。コリドラスというと「お掃除屋さん」のイメージがありますが、愛情の深さゆえにとことん繁殖に魅了されているのが今回の主人公。しかも、コリドラスオーナーとしては珍しい女性アクアリスト。アクア歴はわずか3年。繁殖の魅力にとりつかれた理由を知りたくて、ご自宅のコリドラスファームを訪ねました。
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◆27本の水槽が占めるコリドラスファーム
コリドラスファームは、大阪府豊中市にお住まいの中村由美さん宅の2階部分。今はご夫婦2人だけでお住まいだそうで、期待に胸ふくらませてそお~っとトビラを開けてみると。。。
トビラを開けた瞬間、ご自宅の一角とはとても思えないアクアなシチュエーションに遭遇。記者が思わず口をついて出た言葉が「まるでショップですね!」。ぞくぞくするような、わくわくするような。ユーザー訪問の取材は何度経験しても、いつもインパクトがあってたまらない瞬間です(笑)
正真正銘のコリドラス専用ルーム。コリドラス以外にも、アピストグラマやプレコ、フグなども。もちろんそれぞれの水槽には、お掃除屋さん・オトシンネグロも待機中。
水槽は全部で27本。たぶん(笑)。何度も数えてみたので間違いないとは思いますが、30㎝のキューブ水槽を中心に60㎝水槽まで、大きすぎず小さすぎずのラインナップ。コリドラスをメインに、稚魚も合わせると軽く300~400匹はいます。繁殖用の水槽ではワンペアで飼育。混泳させてハイブリットが産まれることを防いでいます。
※その後の調べで、水槽は取材後3本増えて計ジャスト30本に。いや、この記事がアップされるころには増えてるかも(笑)
実はこの部屋、数年前までは同居していた娘さんのマイルームでした。コリドラスと出会ってからというものの環境は一変。ついにコリドラスもマイルームを持てたというわけです。窓際に置かれた水槽の頑丈そうな木製の専用棚は、電気技師のご主人作。そんな協力があってか、これが完成したのとほぼ同時期にコリドラスたちの繁殖スピードも一気に加速していきました。
◆知らず知らず母の影響を受けて
1日の半分はここで過ごしているという由美さん。それもそのはず、1日平均3~4本の水槽の水替えをしなければならないから。何よりも、「可愛い子どもたちが成長していく姿を見るのが楽しくてしょうがないんです。だから水槽に見入っていると時間を忘れてしまうんです!」だそうです。こんな奥サマ、ちょっといない(笑)!
――アクアを始めたきっかけは?
「小さいころ、母が熱帯魚を飼っていたんです。その時はまったく興味がなかったんですが、数年前に母が亡くなったことで昔を思い出したように、魚が飼いたくなったんです」
――なぜコリドラスだったんでしょう?
「最初は動画投稿サイトで見た水草水槽をやってみたかったんです。。もちろん魚も泳がせたくて魚を探しにアクアショップへ行ったら、店長さんの一番のオススメがコリドラスだったからなんです」
――最初からコリドラスと決めていたわけではなかったんですね(笑)
「値段が手頃だったというのもあります(笑)。それに、初めて買った(コリドラス)メタエが翌日に30個も卵を産んでくれたんです。それが何よりうれしくて。もう本当にハッピーでした。もしかしたら、これが母の遺志だったかも知れませんね」
――それで繁殖に興味を持ったと?
「そうなんです!私自身の子育ては終わりましたが、今は第2の子育てだと思っているんです。繁殖がこれほど楽しいとは思ってもみませんでした」
――コリドラスの魅力は?
「性格がとっても温和なところでしょうか。それぞれの個体にグループがあっても、魚同士が争うことがないんです。縄張り意識の強い熱帯魚だとそうは行きませんよね(笑)。だから、強い魚が弱い魚を追いかけ回しているのを見たことがありませんし、底魚なのに毒壺などの隠れ家から顔を出してくれることも多く、そういうところも可愛いんです」
――まさに平和なアクアライフなんですね(笑)
「こんな時代ですからね、やっぱり平和が何よりです。それに、目をパチクリさせる仕草も可愛いですよ。まぶたを閉じたり開けたり。いやいや、コリドラスにまぶたがあるかどうかは知りませんが、こんな魚がいたとは知りませんでした。一番うれしいのは、時々目が合うことかしら(笑)」
コリドラスに寄せる思いと繁殖の醍醐味。話を聞いていると、どれもこれも女性独特の視点が印象的です。ベタやメダカなどと比べて、圧倒的に少ないといわれているコリドラスの女性ユーザー。しかも繁殖を苦労とも思わず、むしろ第2の子育てとして心から楽しんでいる由美さん。今は亡きお母様は、鮮やかなカラーの熱帯魚が好きだったそうですが、どちらかというとベース色が地味なコリドラス。もしコリドラスと出会わなかったら、こんなにアクアライフをエンジョイすることはなかったかも知れません。
◆見て見て!私のコリドラス自慢
「この子たちには、これからもたくさん産んで欲しいんです(笑)」と楽しそうに話す由美さん。ならばというわけで、由美さんがぜひ見てもらいたいという自慢の個体をざっとピックアップしてもらいました。まずはこれ、スーパーシュワルツィ。背びれが白く長く伸びやすいのが特徴で、かなりレアだそう。「特に温厚な性格で、他種との混泳も可能なんです」。平和を愛するまさに由美さん好み(笑)。熱帯魚ではとかく全身のカラフルさに目がいきがちですが、この子たちの表情を観察していると決して地味でもなく愛嬌さえうかがえます。
クリスタルアマレーラ。無地で透き通るような発色が美しくて印象的。撮影ではなかなかキャッチできずに苦労しました(笑)。「性格が獰猛というわけではないのですが、時々泳ぎが早くなることがあるんです。なので、もしものことを考えて飛び出し防止を防ぐためにガラスブタをするか水位を低めに設定しています」。あまりにも個体がきれいだから、自分たちを見て欲しくて魚たちもテンションが上がってるのかも(笑)
サビ。今はもうどこへ行っても入手不可という、これもレアな個体。こうして元気な姿が見られるのは極めて珍しいそうです。それにしても、今まで聞いたことのない個体名がいっぱい。1,500以上という品種の多さを物語っているようです。
デュプリカレウス。デカプリオではありません(笑)。頭部のオレンジの発色と背びれの黒いバンドが特徴で、よく見るとチームワークがいいのか、3匹きれいに並んでいます。さらに注意深く見ていると、ボエセマニー(黒い縦縞)の赤ちゃんが混じっています。「偶然なんです。たぶん卵を移動させる時に手についてきたのだと思います。そういうラッキーハプニングも楽しいでしょ(笑)」。どんなことでも前向きな由美さんでした(笑)
フィラメント。一見、ボエセマニーにも似ています。背びれがピンと立っていて、全身バランスもサイコー(笑)
ひときわきれいなスーパーエクエス。きれいなオレンジ色とブルーが特徴的で可愛いすぎます。コリドラスのほとんどが地味な色合いの中で、この珍しい色合いの魅力はいいようがありません。
同じ水槽にいるロンドニア8と、どの個体よりも大きくどっしり構えているスーパープルケールの揃い踏み。お行儀よく4匹並んでいました。きれいに横並びでいることの多いコリドラス、人知れず不思議な法則でもあるのかなと思ってしまいます。
このほか、白と黒のバランスが絶妙なメラニスティウスやアンチェスターなどなど、全部で5種類混泳しているのですが、スーパーエクエスだけが目立ってしまってごめんなさい(笑)
アピストグラマの女王といわれるエリザベサエ。確かに名前からして女王っぽい(笑)。飼育・繁殖ともに難しいのだそうで、背びれが美しくどことなく品格を漂わせています。
ゼブリーナ146。個体名に数字が入っているのは初めて聞きました。まるでAKB48や乃木坂46みたい(笑)
あ、キラキラしたツブツブの卵を発見が。水草だけでなく、水槽そのものの内側にも産みつけるのだそう。新しい命の始まりですね。ちょっと感動してしまいました。由美さんの気持ちがわかるような気がします(笑)
こちらがコリドラスファームメインの育成水槽。というか、由美さん一番のお切り入り水槽。ゼブリーナ111を中心に、頭部のオレンジのスポットが特徴的なコルレアなど3種を育成中。ユニークなのは、ゼブリーナ111。「オスは繁殖期に背びれを長く伸びる傾向にあるんですが、それがとってもカッコいいんです」とコリドラス専門雑誌を見せてくれて熱く語る由美さん。ある意味、これぞコリドラスという象徴的な身体美を持ち合わせた個体のような気がします。できれば、繁殖期だけでなく常時背びれが長くいてくれたらなあ。そしてそんな美しい個体がたくさん繁殖できればなあ。由美さんがあこがれる大きな夢でもあります。
◆底魚にいいと評判の「FLY MIX」
かたつむりのように見えるのは、れっきとしたお掃除屋さんのラムズホーン。「でも油断していると、すぐに増えすぎてしまうんです」。いくら繁殖好きだからといっても、由美さんだって悩みはあるのです(笑)
ん?これは一体?実はペットボトルを使ったお掃除セット。「動画投稿サイトで知ったんです。サイフォンの原理を応用したもので、これだと残留物のお掃除がとっても楽なんです」と、まるでテレビショッピングのよう(笑)。やっぱりお掃除は主婦ならではの関心事。「でも主人からは、家もこれくらいの勢いで掃除してくれたらなあ、とぼそっと言われたりもするんですよ(笑)」。まあまあ、それはそれ、これはこれという風に解釈しておきましょう!
27本の水槽(現在は30本)のうち、底砂には白いタイプのものと茶色いタイプのものが使われています。「見た目には絶対白い底砂がきれいんですが、長い間その環境でいるとだんだん個体の色が抜けてくるんです。これも最初は驚きました。そして底砂を茶色に変えたら、抜けたはずの柄が再びきちんと出てくるんです」。飼育していると、予想もしなかったことが色々と起こりがち。だからでしょうか、SNSを通じてコリドラス仲間が多いのも由美さんの自慢。「やっぱり情報は多いほうがいいですからね。こういう時にコリドラス仲間がいると、本当に心強いです」。
ブラインシュリンプにはこれを使っています。ベトナム製で、孵化率何と100%なのだそう。しかも普通のブラインシュリンプより小さいので、稚魚でも難なく食べられるそうです。これはオススメです。
ちなみに、普段はブラインシュリンプのほかに赤虫や底魚用の人工エサ、そしてイトメなどを成魚・稚魚に関係なく給餌しているとのこと。エサ選びのポイントとしては、①沈む②すぐに溶けない③食べ残しをしない④食いつきがいい、などが必須条件。ということは、あのFLY MIXなら条件をバッチリ満たしているんですが(笑)。しかもタンパク質が豊富。ということは、もしかしたらコリドラスの成長にも大きな影響を与えるかも知れません。
実は以前、FLY MIXを使ってみたことがあるという由美さん。「食べ残しがなかったせいでしょうか、水槽がまったく汚れなかったんです。もちろん食いつきもよかったです。こんな底魚にぴったりのエサが出たんだ~とずいぶん感動したんですが、ただうちの場合エ1カ月で2㎏も必要という食糧事情がありまして(笑)」。いいものだとわかっていてもコスト面で。。というのは、永遠のテーマかも知れませんね。
水槽の紹介でもあったように、繁殖期にのみ長くなるという背びれを持つ由美さん一番お気に入りのゼブリーナ111。FLY MIXなどの高タンパク質のエサを与え続けていけば、成長の手助けをしてくれる可能性がありますし、もしかしたら由美とっておきの個体が出来上がる可能性だってあります。エサは使ってナンボ、効果が表れてナンボ。モニターみたいな取り組みが実現できればいいですね。
◆亡きお母様が伝えたかったこと
「品種によっては繁殖例が少なかったり、全くなかったりするコリドラス。水温や生き餌、水換えのタイミングなどさまざまな仕掛けが功を奏して、上手く産卵してくれた時が格別です。卵が孵化し、稚魚が立派に育ってくれることが何よりの楽しみです」。と由美さん。まさか自分がここまでコリドラスのトリコになるとは、思ってもみなかったに違いありません。
さまざまな工夫を試みて、わずか3年でコリドラスの繁殖に成功させてきた由美さん。最近では「いいコリドラスの個体がいるらしい」と、近隣のアクアショップでも評価が高まってきました。ブリーダーさん主体のおなじみのイベント・アクアブリーダーズフェスタにも、来年開催されれば出品してみたいと繁殖意欲は満々です。
「女性ユーザーが少ないだけでなく、コリドラスそのもののユーザーがまだまだ少ないんです。特に関西は少ないので、色々な機会を通じて広まっていってくれればうれしいなあ、と思っています」。いい環境でこだわりを持って繁殖に成功した個体なら、コリドラスユーザーもショップも注目しないはずがありません。いい個体が流通すればコリドラスの人気も高まるでしょうし、結果的にアクアリウム発展の一助ともなることでしょう。
お母様への記憶がきっかけで、コリドラスのブリーダーとして歩んできた由美さん。「もしあの時に母のことを思い出していなかったら、コリドラスとも出会っていなかったと思います」。
決して争いを望まないコリドラスたち。平和なアクアライフ。なかなか収束の糸口が見えず世界全体が新型ウイルスの感染で疲弊しつつある今、亡きお母様がアクアを通じて由美さんに伝えたかったのは、世界平和への熱い思いだったのかも知れません。