「キワメテ!水族館」初・流木マニアの登場です(笑)。アクア用アクセサリーの王道ともいうべき流木の大半はガジュマルの木で、海外の海辺で採取され大量輸入されているのだそう。そんな中、淡水の流木にこだわり奈良や和歌山の河川に採取地を求める流木ハンターがいるとのウワサをキャッチ。早速兵庫県尼崎市へ足を運び、趣味と実益を兼ねたライフワークに耳を傾けてみました。
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◆予想と違ったショーウインドー
阪急神戸線・武庫之荘駅近くの閑静な住宅街の一角に、こぢんまりとしたお店がありました。流木と聞いていたので、木が山積みになったようなごちゃごちゃしたところなのだろうと思っていましたが、ブティックのようなすっきりしたショーウインドーの店構えに遭遇。ある意味、見事に期待を裏切られました(笑)
屋号は「流木屋 地(つち)」。ん?「ち」でもなく「とち」でもなく(笑)?なんかこだわりが詰まっていそうなので、あとでじっくり聞くことにしましょう。ちなみに、題字は書道家の奥様が書かれたそうですが、「地」だけはどうしても自分で書きたいと、伝統文化を重んじる書道家に割って入って我を通したそうです(笑)
ショーウインドーを店の中からみるとこんな感じ。ありますあります、大小さまざまなサイズの流木。一番大きいサイズのものがお気に入りだそうで、お店のちょっとしたオブジェにもなっています。後にも先にもこれよりグレートな流木と出会ったことがないらしく、いくら札束を積まれても値段がつけられないから売らないそうです。ホンマかいな(笑)
流木って、どことなく動物の角に似てますよね~。それにしても色々な種類の流木がショーウインドーにありますが、「在庫」はもっとほかの場所にあります。
ん?これは一体?単にディスプレイが目立つための演出だそう。変わったソーシャルディスタンスのマークだなと思いました(笑)
◆古代魚好きなアクア出身者
この人が流木師を名乗る上田 徹さん。背、高っ(笑)!185㎝はゆうにあるでしょう、いきなり見下ろされてしまいました(笑)。早速名刺交換、取材開始。
――名刺の肩書にある「流木師」というのは?
「勝手につけてみたんです(笑)。インパクトがあるし、なんかカッコいいでしょ?」
――この店はいつから?
「オープンは今年3月9日です。折り込みチラシの効果もあってか、地元にも少しずつ浸透してくれています」
――なぜまた流木に着眼?
「小学生のころによくブラックバスを釣りに行ってたんです。すると、池やダム湖などで不思議なかたちをしたものがあるなと思っていたら、それが流木だったんです。以来、すっかり惚れ込んでしまいました。一時はバスプロを目指したこともあったんですが(笑)」
――フィッシャーマンということは、アクア歴も?
「中学生のころは、ポリプテルスなどの古代魚が好きでした。親父はディスカスを飼ってましたよ」
――そうだったんですか。
「ところが、阪神大震災が起きて西宮にあった自宅が全壊してしまったんです。それでやむを得ず魚を飼うのもやめました」
――でも流木への思いは消えなかったと。
「当時奈良県へバス釣りによく行っていた場所の近くに、祖父が住んでいた家があったんです。ここを拠点にすれば、河川やダム湖などでいい流木と出会えるのでは、と考えたんです」
――流木を商売にしてみたいと思ったのは?
「ショーウインドに置いてある一番大きな流木と出会ったことがきっかけでした」
――ああ、いくら金を積まれても売らないという(笑)
「もはや看板流木ですから(笑)。あの木と出会ったのは今から5~6年前なんですが、その時に店を始めようと決意しました。だからあの木との縁は大切にしたいんです」
――本気モード突入ですね(笑)
「もちろんです(笑)。時間はかかってもいいので、末永くお客さんに愛される店になればいいなと思ってます」
最近プランツを始めたからとか、インテリアとして流木を使いたいからとか、植物に適した土はありませんかとか、来店ニーズはさまざま。どちらかというと女性客の割合が多く、これからはアクアユーザーを意識した沈水流木も積極的につくっていく予定です。
◆聞けば聞くほど奥深さ
現在の「在庫」をちょこっと拝見。この時まで知らなかったんですが、折れてしまったり折れた部分がまだ新しいものは、流木としての価値が低いのだそうです。要は木そのものがひとつの個体として長年経過しているというのが価値を決めます。つい最近ポッキリ折れた木だと意味がないということです。「だから、どこにもカドがない木というのがポイントになると思います」。ここだけ聞いていても、流木の奥深さを感じずにはいられませんでした。
かなりユニークなかたちをしています。どこかオブジェっぽい。個性満開。存在感も十分。「かたちがまっすぐすぎると丸太みたいですし、やっぱりいびつなものが印象に残りますね」。まるでアートの世界に迷い込んだ気分です。
「このどっしりとしたかたち、いいと思いません?」と自画自賛の上田さん(笑)。はい、確かにこんな木は街中どこを探しても落ちていないと思います(笑)
同じ木を逆さまにするだけでずいぶん表情が変わります。真ん中あたりに空洞があるのも個性的。「空洞がある木を見たお客さんが、ここに花を活けられないかしら」とマジで仰る時もあるんです。女性の発想って、とってもユニークだなと思いました」。なるほど、ただの穴だと受け流すのは男だけかも知れませんね(笑)
黒いところがあるのは木の色違い?「雷に打たれた跡がそのまま残っている証拠なんです」。へー、落雷のせいでこんなに黒く焦げた!?台風なのか、急な天候の異変なのか、集中豪雨なのか。色々とイマジネーションは広がります。流木というと、読んで字の如く海岸に流れついた木というイメージが定着していますが、元はといえばどこかの山に植わっていた木ですから。不運にして落雷の攻撃を受けてしまった木なんだと思うと、ちょっと切なくなったりなんか。
採取した木は、さまざまな方法で煮沸処理を行うのはもちろん、アクア用などの沈水流木にするために長期間オモリをつけて水槽内に沈めておくケースも。最大2年もかかる場合がありますが、こうしたひと手間をかけることによって水に沈めても浮き上がってくることはないそうです。木も沈むとは知りませんでした。
◆秋から冬にかけての採取期
さて、とある現場にいる上田さんにリモート出演をお願いし中継がつながってます(ウソです笑)。みなさんも、上田さんがどのような状況で流木採取をしているのか、気になりますよね。それでは、早速現場を呼び出してみましょう。流木師の上田さ~ん(笑)!
「はい、こちらは流木師の上田です(笑)」。とあるダム湖にて。流木のある斜面から広がる風景はちょっと幻想的。木を採取できる時期は意外に少なく、ダム湖の減水期となる11月から1~2月ごろの数カ月間のみ。ほかの時期となると、基本的にダム湖は満水状態ですから当然です。「夏は釣りのついでにダム湖に立ち寄ることもあるんですが、たまに水面からニヨッキリ突き出た木に一目惚れして、心を奪われることもあるんですよ」。ああ、犬神家の一族的な(笑)。未練たらたら帰路につき、改めて採取期に行ったら、「やっぱりもうなかったです」。でしょうね(笑)
長めのゴム手袋は必須アイテム。いいのがある!と思っても、ほかの木やゴミと絡まってたりしたら?「あきらめます(笑)」。1回のハンティングでゲットする量は米袋でいうと3つくらい。上田さん自身が採取するのが基本ですが、地元のダム湖が流木を自由に持ち帰りできる配布会なるイベントに参加してゲットすることもあります。「ダムにたまる流木は管理者にとっては大量ゴミですから」。なるほど。廃棄処分するのにも手間もお金もかかってしまう。だったら欲しい人にあげましょうというわけで、配布期間の情報はSNSなどで入手し、現地に繰り出す流木マニアも結構いるそうです。
つい最近、こんな大物と出会いました。「いやあ、うれしかったですね」。流木なのに、なぜか生命力を感じる力強さ。どの部分にもダメージを与えることなく、無事ハンティングに成功したそうです。まさにしてやったり(笑)
これもまたよさ気。だんだん流木のよさがわかってきました(笑)
冬だと雪も容赦なく。凍てつく寒さで、心まで折れそうに。たとえ心が折れても、せっかく採取した木をボキッと折らないようにしてくださいね(笑)
採取した木は、ひとまず上田さんの流木工房へ。かつては祖父母が住んでいたという建物を譲り受けて流木工房と名付け、今では流木採取の最前線となっています。
保管スペースもたっぷりあり、流木保管にもぴったり。奥に見えるのは使われなくなったバスタブ4つ。流木をゴシゴシ洗ったり重曹水での漬け込み作業をしたり、なくてはならない流木アイテムなんです。
戦利品の数々。同じものがふたつとない流木。「だからやめられないんです(笑)」
キャンプでごはんをつくってるわけではありません(笑)。ずんどう鍋を使って、流木を煮沸処理。海水の流木だと絶対しないといけないアク抜きですが、淡水流木といえど品質保持のためには必須プロセスです。
流木の最終段階が天日乾し。このために、上田さんは梅雨の合間を縫って何度も工房へ。この工程が終わったら、いよいよ流木も一人前。廃棄されてゴミになるはずだった木たちが、再び命を吹き込まれて第2の人生を歩きは始める記念すべき時でもあります。
まるでヘビのような、龍のような。あ、上田さんがかつて飼育していた古代魚にも似てる!上田さんにとって流木採取は、拾うのではなく「出会い」なのだと。「ナラ、クヌギ、ブナ、ヒノキ、スギなど、木の種類は色々ですが、それらが川から流れてダム湖へたどり着いたことで出会えました。流木たちに最後の花道を与えた上田さん、あっぱれです。
◆流木と苔とのコラボレーション
ここ1年の間に、苔テラリウムにも興味を持ち始めた上田さん。また何で(笑)?「流木を探しに山へ入ると、色々なコケと出会うんです。肉眼では見えない小さな世界ですが、ルーペで覗くとさらに広大で、ため息さえ出てしまう(笑)。流木とはまた違う大自然が、そこにあるんです」。
なのでルーペは必須アイテム。どうぞ使ってみてくださいと促されてコケをクローズアップしてみたら、思わずおお~っと声が出てしまいました。まるで自分がそこにいるようで感動!すみません、ルーペでコケを見たのは初めてだったんです(笑)
もちろん苔も流木同様現地調達。そのために、河川やダム湖から険しい山へ分け入ったり、そのための山も購入したり。え、山を買った!?「いやいや、今はそんなに高価ではないんですよ」。と言ったって、まとまったお金もいるでしょうに。苔についてはまだまだ知らないことばかり。とりあえず、20種類近くの苔の性質や特徴を把握したので、今年から来年にかけて本格的に動くことになりそうです。
流木だけでなく山で自生している苔という存在を、多くのお客さんに知ってもらいたい。そんな思いがフライヤーにも詰まっています。自宅にいることが多くなりそうな昨今の生活様式の変化によって、苔テラリウムにじっくり取り組めるチャンスかも知れません。
◆土に帰れたはずの木の末路
再び上田さんにリモート出演(笑)。先頃開催された爬虫類関連のイベントに初出品 。「思った以上に反響がありました。特に個人ユーザーが、ケージの中に置くアクセサリーとして流木を求める人が多かったです」と上田さん。じかに商品にふれることができ、販売担当者ともじかに会えるイベントの販促効果はやっぱり大!
大きいサイズのものから小さいものまで多種多彩。今回は爬虫類飼育向けの流木が多かったようですが、これからはアクア系の沈水流木もぜひ。
もちろん感染予防対策も万全。特に「密」になることもありませんでした。
「山で落ちた木はやがて朽ちて地(つち)に帰りますが、流木は本来帰るべき地(つち)に帰ることができず、誰にも気づかれずさまよい続けたり川を下って行ったり。そんな切ない存在だからこそ、愛しいしロマンを感じるんです。そんな流木が必要とされる人と出会えれば、そこが流木にとっての地(つち)になるのではないでしょうか」。
屋号の「流木屋 地(つち)」というのも、そういう上田さんの親心的な発想から生まれました。「私だけでなく流木に関わるすべての人は、同じだと思いますよ。流木師はその橋渡し役にすぎませんから」。
ぶっちゃけ、流木って今までただの木片だと思ってました。もし取材の機会がなかったら、どれを見てもほとんど同じものに見えたかも知れません。そして、どんな木でも採取してくればいい、というものでもはないこともわかりました。流木師を名乗る意味が、ここにあります。上田さん自身がいいと感じた木は、きっとお客さんもいいと感じることでしょう。流木師と顧客との、感性の共有。ちょっとカッコよすぎ(笑)
ブラックバスから流木へ、流木から苔テラリウムへ。さて次は一体何が上田さんを虜にするのでしょう。浮気ではなく、いつも本気だと豪語する上田さん。おいおい(笑)。どこまでも夢を追いかける少年のようなキャラに、迷いはありません。
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