中山道61番目の宿場町として栄えた滋賀県米原市・醒井(さめがい)宿。旧街道に沿って流れる湧水を起点とした小さな清流・地蔵川は、梅花藻(ばいかも)の群生場所として全国的に知られています。きれいなところにしか生息しない「湧水の妖精」。夏も冬も水温14℃前後に保たれた別世界が、そこにありました。
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◆中山道と地蔵川
JR東海道本線・醒ケ井駅から歩いてわずか10分足らず。かつて多くの旅人が歩いた中山道は、今もところどころに昔の面影を残しています。
中山道は、東京・日本橋と京都三条大橋を内陸経由で結んでいた、全長約500㎞以上の街道。67個所に宿場町があり、醒井宿もそのひとつでした。
醒井宿の観光散策はここから、といわんばかりのランドマーク的な石橋が。
早速、地蔵川と遭遇。年中涼感たっぷりの清流が、さらさらと音を立てて訪れる人たちを癒しています。
川幅のわりに流れは結構早く、思っていたイメージと違いました。まるで水に命があるかのようで。
水に手を差し入れてみると、ひんやり。期待を裏切ることはありませんでした。夏も冬も水温は14℃前後。夏は冷たく、冬は温かく感じるのも、湧水である証拠でしょう。
地蔵川は、関西百名山のひとつ・霊仙山(1083m)に降り注いだ水が長い年月をかけて地下を流れ、その麓から湧き出た水が源流です。
地蔵川に架けられた石橋によって旧街道と人々の生活ゾーンは分けられ、今も人々のくらしが営まれています。
旧中山道の町並みと地蔵川。歩きやすくて川との距離も近く、いつ訪れても涼感あふれる風景が変わることはありません。
◆大名行列を彩った「水のある街道」
今も昔ながらのたたずまいが残っています。
橋の名称を確かめると、「醒井大橋」。
懐石料理や鱒づくしコースを提供する多々美家さんの建物も、江戸時代は旅籠でした。正面に置かれた大きな灯籠が印象的です。
水と共存するくらしが今もあります。
旧醒井郵便局内の醒井宿資料館で見せてもらった古い資料によると、にぎやかだった醒井宿の大名行列の様子がダイナミックに描かれています。道に沿って川筋が描かれているのもよくわかります。
当時の醒井宿の様子。中山道沿いには多くの旅籠がありましたが、大名行列などの際は収容数が足らず一般民家も協力して宿として提供したそうです。
風景を部分的に切り取った写真だけを見ると、当時の様子が想像できそうです。こんなシーンが今もあちこちで見られます。
◆バイカモ咲いてるかも
数年前、このあたりが観光地として一躍有名になったのは、梅花藻の存在でした。川のあちこちに、ひとかたまりになった緑色の藻。常に水温14℃前後で保たれた湧水という特性が、梅花藻にとって最適な生息場所だったからです。
キンポウゲ科の多年草で、初夏から初秋にかけて1~2㎝の白くて可愛い花が見られる梅花藻。場所によっては、こうして水面上に顔を出す梅花藻もあります。そのファンタジックな容姿から、「湧水の妖精」とも呼ばれています。
梅の花に似た花を咲かせることから、梅花藻の名がつきました。
水に身を任せてゆらゆら揺れる梅花藻たち。いつまで見ていても飽きない、水のある風景がここにあります。
旧街道沿いのヤマキ醤油屋さんは、玄関先に円形の梅花藻水槽を設置してファンサービス。
丁字屋さんの店先では、地蔵川の水を使ってつくられた名物の醒井餅をこんな風にみずみずしく演出。
季節や場所、日によっては水面上に顔を出さない場合もありますが、そんなミステリアスで気まぐれなところもまた湧水の妖精たる魅力といえそうです。
【後編へ続く】