醒井(さめがい)宿を流れる小さな清流・地蔵川。全国的にも珍しい梅花藻(ばいかも)の群生場所として知られていますが、もう一つ湧水の恩恵を受けているのが淡水魚・ハリヨ。絶滅危惧種にも指定され、梅花藻同様保全運動の気運が高まっています。
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◆ハリヨもいるヨ
旧街道を歩いていると、こんな看板がありました。
別のところにはこんな表示も。そう、地蔵川は知る人ぞ知るハリヨ生息地保護区でもあったのです。梅花藻ばかりに目がいきがちな醒井宿ですが、実は絶滅危惧種に指定されている淡水魚・ハリヨも、地蔵川が大切な居場所だったのです。
トゲウオ科イトヨ属のハリヨ。体長は4~5㎝で、体にトゲがあるのが特徴です。今でも岐阜県や滋賀県のごく一部にしか生息していない貴重な個体です。
しかも地蔵川では、梅花藻の根っこに棲み家をつくるそうですが、その様子はなかなか見ることができないのだそう。
「おらんかなあ~」。橋の上からこうして川面をじっと見つめる人も少なくありません。地元の人たちは目撃できたとしても、そうでなければ発見するのは至難の業のよう。
確実にいるのに、見れない。いるいるといわれると、余計見たくなるのが人情というもの。意外と知られていないんですが、あるんです間近にハリヨを見れる、とっておきのスポットが。
◆呉服屋さんにいたヨ
昭和の始めごろから呉服店を営む久保田呉服店さん。高齢の明美さん一人で切り盛りしていますが、同時並行的に「久保田カフェ」も開設。甥御さんたちがともに寄り添って、繁忙期をお手伝いしています。
キワメテスタッフの推しはオリジナルスイーツ。この日は、梅ゼリーと柚子入りアイスクリームのオリジナルスイーツ。もちろん明美さんの手づくり。それでいてたったの300円。ほかにも、かき氷やスイカ、各種ドリンクもほとんど300円までと超リーズナブル。観光地とは思えない、まるで町内会のお祭りレベル価格は、まさに人に教えたくない醒井宿のスポットでもあります。
茶屋風のお店をずっと奥へ奥へ進むと。。
左側にありました、絶滅危惧種・ハリヨの水槽。ついに出会えたね。え、そんなのあったんだと、今ごろ悔しい思いをしているリピーターもきっといるに違いありません。
お店の親戚スタッフたちによって大切に育てられているハリヨが30数匹。元気にわらわら泳いでいます。こんな間近にハリヨが見られるなんて感激でした。
美しい婚姻色を見せるオスも間近で見ることができます。
アクアに関心のありそうな(たぶん)お客さんもスマホでパシャッ。
飼育水は地蔵川から引き込んだ水を循環。もちろん水温14℃前後に保たれています。ハリヨにとっては御の字。もちろんブクブクなんかありません。
ハリヨを真正面に見ながら氷イチゴなんか少し。
ハリヨが水槽で見られるのは、春先から11月ごろまでの約半年間。この日の取材ではハリヨを見たい人が結構多かったので、お店の宣伝も兼ねてアピールしておきました。機会があったら、ぜひ立ち寄ってみてください。
◆ここにもいたヨ
もう1カ所、ハリヨがいるスポットを教えてもらいました。旧街道を少し北に歩いた先の地蔵堂。この場所、なかなか気付きにくいんですが、ここにもハリヨが水槽内で泳いでいます。まさに屋外アクアリウム。もちろんここも水は循環式。水槽台らしいものはあっても、外部式フィルターが格納されているなんてことはありません。
水槽の表面には、水滴がビッシリ。水槽内の水といかに温度差があるかがよくわかります。
よく見ると、久保田さんところで見た個体と違って、全体的に動きが緩やかなのが印象的です。
通りがかったアクアに興味がありそうな(たぶん)親子も、ハリヨに見入っていました。
そして水槽のすぐ近くに湧水のポイントが。目を凝らすと、確かに湧き出る水の勢いがゆらと動いてるのが見えて、湧水としての水量が豊富であることがわかります。
「せっかくやから飲んでみよう」。神戸からお越しのご夫婦のご主人が水辺まて足を運んで早速試飲。どうでしたか?「うん、軟水ですね」。熱烈な阪神タイガースファンだそうです、おーん。
地蔵堂に地蔵川。以前はここにお地蔵さんが川の中に座っていたそうで、当時は魚の供養のために据えられたといわれています。ハリヨ以外にもイトヨやハヤ、マスなどもいるそうで、生きものと共存する環境が昔からあったのでしょう。
そしてここが「居醒の清水」。目を凝らすと2カ所から水がこんこんと。古くは古事記や日本書紀 にも登場し、日本武尊が熱病に倒れた時、体毒を洗い流した霊水とも伝えられています。まさに地蔵川の源流であり、平成の名水百選にも選ばれています。
地蔵川周辺には、ここ以外にも「十王水」「西行水」といった水のスポットがあります(写真は水琴窟の音色が楽しめる西行水)。
◆醒井宿はいいとこヨ
もちろん現在は水道が使われていますが、昭和37年以前は各家庭の井戸水と並行して地蔵川の水が生活水として使われていたそうです。
ただし、今でも久保田さんのお店のようにラムネやスイカなどを冷やせる自然の冷蔵庫として、地蔵川の清流が重宝されています。
そんな清流が保たれているのは、地元のみなさんの美化意識の高さから。昔も今も、「地蔵川はみんなの川」という意識がどこよりも強いのだそうです。
豪雪地帯としても知られる醒井宿周辺。かといって避暑地ではない醒井宿。寒い冬はまだまだ先でしたが、梅花藻だけでなくハリヨにも出会うことができました。
きれいな居場所。誰もが認める水のある風景。梅花藻もハリヨも。この風景、いつまでも変らないでいてください。