大阪市内で立ち飲み居酒屋を経営する蔭山和宏さん。小学生でアクアに目覚め、中学生では大人顔負けのディスカスブリーダーに。その後のブランクは何と30年以上。これで終わりかと思いきや、ふとしたきっかけでアクア熱が再燃。今では、店の看板魚となったエンゼルフィッシュの繁殖を楽しんでいます。
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◆「第2飼育期」はエンゼルから
中学生のころ、大人顔負けのブリーダーだった蔭山少年。ところが、大人になってさまざまな努力目標や興味のあるものが生まれ、アクアは次第に過去のものとしてフェードアウトしていきました。ところが、ひょんなことがきっかけでまたまたスイッチが入り、「リミッターがはずれちゃったんですよね(笑)」。
立ち飲み居酒屋の店主であり、アクアリストであり。自分が描いていた青写真がようやくかたちになり、着地点を見つけました。とはいえ、30年のブランクは長すぎました。新種が急速に増え、水槽や用品も新しくなっていてまさに浦島太郎状態であったことも確かです。
「あ、店に置いてある水槽ならその費用は経費で落としても大丈夫と税理士さんから教えてもらったことも背中を推してくれました(笑)!」。
◆晩酌はアクアとともに
お店のずーっと奥へ行くと、4~5人が飲めるカウンターの背後に水槽があります。あ、そこは厨房。
いやいや、2階じゃないですよ。
そこはトイレでしょうが。しかも女子用だし。
そこはさらにちゃうし。ボケるのもたいがいにしときましょう。
やっとこさ到着。ちょうど階段の下の部分をアクアスペースにして、複数の水槽がL字型に配置されています。「当初は自宅に置いていたんですが手狭になったことで、この場所へ移動させたんです。店が終わってから、この場所で晩酌を楽しむことも多いですよ」。ちょっとした男の隠れ家、といったところでしょうか。
立ち飲み居酒屋は全国に数あれど、アクアと同居しているのはおそらくここだけでしょう。知らんけど。
すだれのような水槽上のフラップは、某アクアショップを参考にした自作。
さくっと開けてさくっと下ろす。給餌するにも便利がよく、気の利いた和風の目隠しにもなります。
覚えていますか?第1話を。今一番下にある水槽は、何と中学生の時に使っていた水槽そのものだったんです。ということは連結水槽?「そうですそうです!」と蔭山さん、めっちゃうれしそう。それまではずっと押し入れで収納棚代わりに使っていたという連結水槽、物持ちがよすぎます。長年のブランクはあっても捨てきれないでいたのは、神様の思し召しだったのかも知れません。
◆必然だったエンゼル
メインはこの2つの水槽。木製ラックは手づくり。30年のブランクを感じさせない職人肌的水槽。
まずはこちら。サンタイザベル産レッドショルダーエンゼル、ホワイトフィンロージーテトラ、コンゴテトラ、カージナルテトラ、サイアミーズフライングフォックス、アルビノセルフィンプレコなどが混泳を楽しんでいるかのよう。
メインはサンタイザベル産レッドショルダーエンゼル。過去にディスカスがお気に入りだった蔭山少年は、大人になってさまざまな心境の変化がありました。「エンゼルは、オークションサイトを色々見ていてたどり着きました。当初はディスカスが飼いたかったのですが、その前にエンゼルで飼育練習してみたら?とアドバイスされたこともありました」。そんなこんなで、ディスカスではなくエンゼルでアクアを再開したことで、幅広いアクアライフにアップデートしたに違いありません。
「ワイルド種はおとなしく、改良種は勝ち気だというエンゼル。そんなおとなしい性格のワイルド種でも、仲が悪いペアは一緒に飼うことはできません。とはいえオスメスを区別することはとても難しいので、仲良く泳いでいる2匹や小さい頃から飼って自然と仲良くなった2匹を見つけ出すことが大切です。それがオスメスのペアなら繁殖も期待できます。さらには、孵化前の小さな卵や小さな稚魚をせっせと世話する親魚の姿を見ることができます。今思えば、そんなエンゼルの子育ての一部始終の様子に魅せられたのかも知れません」と熱く語る蔭山さん。そうですよ、きっと。
トラ柄のエンゼル。ダンタムとミックスのゴールデンを掛け合わせると、さまざまなタイプの個体が生まれてきます。そらそうよ。おーん。
◆意外と少ないアクアへの関心
エンゼルと混泳するサイアミーズフライングフォックスは、コケ取りの名人。成長するとシャープなラインと黒いラインが際立ち、コケ取りにしておくにはもったいないほどきれいな熱帯魚です。
ひときわボディの赤色がきれいなコンゴウテトラ。「とある水族館にいた個体に一目惚れ。色上げ用のエサを使ってみたら、うちのもこんなにきれいになりました」。
エサといえばコレ。KOTOBUKIのフライミックス。ディスカスユーザーのブログで見て試したくなったそう。「エサは色々なものを使い分けているんですが、エンゼルフィッシュやディスカスにとって、水面から落ちていく加減が絶妙なんです。大きさもちょうどよく、これなら食いっぱぐれもありません」。
確かに食いつきはいいみたい。
水槽の上にはブラインを沸かす機械も。
立ち飲み居酒屋店主にとって自家製ハンバーグなんてお手のもの。
水槽はこれだけ目立つ場所にあって、しかもトイレへのアクセスも近い場所にあるためアクアに関心を寄せる人も多いはずと思いきや、意外と少ないのだそう。なぜなんですかね?「わかんないです。ただ、確かにきれいだとは思うけど、しょっちゅうエサをやったり水替えをするのが大変、などとはよく言われます。私からしたら、それも含めてアクアライフなんですけどね(笑)」。
◆KOTOBUKIのパワーサーモ推し
バックヤードにも水槽が。給餌のための構造はほぼ同じですが、水槽は縦一列に積み上げた配置。
ダンタムエンゼルの稚魚がわさわさ育っています。ここは隔離されているので、厳しい掟とは無縁です。
と思いきや、親のダンタム2匹がこちらをガン見。なんか用か?といわんばかりに。よくみると卵がたくさん付着しています。立ち飲み居酒屋のバックヤードで、こんな命までもがすくすく育っているとはちょっと感動。♪この子の人生を見届けられるなら 最後まで見守ってあげたいと思うね♪←昭和が生んだ天才フォークシンガーの歌の一節より
ほかにもゲオファーガスsp・レッドヘッドタバジョス。アースイーターという別名があり、動と静を小刻みに繰り返してピクッ、ピクッと泳ぐのが特徴です。
エサをやると。。。
たちまちゲオファーガスの父が突進してきて喝っ!親も子もへったくれもないエサ問題。ゲオファーガスはもともと温和な性格で大型魚との混泳が可能ですが、大きくなった子魚が敵と見なされて攻撃されることも。これが自然の掟だといわんばかりの体験指導。
水温管理はKOTOBUKIのパワーサーモET-330XDを2個使って対応。
さらに奥にはもう1個。離水感知センサーや異常水温感知システムなどにより、水温の異常を強力なアラームで知らせるパワーサーモET-620XD。「これ、めちゃくちゃいいです。水温が2~3度変わっただけでも、正確に知らせてくれるからです。しかも水温が常にデジタルで表示されることで、視認性もいいんです。アクア仲間でも評判ですよ」と絶賛。さらに、1本の水槽に予備として複数のヒーターを使用することで事故防止にも努めています。「今後は少しずつこのヒーターやサーモを使って、システマチックな温度管理をしていこうと思っています」。常に厨房にいないといけない料理人・蔭山さんにとっては、実に頼もしいアイテムです。
◆繁殖にとりつかれて
エンゼルフィッシュの飼育は難しいとよくいわれますが。「混泳させる熱帯魚のサイズに注意が必要だったり、成魚のサイズを知った上で購入するなどの配慮は、ほかの熱帯魚でも同じことだと思いますよ」。ちょっと安心。
「ただし繁殖を目的とした飼育は簡単ではありませんが、うまくいけば仲のいいペアが繁殖行動を見せてくれることもありますし、大きなヒレを揺らしてゆったりと泳ぐさまは可愛らしく人気があります」。中学生のころから魚を観察することが得意だった蔭山さん。観察力こそモノをいうのがアクアの世界でもあります。
年齢とともに、家族の存在も大きいものになりました。30数年のブランクはありましたが、「もう途絶えることはないでしょうね(笑)」。アクアがあったから今の家族がある?家族がいるからアクアもある?何はともあれ、ドラマティックな最終話をお楽しみに。
【最終話へ続く】