2020/10/02カメ, 取材, 地域社会, 外来種, 水族館, 水槽, 淡水魚, 爬虫類

【スポット】子どもたちの居場所をつくりたかった館長は5代目クリスチャン☆世界の淡水魚が同居する花園教会水族館(京都市右京区)  

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ある小さな出来事がきっかけで、水族館までつくってしまった篠澤俊一郎さん。本職は地元で親しまれているプロテスタント教会の現役牧師。しかも、明治時代より代々牧師を務めるというクリスチャンの家系育ち。前代未聞のクリスチャン水族館館長。しかも、館内にいるのは9割が 外来種。単にアクアが好きというだけでなく、水族館をつくりたかったのには、ある理由がありました。

 ☆     ☆     ☆

◆本当にあった教会の水族館

JR嵯峨野線・花園駅から歩いて約10分。住宅が密集する一角に教会があります。見るからにモダンな建物。もちろん屋根には教会のシンボルでもある十字架が掲げられています。その1階部分に水族館がありました。あとでわかったんですが、このスペースは元駐車場だったそうです。

 

早速中へズームイン。かつては駐車場だったとは到底思えないアクアなシーンが広がっています。大小の水槽が所狭しと並び、生きものの数は何と180種類以上。基本的に淡水魚オンリー。肺魚や古代魚が多く、爬虫類や甲殻類なんかも少し。

 

中には最大3mという巨大水槽も。教会を運営しながらのライフワーク。水槽のメンテや生きものへの給餌・清掃などの維持管理は、牧師だからできるというわけではありません。

◆アクアの第一歩はザリガニから

花園教会水族館の館長・篠澤俊一郎さん。40歳。教会の5代目牧師。生まれたのは長崎でしたが、島根や鹿児島、東京にいたことも。もちろん子どものころはアクアとほとんど無縁。ではなぜ水族館をつくってしまったのでしょうか。牧師=水族館という構図がどうしても見えてきません(笑)

 

――現役の牧師さんが運営している水族館があったとは驚きました。

「今振り返ってみればそうなんですが、牧師だからという理由で始めたわけではないんですよ。結果的には、全国でも珍しいケースだとは思いますが」

――なぜ教会に水族館をつくろうとしたのか、何かきっかけがあったのでしょうね。

「2011年に、復興支援を目的に東日本大震災のボランティアで東北へ4年間通っていたことがあるんです。当時はわが子と遊ぶ機会がなかなかなくて、たまたま京都に帰ってきた時に親子で大覚寺にほど近い広沢池(京都市右京区)へザリガニを獲りに出かけたのが、いきものとの出会いでした」

――ザリガニがアクアライフの入口だったとは(笑)

「広沢池にはザリガニ以外の魚もたくさんいて、ウキゴリやタモロコなど少しずつ魚を獲り始めていったんです。もちろん合法です」

――獲った魚をどうしていたんですか?

「以前は別の建物に教会の集会所があり、入口に水槽を置けば礼拝に訪れる人の目が休まるだろうなと思ったんです。当時は水槽ひとつだけでしたが、アクアらしいことといえばそれが最初だったような気がします」

――教会の入口だったらみなさん注目されたでしょうね。

「ところがどの魚も地味だったんです(笑)。色も派手じゃないし、ほとんどがグレー系でしたから。そのせいでしょうね、礼拝にこられる人の目にもあまり止まらずこれじゃあ意味がないなと(笑)」

――せっかくご自身で獲ってきた魚なのに残念でした(笑)

「やっぱりキラキラしている熱帯魚とかでないと、人は見てくれないのかなと思いました(笑)。そこでエンゼルフィッシュやネオンテトラなど、できるだけ色がきれいな魚を選んで買ってきて水槽に泳がせてみたんです」

――結果は?

「思っていた通りでした(笑)。同時に、色のきれいな熱帯魚ならこんなに注目してくれるんだな、と驚きもしました。みなさんが喜んでくれるとやる気が出てきて、その後水槽は少しずつ増えていきました」

――いよいよ水族館っぽくなってきました(笑)

「徐々に噂が広まっていき、礼拝目的のクリスチャン以外の人も訪れるようになってきたんです。子どもから大人まで幅広かったです。みんな魚というものに興味があるんだな、と少し驚きもありました」

――一番多い時でどのくらいの魚がいたのでしょう。

「500匹いたことがありました。一般的な熱帯魚のほか、アロワナや肺魚、シクリッドなど種類も豊富で、色々とアクアを経験してきたことでノウハウもずいぶん増えました。これが水族館の始まりでした」

――まさか教会の牧師さんがそこまでやるとは、誰も思わなかったでしょうね。

「クリスチャンであってもなかっても、興味のある人なら誰でも受け入れるようにしていました。魚を見るためだけにやってくる子どもたちもたくさんいました」

◆「生きている魚を初めて見た」

ここまで注目されるとは、当時は思ってもみなかった篠澤さん。そしてある日、小さな出来事が起こります。ある日クリスチャンでもなく、かといって魚に興味があるわけでもなく、水槽をじっと見つめていた一人の男の子が何気なく言った“生きている魚を初めて見た”というひとことに衝撃を受けたんです。なるほど、子どもたちはネットや図鑑で生きものを見ることはあるけど、本物はなかなか見れないんだなと、当たり前のことなのにびっくりしました」。同時に、生きものと向き合うことの重要性に改めて気づかされました。

 

単に水槽を置いて人に見てもらうだけでなく、生きものとふれあうことの意義。「自然とふれあう機会の少ない地域に住む子どもたちにとって、生きものと接する機会は激減しています。水族館をつくろうと決めたのは、生きものとじかにふれあうことで学べることがたくさんあると思ったからなんです」。もっといえば、家庭の事情でさまざまな問題を抱えている子どもたちもいます。そんな子どもたちには、気持ちが安らぎ子どもたちと情報を共有できる独自の居場所が必要なのでは?という思いも強くなりました。

◆切なすぎる飼育放棄の現実

2016年10月30日、花園教会水族館はリニューアルオープン。これまで集会所の入口付近にあった水槽を全面移設。意を決した子どもたちの居場所プロジェクト。牧師がつくった水族館ということもセンセーショナルだったのでしょう、集会所に水槽があった時もそうでしたが、地域雑誌や新聞社だけでなくテレビのロケ取材なども増えたことで、知名度はさらにアップしました。水族館を知った人たちから、水槽や珍しい魚の寄贈申し出があるなどして、支援の輪は日に日に増えていきました。

 

困ったこともありました。それは、家の事情で魚が飼えなくなったから引き取ってほしい、という問い合わせが意外に多かったことでした。「当時は断るわけにはいきませんでした。外来種の所有者も多かったので、むやみに池や川に捨てられても困りますから。でも、生きものを飼うなら最後まで責任を持って飼って欲しかったです」。今では、全体の7割近くがやむを得ず引き取ってきた魚たちで占めていますが、このままだとますますスペースが狭くなり、飼育にも手がかかってしまうことが危惧されます。医療崩壊ならぬ水族館崩壊。命に人間も魚もありません。

 

20㎝近くまで立派に成長したウーパールーパー。実はこの子も飼育に困った人から篠澤さんが引き取ってきたもの。「うちを紹介してくれたテレビ番組を観た人から連絡があったんです。手放す理由は、“こんなに大きくなるとは思わなかった”“小さいころは可愛かったのに大きくなったら気持ち悪くなった”と」。電話をしてきたのは、れっきとした大人。水族館オープン後、忘れられない引き取り第1号。大きくなること=成長は飼育者にとって大きな喜びなのに、そんな言われ方はあまりにもひどすぎます。

 

あまりにも身勝手すぎる大人たち。こんな悲しいことがもう起こらないように、手づくりのPOPを使って見学者に強く呼びかけています。生きものの飼育に困っても、とりあえず電話して泣きついたら何とかしてくれる。そう気楽に考えている人が多いなどと思いたくありません。

 

つい最近引き取ってきたニホンイシガメ。この子の両前脚には、いわゆる“手”がありません。生まれつきなのか、ほかの動物にやられたのか詳細は不明。淀川にいたところを保護した人から連絡があり、「警察に連絡しても水族館に連絡しても、引き取れないと言われたそうです。かといってこのまま元の淀川に放置するのも可哀相だからと、うちに持ってこられました」。拾った人も、可哀相だと言うならなぜ自分で飼育しなかったのでしょうか。

 

篠澤さんによると、長い間ペットとして飼われていた可能性が高いとのこと。「体をさわってみても全然怖がらないし、人に慣れているのは明白です」。ただ脚に障害があるという理由だけで、誰かが飼育放棄してしまったのでしょうか。増え続ける飼育放棄。人間の世界でもわが子の育児放棄を平気でしてしまう時代。まして相手がペットだと命がさらに軽視されているのかと思うと、本当に腹が立ちます。

◆魚たちを通じて世界を知る

やるせない気持ちになってしまったので、気分一新。館内にいるユニークな魚たちを紹介してもらいましょう。まずは。。ん?“キリストの受難ナマズ”という名の標本が。アメリカではそう呼ばれているらしいですが、背びれを裏返すとまるで十字架にかけられたキリスト像に見えることからこの名がついたそうです。わずか10㎝ほどの標本ですが、まさに教会水族館ならでは。

 

これはかなりヤバいカミツキガメ。推定年齢34才。昭和のころ子どもたちが熱中した怪獣映画の中で、ゴジラと同じくらい人気だった怪獣ガメラ。まさにカメツキガメがモデルでした。以前飼育していたのは、そんな映画に夢中になった人だったかも知れません。

 

ちょっとヤバそうな生きものには、DANGERと書かれた注意テープが貼られています。こういうメリハリをつけた展示方法は、子どもでもわかりやすいというだけでなく、なぜ危険なのか疑問を持ち認識してもらうことにもつながります。

 

でかっ!アルダブラゾウガメ。これも40才くらい。日光浴が大好きで、「遊んでほしい時は足をのせてくるんです。エサも自分で食べず人を頼るんです(笑)。可愛いですよ」。5~6歳の子どもなら背中に乗っても全然大丈夫。普段はこうして館内をそろりそろりと超スロー散歩。子どもたちにも人気者で、この水族館のアイドル的存在です。

 

これが噂の3m水槽。ピラルク、ゴールデンオスフロネームスグラミー、アリゲーターガー、ピラプタンガ、レッドテールキャットフィッシュなど、住民は大型魚ばかり。水槽というより、まるで日本料理店のいけすのような(笑)

 

子どもでも大人でもエサやり体験ができるとかで、エサを放り込むとバクッという大きな音が館内に。大型魚がエサを口に入れた瞬間、これほど大きな音がするとは思ってもみませんでした。水しぶきもハンパなく上がり、こういうシーンをじかに見ることで、子どもたちは生きもののダイナミズムを体感できます。

 

単独飼育が基本のロングノーズ電気ナマズ。発電量は何と 400V。電気ナマズとしては日本一の大きさだそうです。「子どもたちが水槽をバンバン叩いても、うちでは全然平気です(笑)。魚たちも慣れています。ピラルクなんかは逆に人間のほうが驚くくらいですから(笑)」。ちなみに、もしもの時の安全性を考えて水槽はオールアクリル製です。

 

 さまざまな種類のカメが同居するカメ水槽。これはオオアタマヒメニオイガメ。水槽を下から覗けるよう工夫されていて、ふだんあまり見ることのないお腹の甲羅の模様もよく見えます。

 

そんなギミックが子どもの興味をそそります。ほかにアルダブラゾウガメ、中国セマルハコガメ、ガルフコーストハコガメ、シャムハコガメなどがいます。

 

獰猛な魚という点では悪名高いピラニアナッテリー。こうしてたくさん泳いでいるのを見ると、やっぱりちょっと怖い(笑)。ピラニアはアマゾン川など南米北部に生息。キラキラとしたきれいなウロコが印象的です。

 

群れをなして巨大な獲物を襲うことで知られていますが、群れから離れるとおとなしくなるという意外に臆病な一面も。大勢でいたら威張ってるくせに、一人だと何もできやしない。よく学校にいるちょっとやんちゃな少年みたい(笑)。いや、でもやっぱり怖い。。

 

レッドスポットゴールデンブラックシャーク。ブラックシャークのゴールデンカラーで、この色のタイプは市場にはほとんど出回らないのだそう。パッと見はコイみたいですけどね。「藻を食べる習性があるんですが、たまたまその時に藻はなくて。ほかの魚と混泳させていたのが悪かったのか、ほかの魚のウロコを藻と勘違いして食べてしまったんです」。ウロコを食べられた魚は、不幸にも☆になりました。ブラックシャークに悪気はなかったんですが。反省しているのか、なかなか姿を見せてくれませんでした(笑)

 

ブリコン・ファルカタス。シルバードラドの一種で、体に似合わず遊泳力が強く大型の水槽でないと飼育は難しい魚です。確かに動きが早くなかなか捉えられません。行動力があるというか、マメというか(笑)。尾が黒いのが特徴で、ブラジルに多く生息しています。

 

オーストラリアの肺魚・ネオケラトゥドゥス。見かけによらず、昔は食用だったそう。といっても140年も前の話ですが(笑)。80㎝ほどの大きさで、「サーモンのような味がするらしいです」。んー、そんなふうには見えませんけどね(笑)。失礼!人を、、いや、魚を見かけで判断してはいけません!

 

水槽の中で定位置が決まっているプラチナレッドテールキャット。「お腹がパンパンに膨れるくらいよく食べるんですよ(笑)」。それならなおさらじっとしていないで、ダイエットも兼ねて泳ぎ回ればいいのに(笑)。アメリカやブラジル、そしてオーストラリアや東南アジアなど、淡水魚は実に世界中に分布。「子どもたちに魚の説明をする時に、その国の話をすることがよくあります。ほとんどの子どもたちは日本しか知らないので、まだ見ぬ世界にとっても興味を示します。魚をきっかけに、そんな世界的な視野を広めてくれたらいいなとも思っています」。花園教会世界水族館。悪くないですね(笑)

◆将来アクア業界を目指す青年

ヒアリの標本までありました。新型コロナほどではありませんが、3年前に神戸や大阪などで見つかり大騒ぎになった猛毒アリですが、標本とはいえヒアリの姿を実際に見た人は早々いないと思います。ここにくれば見れますよ。

 

ちなみにアメリカでは、キャラクターとしてハリウッド映画に多数“出演”。こんなフィギュアまであります。あの「トランスフォーマー」や「アントマン」にも登場するほど、ヒーローとは紙一重の立場でヒアリが描かれています。「アメリカではごく普通のことなんでしょうね」。日本でいえば、仮面ライダーのモデルがバッタだったようなものかも知れません。興味深い説明を聞いていると、子どもでなくても知らないことが多くて色々と勉強になります。それだけでも、ここの水族館の役割は十分果たしています。

 

チャンナ・メラノプテルス。ヘビに似た口をしているのでスネークヘッドと呼ばれています。動物と同じように口呼吸をします。インドネシアのカプアス川に生息する大型のスネークヘッド。蝶のように胸鰭をヒラヒラさせて優雅に泳ぐらしいですが、顔つきがとても特徴的だったので、取材の時は顔ばかり見ていました(笑)

 

レッドコウタイ。以前ユーザー訪問の取材で見たことのある魚ですが、こちらのコウタイはその名の通りきれいな赤色が印象的です。話や知識だけでなく、こうして実際の生きものにふれるということは子どもでなくてもとっても大事な気がします。「キワメテ!水族館」スタッフも、ユーザー訪問で出会っていなければ、コウタイの名は永遠に知らなかった可能性が(笑)

 

ちょっと気になるPOPを発見。日本一大きいヤシガニまでいたとは。「沖縄にも同じサイズのヤシガニがいますが、本州一のヤシガニはここしかしないことになります(笑)」と説明してくれたのは小河瞭太君。

 

小河君は高校一年生。小学生のころに教会主催のクリスマス会に初めて参加した際、「その時に置いてあった水槽を見て魚にハマってしまいました」。今や篠澤さんをしっかりサポートする一番弟子。将来はアクアに関係する仕事に就きたいという頼もしい小河君。こうして水族館を通じて将来に希望を見い出す子どもたちもいたりして、飼育放棄などの悪い話ばかりではないのが救いです。

 

こちらはオカヤドカリ。ヤシガニ同様夜行性のため、夜になったら上へ登る習性に合わせて専用ケージも超タテ長。

 

よくみるとポップコーンが。これってヤドカリ専用のポップコーンでしょうか。「いえ、私たちが普通に食べているのと同じポップコーンです(笑)」。へー、それは面白い。色々とエサをやってみた結果、ポップコーンと水の組み合わせが一番のお気に入りなのだとか。じゃあとうもろこしは?「食べないんです(笑)」。ヤシガニも然り。どうやら甲殻類はポップコーンがお好きなようです(笑)

◆社会へ巣立っていく子どもたち

篠澤さんが忙しい時は、スタッフとして見学者を案内することもある小河君。幼いころは話すのが苦手な少年でしたが、水族館の運営を通じて人とちゃんと話ができるようになりました。

 

国連生物多様性キャラクター応援団日本委員会のメンバーでもあるパールちゃん。もちろんここの水族館が生み出したオリジナルキャラクターですが、これを発案してデザインしたのも、ここを巣立って行ったひとり。現在グラフィックデザイナーを目指すなど、将来への道をきっちりと自分で見定めています。また、ここでの体験を生かして児童相談員になったOBがいるなど、ここから巣立っていく頼もしい子どもたちがほかにもたくさんいます。

 

「そのためにも、ここが子どもの居場所になって、夢を持って“なりたい自分”になってくれたらこんなにうれしいことはありません」。牧師という仕事のかたわら、魚を飼育しながら子どもたちに寄り添う姿勢は頼もしすぎます。

 

何気ない子どものひとことがきっかけで、教会に水族館をつくってしまった篠澤さん。牧師を目指す前は、サラリーマンも何度か経験しました。その後海外に何度か足を運び、悲惨な紛争に巻き込まれて孤児となった子どもたちの深刻な貧困事情を目の当たりにしました。東日本大震災の際にも復興ボランティアとして現地で精力的に活動を行いました。これらすべてが篠澤さんの糧となり、今につながっています。強さとやさしさを兼ね備えた篠澤さん、これからの活躍がますます楽しみです。

 

コロナの影響で、ペットを飼育し始めた人もいれば、逆に飼育を放棄をした人も少なくありません。大人の事情で生きものばかりが泣きをみる世の中は、いつになればなくなるのでしょうか。

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