昭和38年に創業以来、カキツバタやハスの切花生産・販売を行ってきた杜若(とじゃく)園芸。中でも約20年前から生産販売を始めた水生植物は、メダカ飼育の人気も後押しして取り扱い数は全国ナンバーワンに。大手ホームセンターがメインの顧客ですが、直営店に直接足を運ぶ来店客も決して少なくありません。暑さが増し水温も上がるこれからの季節、メダカが水槽ですごしやすい最適な水生植物をピックアップしてみました。
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◆創業後着々と築いてきた大きな「3本柱」
京都府城陽市。住宅街と田畑が混在する中、ビニールハウスに囲まれたスペースが杜若園芸の水生植物最前線です。その数300種以上。全国のどこにも負けない取り扱い数を誇り、カキツバタやハスの切花の生産販売同様、同社を支える大きな3本柱となっています。
ビニールハウスだけでなく、日当たりのいい屋外の敷地ではさまざまな水生植物が生産・販売されています。
植物だけでなく、流木や溶岩石も。園芸用品がメインでありながら、アクアを意識した品揃えも水生植物に主力を置いている証しです。今日は一体、どんな水生植物に出会えるのでしょうか。
◆人気動画配信の正体は「水生植物アドバイザー」
「お待たせしました!」。現れたのはこの人、直営店店長の鈴木久利さん。この道20年以上。見るからに人なつっこそうなフレンドリーキャラ。麦わら帽子&首にタオルがトレードマークという、ユニークな出で立ち。メダカや水生植物に興味のある人なら、動画配信サイトでこの姿を見たことがあるのではないでしょうか。
店長以外に水生植物アドバイザーという肩書を持つ鈴木さん。その名の通り、ビニールハウスで生産された各種水生植物を来店客にアドバイスして販売するという重要なポジショニングにいます。来店客の8割以上は水生植物が目的で、しかも大半が初心者のメダカユーザー。ということは結構長い時間お客さんとは話されるんでしょうね。「そうですね。色々話しているとついつい長くなってしまって(笑)」と鈴木さん。ポット苗ひとつ買う来店客に対しても、親切に対応してくれます。
来店者の中には、鈴木さんとのツーショット写真を希望する人も少なくありません。その理由は、動画配信サイトで約300点の動画を持ち、登録者数が1.6万人以上という人気の賜物。しかもこれらの動画は鈴木さん自らが制作編集。ビデオカメラを抱えて、メダカの飼い方やメダカと相性のよい水生植物の紹介などを短時間にまとめて情報発信し、今やすっかり視聴者に浸透しています。
直営店内には、鈴木さんのキャラを活かしたユニークなPOPがあちこちに。「女性スタッフが色々と描いてくれるんです(笑)」。来店客だけでなく、スタッフからも信頼され愛されている証拠です。
◆メダカ飼育と花を両方楽しむ
早速、初夏から夏にかけてメダカ飼育に適した水生植物をご紹介しましょう。まずはロタラロトンジフォリア。アクアの世界でも丈夫で初心者向けといわれていますが、もちろんメダカ愛好家の中でも人気です。ピンクの花が可愛く、メダカを外飼いすることで日光を十分浴びて、赤い可愛い葉色を維持してくれます。
白い小さな花を咲かせるナガバオモダカ。水質浄化にも役立ち、暑い夏場でも強くて丈夫。水中に完全に沈めてもOK。葉の数が増えたり草丈が高くなったりはしますが、メダカの泳ぐスペースにはあまり影響がないので、メダカとの相性はバッチリです。「メダカ飼育で一番大切なのは、葉が茂ることでメダカの隠れ場所をつくれる水生植物であること。根が多いので卵を産みつけやすい植物であることも条件です」と鈴木さん。家の庭先などで睡蓮鉢を見かけることがありますが、一見何もいないようで実はこうした水生植物がメダカ飼育の環境維持に役立っているのです。
みなさんよくご存知のホテイアオイは、まさに水生植物の定番。昔から金魚の飼育に利用されていたように、魚の排泄物を栄養分として取り込むことから、水質の浄化に利用されることもあります。これからの季節では、こんなにきれいな花を咲かせてくれます。メダカを飼育しながら、花も楽しめる。それは、メダカ飼育のもうひとつの楽しみ方でもあります。そのせいでしょうか、来場者に女性ユーザーが多いのもうなづける気がします。
鈴木さん曰く、「園芸は、水やり3年といわれるくらい水やりが結構大変なんですが、水生植物に関しては水に浸かっているだけでいいんです。生命力もあり、よく増えます。さらに浄化作用も高いので、生活排水の浄化に使っている人もいるくらいです」。育てやすいという点では、水生植物はアドバンテージがありそうです。
日当たりのいい場所におすすめのホテイアオイですが、最近のトレンドはこちらのミニホテイアオイ。「ホテイアオイのように大きくなりすぎず、根が多くメダカの卵がつきやすいんです。もし卵を見つけたら、株ごと移動させればいいので卵の管理も楽ですよ」(鈴木さん)。メダカとの同居ではあまり花が咲きませんが、それはメダカの飼育数が少ないため、栄養分となるメダカの排泄物が足りない証拠。かといって、肥料を与えるとホテイアオイが茂りすぎてメダカ飼育には適していません。メダカのことを考えると、花も自粛が必要なのかも知れません(笑)
「暑い季節に向けて、ウォーターポピーがおすすめです。日除けにもなるので人気の品種です」(鈴木さん)。繁殖しすぎることもあるのでは?「そうですね。水面を覆い尽くすほど増えることもあります。増えすぎるとメダカに日光がいかなくなりますし、水中が酸欠気味になってしまうので注意が必要です」(鈴木さん)。増えすぎたらパチンとやっちゃっていいのでしょうか(笑)?「大丈夫です。水生植物は結構丈夫ですから」。冬でも飼育水が凍結しない場所なら屋外でもOKだそうで、初心者でも水生植物を扱いやすいのはそんなところにも理由があるようです。
葉が肉厚で水面上を横に広がってくれるため、日除けに抜群によく水温の上昇も防ぐウォーターポピー。メダカだけでなくドジョウの養殖にも適しているそうで、とある養殖業者さんも絶賛とか。そういえば鈴木さんの動画の中で、「ウォーターポピーが茂っている鉢とあまり茂っていない鉢とでは、水温が2度違っています」と、ウォーターポピーの特徴を話されていたのも印象的でした。
◆暑さで全滅!それでもあきらめない理由
誰もがよく知るスイレン(熱帯)。朝早く咲き始め、午後には花を閉じてしまうところがちょっと残念。取材に訪れた日は、運よく次々と咲き始めていました。メダカ水槽にスイレンなんて、とってもおしゃれですね。スイレンの花は綺麗なのに、茎にたくさんのアブラムシが!なんてこともあるかと思いますが、アブラムシはメダカのエサになるのでササッと洗い落として、そのまま水の中に入れてしまいましょう。
鈴木さんによると、低農薬栽培のスイレンを買ってきて知らないうちにメダカが泳いでいる時もあるのだそうです。「スイレンの栽培時にメダカを一緒に飼っていることが多いんですよ。そこで産みつけられた卵が、スイレンと一緒についてくるという(笑)」。こんな時って、すごく得した気分になるでしょうね。また、「あまりの暑さに親メダカが全滅。そんな時も決してあきらめないでください。もしかすると、水底に沈んでしまった卵がかえり始め、以前より増えることもあったりしますから」という鈴木さんのアドバイスは、さすがという感じでした。
幸せを呼ぶといわれている四つ葉のクローバー。すべて四つ葉のウォータークローバーをメダカとコラボさせるのも悪くないですね。家族みんながハッピーになれるかも(笑)。ちなみに、公園などで偶然見つける四つ葉のクローバーはマメ科のシロツメクサの四つ葉バージョン。こちらの四つ葉のクローバーとは品種が違うそうです。やっぱり幸せになるのって難しい(笑)?
クローバーはクローバーでも、ウォータークローバー(和名・デンジソウ)は水生シダの一種。その中でもウォータークローバームチカは水深が浅いと葉を立ち上げ、水深が深いと横に葉を広げるのが特徴。ちなみに、メダカを飼育する時はある程度の水深が必要なため、葉が横に広がるほうがメダカにとっても好環境だといえるでしょう。
シラサギカヤツリ。「花の周りの葉も白くなることで花のように見えるでしょ?」と鈴木さん。確かに。「真ん中の花が枯れても周りの葉がまだ白いので、楽しめる時期が長いんです」。なんとなくサギソウにも似ていますが、サギソウより育てるのが楽なのだそうです。
ルドビジアセディオイデス(通称ウォーターダイヤ)。赤い葉がロゼット状(バラの花のように円盤状に葉が並ぶこと)なのが特徴です。多くの日光を必要とし、水温が28℃でも生育可能なのだとか。成長が早く、葉が赤いという個性的な外観と相まっておすすめです。
カラーの名で親しまれていますが、正式にはオランダカイウ。こう見えてサトイモ科。しかもミズバショウの仲間だったとは。生け花でもよく使われていますが、真ん中の黄色い棒の部分が花だったとは知りませんでした。
秋に熟した果実は水底に沈んで冬を越すヒシ。ルドビジアセディオイデスと同じように葉がロゼット状に広がります。種子にはでん粉が52%含まれていて、ゆでたり蒸したりして食べると、栗のような味がするそうです。薬として使うこともあって薬膳としては健胃、強壮などの作用があります。
◆スケールアップして自家繁殖&販売も
今年からはこれまで以上にメダカに力を入れるべく、販売品種数を増やしていくとのこと。扱い商品は水生植物がメインではありますが、メダカ愛好家にとってはやっぱりメダカが主役。水生植物はメダカ飼育に取って名脇役になればいいですね。自家繁殖のクロメダカやヒレが長い松井ヒレ長星河など合わせて40種以上が元気に泳いでいました。
松井ヒレ長星河。メダカの仲間にもグッピーのようにヒレの長い品種があるんですか?「これがそうです」(鈴木さん)。でも上見だし黒い色のプラ舟だと見分けがつかないですね(笑)。「確かにそうですよね。横見でないとこのメダカは見分けられないかもです(笑)」
メダカと同居するのにおすすめなのはこれ、ヒメタニシ。メダカが食べ残したエサやコケを食べ、さらに水をきれいにしてくれます。水草についているコケを食べることはあまりないので水草水槽には不向きですが、水草が入っていない水槽のコケ取りには適しています。世の中、なんでも向き不向きがあるようで(笑)
そういえば、鈴木さん自身もれっきとしたメダカ愛好家。「メダカを飼育されているお客様の気持ちに近づこうと、7〜8年前から本気で始めました」。さすが(笑)!いざやってみるとどうでした?「繁殖などがとても面白くハマりますね~」。今のお気に入りは?「去年は幹之(みゆき)、今年はヒレが可愛いオロチにハマってます」。
販売量としてはまだまだ少ないメダカですが、今後はさらに施設を充実させて自家繁殖に積極的に取り組んでいく予定です。そのうち、主役と脇役が入れ替わるということもあるかも知れませんね(笑)
◆直営店だからこそできること
こちらのコーナでは、よりアクアに密着した商品がラインナップ。メダカ飼育に関する用品がメインに置かれているのは、やっぱり水生植物を扱っているからなんです。
メダカじゅうたん水草。ハイグロフィラ系の種をまけば、まるでじゅうたんのように広がってくれます。
こんなユニークな商品もありました。メダカ用ポットアレンジ(流木なし)。ハイグロ、ニューラージパール、ウォーターバコバ、オモダカなどを寄せ植えしてあるので、そのまま水槽などに沈めればレイアウトも完成。丸鉢に高さの違う植物を数種類入れ、ポットごと入れてしまうことで面倒な植え込みも必要なく、水槽掃除の時は取り出して植物だけのメンテナンスもできて一挙両得の商品です。
水中箱庭。メダカ用ポットアレンジよりもスペースが広い場所に植物が欲しい人向けの商品。流木も入っていることでグレードアップ。
直営店のロングセラー商品がこれ。完全自社栽培の上質のハスの葉を素材に使った蕎麦やお茶などのオリジナル商品も。特に「京のはす茶」は、ハスの葉を100%使用。ややほんのりとしたまろやかな口当たりと甘みがあり、中国では「荷葉(かよう)」といわれ、昔から健康茶として愛飲されています。
なんと、オリジナルの化粧水やモイスチャークリームまであります。これまで、いかにハスが主流を占めていたかよくわかります。
水槽に置くだけで使えるメダカのきのこハウスやメダカの隠れ家。特にきのこハウスは常滑の窯元さんでつくってもらっているそうです。ごらんの通りよく売れています。
水草テラコッタ。小さなメダカ鉢やガラス鉢にポット苗の水生植物をそのまま沈めて楽しめます。本来、こういった水草テラコッタという言葉はありませんが、じゅうたん水草や水中箱庭など独自のネーミングを展開することで、より商品を印象づけるのに貢献しています。
園芸用品をメダカ飼育用に転用する提案ができたり、オリジナル商品を実際に見ることができたり、何よりも鈴木さんと直接ふれあうことができたり(笑)。直営店があることの強みはたくさんあります。「何より、お客様の声が直接聞けるのが貴重です」と鈴木さん。自社サイトによる通販が主流だからこそ、ユーザーニーズは把握しておかないといけません。
◆目指すはビオトープ戦略?
社名の通り、創業された昭和38年当時はカキツバタの切花がメインだった杜若園芸。その後、ハスやスイレンの生産・販売でも全国シェアナンバーワンとなりましたが、ビオトープが社会的に認知され始めた約20年前、日本におけるハイビスカス研究の第一人者からのアドバイスもあり、水生植物の専門店へと方向転換したことが功を奏しました。
20年前というと、ちょうど鈴木さんが入社したころ。地元城陽市出身で、しかも学卒入社の鈴木さんにとっては大きな出会いだったのかも知れません。「大学時代は国際経営学部を専攻していたので、業種的には畑違いだったんですけどね(笑)」
社内には、アクアをメイン趣味にしているスタッフもいるそうです。メダカの自家繁殖計画もあることから、これからはよりアクアに特化した商品に期待が持てそうです。心強い!
「これからはビオトープ的な飼育を楽しんでほしいと思います」。鈴木さんが目指すのは、かつて大きな刺激となったビオトープの発展。ビオトープの定義はさまざまですが、要するに水辺の植物(水生植物)とメダカなどの生きものとが水槽などで寄り添える環境をつくることにほかなりません。「それによって、子どもたちが水辺の環境や生き物のことを考える機会になればいいなと思っています」。そういえば、以前取材した名古屋市の「世界のメダカ館」の飼育スタッフも同じことを話していたのを思い出しました。子どもたちに将来を託す。それはメダカに関わるすべての人の共通点なのかも知れません。
鈴木さんが継続してやっていかないといけないのは、自社サイトの更新と各種SNS発信によるさらなる顧客獲得。それらを社内でできる強みは、やっぱり大きいでしょう。水生植物の生産をメインに打ち出して、販売とSNS対策と寄り添っていく。この共存共栄的な独自の仕組みも、ある意味ビオトープ戦略といえるかも知れません(笑)
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