京都府城陽市の杜若(とじゃく)園芸は、知る人ぞ知る水生植物専門店。ハスやスイレンなど大半の商品が自社生産とあって、高品質の水生植物を求めるユーザーは少なくありません。2年前の春、メダカ飼育に適した水生植物を求めて訪問、専門店ならではの強みを感じることができました。あれから2年。今園芸としての水生植物は、垣根を越えてアクアにも寄り添い始めています。杜若園芸の新たな一面を、前編・後編2回に分けてご紹介します。
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◆健在!元祖ユーチューバー
創業は昭和38年。社名が示す通り、かつては主にカキツバタやハスの切花の生産販売を行ってきました。約20年前からは、数多くの品種の水生植物を取り扱い始め、全国の園芸店やホームセンターを中心に売り上げを伸ばしたことが大きな転換期となりました。
その数何と300種以上。水生植物の生育に適した地下水の豊富な地元での自社生産というほかには真似のできない独自性が功を奏し、水生植物の取り扱いでは今や全国ナンバーワンのシェアを誇っています。
ここは2年前にも訪れた場所。広大なビニールハウスの中には、地元の生産現場で栽培されたさまざまな水生植物が成育中。休みの日になると、ここは多くの園芸ファンやメダカファンで埋めつくされています。しかも1時間や2時間の滞在はザラで、まる一日品定めをしている園芸ファンも少なくありません。
メダカの水草として知られている浮草コーナーだったり。
アクアに適しているといわれ、葉が完全に水に浸かると今までの水上葉から変化する種類の水中葉だったり。
美しい花を咲かせる水上葉だったり。
今人気の食虫植物だったり。
もちろん、ざっと40種類はいるメダカコーナーだったり。これだけラインナップが揃っていれば、まる一日品定めをする人がいるのもうなづけます。さすが園芸のプロ集団。以前取材で訪ねてから2年が経ちますが、確実に進化しています。
ん?前からこんなに細かく分類してあったっけ?足元を見ると、ポット苗の状態で整然と並んでいます。「そうなんですよ。お客様のニーズに応えるために、販売しているんです。苗だと手軽に扱えるとあって、お客様にも喜んでいただいていきます。いくらコンパクトな苗でも、品質は折り紙つき。何よりうちの植物には、生産部の魂がこもってますから(笑)」。
と話してくれたのは、この人。一度でも杜若園芸を訪れたことがあるなら、きっとこの顔にピンとくるはず(笑)。そうです、今や動画配信ですっかりおなじみになった店長の鈴木久利さんです。麦わら帽子に幸せの黄色い首タオルがトレードマーク(笑)。2年経った今でも健在です。というより、動画もファンもさらに増殖中で、販促に大きく貢献していることはいうまでもありません。
◆わかりやすく買いやすい工夫
王道ともいうべき、メダカ飼育に適した水草コーナー。水中にドボンと沈められるのだそう。この表現、シンプルかつわかりやすいですね。
こんなわかりやすい表示も。これなら、目的に応じた水草を探すことができます。しかも、メダカとは別にアクアリウムという新コーナーが強調されていたことに、ついニヤニヤしてしまうのはキワメテだけでしょうか(笑)。
レイアウト水槽用の水草としてもよく知られているロタラロトンジフォリア。POPには水上葉としての特徴や用途などがイラストつきで解説されていて、とてもよくわかります。水上葉の状態での販売ではありますが水中もOKという表示も、買う人に安心感を与えますね。
こちらも水中OKのニューラージパールグラス。レイアウト水槽などでは、一面に広がる草原のような演出に欠かせない水草でおなじみですが、水上葉の状態は至って地味。なるほど、同じ品種でも水上と水中ではこんなに葉の形状が変わってくるのですね。
「これ可愛くないですか~?女性にはとっても人気があるんですよ!」と、見せてくれたのは、売り場スペースのディスプレイやデザインを手がける花田 純さん。動画配信サイトでは鈴木さんとの共演が多く、今では「花ちゃん先生」の名前ですっかりおなじみです。さすが先生、どんな質問にもシャキシャキ的確に答えてくれます。女性ならではの目線で男性スタッフがタジタジになることもあるとかないとか(笑)。
ウォータークローバー ヨーロピアンは、すべてが四つ葉なんです。これも花田さんの女性ならではの視点。公園などで必死になって探さなくても大丈夫です(笑)。
花田さんの推しはビオトープ。メダカの泳ぐスペースを確保しつつ、隠れ家のためにナガバオモダカやミニシペラス、浮草を添え溶岩石や流木でフィニッシュ。日本フラワーデザイナー1級の有資格者の花田さん、芸は身を助けています。
「できるだけ自然に近いスタイルでメダカと植物が共存できる世界。それがビオトープです。またメンテ面に関しても比較的容易だという点も魅力かも知れませんね」。チャキチャキ仕事をこなしつつMCもなかなかイケてる花田さん。鈴木さんに負けず劣らずユニークなキャラ揃いの会社だったとは、ここでも2年の進化を感じずにはいられませんでした。
◆かつてのアクア経験を買われた人物
キャラといえば。鈴木さんや花田さんに混じって、去年5月から加わったニューフェイスがいました。ニューというには若干無理もありますが(笑)。以前、別の取材で何度かコンタクトをとったことのある元メンテ会社の牧野 麗(写真左)さんだったのです。アクア歴は30年。そんな経験を見込まれて、スタッフに加わりました。
牧野さんは現在、副店長の要職。どちらかというと、アクア担当。店長の鈴木さんとは、学年こそ違うものの年齢は同じ。入社後はホームセンターを中心に商品管理や接客を学び、副店長に落ち着きました。
全国ナンバーワンのシェアを維持しているとはいえ、これまでは数字的にやや停滞期ともいわれた秋冬を底上げすることが長年の課題でした。そのためにはアクア部門を拡充して平準化を図ることが急務でもあったのです。そのためのアクアに長けたスタッフ補充。めでたしめでたしと言いたいところでしたが、「いやあ、最初は大変でした」。え、なんで?まさに水を得た魚だったのでは(笑)?「店内のデモンストレーション用のレイアウト水槽をつくるように指示を受けたからだったんです。そこまではよかったんですが(笑)」。
ん?これは一体どういうことなのでしょうか。レイアウト水槽などで使用する水草は、水中葉に属しています。このため、水中で使用するに際してさほど時間や手間がかからないのが一般的でした。ところが、今回牧野さんがレイアウト水槽用として使えるのは、ビニールハウス内の水上葉に限定されていたからでした。水中に適応できる水生植物を、栽培しやすい水上で育てて水中に戻す。ごくシンプルな作業で簡単そうに思えますが、いいコンディションで水中で使うためには土をきれいに落としたり、小分けにしたりするなどの事前準備と労力が必要でした。「結局一度植え込みをして、ある程度水中葉になってからレイアウトを一からし直したんです」。水中に沈めた後の水中葉の成長スピードが未知数だったことも計算外でした。結果、「今まで体験したことのない挫折を味わいました(笑)」。
水上葉の状態はどちらかといえば園芸のカテゴリーに含まれ、ビオトープなどの素材として使用されるケースもありますが、水上葉の状態のまま水中に沈めてレイアウト水槽をつくるというのは、さほど多くありません。とはいえ、一度決めたからには撤退するわけにはいきません。アクア歴30年のプライドだってあります(笑)。牧野さん自身初めての経験だったとはいえ、入社早々大きな壁に直面したのでした。果たして、この難局を突破できたのでしょうか(笑)。
〈後編へ続く〉