去年10月にオープンしたショップのオーナーは、何と弱冠25歳。まるで、自身の生体コレクションをそのままショップに持ち込んだようなマニアックな空間。好きな生きものとガッツリ寄り添いながら、ショップオーナーとしての自覚もハンパなし。今時の若いモンの振り幅の大きさには、あっぱれです。ついつい自分が25歳の時とくらべてしまい、凹まずにはいられませんでした(笑)
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◆弱冠25歳で尼崎市初の専門店
ショップがあるところは、閑静な住宅が建ち並ぶ尼崎市武庫之荘の一角。道路を挟んだ北側には公園があり、ママ友同士が談笑したり子どもたちが元気に遊ぶ姿も。路線バスが通る道路に面していることで、信号待ちをしている車の中からハンドルを握ったままショップの中を興味深そうに見入るドライバーもいたりします。
道路角の路面店。何を扱っているショップなのかもすぐわかり、認知度は抜群。おお、こんなところにレプショップができた!とラッキーに思ったレプファンも多かったことでしょう。
オープン後1年が経過しましたが、まだ初々しさの残る店内。こぢんまりしたスペースながら、大小さまざまな水槽やプラケージが並んでいます。オープンは午後1時とやや遅い時間帯ですが、開店を待ちわびていたように来店するお客さんも少なくありません。
ド派手な店頭POPやセール表示などは一切なし。地味といえば地味なパフォーマンス。といっても、決して生体を売りたくないわけではありません(笑)
えー、蜂の巣があんなところに。それにしてもデカい。というか陳列棚からコースアウトしてるし(笑)。以前知人からもらったものらしく、今では店のお守り的存在なのだそう。お守りだなんてずいぶん古風な(笑)。一体どんな店長なのでしょうか。
店長はこの人、増田圭汰さん。25歳。若っ(笑)!失礼ながら、幼さがまだ残る大学生のよう。地元尼崎市出身。顔写真撮らせてね~と言ったら、「あとでGACKTのように修正してくれるんだったらOK(笑)」って、なかなか言うよね~(笑)
動物系の専門学校卒業後、大手ペットショップで犬猫を担当。3年間の勤務を経て、去年独立。たった3年間の勤務だけで独立?「専門学校の時からショップオーナーを目指していましたし、勤務先でもお金の流れとかが勉強できましたので」。わずか25歳とは思えないほどのしっかり者。今注目されているレジリエンスなどとはまったく無縁そう(笑)
ただ単に生きものが好きだというだけでなく、ちゃんとマネジメントのことまで視野に入れたうえでの独立。しかも開業資金などの費用に関しては銀行からの借り入れでやりくりするなどして、親からの援助は一切なし。「資金の足しに半年間ほど新聞配達もやりましたよ」。おお、新聞少年でもありましたか(笑)!
◆飼育しやすいオーストラリア産の理由
増田店長と話をしていたら、カウンターのすぐ上に目の大きいレオパ(ヒョウモントカゲモドキ)らしき生きものが。「いやいや、これはレオパではありません。ピルバラナメハダタマオヤモリというチェコ産(飼育下での繁殖個体)の新しい品種なんです」。こりゃ失敬!
原産国は西オーストラリア。皮膚にトゲ状の突起などがなく、まさしくナメハダ。尾は短くて木の葉状になっていて、大きく可愛い瞳が特徴です。なるほど、ディティールをたどってみればレオパとは違います。でもレオパ同様小さなケージで飼えて、しかも生き餌でなくてもOK。
ただし、今は稀少品種のためかなり高値。マニアにとっては高くても手に入れたい生体かも知れません。爬虫類では以前レオパの人気がダントツですが、この子も品種は同じヤモリ。人気者だからこそ高値がつくのは仕方ありませんが、「気をつけないといけないのは、ハイブリッド(雑種)と純血が流通していること。プライスもまったく違います。簡単に見分けがつかないので、うちでは紛らわしくないようハッキリ区別して明記しています」。
「おすすめとなると、ん~、やっぱりこの子ですかね」と、増田店長が真っ先にケージから取り出してきたのは、キタアオジタトカゲ。原産国はオーストラリア北部。この時の体長は30㎝くらいでしょうか、成長すると60㎝近くに。パターンこそヘビのようですが、顔をよくみると結構可愛い。シュッとした顔はなかなかのイケメン。手の上に乗せていても、さほど嫌がることもなくおとなしくしています。
触れてみると、がさついた感じはなくツヤがあり、かといってヌルヌルしているわけでもなく。あそうそう、畳表のような質感でした(笑)。今回は残念ながら写真では捉えきれなかったのですが、ペロッと出した舌が青いのが特徴なんです。ああ、だからアオジタ。納得。
性格的にも温厚で、初心者でも比較的飼いやすいそうです。特筆すべきは、暑さや寒さにも比較的強いタフなバディという点。食事も雑食系なので、ドッグフードだってOK。この子はバナナが好き。ということは、極端にいえば人と同じものを食べさせてもOKなので、お財布にもやさしいレプライフが送れそうです。
「オーストラリア原産の個体というのは、もともと飼育しやすいんです。個体がというよりも、飼育環境が日本と似た温暖気候だから」。そういった点でいえば、温度管理も比較的楽ということになります。「規制により本来流通することのないオーストラリア産の生物。それが回り回って(規制前にオーストラリアから輸出された個体のブリード個体)手元にやってくるロマンというのもお気に入りの要因なんです」。もしかしたら、できれば売らずに手元に置いておきたい個体のひとつなのかも知れません(笑)
そういえば、店内にはなんちゃらアオジタと品種名が書かれた個体がほかにも。まだちびっこのメラウケアオジタや、ペアで仲がよさげなハルマヘラアオジタ(ともにインドネシア産)などなど。残念ながらどの個体も青い舌をキャッチすることはできませんでしたが、どれもこれも増田店長のお気に入りです。
◆カメマニアが泣いて喜ぶ豊富な在庫
店内を見渡すと、圧倒的にカメが多い感じ。小さいものから大きいものまで、ざっと20種類はいるでしょうか。増田店長いわく、「これほど多くの種類のカメがいるショップは珍しいかも知れません」。そういえば、昔は飼える爬虫類といえばカメくらいしかいなかったような。え、何年前の話なのって(笑)?そう考えると、レプの普及はすごいですね。
甲羅のパターンがこれまたきれいなハラガケガメ。腹側の甲羅が腹掛けのように見えることから、この名前がつきました。雨が少ない季節になると、ススッと泥の中に潜り休眠するドロガメのなかまでもあります。どちらかというと、メスよりオスのほうが大きくなりますが、協調性がよくないので単独飼いがおすすめ。
ヒガシヘルマンリクガメ。ヘルマンリクガメの中で最も大きくなる品種。背中の甲羅はドーム状というよりやや幅広スタイル。オスの尾の先端には、カギ状のうろこがあるのが特徴です。
インドホシガメ。名前の由来は、甲羅に張りめぐらされた放射状のパターンが星のように見えることから。こちらはオスよりメスのほうが大きくなる傾向。ちなみに、1980年代に生息地からの正規輸入が停止され、さらに去年の11月からは海外から日本への輸入も禁止になりました。法律の壁はまだまだ厚いと実感。
ミシシッピニオイガメ。カメマニアの中でも人気のある品種で、大きくなっても12㎝ほど。甲羅は滑らかではなくカクカクしているのが特徴。危険を感じると後ろ足の臭腺からにおいのある分泌液を出すのだとか。この話は以前も別のところで聞いたことがあるのですが、あまりいい臭いではなさそうです(笑)
背甲に無数の細かいシワがあるジーベンロックナガクビガメ。首が長くて太いカメらしい風貌。そして頭部が甲羅に入らない身体的構造はいかがなものかと(笑)。完全に水棲なので、魚と同じように水を入れた水槽でも飼育OK。
アルビノスッポン。写真を撮るために何度もチャレンジしてもらいましたが、これがもうなかなか手ごわくて(笑)。体表面がヌルヌルした粘膜で覆われていることもあり、うまくつかめませんでした。カメの中でも気が荒いため、子どもといえど基本1匹飼いが望ましいとのこと。誰ですか、大人になるまで飼ってコラーゲンの抽出や鍋料理に、なんて言う人は(笑)
「すっごく欲しいのはヒラタニオイガメなんです」と増田店長。その名の通り甲羅の平たいニオイガメで、カメマニアが注目しているのは棲息域の環境悪化のせいで絶対数が激減しているからです。絶滅危惧種に指定されていて、現在はヨーロッパで飼育・繁殖された個体が流通しているようです。
ゴツンゴツンと大きな音を立てて元気いっぱいのオオアタマクサガメ。増田店長自らが京都府亀岡で捕獲してきたものだそうで、屋外展示のため通りがかりの人がたくさん見にきていました。客寄せパンダならぬ、客寄せガメといったところでしょうか(笑)
◆初めて知った「アームウェービング」
突っ張り棒にうまく体を絡めた様子がユニークなグリーンパイソン。これを見て天日乾しした布団を連想した人は、かなりの家事好きとみた(笑)!
グランディスヒルヤモリ。普段見かけるヤモリはどちらかというと地味な色が多いのに、この子は鮮やかなグリーンでとってもきれいでした。
ご存知フトアゴヒゲトカゲ。ピルバラナメハダタマオヤモリ同様、これもオーストラリア原産。森林から砂漠までさまざまな環境で生息。もちろんオーストラリアからのワイルド個体の輸入は禁止されているため、流通しているのは飼育下繁殖個体のみ。オス同士で激しく争うので単独飼育が基本です。
ん?なぜ手を振っているの(笑)?「アームウェービングという独特の動作なんです。相手に対して敵意がないことを知らせたり、降参の意思を表す行動だといわれています」。取材の日も撮影中しきりに手をゆっくり振っていたのは、「もう撮らないでくれ」の合図だったりして(笑)
◆成長はライバルがいてこそ
ホームページおよびツイッターが主な販促ツール。「欲しい個体をピンポイントで見つけて、他府県からお越しくださるお客様も結構おられます」。それはきっとニーズに合った個体を揃えているからにほかなりません。「まあ、ぼくが好きな個体だからというのもありますけどね(笑)」。
コロナの影響でレプイベントの中止が続いた時期もありましたが、状況が許せばショップとの2本柱で展開していきたいそうです。「販売場所はどこであれ、やっぱり自分が気に入った爬虫類をお客様にも勧めていきたいと思います。と言っても、販売前には飼育環境をお客様からしっかりヒヤリングしないといけないと思っています。チャチャッと売ってしまうことはしたくありません。こちらがちゃんと説明した通りに飼育してもらえれば、病気になることもなく健康に育ちます。大事なのは個々の飼育環境。これに尽きますね」
小さい頃から一日中図鑑を見ているような少年だったという増田店長。そんな少年が、尼崎市で初めてのレプ専門店デビューしてちょうど1年。独立はその気になればできなくはありませんが、持続していくのがなかなか大変。でも取材を通じて話を聞いていると、見た目に似合わず(失礼!)意志が強くて冷静で分析も論理的。それでいてマネジメントパワーも備えており、この先が実に楽しみです。
「開業してから2~3店レプショップが尼崎市内にできましたけどね(笑)」。いやいや、自身を高めていくのはライバルがあってこそですから。