2024年に創業60周年を迎えるアクアノートタチバナ(兵庫県加古川市)。関西のアクアショップでも老舗の部類に入り、モットーはズバリ「信頼と実績」。しかも、ショップ内がアットホームすぎて、ついつい長居してしまいそうな雰囲気全開。まさに居心地のいいアクアショップ。うらやましくありーの、ちょっとばかり嫉妬もしーの(笑)。そんな空気があったからこそ、半世紀以上の歴史を築けてこれたのでしょう。
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◆アクアブームで順調な滑り出し
JR山陽本線・東加古川駅から歩いて約15分。小洒落たレストランやスイーツの店などが多い通りに面したところがアクアの最前線。この場所で早28年が経とうとしています。
当初、店舗のあるマンションは新築。そのおかげで、アクアショップのライフラインというべき排水や内装工事が思うようにでき、理想の店に近づけることができました。しかも周辺地域では、人口増加に伴い宅地や利便施設の拡充も進み、今や人気の好立地。この地を選んだことは予想通り大正解でした。
58年前、東京オリンピックが開催された1964年に神戸市垂水区の商業施設のテナントとして創業。当時は、日本で最初のアクアブームが起きた時代。飼育用品なども整い、人々のくらしの中にアクアが浸透しつつあり、そんな波に乗って店も順調な滑り出しをみせました。
その後、区画整理に伴い商業施設の改装工事が行われたことで、一時的に仮店舗で営業したり工事が終わって再び入居したり。商業施設時代には漏水で悩まされたこともあり、結果的に神戸市垂水区から現在の加古川市へ完全移転。トータル的には垂水区時代のほうが営業期間が長かったことで、今でも当時のお客さんが来店するケースも少なくありません。
◆不幸を乗り越えて
魚の図鑑に見入るオーナーの梅宮寛人さん。実は3代目。ということは?「初代が祖父で、2代目が父でした」。大学を卒業したあと、舞台やテレビ関係の仕事をしたくて上京。もちろんアクアとはまったく無縁で、とにかく20代は好きなことをしようと目論んでいたのだそう。「東京にいる時は、母によく叱られました。ひと言でええからメールで連絡してこんかい!って(笑)」。いやいや、子を思う親とはそういうものですから。ちなみに、実母であり2代目オーナーの奥様でもある梅宮一惠さんも、店のスタッフ。もちろん垂水時代から店の歴史を知る、いわば生き証人的存在。今は息子さんとうまくやれてるんでしょ?「いやあ、些細なことでケンカばーっかりしてます(笑)」。とにかく明るいお母さん。店がこんなに明るいのはLEDではなく、一惠さんの朗らかさとテンションの高さにほかなりません(笑)。
そんな明るい一惠さんでしたが、8年前ご主人に胃ガンが見つかった時はさすがにショックで、入退院を繰り返す日々。そうなると、東京にいても気が気ではありませんでした。「すでに30代に差しかかっていたので、思い切って関西に戻って親の近くにいようと決意したんです」。結果、サラリーマンとして第2の道を歩み始めました。
発症から5年が経過したご主人でしたが、今度は白血病がみつかり去年9月に他界。「もう自分が後を継ぐしかない、とすでに決心していましたから。幸いなことにリサイクルショップで商売というものを経験し店長に抜擢されたこともあり、売り上げには自信があったんです」。
でも、当初は「魚のサの字も知らないほど、アクアのことは何も知りませんでした(笑)だからでしょうか、些細なことにすぐに疑問を持ち、徹底的に調べるクセがついたんです。なぜ?なぜ?って、きっと性分なんでしょうね。かくして、なぜなぜ店長が誕生しました。
◆№46水槽へ急げ!
決して特定の品種に特化しない主義。「これは生体に関する父からの教えで、自分もそうしています」。幅広く扱っているほうが店は長続きする、と。こだわりはないほうがいい、とも。「父も私も、もともとアクアに縁のないサラリーマンからの転身だったので、かえってそれがよかったのかも知れません」。
お気に入りの生体を教えてくださいとお願いしてみると、№46の水槽へ連行(笑)。「この水槽、今一番のお気に入りの魚を入れているんです」だそう。
みなさんも店へきたら、ぜひ「№46、お願いします!」とアピールしてみてくださいね(笑)。
日本最後の清流といわれる四万十川に生息するアカメ。あのコミック「釣りキチ三平」にも登場して、ずいぶん話題になりました。黒い目のように見えますが、暗いところで光を反射すると赤く光ります。意外と動きもゆっくりしていて可愛く、見ていて飽きない魚です。
クラウンキリー。一見シンプルな名前ですが、正式(学名)にはエピプラティス・アニュレイタスとやたら長い(笑)。このほか、尾びれがロケットのようなのでロケットフィッシュと称されることも。「なぜ3つも名前があるんやろうと考えると、寝れなくなるんです(笑)。なぜなぜ店長、近頃睡眠不足のご様子(笑)。
珍しいカラシン系のハイフェソブリコンエピカリス。アマゾン川に生息しているものの、この魚が採れる場所を知っている漁師さんが亡くなり、もはや入手は超困難とか。もし所有している人がおられたらぜひお申し出を(笑)。オスは繁殖期に婚姻色が出て身体が赤くなるのが特徴。
3代目店長が決まった時、「自宅にも水槽を置いて魚を飼ったら、今後の勉強にもなるしいいのでは?と父に言ったことがありましたが、やめとけのひと言(笑)。いくら魚が好きでも、仕事でクタクタになった体に鞭打って自宅の水槽まで面倒見れるわけがないと。いざアクアな生活が始まると、まったくその通りでした」。なぜなぜ店長、ヘロヘロ撃沈の巻(笑)。
◆店長が考察するKOTOBUKI
春の新製品をシリーズで紹介していることもあり、KOTOBUKI製品について感想を聞いてみました。「KOTOBUKIのレグラス30㎝キューブがよく出ます。他社商品と品質が変わらず価格が手頃な分、余った予算でLEDなどを買えますから」。お客さんのテーマや予算を聞くことで、商品の利点を効果的な提案につなげています。
ほかにも利点がありました。「30㎝というサイズは、一般家庭で一番置きやすいんです。しかも水景をつくりあげていく時、30㎝もあれば奥行きも出せますし水草やレイアウト小物を置くスペースも十分あります。たとえ初心者でも手軽に水草レイアウト水槽が楽しめます」。買い方だけでなく、使い方もお客さんにアドバイス。話し上手で説得上手。これならファンが増えて当然です。
メダカシーズンに入って、産卵床は必需品。同様の商品は数多くラインナップされていますが、梅宮さんが着目したのはこれ。4個入りの産卵床。「単体売りが多い中で、複数入っているのはかなりお得です。パッケージのデザインも認知しやすく、売れる要素が十分あると判断しました。売れ行き好調です」。いける!と思ったら、すぐにやる。そして躊躇なくアピールする。当たり前のことかも知れませんが、こうしたひとつひとつの積み重ねが好結果につながっているようです。
さらに注目したのは、アメリカミズアブが配合されたフィッシュフード・フライミックス。「よく売れてますよ。タンパク質が抑えられているので、無駄に大きくなることもありません。さらには、人間が口にするような野菜が食物繊維として含まれていて、魚の健康にはとてもいいんです」。価格より成分をチェックしないと始まらない。そんなスペックまでしっかり読み込んで研究熱心なところも、梅宮さんらしい一面です。
特筆すべきは、フライミックスを店の生体すべてに与えている点。「食いつきがいいことは実証済みですが、フレーク状ではないのでそれぞれの魚がどのくらい食べているのかを把握しやすいんです。偏食で有名なオヤニラミも食べてくれます。なので、うちの魚はどれも健康ですよと胸を張って言えます」。
「父の時は、とにかく在庫が多かったんです。お客様に、ありませんというのがイヤだったみたいです」。基本、自分が納得する商品でないと店に置かない主義。新製品が出たら徹底してカタログで調査。売れ筋商品を取り入れる時も、理由を調べてから。なぜなぜ店長の本領発揮(笑)。
東京から帰ってきてリサイクルショップへ就職し、不要になって手放された商品を、今度はそれが必要な人に販売するという独特の業態にも関わらず、店長として好成績を挙げてきた実績がアクア業界でもいかんなく発揮してきました。こんなヘンなことも普通にやるなぜなぜ店長ではありますが(笑)。
◆看板娘にファン殺到!?
生きものが大好きでこの仕事に就きたい思いを胸に、去年7月に入社してきた勝浦舞子さん(神戸市)。見るからに女子力強め(笑)。セレクトショップかスイーツカフェにいそうなキラキラガール。
店では主に金魚コーナーを担当。販売だけでなく、仕入れだってもちろん自分の判断でやります。
時間を見つけては、小さく可愛い苔テラリウムにも挑戦。テーマは「人間の世界と森」なのだそう。実は、現在水草レイアウトコンテストに向けて、60㎝の水槽を製作中の舞子さん。「どんな作品かはナイショです(笑)」。ニューラージパールを使って、「カッコよく、そしてワイルドに仕上がればいいなあ、と思っています」。若い人は覚えが早いだけでなく、成長も早いもの。1年後、2年後の成長が本当に楽しみです。
「爬虫類も大好きなんです~」と、イエアマガエルを手のひらにのせてアピール。聞いてみると、自宅ではアクアリウムのほかヘビやリクガメ、イグアナなどとも同居。しかも2本の60㎝水槽や上部フィルターも、KOTOBUKIなのだそう。もしかして今日はKOTOBUKIデー(笑)?
入社してさほど時間も経ってないのに、こんなコスプレも。もしかして梅宮さんに強要されたんじゃないでしょうね(笑)?「いえいえ、こんなことをするのが大好きなんです!」。
去年のクリスマスセールに梅宮さんと。セールやキャンペーンではすっかりおなじみのツーショットになりました。2人ともコスプレ推し(笑)。
ユニークなスタイルで店の売り上げにも貢献し、新規のお客さん獲得にもひと役。今ではファンも多く、看板娘としてのベスポジに君臨(笑)。センターはもうキミのものだ!
◆「タチバナ」に込められた思い
創業以来、オーナーや店の場所が変わっても、変わらないものがあります。それは、店名に盛り込まれている「タチバナ」の4文字。てっきり、タチバナさん家系だと思っていたら、「違うんですよ。よく言われますけどね、名字でしょって(笑)。なぜタチバナなのか当初は知らなくて、2代目の父ですら由来に関してうろ覚えでした」。
タチバナというのは、人の名前ではなく柑橘類の橘のことなのだそうです。聞くところによると、橘は古事記や日本書紀に「不老長寿の実」として登場。縁起のよい生命力の宿る「不屈の樹」といわれるほど。「初代オーナーの祖父は、きっと店を木にたとえて繁栄を願って名付けたのだろうと思われます」。以上、なぜなぜ店長自らが調べた諸説でした(笑)。
ちなみに、当初は「熱帯魚の店 たちばな」だったそうです。「それをダサいと言い出したのが父(笑)。ならばというわけで、ここ(加古川)でオープンする前スタッフで店名募集をしたんです。そして決まったのが、アクアノートでした」。ノートはNOTEではなくNAUT(探索者、航行者の意味)。つまり、水(海)を極めていける人=店でありたい、との思いからきた店名だったのです。「カッコいいでしょ?だからタチバナをつけたくなかったんです(笑)。でも、ここまでこれたのは先代のおかげだという感謝の意味を込めて、カタカナ表記にして今に至りました」。きっと初代オーナーが、「消したらあかん!」と空から叫んでいたに違いありません(笑)。
スタッフというより、タチバナファミリーといったアットホームな雰囲気が印象的です。何を隠そう、舞子ちゃんと腕を組んでいるのが梅宮一惠さん。今回の取材では、お店の歴史を色々教えてくださり、とても書けないブラックなエピソードも暴露してくれました(笑)。一方、右端にいる稻家優さんは、残念ながら今ごろは店にはいません。若くして何と卵生メダカのブリーダーを目指すのだとか。この春に店を退社。いや、彼はあえて「卒業」という言葉を使って、キワメテスタッフを感動させてくれました。彼とはきっとまたどこかで会うような気がします。夢に向かって頑張れ!
梅宮さんには、大きな夢があります。それは、アクリウム教室を主催したいこと。「一度限りのワークショップではなく、文化教室的な位置づけで定期的に開催したいんです。そして茶道や華道のように段階的にレベルアップを図って、上達できる仕組みがつくれれば、と。人とコミュニケーションするのが好きなので、ぜひ実現したいと思っています」。お稽古事としてのアクア。ユニークな発想で、アクアのさらなる普及・浸透を目指す梅宮さん、実現は近そうです。
2年後には創業60周年。先代が築いてきた伝統を守りつつ、新しい風を取り込みながらリピーターを増やしてきました。「タチバナで買ってよかったと、お客様が言ってくださるのが何よりうれしいんです」。やっぱり、継続は力なり。
オーナーや店の場所が変わっても、橘の実のごとく「伝統の不老長寿の実」は、決して落ちることはありませんでした。
一惠さんと舞子さんは、いつでもどこでも仲よしこよし。あの時、「タチバナ」の名前を消さなくて、本当によかったですね(笑)。