毎週アクアネタ探しに奔走していると、会ってみたくなる人がいます。関西のローカル情報番組で見かける尾㟢 豪さんもその一人でした。テレビでは白衣らしき衣装を身につけ、「おさかな博士」の称号も。この人ってタレント?それとも学者?キワメテ的に気にならないはずがありません。その正体を探るべく、大阪キタの茶屋町にあるMBS 毎日放送を訪ねました。会ってビックリ。いやいや、ネタバラシはまだ早すぎました。
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◆「茶屋町水族館」に潜入
ファッションやグルメなどを求めて、多くの若者でにぎわう大阪キタの茶屋町。その一角にあるのがMBS毎日放送です。関西ではチャンネル4。いわゆる「よんちゃん」です。
1階「ちゃやまちプラザ」には、受付や番宣コーナーはもちろん、カフェやコンビニまでもが。メディアの玄関でありながら、一般利用OKというカジュアルでわくわくするような雰囲気が漂っています。
MBSキャラクターの「らいよんチャン」も上空から?来訪者を熱烈歓迎。
そんなプラザ内に置かれた小さな水槽。よく見ると、海水魚を中心とした45㎝水槽でした。
さまざまなアングルからちょっと拝見。
生体はハナミノカサゴ、ウツボ、アカマツカサのほか、ヤドカリやヒトデなども底砂にガサゴソと。メンテが行き届いているせいで、とっても心癒される素敵な空間です。
◆え!あの人のサインも?
関係者がひっきりなしに出入りするメディアの拠点。まさか若者文化発信地の茶屋町に、こんなこぢんまりしたアクアスペースがあったとは。
おや?水槽側面に何やら書かれているのは?あとで聞いて驚いたんですが、実は2016年に公開され、カクレクマノミが超有名になったあのディズニー映画の続編の監督と脚本家のサインだったんです。これはビックリ、ミーハー。
しかも当時、映画公開キャンペーンで局を訪れた2人に対する歓迎の意を表明すべく、局サイドが「おもてなし水槽」を立ち上げたそうです。このサインはその時のお礼なのだとか。こうして現在も水槽にはちゃんと足跡が残っています。プラザに置かれた水槽のことは多少知っていましたが、このサインのことまでは知りませんでした。みなさんもそうだと思いますが。
水槽台に書かれた文字を解読。「超ミニミニ水族館」のほかにも気になる文字が。「おさかな博士」。そう、今回どうしても会いたかった張本人がおさかな博士だったのです。
◆まるで水族館スタッフ
「お待たせしました!」。颯爽と笑顔で現れたのは、1968年生まれの事業局事業業務部の尾㟢 豪(おざきたけし)さん。この人こそ、水槽台に書かれていた「おさかな博士」そのものズバリでした。しかも、カクレクマノミの「おもてなし水槽」を立ち上げたのも、尾㟢さんだったのです。いきなりヤラレタ!
水槽にいる魚のことを軽く尋ねるだけで、答がバーッと返ってきます。しかも身振り手振りでわかりやすく。え、この人ってタレント?ついついそんな気がしてしまう、なんちゅう陽キャラ。
ちょうどそこへ、ややアクアに興味のありそう女性が2人。尾㟢さん、スルーするはずがありません。
ハナミノカサゴは目でエサを認識するから食いつきが一番早いとか。。。
その次に嗅覚でエサのにおいをかぎつけてやってくるのがウツボだとか。。。
そして最後に上からじんわり落ちてきたエサをおそるおそるキャッチするのが恥ずかしがり屋のアカマツカサだとか。「この水槽では、結局ほぼ均等に3匹にエサが行き渡るようになってるんですよね。アッハッハッハッ!」。話し方、うまいな~。
現在は事業局としてプラザの運営管理などを任されている尾㟢さん。こうして1階に下りてきて、見学者と顔を合わせ即席解説することも珍しくないそうです。まるで水族館の飼育員のようなキャラ。魚が好きで好きでたまらない様子が、よくわかりました。
◆ミナミヌマエビが消えた!
京都大学農学部水産学科出身の尾㟢さん。子どものころから魚や昆虫、爬虫類などの生きものを飼育するのが好きでした。自宅では、150×60×60㎝の壁埋め込み式の水槽でディスカスやプレコを飼育しているアクアユーザーでもあります。※
「以前マンション住まいだったころ、水替え時にこぼしてしまったことを教訓に、家を建てる時に給排水をその場で行えるよう特別設計したんです」。アクアに関してかなり手練とみた。※
――「おさかな博士」といわれるようになった経緯を教えてください。
「元はといえば、『ちちんぷいぷい』というローカル情報番組の番組制作スタッフの曜日チーフディレクターだったころに遡ります。月曜から金曜まで、毎日午後からの放送でしたが情報番組としては22年間も続いた人気の番組でした」
――関西でその番組を知らない人はいないと思います。
「今から20年ほど前に、当時のプロデューサーと番組のパーソナリティだった角淳一さんから、『魚のことがそんなに好きで詳しいんやったら、お前が番組に出て喋ったらええがな!』と言われまして(笑)」
――なんかわかるような気がします(笑)
「『鯛はなぜうまい?』というコーナーを生解説したのが、テレビ初出演でした」
――番組制作に携わる人がMCを務めるのは珍しいですよね。
「裏方ですからね。ところが、生放送だったにもかかわらず20分以上も喋り続けてしまい、結局予定していたあとのコーナーを飛ばしてしまったんです(笑)」
――オーマイガー(笑)!
「それからですかね、本業の傍ら『MBSお魚博士』として約20年間、ラジオやイベント、他局の番組も含め100回以上にわたって出演解説してきました」
――レギュラーはなかった?
「『ちちんぷいぷい』でアナウンサーの角さんが夏期休暇で1週間いない時に、5日間連続の帯企画『角の居ぬ間のおさかな講座』を、毎年プロデュースしてましたよ(笑)」
――なんちゅうコーナータイトル(笑)
「企画構成はもちろん、スタジオ出物の生きた魚の準備から出演までを一人でこなしてました。あのころはメディアとしてのテレビの力が強くて、多くの反響がありました」
――情報番組なのに魚メインの企画だし(笑)
「番組の中で、『水槽のコケ取りにはエビがいい』と言ったことがあるんです。そのせいでミナミヌマエビが売り切れ続出で、関西一円のアクアショップからミナミヌマエビが消えたという珍事件もありました(笑)」
――へー!すごい影響力だったんですね。
「その後、ついにレギュラーコーナー企画『にっぽん金魚名鑑』を隔週で受け持つことになりました。文字通り、日本中の金魚を紹介するコーナーです(笑)。その後も魚や生きものの生態系などについて、色々と解説させていただきました」
他局も認めるほどの魚博士。聞くと、職場にも海水水槽が置いてあるとのこと。「見られます?」。見られます!見られます!本邦初公開。ということで、わくわくしながらエレベーターに乗り込みました。
◆職場の水槽本邦初公開
尾㟢さんの職場は 11 階。多くのスタッフがお仕事中。いかにも放送局っぽい。
尾㟢さんの職場にある水槽。常に緊張が伴うメディアの現場の中で、何かホッする情景。
カウンターに置かれた水槽には、カクレクマノミたちがゆ~らゆら。この光景に癒されるスタッフも少なくありません。
尾㟢さんのデスクからの水槽ビュー。おお~、ここって特等席ですやん。
この時間、ちょうどお魚たちのランチタイムでした。
◆まだまだガッツリ尾㟢ワールド
水槽が置かれたカウンターの下には、魚関係の書籍がビッシリ。
もちろん尾㟢さん所有の私物ばかり。「急な出演要請にも対応できるための資料ですからね。公私混同しているわけではありませんので(笑)」。わかってますって。
離れた別の場所のロッカーにも、こんなにお魚本がどっさり。いやいや、そんなにジャケットを脱いでまで頑張ってもらなくても。
あらら、その下のロッカーも尾㟢さんが占拠。周りにいるスタッフのみなさん、お騒がせしてごめんなさいね。もうすぐ終わりますから~。
デスクの上にもアクアなシロモノが。摩訶不思議なオザキワールド。
「これ!これ!これも見てくださいよ~!」。最後は「お宝」のお披露目。手にとっているのはオウムガイ。「貝殻だけを見ると、この部分オウムの顔みたいでしょ?だからオウムガイの名がついたんですよ~!」。
「これ何だかわかります?」。米粒の半分くらいの白い極小サイズ。「ウナギの耳石なんです」。え?「これを専門家が分析すれば、ウナギのこれまでの足跡をたどることができるんです!」。へーすごい。ウナギにもドライブレコーダーが内蔵されているとは、初耳でした。耳石だけに。
ほかにも、ヘイケガニやタツノオトシゴ、オイランヨウジ、ヘコアユ、ラクダハコフグなどの標本が。これらはすべてかつて尾㟢さんが管理していた海水水槽の遺産ばかりなんです。フリマではありません。
◆人生を変えた角さんのひとこと
さてさて、時計の針をン十年前まで戻してみましょう。制作フロアの窓際にズラリと並ぶ大小さまざまな海水水槽&淡水水槽。ここホンマに放送局?これらの水槽はすべて尾㟢さんのプライベート水槽だったというから驚きです。こんなにたくさんの水槽のメンテは一体誰が?「私がやってました」。あ、やっぱり。「毎日深夜まで編集チェックを待っている間の空いた時間にチャッチャと。水替えとかも全然苦になりませんでしたよ」。※
90㎝の海水水槽も1本。どちらかというと当時は海水水槽が多く、「タツノオトシゴ、モンガラカワハギ、モヨウフグ、クマドリカエルアンコウ、フリソデエビ、ハナイカ、マタマタ、ミウルス、プテラポゴンカウデルニイ、ゼブラオクトパスなどなど、マニアックな魚からマニアックな頭足類・爬虫類まで飼育していたそうです。※
さらに制作局長室のフロアに120㎝の淡水水槽も1本。え、制作局長の部屋にも!?何と大それたことを。若気の至りというか何というか。こうして、かつて局内には入れ代わり立ち代わり、たくさんの水槽がありました。こんなことを会社として許してくれる放送局、ちょっとない。いや、絶対ない!※
お待ちかね。水槽をバックに、若かりし尾㟢さんと、尾㟢さんをけしかけた張本人・角淳一さんとのツーショット。あまりにも超レアな写真すぎて、笑いが止まりません。尾㟢さんは屈託のない笑顔ですが、角さんのビミョーな表情がなんとも。※
まるで親子のよう。尾㟢さんが魚が好きなことは、局内でも有名でした。そんな尾㟢さんの様子を普段から注目していたからこそ、角さんから出演のご指名があったのでしょう。これで納得。もし角さんから声がかかっていなかったら、おさかな博士の称号はなかったかたも知れません。あー、ウケた。※
尾㟢さん、長時間ありがとうございました。これからやりたいこととかは?「世に広く生物多様性の大切さを広めていきたいと思います。そして、生きものに興味を持つ子どもたちを育てていきたいですね。科学をきちんと伝えていかないといけないのは、大人の役割ですから」。
そうなるよう、みんなでおまじないをしておきましょう。ちちんぷいぷい。
※=尾㟢さん提供
【後編へ続く】