子どものころ、阪神大震災に遭遇して水槽がパー。10代には水替え中にウトウトして自宅が水浸し。決してバラ色のアクア人生を送ってきたわけではありませんが、実は心やさしく生真面目でシャイな2児のパパ。1年前の開店を機に、ご近所やアクア仲間など人の輪も広がり、ジュージュー鉄板に向き合いながら明るく楽しいアクアライフを送っています。
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◆こだわりの出窓
商店街や飲食店、そして住宅などが絶妙にブレンドされた大阪の下町・大正区。そんな一角にあるのが、鉄板焼き&焼きそば「ぷれこ」。ぷれこなんていうからには、きっとオーナーはプレコ好きに違いありません。それとも単に思いつき(笑)?
お店は道路の角に面していて、飲食店としてはよく目立つ立地。アーケードのある商店街からもほど近く、人通りも少なくありません。メインは何といっても焼きそば。ランチタイムだとご近所の親子やサラリーマンが、夜には会社帰りのサラリーマンがよく利用しています。
オーナーの牧野良平さん。36歳。大正区という京セラドーム大阪のお膝元でもあり、「オリックスのT-岡田と同級生なんですよ!」。え、あの強豪校のOB?「いや、同い年ということです(笑)」。なんじゃそら。飲食店で働いていた若いころ、鉄板焼きが得意だったことで焼きそばをメインとしたお店をオープン。親しみやすく屈託のない笑顔に、開店後わずか1年でお客さんをたくさん増やせた理由がにじみ出ています。
お店には出窓があります。しかも3つも。さらに出窓の向こうに見えるのは密集しすぎる植物たち。なんとまあ。え、プレコじゃなかったの(笑)?「はい、植物も好きで(笑)。開店前は出窓のある物件を探してたんです。これにはこだわりました」。
足元には、ハエトリソウやサラセニアが可愛い花を咲かせていました。開店前は喫茶店だったそうで、「いつの間に花屋さんになったの?って、今もお客さんからしょっちゅう言われます(笑)通りがかりに立ち止まって、植物をじっと見入る人が多いのだそう。特に女性は花が好きなので、的を射たプレゼンテーションになっていると思います。
このごっつい植物、前にも見たことがあります。「ビカクシダです。コウモリランとも呼ばれる近年インテリアプランツとして人気が出ているシダ植物です。」。以前、アクアユーザーを取材した時も同じものがお店にありました。アクアとビカクシダ、何か共通点でもあるのでしょうか。
◆花屋と間違う人たち
まるでジャングルのような店内。アクアやってます!とは聞いていたんですが、外からの様子ではわからなかったくらい超密集。今流行りのエアープランツや水生植物、食虫植物などバラエティーに富んでいます。いったいプレコはどこにおるねん(笑)。
良平さんがこだわった出窓。店内から見るとこんな感じに。植物と入り込む陽の光とのバランスがとってもゴージャス。午後になると、適度に陽も差し込み植物にとっても健康をキープしています。
テーブル席との距離も絶妙。「開店後、コーヒーはないの?というお客さんがいらっしゃったので、ソッコー取り入れました」。こんな対応も素早い良平さん、コーヒーを嗜みながら緑を愛でる贅沢なシチュエーションもコンプリート。
お気に入りは、アロカシアグリーンベルベット。まるでデザインされたような葉脈が印象的です。
続いてアロカシアピンクドラゴン。おっきな葉で、ツヤもあります。
そしてアロカシアアイボリーコースト。お気に入りはどれもアロカシア系で、いつも元気で明るい良平さんのキャラに合ってる感じがします。
こちらは食虫植物コーナー。「前の喫茶店の時にあった什器をそのまま使ってます」。これはラッキー。
ガラス扉で空気を遮断することで、理想の室温&湿度をキープ。
これってさっき玄関先で見たのと同じ?「そうです、ビカクシダです。貯水葉に水を溜めて育つ植物で、ダイナミックな葉のつくりが好きなんです」。
そういえば、店内にはビカクシダがたくさんあります。
コレクションだけでなく、植物をテーマにしたイベントや即売会にもよく出かける良平さん。最近は、これ売ってくださいとお客さんから直接言ってこられるケースも多くなりました。普通はお客さんとのやりとりはさほど多くない飲食店ですが、植物を通じてお客さんとのコミュニケーションは深まる一方です。ちなみに、なぜ植物が好きなのか聞いても明確な答は返ってこず(笑)。人を好きになるのに理由はないとよくいいますが、植物に関してもそんなものなのかもね。
◆エンゼルの抗争に終止符?
そしてやっとこさ水槽紹介。お店に入ったすぐのところで、KOTOBUKIの水槽がゲストをお出迎え。
おお、ライトもKOTOBUKIでしたか。「明るくて気に入ってます。植物もよく育つんですよ。水槽前面の曲面ガラスもカッコいいです」。
上段の60㎝には、ダンタムエンゼルをメインに、お掃除屋さんのゲオファーガススタインダックネリー、そして、見えづらいですがブッシープレコもわさわさいます。
異彩を放っていたのは金魚でした。「実は、エサ用に買ってきたものだったんです。ところが幸か不幸か生き残りまして(笑)。あちこちの水槽を転々としてやっとここに落ち着いたんです」。まさにここが安住の地。
金魚がまだいなかったころ、この水槽ではエンゼルフィッシュ同士の仁義なき戦いが勃発。もともと気性の荒いエンゼルで難儀していたところ、「金魚と同居することになって、なぜか抗争がピタリと収まったんです」。同居するほかの魚にちょっかいを出されることの多い金魚だそうですが、「我関せずで堂々としているんです(笑)」。おかげで内紛は収まり争い合う魚もなく、一転平和になったそうです。金魚は平和の象徴とよくいわれますが、まさにその通りになりました。
いますねいますね、ブッシープレコが。君の品種名が店名に使われてよかったのか悪かったのか(笑)。
よく見ると、ベタも1匹。結構気が強いのだそう。
これだけ数が多いと掃除も大変でしょ?「いいえ、最近掃除してないですよ」。マジで?「ゲオファーガスのおかげだと思います」。ゲオファーガス、おそるべし。とにかくにぎやかな水槽でした。
下段はドイツイエロータキシードのオンパレ。これまたワサワサたくさんいます。撮りづらいったらありゃしない(笑)。
レッドビーやレッドチェリー、ルリーシュリンプなどのエビも混泳。「ちょっと色々と増えすぎてしまって。これからどうするか、考え中です」。
◆お客さんもお気に入りの「指定席」
続いてカウンターの水槽を拝見。左の水槽にはウーパールーパーが2匹、右の水槽にはアフリカツメガエルが7匹。
「ウーパールーパーの好きな女性のお客さんがおられて、いつもすぐ横のカウンターに座っておられます。見え方によっては、カエルと混泳しているようにもみえるとかで、ここが指定席になりました」。きっとウーパールーパーもわかっていることでしょう。
根強い人気のウーパールーパー。可愛くてついつい買ってしまうのはいいんですが、意外に大きくなってしまって飼育放棄する人も少なくありません。飼育放棄するくらいなら、最初から飼わないで欲しいですよね、まったく(怒)。
アフリカツメガエルは、7歳になる娘の天使音(あまね)ちゃんの強いリクエストで飼育スタート。「もともとエサとして売られていたんですが、今ではこんなに増えました」。さっきの金魚同様、ここでも命拾いしたヤツがいるんですね(笑)。
お客さんからも人気で、フィギュアや置物などカエルグッズも急増中。オスとメスの見分けかたなど、たまたまカエルを飼育中の近所の鰻屋さんとの交流も図れたそうです。
こちらの水槽には、ゲオファーガスの赤ちゃん。さっきもいたゲオファーガスと、水中には食虫植物のタヌキモを投入。
よく見ると、ボルビディスの水上葉がきれいに出ています。難しいんですよね、水上葉にまで成長させるのが。小さな水槽ですが、良平さんの世界観がいっぱい詰まっています。
◆アクアユーザーの掘り起こしに貢献
やっと出ました、プレコワールド。お店の一番奥にあるというのは、大事なものは極力そばに置いておきたいという良平さんの気持ちの表れなのでしょう。
メインはキングロイヤルペコルティア。いわゆるキンペコ。そして、インペと呼ばれるインペリアルゼブラプレコも。店名にしたくらいプレコが好きな理由は?「やっぱりあのゼブラ模様ですかね。コントラストがきれいで、特に白い部分が多い個体はすごく高く評価されていますから」。
プレコ以外にも、アピストグラマアガジシィテフェのペアも。ただし良平さんが理想とするプレコワールドの創造には、もう少し時間がかかりそうです。
「水槽はオープン当初から置いているのですが、隠れアクアユーザーが多かったのには驚きました。ご近所でアクアをやっている人がそんなにたくさんいたのか、という感じでびっくりしました。みなさんここへこられて、カミングアウト状態です(笑)」。
かくいう良平さんも、過去に苦い経験があり長い間アクアと疎遠になっていた時期があります。人知れず何かのきっかけでするアクア熱。もし良平さんが今も開店しないでサラリーマン生活を続けていたら、アクアは封印したままだったかも知れません。そんな良平さんは、アクアユーザーの掘り起こしにも貢献しています。
60㎝水槽にいたプレコも一番奥のキンペコも、愛着のあるものばかり。お店では片手間になるので、本格的なプレコの繁殖は自宅でゆっくり取り組みたいと話す良平さん。お気に入りのキンペコが仕上がったら、ぜひまたその時取材に呼んでください。
ちなみに良平さん宅の水槽。かつて命拾いした金魚も、ここでのんびりすごしています。近い将来、ここはきっとプレコ御殿になることでしょう。
※写真は良平さん提供
◆店がつなぐアクア仲間の絆
水槽のすぐ横には麺をゆでる器具が。良平さん自慢の焼きそばは、乾麺ではなく生麺を使っています。
また、焼きそばの命ともいうべきソースにもとことんこだわり、東大阪市産の特製ソースを使用。コシのある麺と、甘くもなく辛くもない絶妙なとろみのソースとが相まって、それでいてどこか懐かしさも感じる焼きそばで、美味しかったです。
ウイスキーの種類もかなり豊富。「開店前は酒屋にいたこともあって、ほかよりも多く仕入れることができています」。
キッズスペースもある、ぷれこ。朝から晩までよく働く良平さんの支えは、2人の子どもたち。天使音(あまね)ちゃん(右)と3歳になる咲良(さくら)君(左)がいるから頑張れるのでしょう。
去年8月と10月、開店後知り合ったメダカ好きのアクア仲間の勧めもあって店内でイベントを実施。「どうせ人はこないだろうと思っていたら、何と100人近くもの来場者があってビックリしました。うれしかったです」。忙しかったでしょ?「メニューも普段通りに出して、しかもイベントもやったのでめちゃくちゃ忙しかったです」。
今年10月に開催される大正区民まつりにも出店予定。内容はまだ白紙ですが、「お店を通してつながったアクア仲間の協力を得ながら、頑張っていきたいと思ってます!」。
これからもお店をプラットフォームにして、アクアや植物に関する情報を仲間と共有しつつ、イベントを通じて交流を図っていきたいと熱望する良平さん。「まだまだ知らないことだらけですので、色々と教えて欲しいです!」。やっぱり自分のお店=スペースがあるというのは、アドバンテージも大きいですから。今後に期待しましょう。