世紀の大発見から10年あまり。あんなことはもうないだろうと思っていた尾㟢さんでしたが、あるんですよね~これが。テレビマンとしての仕事をこなしつつ、「おさかな博士」として局外のイベントにも多数出演。そしてまた遭遇した、2度目の大発見。こんなことってあるんですね~。それにしてもこの人、確かに持ってます!
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◆まるで番組キャスター
夕方のワイド番組「よんちゃんTV」で、トラウトサーモンの陸上養殖現場から生放送でレポートする尾㟢さん。現場レポートやイベントでは、基本白衣。専門知識に裏打ちされた巧みな話術と人なつこいキャラクター。どこからみてもキャスターですやん。
「そんなに魚が好きなんやったらお前が喋れや」と、かつて「ちちんぷいぷい」のパーソナリティーだった角淳一さんが言い放ったひと言を、ここでまた思い出してしまいました。
番組出演以外でも、「おさかな博士」としてのフィールドも年々広がっています。2月に関大梅田キャンパスで行われた「うめだ100人カイギ」には、梅田を拠点に活躍するクリエイターの1人として出演しました。
ここでも魚にちなんだエピソードを披露。背中には何やら怪しい浮輪が。「今が旬なんです(笑)」。ン?なんのこっちゃ。おなじみの衣装となった白衣だけでは飽き足らず、パフォーマンスもやや強め。それにしても、話うまいなー。オーディエンスも大ウケ。
コミュ力も強め。イベント終了後、尾㟢さんの周りには多くの人たちが集まってきます。イベントを通じて人の輪をどんどん広げていく尾㟢さん。そんな吸引力にも脱帽です。それにしても背中の浮輪が気になるところではありました。
◆ニホンウナギ展示の理由
3月には、淀川水系の魚類相にちなんだシンポジウム「おさかな列伝 ~淀川の魚からひもとく過去・現在・未来~」(MBSホールディングス・おおさか環農水研生物多様性センター共催)が開催。尾㟢さんは、出演はもとより企画・構成・演出からナビゲーター・パネラーの一人として関わりました。
2月の地域性の高い親睦イベントとは違って、こちらはバリバリ魚がテーマ。当然おさかな博士としての本領発揮。毎日放送・藤林温子アナウンサー(左)とも息の合った絶妙なキャッチボールで、まさに水を得た魚でした。「またこんなイベントしたいですわ~(笑)」。
シンポジウムには、細谷和海近大名誉教授(中央)や平松和也環農水研生物多様性センターセンター長(右から2番目)ら淡水魚界のレジェンドも。白衣のせいか、尾㟢さんが一番目立っているのは気のせいでしょうか。
ん?会場入口付近のスペースにはなぜかうなぎの3文字が。
しかも水槽までもが置かれ、ますます高まるキワメテ的好奇心。これは一体どういうことなのでしょう。
◆2つ目の快挙は道頓堀川で
おお~、水槽には1匹のニホンウナギがひょっこり。めっちゃ可愛いんですけど。実はこれ、毎日放送の番組の企画で行われた一連の生態調査により大阪・道頓堀川でみつかったものなんですが、その番組に2022年から「生態監修」として尾㟢さんが関わっていたんです。
その番組とは、「Aぇ!!!!!!ゐこ」(当時の番組名は「関西ジャニ博」)。アイドルユニット「Aぇ! group」と、お笑いコンビの「よゐこ」の2人がメインキャストの深夜バラエティー番組です。2022年、あの道頓堀川で絶滅危惧種のニホンウナギの生息を初めて確認し、これまたスクープとなって大きな話題を呼び、70以上のメディアにニュースとして取り上げられました。あれから1年。引き続き番組はニホンウナギの企画を展開。今回、新たな保全企画で捕獲した1匹が、シンポジウムの会場で初公開されていたというわけです。
2022年11月、道頓堀川で初めて捕獲した記念すべき1尾目のニホンウナギと尾㟢さんとのツーショット。おさかな博士、めっちゃうれしそう!(写真提供/尾㟢さん)
「普通は『発見』したらニュースで取り上げられて、それで終わりじゃないですか。背景もさほど詳しく語られることはありません。でも、絶対にヤラセだと思われたくなかったので、発見したニホンウナギのうち数尾を研究解析して論文にまとめ、そこまでオンエアに入れてもらいました」。これぞ「監修」としての尾㟢さんのこだわり。かくして、大阪市立自然史博物館に『道頓堀川で発見のニホンウナギ第1号』として標本を納めて残し、またその過程をしっかり番組にして映像に残すことができたのです。
そういえばシンポジウムの日にも、背中に謎の浮輪が。あーあ、これウナギだったんですね。それでかぁ。今やっとすべてがストンと腑に落ちました。
この日のシンポジウムでは、番組「Aぇ!!!!!!ゐこ」で生態調査のある時には番組に出演してひと役買っている、おおさか環農水研生物多様性センターの山本義彦研究員(写真左)も出演。あの道頓堀川のニホンウナギの解析を論文にまとめた人です。尾㟢さんは、共著者として「学術論文にまとめる過程」もオンエアするよう提案。「結果、本物だという証明書を番組に貼り付けてもらうことができたんです(笑)」。クニマス発見の番組のノウハウをすべてつぎ込んだ尾㟢さん。このような快挙がまた起きるのではと、ついつい期待してしまいます。2度あることは3度あるといいますから。
番組づくりでもイベントでも、「学術」にとことんこだわることが尾㟢流。テレビマンでありながら、やることはもはや研究者レベル。テレビ番組の枠を超えて、「生物多様性の保全」の啓蒙に努めています。「仮に将来、企画の変更で番組で生態調査ができなくなっても、保全は絶対に終わらせない!そんな風に思って、枠を取っ払ってるんです(笑)」。
◆あの科学雑誌にも掲載
ニホンウナギの発見は、科学雑誌「ナショナルジオグラフィック」英語版でも紹介されました。もちろんフルネームで。尾㟢さんが幼少のころからあこがれ、愛読していた科学雑誌。しかも世界的スタンダードともいえる英語版に掲載されたとあって、尾㟢さんならずとも快挙というしかありませんでした。
「こんな権威のある雑誌に自分の名前が載るのは不思議な気分ですが、何をさておきすごく光栄です。去年の9月にアメリカの記者に取材を受けてから、この成果が「テレビ番組の企画」から生まれたものだということを念押しした上で、さらに『番組名とタレント名を何としても入れて欲しい』と再三強調。もう何度やりとりしたことか知れません。もちろん全部英語で、ですよ(笑)」。結果、尾㟢さんの熱意は実を結びました。これで、ささやかながらずっと頑張ってきた番組スタッフにも恩返しができたのです。妥協は絶対しなかった尾㟢さん。まさに世界的科学メディアからお墨付きをもらい、改めてこのスクープが世界的に知らしめることになったのです。ここまでやるとは、本当すごすぎます。
ちなみに、番組ロケでニホンウナギを捕獲した「Aぇ! group」のリーダー・小島健さんの名前も、論文・標本・科学誌など計3部門に記されるという快挙。こんなアイドルちょっといないですよね。決してヤラセなんかではない、学術的な根拠に基づいた結果。バラエティーにしておくのはもったいないですよね。「いえいえ、バラエティ番組だからこそできたことだと思っています。企画はゼロからつくれますし、さらにいえばたとえ『捕獲数ゼロ』でも、それを出演者と演出陣が楽しく面白くしてくれて成立できるんです。こちらは、安心して学術的なガチの生態調査ができるわけです」。なるほど。むしろバラエティであるがゆえに、科学的に成立できた結果ということか。いやー、参った。こんな深い話まで聞けて、本当によかった。※上3点とも尾㟢さん提供
そういえば、シンポジウム会場には「Aぇ! group」の大ファンだという女子も。魚のこと知ってるの?「いえ全然(笑)」。アイドルが活躍する番組を通じて、会場に足を運んで魚のことを知り関心を高める。まずは意識から。地球温暖化や自然環境問題が危惧されるこれからの時代、君たちに対する期待は大きいのです。
◆エピローグ ~誠実に事実を伝える~
30年以上携わってきたメディア人生の中で、2度の大きな発見プロジェクトに関わってきた尾㟢さん。どちらも事実と科学が求められるドキュメンタリーだっただけに、学術的な専門知識は不可欠でした。
――視聴者に寄り添いながら説得力のある番組でした。
「テレビは一般の視聴者に観てもらってこそだと思うんです。マニアックな見解や専門用語ばかりが飛び交う番組ではチャンネルを変えられてしまいますから」
――成果をひとことで言うなら?
「どちらの番組も奇跡の瞬間を映像に残したことが大きな要素だとは思いますが、それ以上に『科学をいかに正しく、そしてわかりやすく伝えるか』にとことんこだわったこと。それに尽きます」
――やっぱりテレビはメディアの主流であってほしいと思います。
「クニマスが発見された10年前とは大きく変わり、誰もが映像を発信できるようになりテレビの置かれている状況は唯一無二ではなくなっています。でも、事実とも虚偽ともわからない情報があふれ返る時代だからこそ、今テレビの役割として『誠実に真実を伝える』ことが求められていると思うのです。道頓堀川のニホンウナギの件は、その象徴として守っていきたいと思っています」
『誠実に真実を伝える』。メディアとしてはテレビの足元にも及びませんが、創刊10周年を迎えた「キワメテ!水族館」も、この言葉を肝に銘じて、11年目に入っていきたいと思っています。
ますます円熟味を増してきた尾㟢さん。この人に出会って本当によかった。取材期間はめっちゃ長かったけど。もしかして、キワメテ的にはこれも世紀の大発見?ミスターオザキよ、どうか絶滅危惧種にならないでくれたまえ!