アクアリストというよりナチュラリスト。川魚を心底愛し、生物多様性に対する保全意識も高い陸君。そんな陸君はアクアユーザーとしての顔も。自宅には、川を再現した淡水魚水槽がズラリと並んでいます。陸君の「アトリエ」へようこそ。
☆ ☆ ☆
◆野趣あふれるモグモグタイム
そしてこれがもうひとつの陸君ワールド。堂々の淡水魚水槽。もちろん本邦初公開。これまで多くのユーザー訪問をしてきましたが、川魚メインはこれが初めて。市販のラックを流用したグレーの水槽台は、お父さんとの共同作業で。ちなみに陸君は、自分の部屋のことを「アトリエ」と称しています。
上の2本がこれまでの陸君の集大成ともいうべき淡水魚水槽。手前のナチュラルなライティングが施された水槽は120㎝、奥のブルーライトな水槽は90㎝。2本の水槽とも外部フィルターを使用していますが、ブルーライト水槽下の水槽台に2個とも格納。夏はフル稼働し、120㎝水槽に限ってはエアレーションを2本追加。管理が難しいといわれる川魚の環境を安定させています。
こちらの水槽には、約20匹の川魚がイン。撮るのムズっ!元気よすぎっ!いや~、マジで川の中をライブで見ているよう。エアレーションによって無数に広がる気泡に誘われるように、オイカワ、モツゴ、ウグイ、ニゴロブナ、アブラボテ、ヤリタナゴなどが素早く元気よく泳いでいます。うん、横見バンザイ!
水槽には底砂には田砂を利用。川の中を美しくナチュラルに演出することにひと買っています。
「どの子も食欲がありすぎるんです(笑)」。見ていると、食事のために砂をしきりにパクパク漁ってます。そして、口にごっそり砂を頬張ってモグモグタイム。次の瞬間、エサだけを取り込んであとはポイッ。この繰り返し。
そのせいなのか、あるいはエアーのせいもあるのか、底砂にはかなりの凹凸が。そんな様子も、川魚がいる川の中の再現の一助となっているのでしょうか。田砂は水中で舞い上がりにくいので、水槽がほどほどクリーンなのもラッキーです。
「ただ困ったことに、体の大きい子のほうが積極的で。小さな体の子などはうまくエサにありつけないことも多いんですよ」。初めてじっくり見た川魚のモグモグタイム。川という厳しい環境の中で、生き残りをかけた激しい争奪戦の様子まで見ることができました。
◆風邪をひかない理由
エキゾチックなブルーが印象的な90㎝水槽には、シロヒレタビラ、アブラボテ、ヤリタナゴ、ビワヒガイ、ヌマムツ、ニホンウナギなどが約30匹。
さっきの水槽でもそうだったように、水槽に近寄りすぎると警戒する様子がよくわかります。これも野生魚の特性でしょうか。ごめんね~、撮影の時だけ辛抱してね。
シュワ~ッ!川特有の流れも再現。これで温度も適正、空気も安定供給。でもこうやってみると簡単そうに見えるけど、結構大変なんでしょうね再現するのって。
ベッドに横たわりながらも、上からマイリバーを堪能できるわけだ。「めっちゃ幸せです(笑)」。悩みのタネは湿気が多くなること。特に夏場。そのため、少しでもカビが生えてきたらこまめに拭き取るようにしているのだそう。「その分、風邪をひきにくいというメリットもありますが(笑)」。
◆人好きのニホンイシガメ
さっきからガサゴソ聞こえてくるのはこの子でしたか。陸君が中学生の時に採取したニホンイシガメ。
おっと、目が合ってしまった。この子の年齢は?「いやあ、採取してきた時が何才かもわからないので(笑)」。そりゃそうだ、愚問でした。
陸君が飼育している個体の中で、唯一ペットと感じているのがこの子。名前とかはあるの?「名前はつけないですね~どれにも。でも可愛いんです!」。うれしそうに語る笑顔は、少年そのものでした。
普段見ない人間がいて珍しいのか、取材中もずっとこちらをチラ見。とにかくせわしなく動き回っています。もしかしてカメラが気になる?カメだけに。
◆可愛すぎるトビハゼ
こちらはトビハゼ水槽。結構大きなサイズのトビハゼが複数います。この水槽だけは汽水域。ノーマルな海水と違って、塩加減が難しいとのこと。でしょうね、汽水域といっても水域によっては塩分濃度が違いますから。そして微妙な砂と水とのバランス。干潟を再現しなくちゃいけませんから。
めっちゃ可愛い。カメラを近づけても特に警戒する様子もなくひたすらじっと。
バックのブルーがクロマキーみたいでトビハゼを引き立てています。
大半が和歌山で採取したノーマルのトビハゼですが、沖縄で採取したミナミトビハゼもほんの数匹います。撮影しようとチャレンジしましたが、「背びれがあるのですぐにわかるんですが、今は後ろのほうに行っちゃってる感じです」。
◆ドジョウを全種揃えたい
ややピンクがかったこの水槽にいるのは?「ドジョウです」。ああ、そういえば以前会った時に、全種類のドジョウを揃えたいって言ってたのは陸君やったっけ?「はい、そうです!」。子どものころ、田んぼの用水路や川でよくドジョウを観察することも多かった陸君。だからでしょうか、陸君にとってドジョウはとても身近な存在のようです。
日本には33種ものドジョウがいるそうで。「ドジョウのなかまには田んぼや用水路だけではなく、流れの速い上流域に生息するものや山地の渓流に生息しているもの、一定の場所にしかいないものなどがいて、それぞれ違った魅力があります!」。
そんな多彩なドジョウも、陸君の手元に。おうちでは、エサを食べる仕草や水槽の中を泳ぐ姿が可愛くて仕方ないのだそう。陸君、何が何でも可愛い系が好きな男子のようです。
水槽にはオオシマドジョウ、チュウガタスジシマドジョウ、トウカイコガタスジシマドジョウ(岐阜に棲息)などがいるほか、1匹だけマイペースっぽいカマツカも同居。
この中でも特にお気に入りは、びわ湖に生息するオオガタスジシマドジョウ。3匹いるうちの一番左と右にいるのがそうで、特に左の子がお気に入り。「きれいなラインがくっきり入っていて、メリハリの効いた色が気に入ってます!」。
ほかにもオオヨシノボリのいる水槽やら。
ヤマトヌマエビのいる水槽もあったりします。「ヤマトヌマエビを採取したのはこれが初めてなんですよ!」。確かにショップなどで売られている以外、見る機会が少ないヤマトヌマエビ。野生だと思ったより色も地味な感じでした。
◆とことん「サカナズキ」
大好きな川魚と共存する陸君の「アトリエ」。子どものころの思いが強ければ強いほど、しっかりかたちになっていくのでしょうね。
そして絵心にも長けた陸君。この資質は、きっとお母さんの美的センスとお父さんのパワフルな行動力が合わさった結果にほかなりません。
一アクアユーザーの陸君にとって、由々しき悩ましい現状も横たわっています。代表的なものとしては、ペットとして飼育されていた個体が放されることが増えている点。これによって、「生態系のバランスが崩れ、生物多様性の恩恵を受けることが難しくなるなどの影響があります。この問題は今だけにとどまらず、これから生まれてくる子どもたちにまで影響してしまいます」。
「自分一人がやれることはしれていますが、生物多様性保全に携わる身として自分ができることを全力で進めたいと思っています!」。
少しでも時間があると、川や河口にある汽水域のフィールドワークへ。知識も豊富ですが、実体験も豊富。日々のアクアな活動を通して、次のプランも着々。陸君のサカナズキは、永遠に不滅です!