沖縄の海が好きすぎて自宅に水槽小屋をぶっ立てて、地元・京都府亀岡市の幼稚園を中心に年間10件以上移動水族館を運営して、その活躍がメディアの目にも止まって関西の人気番組に出演して。ついにテレビ局のイベントにも初出展することになった移動水族館「うみばこファーム」代表の河村達也さん。ここ2~3年あちこちからいい話ばかりが舞い込んできて順風満帆ではありますが、天狗になるヒマもありません。
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◆いよいよイベントよーいドン!
去年11月22日~24日の3日間に行われた関西テレビ主催の「カンテレ祭り!よーいドン!フェス2024」。関西で人気のバラエティー番組「よーいドン!」の出演者が中心となって行われた恒例イベントで、飲食や物販、雑貨などの出品者で構成され、今年も多くの来場者で賑わいました。
場所はカンテレ扇町スクエア特設会場。晴れかと思っちゃあ時々くもり。くもりかと思っちゃあ時々雨。それまでは暖かい日が続いていたのに、3日間のイベントがスタートしたとたん気温も急降下。でもテンションは急上昇。
会場の一部で咲いていたひまわりが来場者を迎える健気なシーンも。
ん?アクア?ちゃうちゃう、充実した設備が自慢の屋内プールでした。もうアクアと聞くだけで反応してしまうのはすっかり職業病?
ここが移動水族館「うみばこファーム」の特設開場。関西テレビ社屋の敷地内に設置され、フェスと往復する来場者も多くアクセス良好の立地。なぜか2トントラックが横付け。この理由はまたのちほど。
◆人間国宝の水族館
そんな中、飲食でもない物販でもない、異質ともいえる移動水族館が今回イベントに初登場。去年2度にわたって番組に出演し、ユニークな人物の称号ともいうべき「となりの人間国宝さん」に認定されたのが、「うみばこファーム」代表の河村達也さん(京都府亀岡市)でした。
ちなみにキワメテでは過去に2回登場。4年前、初めて自宅敷地内の水槽小屋などを見せてもらってたっぷり話を伺ったのが、まるで昨日のことのよう。そうなんです、ツバをつけたのはキワメテのほうが早いんです。
もっといえば、8年前に水槽メーカー・KOTOBUKIの協賛で実施した水槽コンテストで入賞していたという超偶然も。
河村さんを番組で見た人はきっと多いはず。髪形がちょっと変わりましたけどね。移動水族館という子どもたちに夢を与える活動に携わる河村さんに、局側が再び注目。その結果、イベント出展の依頼が舞い込んできたという、ラッキーというよりその実績が認められたからにほかなりません。
◆力強いサポーター
それでは会場へご案内。入場料は300円とお値打ち価格。しかも。QRコード決済OK。うんうん、これなら入場しやすい。
さてさて、2トントラックの持ち主は、福井からはるばる移動水族館のお手伝いに駆けつけた「ふかふかラボラトリー」(通称ふからぼ)のお2人。曽原慎弥さん・麻美さんご夫婦。地元あわら市を拠点に、日本海の生きものを採取したり水族館に魚を提供したり。これほどの生体を取り扱えられるのは福井唯一。地元漁師さんとの連携もバッチリなんです。
麻美さん(通称さめっち)は、子どものころからサメが好きで、神戸の専門学校卒業後は海遊館にも勤めた経歴の持ち主。ふからぼもさめっちも、サメが好きすぎた結果の愛称。またさめっちは、令和4年に「くにみクラゲ公民館」なるユニークな水族館を立ち上げた功労者の一人でもあります。今回は日頃から親交の深い河村さんをサポートすべく、慎弥さん(通称しんちゃん)とともに日本海の風とともにやってきたのでありました。2トン車の運転?もちろんさめっちに決まってます!
◆うみばこファームの原点
今回の移動水族館に使われている水槽は全部で14個。ほかにプラ舟が4個。「これまでの移動水族館の中で、一番広い会場を提供してもらいました」(河村さん)という通り、会場は広々。逆に水槽の数が少なく思えてしまうほどでした。
といっても、来場者の安全を考えるとこれくらい余裕があったほうがいいに決まってます。
「うみばこファーム」といえばやっぱりカクレクマノミ。若いころダイビングが趣味の河村さんが沖縄の海に魅了され、移動水族館につながったのも、この魚がきっかけでした。
そんな原点を今も決して忘れない河村さん。カクレクマノミはその象徴でもあるのです。
「あ、この人やん!人間国宝さんやん!」「一緒に写真撮って~!」。テンション上げ上げで駆け寄ってくる奥様方の多いこと。随所でこんなほんわかシーンがたびたび見られました。テレビの影響おそるべし。ヨッ!マダムキラー!
逆に子どもたちは、河村さんではなく生きもの目当て。そりゃそうだ。ウツボが大好きという子どもたちも少なくありません。大きな口をあんぐり開けて捕食する姿が「カッコいい」のだそう。それってドSやん!
母子で来場した2人も、実は大のウツボファン。聞くと、阿倍野保育園保護者会の一員でもあり、去年移動水族館の存在を知り河村さんに誘致をアプローチ。結果、9月には晴れて園内で初の移動水族館が開催された際の仕掛け人でもあったのです。
お母さんのプロデュース力、すごいね。「うん!」とこっくり。
移動水族館の開催は、こんなきっかけですることもあるんです。みなさんもおひとついかがですか?
いつもは南の海にいる魚をピックアップして開催するケースがほとんどですが、今回はいつもと違ってかなり気温が低いので魚たちの健康状態のチェックなど生体管理も大変。3日間、魚たちを置いて会場を後にするわけにもいかず、河村さん所有の魚は「毎日家まで持って帰ります」。えー、毎日亀岡から?
イベントが終わるのが夜8時。それから魚を運び出し、家へ着くのが11時ごろ。朝は4時起床後すぐ準備にとりかかり、6時に出発して7時会場着。そして10時の開場に間に合わせるといった過酷スケジュールを3日間こなしました。
「移動水族館は生きものあってのことですからね」。そう、主役は魚たち。彼らがいないと始まりません。会期が終了しても、イベントの打ち上げでメシでも行こう!なんてことも結局できずじまい。逆にそんな魚思いのスタンスが妙に愛しく感じて仕方ありませんでした。
◆見聞!女子力と男子力
まさに河村さんの世界観が醸しだされた、沖縄の海水槽。アカモンガラ、ヒレナガハギ、ルリスズメダイ、一瞬海草かと思うオニヒトデなどなど。
ミノカサゴのいる水槽でメジナを撮ろうと、さかんにシャッターを切っていた小5の男子。「遊びにいくのは水族館ばっかりなんですよ~(笑)」とお母さん。博士ちゃんの素質十分とみた。
いつも人気のミノカサゴ。おとなしい顔をしながら、実は同居中のメジナを虎視眈々と狙っていたのでした。
そうはいかんぞ。やられてたまるか!
タッチプールはいつも子どもたちの人気者。テンジクザメやマンジュウヒトデ、クモヒトデ、ナマコなどなど。
どちらかというと、男子より女子のほうが大胆。おそるおそる手を出す男子に比べて、女子はチャチャッとスピーディー。そして「可愛い~」。そう、男子は「カッコいい!」が定番ワード。
もうひとつの人気アトラクションが「磯の生き物すくい」。クサフグやギンポ、タケノコメバル、ドロメ、スジエビ、カサゴの幼魚などを、ひしゃくと丸底鉢ネットでつくったハンドメイドツールですくうというもの。もちろん製作者はさめっち。
「でもさすがに魚を持って帰ってもらうわけにはいかないので、参加賞としてスペシャルな海シリーズのステッカーを用意しました!」。これがえらいウケて、キラキラ好きの女子に大人気でした。
やってみると、簡単なようで意外と難しい。「だから言ってるでょ!ゲキムズだって(笑)」。ああ、そういうことね。会場のPOP関係も、ほぼさめっち作。
「サメが大好きなんですよ~」と奈良・生駒から来場した女子2人。「爬虫類も好きなんです~」。おお~、ちょっとこっちへきなはれ。
早速さめっちと、しばしのサメ談義。同じサメでも福井で獲るホシザメは臭みがないんですよ~とか、普通のサメはアンモニアが回ってしまいますからね~とか、女子同士の会話とは思えねえ。ちなみにさめっち、自宅のイケスでサメを育成中とかで、いつか機会があればさめっち宅へお邪魔してみたいものです。いや、お邪魔する!
大人に人気だったのが、120㎝水槽で泳ぐアカエイやマゴチ、アオハタのいる水槽。いやいや、全然泳いでないんですけど。特にマゴチ。本来より底砂を若干少なくして、魚を見える化。ほぼほぼ動かない、それでも存在感のあるユーモラスな光景が印象的でした。
大阪市東淀川区の楽しそうなグループ。アータとアータはつきあってるの?とか、あの子とあの子はビミョーな感じ?とか、魚とは関係のない話ばかりしてごめん!ちなみに、この中に焼鳥屋のオーナーとショットバーのオーナーがいます。絶対わからないと思いますが。
「よーいドン!は全部録画して観てます!」。マゴチ目当てのご夫婦は2人揃って施設看護師。休みの日には趣味のバイクで和歌山方面へ釣りに出かけるのだそう。「あ、主人だけですよ!(笑)」。
◆さめっちは日本海とともに
「可愛いやん、これ~。また明日も来てみたいわ~」。きなはれきなはれ。ご近所からお越しのお母さんが絶賛していたのがコンペイトウ。その名の通り、お菓子の金平糖に似ていることでこの名がついた魚で、タンゴウオ科の深海魚。できるだけ珍しい魚をチョイスしていたという河村さん、してやったり。
大きいのはみんなメス。子育て熱心なことでも知られ、メスがバイ貝に卵を産み付ければ、このあとオスが守って育児に励むそうな。産休とって頑張ってね~。
港から片道8時間かけて日本海へ繰り出し、1,000mの深海でしか獲れないベニズワイガニ。「赤いからもう茹でてあるかと思った(笑)」とグルメ党っぽい男性。いやいや、水温4℃ですから。「ほんまや!冷たっ!」。
福井県でベニズワイガニ漁をしているのは、今ではたった1軒のみ。そういえばふからぼのしんちゃん、カニが大好きなのだそう。国立大学理学部水産生物学課出身だけのことはあります。知らんけど。
可愛いキャラのトラフカラッパ。
一般の水族館でもめったに見られないメンダコの標本。無傷で泳いでるような状態で標本化されているのはさらに珍しいのだそう。
さめっちたちの2トントラックに積まれているのは、主に1トンの海水と2,400ℓの人工海水。まさに、走る日本海。
魚たちは衣装ケースで運搬し、サービスエリアなどでいつでもチェックできるように工夫。
「人と同様、魚も車酔いするんですよ(笑)」。へ~、知らなかった。嘔吐もするし、そうすると水も汚れるので搬送中は常に気を使います。いや、ほんとに大変。
◆解説パネルより蘊蓄
ここから先は、アクアっぽい展示が並びます。この水槽では日本海の漁港を再現。魚たちの排泄物を吸って自らの栄養に変えるホンダワラを中心にした、いわばアクアポニックスの海版。
ドロメやニジギンポ、イソクズガニ、チビイトマキヒトデなどなど。
ヒトデが大好きという小学生女子。「一緒に散歩がしたい」。ええええ!?そんなリクエストにもNOを言わないのが、さめっち。プラケースに入れて、しばしチビイトマキヒトデとイベント会場内をゆるりとお散歩。両親も大喜びでした。この体験は生涯忘れることはないでしょう。将来のさめっち誕生かも。
あちらこちらで、来場者とうみばこスタッフが終始コミュニケーション。展示内容を示すPOPは必要最小限にとどめられています。「いくらちゃんと書いていても読まない人は読みませんから」とは、これまで50回以上移動水族館を手がけてきたからいえること。
確かに水族館を銘打っている以上、解説パネルなどの必要性を感じなくはありません。しかし、それをしたからといってイベントの成功につながるわけでもありません。レストランでメニューがズラリと書かれていてピンとこなくても、シェフがテーブルにきてくれて蘊蓄を語ってくれるとスーッと入ってくるのと同じように、うみばこスタッフ独自の蘊蓄が来場者のハートをつかんでいるような気がしました。
「すみません、写真撮ってください」と声をかけてきたのは、小6男子と小2女子のあにいもうと。兵庫県からきたおばあちゃんと家族で大阪駅周辺で食事をしたあと、お父さんとイベントに立ち寄ったのだとか。なぜ写真を撮ってほしいの?「何かに載るんでしょ。テレビとかが好きだから」。いやあ、大したWEBマガジンじゃないんだけどね~。キワメテステッカーを喜んで持って帰ってくれました。
タイからの旅行者とも遭遇。そういえば、海外旅行者との遭遇はこれが初めてかも。5日間大阪を中心に観光とかで、「サムイ~!」を連発。風邪を引くことなく無事に帰国してくださいね。
◆あの人も来場!
テレビ局が主催するイベントだけに、局アナとの絡みもありました。2日目午前中には、去年入社したばかりのカンテレの新人アナ・田中友梨奈さん(手前左)と秦 令欧奈さん(手前右)が開場をレポート。同時に生中継も行われました。
同じく2日目には、メイン会場のステージに引っ張り出された河村さんが、スイーツの達人としておなじみの岡安譲アナのインタビューに答える場面も。「めっちゃ緊張しましたわ(笑)」って何を今さら。
3日目には、「よーいドン!」番組収録中のお笑い芸人・麒麟の田村裕さんが訪ねてきてくれました。このあと、同番組のコーナーで日帰り観光ツアーに参加する人探しに出かけて行きました。うみばこファームの来場者だったらいいのになー。
そして、去年密着取材でお世話になった毎日放送の「お魚博士」こと尾嵜豪さんも駆けつけてくれました。「SNSで魚の写真アップされて、本日最終日なんて書かれてたら、会場にこい!と言われてるようなものですやん(笑)!」。いやーさすが尾嵜さん、お察しが早い。にしても他局のイベントなのによくぞご来場。ええコンジョーしてますね!
3日間頑張ったうみばこスタッフたち。河村さんを筆頭に、さめっちやしんちゃん、そして奥様の歩さん、長女の琉花さん、長男の太陽君、河村さんの実妹・河村千菜美さんなどなど、決してイベント運営なんてほぼほぼやったことなんかないのに、3日間本当にお疲れさまでした!
◆エキゾチックナイト
夜になると、いかにも水族館テイストが満載。夜の帳が下り始めると、エキゾチックそのもの。
巨大石垣フグの剥製もライトに照らし出されて独特の雰囲気に。
昼間はグースカ寝ていたアカエイがなぜか覚醒。来場者に愛嬌を振りまくシーンも。
オレだっているんだからね、とアオハタ。もしかして君たち、最終日だとわかってて頑張ってる?
私たちもよ、とミズクラゲ。「だけと魚じゃなくてプランクトンなんだけどね」。ご親切にどうも。
さめっちワールドの水槽もひときわ引き立ちます。コケや石などを使って、一見パルダリウムにも見える新発想の「滝リウム」。ポンプで水をくみ上げて、手製のフィルターを経由して滝のようなシーンを再現。
ポンプやフィルターのスペースをうまく確保した自信作の滝水槽。2~3匹のサワガニがわちゃわちゃ。一心不乱に登っているところを見ると、本物の滝と思ってくれているみたい。
ほかにも、あわら市・竹田川で捕獲したカワムツ、カマツカ、チチブ、オオカナダモなどの川魚を集約した水槽があったり。
キタノメダカなどの日本メダカばかりを集めた水槽など、さめっちワールドは特に女子に人気でした。
子どもたちは中に。親たちは遠巻きに。こんな光景も昼夜関係なく随所に見られました。「2人揃って生き物が好きなんですよ~。生き物に関して2人は先輩・後輩の関係みたいのようですよ(笑)」。
見学後はわざわざ「参考になりました!」と行儀よくお礼を言って帰って仲良し男子。お母さんのしつけのよさが伺えました。にしても、「参考」ってのがシブすぎ。
移動水族館には目がない男子もいました。「ヘラクレスが好き!」。いやいや、それはカブトムシでしょ。
そういえば、水槽を手で叩いたりする子どももいませんでした。アクアショップを水族館代わりに利用して水槽をバンバン叩いても親は知らん顔、というような哀しい家族はここにはいませんでした。
都会ぐらしをする子どもたちにとって、移動水族館は貴重な体験だったに違いありません。もしかしたら、食用ではない生きている本物の魚を初めて見た子どもたちもいたことでしょう。今回の小さな体験が花を咲かせ、将来のアクアリストにつながればうれしいです。
一方、となりの人間国宝・河村さんを目当てに来場した人は、ぜひ追っかけとして移動水族館を応援してあげてくださいね。今度は奥様方に移動してもらいますから!
地球温暖化の影響で海水温の上昇が懸念されている今、南の海にいるはずの魚が関東で確認されたりするなど、もはや自然環境保全どころではなくなってきています。移動水族館を通じて、子どもたちが未来を考えるきっかけになればうれしいです。