例年より10日ほど早く開催された今年の「日本ベタコンテスト2024」。だのに、会場内はもう熱気の嵐。汗ターラタラ。カメラ持つ手もビッショビショ。盛り上がる会場の中でひときわ印象的だったのが、コンテスト初の女性審査員でした。もちろんIBC公認審査員。この日のために、文化と芸術の国・オーストリアからはるばる来日したトモコ・タナカを、キワメテがスルーするはずがありませんでした。
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◆相変わらず人気のアクアイベント
今年は総勢226匹が出品した「日本ベタコンテスト2024」。すっかりおなじみになった会場には、朝早くから来場者が詰めかけました。
ベタコンテストならではの光景。みなさんシンケン。
あっちでもこっちでもシンケン。
出品されたベタを1匹1匹をこうしてじっくり観賞できるのは、ある意味ベタコンテストだけの大きな特権かも知れません。
「色やかたちの仕上がり具合・健康状態など、ベタ愛好家でなくても参考になることがたくさんありますよ。だから毎年来るようにしています」と、あるアクアユーザー。なるほど~、ベタコンテストはベタだけのためのイベントではないのですね。ここ大事!
◆初来日した公認審査員
午前11時からは公開審査がスタート。審査員を取り囲むように、来場者が前へ前へ迫り出しても全然OK。審査がサテライトで行われるシーンも、すっかりおなじみになりました。
例年ならタイやマレーシア、シンガポールといった東南アジアからの審査員が多いのですが、今年は少し様子が違いました。
日本でIBC連盟の公認審査員の資格を持つベタショップ・フォーチュンの石津裕基さんとともに審査するのが、オーストリア国籍の田中智子さん(左背中)だったからです。といっても、会話もドイツ語ではなく日本語。これはわかりやすい!でもヒソヒソ声なのでようわからん!去年から要所要所でMCによるミニ解説が入るようになったので、これはナイスアイデア。
審査に向き合う田中智子さん。コンテスト初の女性審査員!もちろんIBC公認!生まれは神奈川県ですが、結婚後はオーストリア(オーストラリアとちゃうからね)に移住。自国では、同じ資格を持つオーストリア人のご主人とともに欧州諸国を飛び回っているという、異色のジャッジレディだったのです。
自国では、ベタのおしどりブリーダー(とは言わないか。。)としても有名。オーストリアでは、アクアはもちろんベタの人気も上昇中なのだとか。
ベタに限らず、欧州でアクア熱が高いのはやっぱりドイツ。ニュルンベルグで開催される世界最大級のペット系イベント「INTERZOO」の影響も多分にあるそうです。日本では減少傾向にあるペット系イベントですが、イベントによる波及効果はやっぱり大きなものがあります。
今回のコンテストでは、初めて欧州からも30匹が出品。このうち、C2とG4がクラス優勝。そう、欧州のベタが日本のコンテストで初受賞した記念すべき大会でもあったのです!しれっと書いちゃってますが、いやホント、これって大きなニュースなんですから!
◆アクア以前はキャット
お忙しい審査の合間に、審査員の田中さんに話を聞いてみました。
――アクア歴を教えてください。
「日本にいた時は、魚より猫だったんですよ(笑)。ずっと生きもの全般が好きで金魚を飼っていたこともありましたがとりあえず、猫一色でした」
――え、猫!?なんでニャ~?
「ベタや犬と同じように、猫にもコンテストがあるんです。キャットショーと呼ばれるイベントです。猫の毛並みやツヤ、全体のバランスなどをジャッジするんです。日本でもペットイベントでよく見かける光景です」
――それがまたなぜベタに移行を?
「ある時、いつものように日本でキャットショーがありまして。その時、同じ審査員としてオーストリアから来日していたのが今の主人だったんです」
――ベタより先にご主人と出会っちゃった。
「自然な流れで(笑)。お互い意気投合して結婚、オーストリアへの移住を決めたんです」
―芸術の国ですね、オーストリア。
「モーツァルト生誕の国ですから。今でも音楽文化は盛んですよ。でもとっても寒い国でもあります」
――だのにベタと出会った?
「それはまだ先です(笑)。ベタより先に興味がわいたのはシュリンプだったんです。主人の影響もあるんですが、エビを飼ってみようということになりました。これも自然の流れです(笑)」
――日本でも一大ブームになったことがありました。
「欧州でも同じでした。当時主人は、こうと思ったら一直線に進むタイプで、この時はもうシュリンプ一直線でした」
――そんなに一直線だったら受賞歴も?
「はい、色々獲らせていただきました。私も一直線なんですけどね(笑)」
――ご主人はもともとアクアリスト?
「独身のころはディスカスなども扱うヘビーユーザーだったみたいです。銀行勤めをしているんですが、趣味はずっとアクアリウムです」
◆2度目の「一直線」
――そろそろベタのお話を。
「ある日、主人が1匹のハーフムーンをエビの専門店で買ってきたんです。これいいだろ?と言わんばかりに(笑)。それが私たちとベタとの最初の出会いだったんです」
――例によってベタも一直線?
「もちろんです(笑)。でも当初は飼育に関して若干心細かったみたいですが、知り合いのベタの繁殖をしている人がなんと偶然にも主人と同じ会社にいるクロアチア系オーストリア人だったんです」
――大いに背中を押してくれましたね。
「それからですね、本格的に飼い始めたのは。それにつられるように私ものめり込んでいきました(笑)」
――そして公認審査員の資格も取っちゃいました。
「はい、やっと去年の12月に。試験はかなり難しかったです。主人はずいぶん前に取っていましたので、今では2人で欧州諸国のベタコンテストを飛び回っています。あ、私はキャットショーも継続していますので、ベタと猫との二刀流です(笑)」
過去に何度かキャットショーの審査員として来日経験のある田中さんですが、普段はオーストリアにある日本料理店で働いておられるのだとか。今回、ベタコンの審査員としての来日はこれが初めてとなりました。
◆ヨーロッパアクア事情
――欧州ではどのようなベタが好まれているのでしょうか。
「東南アジアでは色が鮮やかなものや派手なものが支持される傾向にありますが、欧州ではどちらかというとかたち重視です。かたちがきれいで全体的なバランスのとれているベタが好まれている気がします」
――アクア全体の人気は?
「エコ先進国のドイツを中心に、比較的盛んだと思います。一番人気はやっぱりアクアスケープ。いわゆる水槽水槽レイアウトです。かつてこの分野で有名だった、あの日本人アクアリスト(故人)の影響はかなり高かったと聞いたことがあります。今でもあの人の名前を知らない人はいないくらいです」
――日本と違って硬水?
――「そうです。しかもオーストリアではカルキによる消毒をしていないため、カルキ抜きをする必要はありません。とはいっても、飼育水として使用するには水が冷たすぎます。なので、混合栓を利用して26℃にした水を使っています」
――日本ではエアコンを使えば、複数の水槽でも飼育できます。
「そこはすごくうらやましいです(笑)。欧州では絶対無理ですね。なので、温度調整しないといけません」
――個別ヒーター?
「いえいえ。アクア用のパネルヒーターを利用しています。複数の水槽を一つのパネルヒーターで管理しています。なので結構便利ですよ」
――それを自宅のお部屋で?
「いいえ。私が知る限りでは、ベタの水槽を自宅の部屋に置くという習慣はあまりないと思います」
――そうなんですか、意外でした。
「ベタは観賞魚ではなく繁殖用の生体として捉えていますから」
――田中さんの場合は?
「うちはマンション住まいなんですが、自分たちが住むところとベタを飼育している場所とは、完全にセパレートにしています」
――ちなみに水槽はどちらへ?
「地下にあるケラーといわれる部屋です。ケラーはいわば納戸=個別倉庫のようなもので、人によって用途は色々なんですが、私のところでは水道設備が整っているんです。なので、わが家にとっては最高のアクアリウムのスペースなんです(笑)。日本の住宅事情からは想像できないと思いますが」
――エサはどういうものを?
「ベタに関しては、フォーチュンさんで販売されているものを使っています。サイズも含めてとてもベタの健康によくて、海外ではなかなかあれほど栄養価の高いエサはないと思います。宣伝っぽくなっちゃいますが(笑)。いや、本当にいいので」
飼育当初は、オス同士を同じ水槽で飼ってはいけないことさえ知らなかったという、ベタに関しては超ビギナーだった田中さんでしたが、その後ご主人の助けもあってしっかりベタオーナーとしての地位を確立。念願のIBC公認審査員としての資格も取得。「もうベタから変わることはないと思います(笑)」。
◆今年も総合優勝はワイルドベタ
今回のコンテストで田中さんが一番驚いたのが、ワイルドベタの出品が思った以上に多かったという点でした。「欧州では考えられません。向こうではやっぱりショーベタがメインだからです。ワイルドベタが参加できるコンテストもほとんどないくらいですから」へえ~、それも初耳でした。「ワイルドベタを飼っている人はいますが、コンテストに出そうという発想がまずないんですよ。だから本当にびっくりしました」。審査員としての役目を無事終えて、大きな刺激になったようです。
「ペアのラブラブシーンも審査の対象なんて、ちょっと感動しちゃいますよね(笑)」。これを機に、欧州でも日本のようにワイルドベタを浸透させてください!「そうですね。ワイルドベタのよさを知ってもらうためにも、頑張っていきたいと思います!」と力強く答えてくれました。約束げんまん。
今年の総合優勝は、去年に引き続きワイルドベタが受賞。しかも受賞者の西原大輝さん(枚方市)も2年連続という快挙を成し遂げました。それでなくてもワイルドベタが総合優勝する機会はあまりないので、田中さんもさぞ驚かれたことでしょう。
ちなみに、副賞となったベタの置物は、欧州のとあるベタのブリーダーが3Dプリンターでつくった作品なのだそう。世界にたったひとつ。これはなかなか手に入らないレアものですよ~。
かくして「日本ベタコンテスト2024」は無事終了。受賞者のみなさん、おめでとうございました!そしてスタッフのみなさん、お疲れ様でした!
表彰式では、来日した田中さんを讃えて感謝状と楯が贈られました。2日間、お疲れ様でした!気をつけてお帰りください。ご主人にもよろしく!
日本ではアクアが苦戦を強いられていますが、欧州諸国では絶好調の様子。ベタという魚が、これをきっかけに国際的な架け橋になればいいですね。
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【速報】ベタコンテストで受賞歴も多い野瀬寿代さん(三重県松阪市)が、このほどIBC公認審査員試験に合格。晴れて日本人2人目の快挙を果たしました。もちろん日本人女性としては初。野瀬さん、おめでとうございます!※野瀬さんの懐かしすぎる過去記事はこちら