1988年に創立された、大阪動植物海洋専門学校(創立当初は「大阪生物工学専門学校」)。
文字通りペット系専門学校の老舗でもあります。
同時に、アクアに関しても創立当初から独自のカリキュラムやユニークな講師陣によって、学生たちを育成してきました。
今でこそアクアや動物を扱う専門学校は珍しくありませんが、果たしてここの学校ではどんなアクアの授業が行われているのか、学生たちがどんな毎日を送っているのでしょうか。
同校の門を叩いてみることにしました。
◆「大正の学校」というだけで
どちらでアクアの勉強を?の質問に対して、「大正にあるアクアの専門学校で学びました」という声を、取材中によく耳にすることがあります。ショップやメーカー、養魚場、メンテナンス会社などなど。聞き方を変えて、出身校は?と聞くと「大正の専門学校です」と。ああ、ここでも。極端なケースだと、「学校は?」「大正です」と。こちらもだんだん慣れてきて、こんな超ショートカットな会話も(笑)。
これまでの取材で何度も耳にしてきた「大正の学校」。よほど鈍感でなければ、この学校に興味を持たないはずがありません(笑)。というわけで、今回本気で「大正の学校」を攻略してみることにしたのです。場所はどんなところに?どんなカリキュラムが?どんな学生が?などなど、期待は膨らむ一方です。
つい最近誕生した、学校のロゴマーク。わんちゃんとねこちゃんにはさまれて、ちゃんとお魚が真ん中に。学校的には、OAO(オー・エー・オー)と呼んでほしいのだそう。そういえば、青いポロシャツの背中にこのマークが入ったスタッフを、アクアのイベントではよくみかけます。
ほら、こんな感じ。イベント会場でみたことがある人も多いのでは?そうですよー、これからは「大正の学校」ではなくOAOと呼びましょうね~(笑)
10月のとある午後に、取材訪問。あいにく、台風接近により休校になる可能性もありましたが、何とか持ちこたえました。そういえば、去年も別の専門学校に取材を試みた時も台風接近の影響でギリギリセーフだったことも。いつも波瀾含みの学校取材、何なんでしょうねこれって(笑)
場所はJR大阪環状線・大正駅から歩いて2分の立地。あれほど「大正の学校」と刷り込まれてきただけに、降りる駅を間違うはずがありません(笑)。それにしても、居酒屋の多い至って庶民的な駅前の光景。まだ二十歳そこそこの学生ばかりだから、「帰りに一杯」ってなことはないとは思いますが。むしろ、オッサンたちイコール先生がたのパラダイスかもしれませんね(失礼!)。
◆水族館をイメージした水生生物学科実習室
午後1時すぎに学校到着。なかなか目立つカラーをしています。青空とのコントラストもなかなかイケてます!
玄関を入ると、120㎝水槽にコロソマやレッドテールキャット、ノーザンバラムンディーといった、主にアマゾンあたりに生息する淡水魚が出迎えてくれました。
まずは水生生物学科の実習室から。おお、なんか水族館みたいですね。「そうなんです。まさにここの実習室は、ひとつの水族館をイメージしてるんです。そして展示テーマや展示方法など、すべて学生たちが自主的に取り組んでくれています」と、教務課の太田裕介さん。太田さん自らもアクアや植物に造詣が深く、ある意味マニアでもあります(笑)。
ちなみに、太田さんが大事に育てているのは盆栽ではなく、水盆といわれるシロモノ。太田さんの密かな楽しみみたいですよ。
入口を入ると、コンパクトにまとめられた完成度の高いテラリウムと遭遇。川の上流をイメージしたアイキャッチ的存在で、去年のOBの作品だそう。ちなみにこのOB、現在はとあるメンテナンス会社で活躍中です。
うん?カメラを向けるとポージングをしてくれるニホンヒキガエルがこんなところに。以前この学校の先生が捕獲してきたらしく、年齢不詳だそうな(笑)まるでココの主のようで。
そして、ここからは川の上流域から下流域に至るまでの様子が、パノラミックに再現されています。これも学生自身が企画し行動し展示したものというから、あっぱれです。「とにかく自由な発想で生まれた結果です。こうしたトレーニングの積み重ねが、学生たちが巣立っていった時に必ず役に立つものと信じています」(太田さん)。一貫した現場主義。そして重んじられる自主性。なるほど、そして水族館としてのノウハウをキワメテいくんですね。「はい。あ、今キワメテ水族館と言わそうとしたでしょ(笑)?」(太田さん)。ハイ!
それぞれの環境を水槽で再現したり、生態についての解説が手作りのPOPを使って展示されていたり。実に念入りに調べられていて、単なる実習室としておくだけではもったいないほどよくできています。
◆現場に足を運ぶことでスキルアップ
このコーナーの水槽を制作したのは、幅野陽介君。自身が住む滋賀県湖南市の里山の風景を、水槽に再現しました。稲が刈り取られたばかりの水田。その下にはさまざまな水中動物。まるでジオラマです。背景の写真も、幅野君自らが地元で撮ってきたものだそう。
「生まれ育ったこのまちが大好きで、実習を兼ねて自然豊かな魅力な点をアピールしてみたかったんです」と幅野君。将来は、フィールドワークを通じて環境など社会貢献ができる仕事に就きたいという2年生。実習のために、生きものなどすべて自分で採取してきたのだとか。それって結構大変だったのでは?「いえいえ、実際に現場に足を運ぶことで生態系もわかりますし、そこにしかない生物をみつけることもできました」と幅野君。まあ何と優等生的な発言なんでしょう(笑)。自由な校風で培われたアクアな頭脳は、将来あるべき自分の姿をちゃんと見据えているかのよう。
この間、ふと水槽をみるとこんなものがいたことにも驚いた幅野君。「いないはずのコガムシの卵があったんです!」(白い部分)と。水槽という人工環境でありながら、ビオトープみたくちゃんと自然環境が息づいている証拠。しかもこの大正区に(笑)。
ここでは、琵琶湖の水中を再現。川の上流からやがて水は湖に注がれ、魚の体型も少しずつ大きくなっているのがわかります。ここではカネヒラ、ウグイ、ギギなど、アクアショップでも人気の淡水魚が元気に泳いでいました。
◆やっぱり夢は自分でつかむもの
そして淡水と海水の混ざる汽水域のコーナーへ。実習では、ここからさらに海水域へと広がり、それぞれの水槽を思い思いのプランで学生たちが担当しています。
ここの担当の杉山 遼君は、小さいころから海と親しんできた生粋の和歌山っ子。そういえば5月に行われたペットイベントでも、学校のブースで頑張ってました。
ほら、この通り(笑)。杉山君の笑顔、絶対イベント向きです!
ユニークなのは、ろ過材。とかく水質管理が難しい海水を、通常よりろ過能力を高められないかとの発想のもと、専門の先生と智恵を出し合うことに。マハゼやクサフグ、ボラなどを飼育しながら、上部ろ過フィルターの一部分と生物ろ過フィルターを自作。そして通常のリングろ過材に加えて、意外なことに園芸用品として使われている防犯砂利に効果があることを知りました。
生きものをを扱っているので、学校にいなくても24時間気がかりだという杉山君。「効果が表れて、すごくうれしかったです」と、本当にうれしそうな杉山君。もうメンテ会社顔負け(笑)。まず自分が疑問を抱き、それを専門の先生にぶつけ、そして解決に導いていく。こうした図式で思わぬ発見があったり意外なノウハウが体得できるのも、この学校ならではかもしれません。常にやる気と隣り合わせ。学生たちのモチベーションが上がるはずですね。
さてさて、実習水槽は国内をイメージしたものばかりではありません。西村和馬君は、日本から遠くインドネシアの海域を再現しました。壮大なテーマに取り組んだ西村君、それにしてもメンテが行き届いていて、とってもきれいな水槽です。もしかしてイケメンはきれい好きが多い(笑)? 特にナンヨウハギは肌がデリケートで、飼育が難しいのだとか。
東南アジアのマングローブの熱帯雨林を再現した水槽もありました。この水槽にはなんと、あのテッポウウオもいたりしました。
このコーナーは、女子学生が担当する小規模のペットコーナー。女子力アップが目的なのだそう。
自分たちでテーマをみつけて、自分たちの世界観が水槽で再現された水生生物学科。しかもそれらのノウハウは、なんらかの方法で自分でつかんできたものばかりです。与えられた課題があるわけでもなく、こうしなさい・こうであるべきだといった大きな規制もなく。取材にもハキハキ答えてくれる姿勢は、大人としてすでに完成されている感じがしないでもありません。アクアに限らず、やっぱり夢は自分自身の手でつかむものだと実感しました。
◆ショップ販促を研究するアイアライフ学科
続いて訪問したのは、アクアライフ学科。水生生物学科と違って、実習室に置かれている水槽はやや小振りですが、数があります。
「この学科のイメージは、アクアショップなんです。どう水槽を配置すれば、お客さんの目を引くか、どうみせれば購買意欲につながるか、などを常に意識して実習しています」(広報部・谷田智則さん)。なるほど~、ショップを意識した実習とはかなり具体的なコンテンツですね。最近はアクアショップを希望する学生が多くなってきたそうです。低迷しているといわれるアクア業界、2~3年後、いやもっとその先も、きっと明るい未来が待ってますから!
メンテなど実習にあたっている学生たち。真剣なまなざし。時折みせる笑顔。そうそう、ショップのスペシャリストは笑顔イコール接客というポテンシャルも必要なんです。このシーンをみているだけでも、まるでショップにいるようです。
1年生の谷上咲奈さんは、小学生のころからカエルを飼うなどして、魚を飼育していたお父さんの影響を強く受けてきました。「ペットショップに勤めるという夢を絶対叶えたいんです」と、柔和なキャラのわりには意思はハッキリと。実習では、魚の飼育以外に、ショップの仕事としては必要不可欠なパッキングのノウハウも学んでいます。つい先日、パッキングについて口頭による「抜き打ち質問」があってビックリしたのだとか。え?抜き打ち質問?こっちがビックリしてしまいました(笑)。あー、でもショップではお客さんからどんなことを聞かれるかわかりませんし、この実習方法はより実戦的でいいですね。
「小さいころから、生け簀をみただけでも興奮してました(笑)」という1年生の藤田英里さん。谷上さんと2人で2本の水槽を受け持つ以外に、つい最近ベタを藤田さんが担当することになりました。先日、昭和プラティの生態などに関して抜き打ちの質問があった時も、ほぼ完璧に答えられたとか。おお、ここでも抜き打ち質問が。現在ペットショップにアルバイト勤務しているせいでしょうか、受け答えもしっかりしてました。どちからというと、アクアショップよりメンテナンスのスペシャリストになりたいそうです。きっと、引く手あまただと思いますよ。
最近入荷したベタ。「ベタはどこの国生まれか知ってる?」と、キワメテ!水族館編集部も、2人に抜き打ち質問を試みてみました。矢継ぎ早に(笑)。残念ながら、タイ生まれでしかも闘魚だということまではまだ知らなかったらしく、目を丸くして驚いてました。エッヘン、まだまだ青いねーキミたち(笑)
アロワナたちも優雅に泳いでいます。栄養が行き届いているのか環境がいいのか、とても居心地よさそう。
ん?水草セール実施中ってこれも実習の一環(笑)? 有茎草が3束で900円とは安い!
そろそろヒーターの季節となってきました。こうしたアクア用品のタイムリーな呼びかけは販促につながります。書き方ひとつで売れ行きを左右するPOP。そういえば先日取材したあるショップでも、「POPだけに専念してもらえる優秀なPOPライターがいたらなあ」という切実な声を聞いたことがあります。POPの果たす役割は思った以上に大きいものなんですよ、学生諸君!
ん?実習生にファッションモデルが乱入?場違いと思いきや、何とこの女子もこの学科の学生さんでした。「子どものころから魚が好きであこがれていたんです」と、濱 愛衣さん。へー、人はみかけによらないものです(笑)。
将来が楽しみだと感心していたら、「子どものころ夢みてた読者モデルの道も捨てがたいと思って(笑)」だとか。。。どっちやねん(笑)!
実際のショップでは、水槽のメンテナンスは接客と同じかそれ以上に大事な仕事。こうした地道が作業が苦にならないことには、ショップスタッフは務まりません。ある意味、ショップの基本。決してやらされてる感がない学生たち。入学時にこの学科を選んだ時から、早くも目的意識がハッキリしているのかもしれません。
この学科で実習を積みながら、アクアショップでアルバイトに従事している2年生も少なくありません。またインターシップ制度により、実際の現場で職場体験ができる制度もあります。とにかく、少しでも多くの時間を社会イコール現場ですごしてもらおうという配慮がそこかしこにあります。
そして思うことは、アクア業界に一番近い学校だなーとつくづく。学生自身にとっても大きなチャンスであることは否めず、やはり夢や志は早いうちに目標を立てたほうがいい、としみじみ思いました。老婆心ながら。
「技術も大切ですが、接客面でもコミュケーション能力はとっても大事な要素です。お客さんのニーズをつかめる能力、そしてスタッフとして提案できる能力。それができる学生なら、どこへ行っても成功すると信じています」と話す広報部の谷田さんも、この学校のOB。そのせいか、学生同様実にフレンドリーです。いやいや、ほかの先生からしたら、単に「おいしいところだけを持っていっただけ」だそうです(笑)
あ、余計なことかもしれませんが、この日「逆取材」を受けました。まだ取材の半分も済んでなかったですが(笑)。こんな体験をするのも珍しく、何かにつけこの学校がいかに風通しのいい校風かということを理解できたような気もします。
◆学外のイベントなどでも大活躍
同校は、関西で行われるペット関連イベントにも積極的に出展しています。その際、スタッフの中心となるのは、ほかならぬ学生たちそのもの。もちろんイベント内容も自分たちで企画立案し、設営から運営・撤収まですべて学生たちが携わります。
このほか、イベント全体の協力スタッフとして派遣されることも珍しくありません。「あの学校の学生だったら間違いない」と、主催者側と学校との信頼関係が強いからこそ、こんな場を与えてもらえるのでしょう。
学生自らが講師となって、校外でレクチャーすることも珍しくありません。これは、大和川河川公園付近で行われた「水辺の楽校」。近隣の子どもたちに、大和川での魚の採り方や水質についてレクチャー。年2回のペースで行われ、親御さんたちからも好評をいただいています。学生たちのさらに次代を担う子どもたちへ、準備や運営にも熱が入ります。
こちらは、尼崎市立園田地区会館で行われた講座に講師として参加。海の生きもののレクチャーや、貝殻などを使った夏休みの宿題などをお手伝いしました。いつもは教えられる立場の学生が、この時ばかりは教える立場に。どうすれば子供たちが自分たちの話に興味を持ってくれるか、あるいはアクアの知識をちゃんと教えられるか、身をもって体験できるまさに「逆インターン」といえるでしょう。
学生たちが、普段から自分の研究成果をきちんと説明できるプレゼン能力にも長けているのも、こうしたイベントや課外授業の経験や緊張感がモノを言ってる気がしてなりません。やっぱり「外に出ること」というのは、スキルアップのために大事なことなんだと、思い知らされた気がしました。
◆ちょっと寄り道して動物や爬虫類
「どうですか?ちょっと動物コーナーもみてみませんか?」と人懐こい笑顔を投げかけてきたのは、教務課の藤井保聡さん。ペットイベントではいつもスーツ姿でおなじみのキャラなんですが、「あれは仮の姿ですから(笑)」。実習室ではミーアキャットを愛しそうに抱っこして話してくれました。
これが藤井さんのいう「仮の姿」(笑)。
「キワメテ!水族館」のスタッフもアルマジロを抱かせてもらいました。まんまるなバディーではありますが、よくみるとちっちゃな目が可愛いです。
この豚クン、ちゃんと「おすわり」ができるそうです。それをできる唯一の女子学生、あいにく今は別の授業を受けているとかで藤井さんがチャレンジしたものの。。。やっぱりダメでした(笑)
研究についつい夢中になると、机などどこ吹く風(笑)。女子力強し!
このほか爬虫類もたっぷりいましたよ~。閲覧注意(笑)!
◆自由であるからこその責任感
今回はアクア関連の学科を中心に取材してきましたが、いうまでもなく紹介しきれていない学科や施設もまだほかにたくさんあります。機会があればいずれまた。「大正の学校」のすごさがこれだけでもよくわかりました。
先日大和川で行われた、水生生物学科による水質調査の実習より。そして数日後、学校で成果発表と反省会。学外や学内で、こうした多角的な授業の繰り返しこそが、さらに学生を刺激し活性化されるのでしょう。
自由な校風で学生たちがのびのびと実践的な2年間をすごしたその先に、今回の取材のきっかけとなったショップやメンテナンス会社などの第一線で活躍しているOBが多い理由もわかりました。
自由な校風とひと口でいうのは簡単ですが、反面、学生たち自身にそれだけの責任が伴います。だから、目的意識があるかないかで、研究成果も将来への道も決まってくるような気がします。自由というのは、決してラクという意味ではないことも、今回の取材でよくわかりました。
これからも、専門学校というワクにはまることなく、クリエイティブな発想でアクアを支えてくれる若い人たちが生まれることを期待せずにはいられません。
今日限り、「大正の学校」という言い方はやめます(笑)。
◆~エピローグ~恐るべし!OAO
取材を終えて、台風の影響による雨が止むのを待ってから立ち寄った、地下鉄九条駅前にある一軒のアクアリウムバー。以前から気になっていたところだったので色々と雑談を交わしていると。。。マスターがこれまた偶然、またしてもOAOのOBでした。OAO、恐るべし(笑)!
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