創業は1967年。当時は、同じエリアに3軒もアクアショップがあったというアクアバブル華やかなりし時代も。時は流れ、今では大正区でたった1軒になってしまったアクアメイク。孤軍奮闘中の路面店ではありますが、下町人情あふれる場所で気さくな人同士が寄り添っています。「なくなったら困る」、地域密着型の路面店にお邪魔しました。
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◆知る人ぞ知る「大正鶴見園」
創業は58年前。当時は、西成区鶴見橋にあったアクアショップから暖簾分けを勧められた経緯もあり、屋号は「大正鶴見園」としてスタート。交差点の奥、この道に沿って店舗を構えたのがアクアメイクの始まりでした。
当時は大手企業を始め造船所や製鉄所などで活気づき、沖縄からの移住者も多かったことからアクアを趣味にする人も少なくなく、下町路面店として賑わっていきました。
現在の場所に移転してきたのは創業から20年後。大正区のメインストリートともいうべき大正通り沿いに店を構え、「アクアメイク」に屋号を変更して再スタート。その後、初代オーナー・山田博さんからバトンタッチしたのが2代目オーナー・山田豊さんでした。生まれは何とズバリ創業時の1967年。豊さんの子ども時代を知る近所の人たちは、今も「ゆーさん」と親しみを込めて呼んでいます。
「いやあ、親子のことですからねえ。目標は同じでも、やり方の問題でよくケンカもしましたよ(笑)」とゆーさん。それはどこでもそうでしょうし、アクアに限ったことでもありません。
2代目を引き継いだのは、ゆーさんが30代前半の時。それまでアクアなど眼中になく、子どものころ近所のお客さんに小遣いをよくもらったという印象くらいしかないほどだったのだそう。
「なんで(店を)引き継いだんでしょうね」とか「食っていくためにはしゃーないですからね」などとうそぶくゆーさんですが、心の奥底では親に対する揺るがない信頼があってのことに違いない。やや無愛想にも見えるゆーさんですが、ハートも温かい人情家。いわゆるツンデレなだけです。
アクアを始めるにあたって心配なことや不安などがあれば、どんどんぶつけちゃいましょう。実は話好きだったりするゆーさん、ちゃんと親切に対応してくれますから。世間話でも何でもいいので、お客さん自身から話題を振ってみたらよくわかりますから。
◆よきオールマイティ
こんなところにストーブが鎮座しているのは地震対策の一環。阪神淡路大震災など過去に大きな地震があった際、一時的にせよ電気がアウトになった時は、「これがあったことで本当に助かりましたから」。ライフラインが電気中心になっている今、時としてガスや石油の恩恵を受けることも少なくないのです。
160㎝の水草水槽。ロタラHraやルドージアのスーパーレッドなとがゆらゆら。
まるで水草水槽。口には出さなかったものの、きっとゆーさんお気に入り水槽に違いありません。
奥行のある店内。魚の数も種類も多い気がします。どちらかというと、オーマイティー的な品揃え。初心者にもちょうどいいたたずまい。
「小魚の品種が多いですねと言われることが多いです」。確かにそう。モットーは「広く浅く」。誰でも手軽にアクアが始められるようサポートをしてくれる店こそ、ユーザーにとってはありがたいんです。
それにしても水槽がきれい。天空から見下ろすシルバー・シャークも気持ちよさげ。
見渡したところ、グッピーが多い気がします。多くのグッピーは国産で系統がハッキリしたものばかりで、しっかり仕上がっているので安心です。
ミッキーマウスのような模様が特徴的で子どもや女子に可愛いと人気のミッキーマウス・プラティ。
◆マニアックな南米産メダカ
大正区産のモルフォ・ディスカス。オリジナルの乾燥フードで大きくなった個体ばかりなので、キャリアを問わず誰にでも飼育できるのだとか。価格もリーズナブルなのでぜひ。
何と、ゆーさんの奥様がブリードしたというミニサイズの国産コリドラス。まさに自家製。ジュリーやパンダなど、どの子も元気で、エサをあげるとシャカシャカやってきます。
2年前に取材した同じ大正区の飲食店・焼きそばぷれこで飼育されていたゲオファーガス・スタインダックネリーも第2の人(魚)生を満喫中。
アロワナだっています。アジアアロワナ・スーパーレッド。
みんな大好きアペニー・パファ。
去年末、卵生メダカ専門店をオープンしたアクアユーザーがブリードした稀少な南米産のヒプソレビアス・フルミナンティス。かなりマニアック。
ほんまにマニアック。小さなプラケにひっそりいて、目立つようなPOPもありませんがマニアだったら速攻見つけそう。ほかにも掘り出しものがありそうな予感。
超珍しい水槽発見。しかも未開封。60㎝水槽が月間10本以上売れていた時代の名残。懐かしすぎるアクアバブルのレジェンド水槽。「先日倉庫を整理していたら新品在庫があったんです」。超レア水槽。これきっと欲しい人いるはず。もちろん1個限定。早い者勝ちですよ!
ショップ内の約半分がアクリル水槽と聞いてびっくり。特にこの列の水槽は、創業当時から使っているものだとか。耐久性はもちろん、こんなに透過度が保てているなんて、メンテが行き届いてるからですよね。「いや、何もしてないですよ(笑)」。
◆下町人情の夜物語
店先にある水草を指さして、「これ3本ちょーだい」と高齢男性。聞くと、グッピーが増えてしゃーないとか。「別にペットボトルも使ってるんやけどな。それでも増えよる(笑)」。めっちゃ大阪のおっちゃん。
ペットボトルだったら横向きにして使うほうがいいですよとアドバイスするゆーさんに対して、「いやいや、ポツポツ穴を開けて使ってるから」。ああ、水槽の中に入れて使っておられるんですね。水槽とペットボトルと別々だと思ってました。「あー、私もですわ」とゆーさん。「ちゃうちゃう。ワッハッハッハッ」と3人で大笑い。
何やら印刷物を持ってきた初老男性。恰幅がよく存在感もあるため、町内会長さんかと思いました。「なんでやねん(笑)!」といかにも大阪らしいツッコミ。同じ大正通りで酒屋と居酒屋を経営するかたわら、釣りが好きすぎて釣り道具の販売も。取材のあとに立ち寄ってみたら、アカマツカサなど自身が和歌山の海で獲ってきた魚を水槽で飼育。魚拓の数もハンパなし。もう頭クラクラッ。いやはや、楽しい人が多いエリアです。
夜になると一人の女性。ネオンテトラが好きで去年夏にアクアを始めた初心者。最近コケが増えて心配になってきたので、水質のpHをチェックして欲しいと来店。検査の結果、特に問題ないですよとゆーさん。しかも無料で。こんなことをやってくれるものも、路面店の強みにほかなりません。「ちゃんと書いていてくださいよ(笑)」。
今年小学生になる女性の息子さんとも、まるで孫と遊ぶおじいちゃんのような絡みで店内も賑やかに。コケ対策にとヤマトヌマエビを購入した女性でしたが、こんなフレンドリーな関係が築けていけるのも路面店ならではかも知れません。
◆目前に創業60周年
総合病院でもなく専門病院でもなく。そう、このショップを病院に例えたら、かかりつけの開業医的存在。だからお客さんが定着するのがわかる気がします。
人口約6万人の大正区では唯一のアクアショップ。多くが廃業していく中、かかりつけのお医者さんがいなくなったらみなさん困ります。
記念すべき創業60周年まであと2年。初代オーナーもゆーさんも、それまで元気でいてください。2年後またお会いしましょう!