2023年に正式オープンしたマリンアクアショップ。スケールが大きすぎて、全然「ちょこっと」じゃない本格的路面店です。店内はマジで水族館。通称「ちょこ水」。もちろん宝塚市では稀少なサンゴと海水魚の専門店。2年前の開業を機に、さらにブラッシュアップしようとしています。
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◆のどかな風景とともに
兵庫県宝塚市郊外の一角。北側に山々を望み、貯水池や田畑など自然が数多く残るのどかな風景が印象的。
まさかこんなところに「海」があるなんて、誰が予想できたでしょう。訪れたのは今季一番の寒波が襲来した1月のとある日。このあと雲行きが徐々に怪しくなり、粉雪が舞い散る中の取材となりました。
ショップはJR中山寺駅から歩いて10分足らず。南北に延びる市道は意外と交通量も多く、レストランなどの飲食店や温泉施設なども数多く点在していて、まさにわくわくロード。
そんな幹線道路沿いにあるのが、「ちょこっと水族館」。オープンは2023年9月。それまでは、実店舗ではなくネットを通じてサンゴや海水魚、飼育機材などを広く販売してきました。
おうちや町中に「ちょこっと」とした水族館をつくってほしい。そんなオーナーが込められた屋号。さらに、O(オー)の母音が3つ続くと耳残りがいいことにも着目。うん、確かに3つあって発音しやすいですね。当初はカタカナ表記も考えたそうですが、誰にでも覚えやすく親しみやすい屋号に着地しました。
◆広がるコーラルワールド
期待に胸を膨らませてトビラを開けてみると。。おお~、どこがちょこっとやねん!「どかんと水族館」でもよかったんじゃ?ここにはまぎれもなく海が広がってます。外では小雪が舞ってるなんて信じられません。まさに常夏。そしてエキゾチック~!
敷地面積は77㎡。オール海水水槽。メインとなる3本のフラグ水槽を中心に、全部で10本。特に3本のフラグ水槽はすべて200×100×35㎝とビッグサイズで、ほかの水槽と一線を画しています。ある意味、ちょこ水の生命線でもあります。
造波ポンプによって醸し出されたゆらぎがいい感じ。波音まで聞こえてきそうで、なかなか見る機会の少ないコーラルワールドがたまりません。
カラフルな海水魚やサンゴを眺めていると、時間が経つのも忘れてしまいそう。聞くと、地元の保育園の散歩コースにも組み込まれているそうで、小さなころからこんな美しい世界に触れることで、将来が楽しみです。
めっちゃ高そうな海水魚専用照明。
3本のフラグ水槽は、しっかり配水管でつながっています。
そして、それぞれ同一の塩分濃度になるように管理されていることはもちろん、250種類といわれているサンゴの特性に合わせてPAR値(波長の光の強さ)で水槽が振り分けられています。演出や雰囲気の役目もなくはないですが、サンゴの成長に大きく関わるPAR値の把握は、海水魚オーナーにとって必然です。
こちらは比較的光量が弱いグループのフラグ水槽。ディスクコーラルやハナガササンゴ、オオタバサンゴなどを育成。
こちらはタコアシサンゴやキクメイシ、エチナタなど。光量としては、中間的な部類に入ります。
3つのフラグ水槽のうち最も強い光量が必要なミドリイシやアメスナギンチャク、ショウゴサンゴなどを育成。
命の源ともいうべき照明にサポートされて、フラグラックの上で元気に育っています。
ショップというより、まるで海水魚の研究機関のよう。しかも価格が表示された店頭POPなどの類がひとつもまるでありません。だからかー。あくまで水族館のエキゾチックなイメージをとことん保ちたかったからだそうです。
◆地域の社会福祉にも貢献
ちょこ水の第1号導入水槽が、こちらの横長タイプ。カクレクマノミやマンジュウイシモチ、ナンヨウハギ、スクリブルドアンティアス、カリビアンフレームバックピグミーエンゼルなど、まさに海水魚を代表する個体がいきいき泳いでいます。
水槽のサイズは120×45×45㎝。淡水ユーザーが熱心につくり込む水草レイアウト水槽のように、こちらは海水ユーザーが理想を追い求めた結果のいわばサンゴレイアウト水槽。サンゴや底砂とのバランスも絶妙で、海水魚を手がけてみたいと思わせるプレゼンテーション的水槽です。
こんなアクアマリン怪獣つくったのだ~れだ?「はい、私です(笑)」と笑顔で対応してくれたのはオーナーの司尾賢一郎さん。弱冠36歳。外車ディーラーや証券マンを経て、もともと趣味だったアクアを本業にしてしまいました。
といっても、昔から海水魚オンリーという変わりダネ。「これがアクアだと思っていたので。逆に淡水魚のことはあまりよくわかってないんですよ(笑)」。
なぜまたマリンアクアを本業に?「うちで飼育しているカクレクマノミ、息子が大好きなんです。前職の仕事で色々悩んでいた時、ある日知り合いの占い師さんから“息子さんが好きなものを本業にしてしまうのが一番”と言われたんです」。えええ、それが開業理由?「はい、まさに神がかりでした(笑)」。
そのあとは神の思し召しもあってか、まさにとんとん拍子。就労継続支援B型の事業所として開業以来、数人のサポーターさんに支えられながら地域の社会福祉にも貢献しています。
サポーターさん最年少の22歳のゆうちゃんは、ここへきてそろそろ1年。毎日生真面目に水槽をお掃除。今まで無縁だったアクアとも、「仕事を通じて少しずつアクアの楽しさもわかってきました」自分で飼う気とかは?「それはないです(笑)」。
お昼休みになると、ソファに腰を下ろして横長水槽をじっと眺めているサポーターさんも。「毎日こうして眺めてます。なんてきれいな世界なんでしょう」と、サポーターさんの精神的な支えにもなっているようです。
◆宝塚に新名所?
現在、カクレクマノミを繁殖させようと絶賛チャレンジ中。「カクレクマノミというと、海水魚の定番ないしは初心者向けというイメージがありますが、実は奥が深いんですよ。現在はクリティカルピリオド(臨界期)を抜けて変態期まで様子見を繰り返しています」。
これもクマノミの一種。白い体色が印象的です。
色々な掛け合わせにも挑戦中です。「繁殖のノウハウが確立されれば、いずれはベタのような飼育や楽しさが味わえるかも知れません」。
900×600×45㎝の水槽を使ってずっと取り組んできたウニやアワビなどの蓄養、いわゆる陸上養殖のテスト飼育もいよいよ佳境に。
ショップの一部には、真新しいウニ専用のスペースもすでに確保され、準備OK。今は閑散期ですが、地元鳥取の海女さんが本気を出す季節になれば約4,000個のウニが届く予定です。ウニの陸上養殖が本格的に始まれば、ここが宝塚の新名所になる日も夢ではありません。ウニタカラヅカ!
見るアクアから、食のアクアへ。常日頃からマルチな視点を持っていないと、これだけのことはできません。
◆まだあるんか~い
水槽以外にも、見たことのない設備があります。これはフラグ水槽でも使われているオリジナルの全自動のロールフィルター「チョコロール」。ネーミングだけ聞くと何だか美味しそう。
ロール状に設計されたフィルターは、付属のコントローラーを使ってセンサーが汚れをキャッチする仕組みです。汚れたフィルターは自動的にクルクルと芯に巻かれ、新しいフィルターが出現。シンプルかつ、今までありそうでなかったユニークなフィルターです。
サイズやカラーなどのバリエーションも色々と。
特筆すべきは、国内での取り扱いはちょこ水オンリーだという点。中国メーカーとの信頼も厚く、開業以来すでに100個以上の販売実績を誇っています。
これをバージョンアップさせた背面ろ過仕様のフラグタンクも新登場。
さらに、在籍するスタッフのこれまでのアクア歴を生かして、改良メダカの販売も始まりました。
そして今年4月には、2号店が西宮市の国道171線沿いにオープンすることも決まっています。どんなアイテムを?「スティングレイやゴールドフレークエンゼル、クイーンエンゼル、タイガーエンゼルなど、いわゆる海水魚の中でも高級魚といわれるものだけを扱っていく予定です」。高いもので40~50万円する個体もあり、原産地・スリランカとのパイプも出来上がっています。※写真は司尾さん提供
何から何まですごい勢いのちょこ水。エネルギーの源はどこにあるんでしょう。「自分が面白いと思ったことをしてるだけなんですけどね(笑)」。いやいや、サラリーマン時代に培ってきた社会情勢と数字に強い経営手腕がなければ、ここまではできません。
司尾さん曰く、「サンゴ飼育は盆栽に似ています。たとえ小さなフラグ(サンゴのカケラ)にも命があり、それをうまく育てていけばさらなる命を増やし続けていくことができます。そんな命の営みに惹かれるですよ」。
司尾さんにとってのアクアは、マリンアクア。「これからも海水魚の面白さを広く伝えていきたいです。大丈夫ですよ、私にでもできたんですから(笑)」。多くの人が集える店。それがコンセプト。司尾さんの進化はまだまだ続きます。