関西では、「住みたい沿線」として常に上位にランクインされている阪急神戸線。どことなくハイカラなイメージのある武庫之荘駅(尼崎市)近くで、定年退職を機に開業したのが「近松めだか」。ショップのオーナーでありながら、地元ではすっかりおなじみの「メダカのおっちゃん」でもありました。
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◆20㎡のスペースに夢ぎっしり
阪急・武庫之荘駅から歩いて約10分。閑静な住宅街で突如目の前に立ちはだかった、ユニークなスタイルのマンション。マンション名にアトリエのという文字が盛り込まれているせいか、外観はどことなくクリエイティビティ。
その1階、いや半地下?に「近松めだか」がありました。だから屋号が近松(地下待つ)めだか?・・んなわけないか(実際は尼崎ゆかりの江戸時代の脚本家・近松門左衛門にちなんでつけられました)。
マンションのエントランスから5段降りると右手に入口。反対側には2~3人が座れる長椅子も。混雑時にここで待機してもらうためのアイテムにほかなりません。そう、オープンした2年前といえばコロナ禍真っ只中でしたから。にしても、待ち会いコーナーまであるとは、何と心優しい。
おお~、表からは想像できないほどの長~い店内。そこに水槽がびっしりと。しかもどの水槽もピッカピカできれい。これはいい意味で期待を裏切ってくれました。ちなみに土足厳禁。ショップのスペースは約10×2m。面積20.82㎡と相当な狭小。もしかして、アクアショップとしては史上最小?だのに、それを感じさせないのはなぜなんでしょうか。
ただし、マンションの階段の出っ張りだけがタマにキズ。アタマがゴツン。でもオーナーは大のタイガースファンなので、色的にはノープレブレム。
よくみるとキッチンもあったりなんかします。
もちろんバスルームもちゃんと。
ブラインド越しに外を見ると、洗濯機までもが鎮座。
それもそのはず、今いるところは以前住居として使用されていたのだそう。この細長い部屋のどこにベッドがあったのか、どこがリビングでどこがダイニングだったのか。ついついそんなことばかりを妄想してしまいました。
◆KOTOBUKIが好きすぎて
60本の水槽のほとんどがオールKOTOBUKI。レグラスの25㎝キューブ水槽をメインで構成されています。
オーナー曰く、「昔から水槽といえばKOTOBUKIに決まってますやん(笑)」。地元・関西のメーカーであることにも着目。什器としてコンプリートしたかったのは当然の成り行きでした。
横幅50㎝の市販ラックにぴったり2個ずつ収まり、縦方向4段を無駄なく有効活用。
3段目以降はプラケースのオンパレ。よく見るとラックは上に行くに従って傾斜がついているので、店内が思ったより広くスッキリ感じます。
横から見たらこんな感じ。スペースに限界があったからこその市販ラック流用。観葉植物用としてならわからなくもありませんが、ここにキューブ水槽を置くという発想はありませんでした。
ただ1個所だけ、エアコンが引っかかりました。ちょっと邪魔。かといってエアコンをカットするわけにもいかず。そこで思いついたのが、同じ25㎝幅の水槽でありながら縦が12㎝のレグラスを配置して万事解決。まるでオーダー水槽のように、違和感もなく収まっています。
こんな遊び心のある水槽も。植物が根を張り、メダカがスーイスイ。植物とのコラボもバッチリなアクア流二段活用。
ちなみに照明もKOTOBUKI。ミニLED「Beans」。ひとつずつの水槽をスタイリッシュに照らしています。
ここまでくれば、フィルターもKOTOBUKIに決まってます。3種揃ってKOTOBUKIコンプリート。
◆メダカのおっちゃん
「この物件をひと目見た時、店のイメージがパーッと広がったんです(笑)。ここはこうしよう、あそこはああしようといった具合に。物件探しはここが2回目でしたが、ここにしようとほぼ即決でした」と話すのは、オーナーの平松宏之さん。長年会社を勤め挙げ、晴れて2年前に定年退職して開業にこぎつけました。
メダカを本格的に意識し始めたのは約20年前。そのころは今ほど改良メダカがいたわけでもなく、改良メダカといえば黒メダカ、白メダカ、緋メダカ、青メダカくらいしかいなかった時代。平松さん自身もそれまでは一飼育者でありコレクターであり。「売る気なんか全然ありませんでしたよ(笑)」。
かくして、誰もが知る地元に密着した個人譲渡サイトに出品したところ、これが瞬く間に大人気。「それからですかね、本腰入れてやり始めたのは。でも商売にしようとは思ってなかったですし、単に自分がメダカ好きだっただけなんです。メダカの好きな者同士が交流を図れれば、それで十分だったんです」。当時のハンドルネーム通り、今も「メダカのおっちゃん」として親しまれています。
平松さんにとってここは、ショップというよりメダカを展示し、それを人に見てもらう場なのだそう。「自分がつくったメダカを、一人でも多くの人に見てもらいたい。ただそれ一心だったんです。なので、買う買わないはどっちでもいいんです(笑)。見てくださるだけでうれしいんです」。
取材中も終始ニコニコ。まさしくホトケの平松さん。この人がいるなら、ぜひ一度行ってみたいと思いません?
メダカは80種類以上で、主な品種は夜桜、フロマージュ、マリアージュ、楊貴妃、幹之などなど。
唯一オリジナルの夜桜体外光。お店でも人気の看板メダカです。
それぞれの水槽には、生まれた月日が記入されています。これって珍しいですよね?「大事なんですよ~、これが」。
会員価格は1匹100円から500円。それぞの水槽に色別で表示されているのでわかりやすい。それにしても安すぎません?「ええんです、ええんです。売れ残ったら私のものになればうれしいですから。アッハッハッハ(笑)」。なんちゅう太っ腹。
一応会員制。1回の買い物でスタンプを1個捺印。7個達成すると、市販価格1,000円のメダカが1匹もらえるとか。ということはですねー、1匹100円のメダカを7回買えば、それよりも高いメダカがもらえるということ?「そうですよ~、お得でしょ?アッハッハッハ(笑)」。あかん、この人まるで神や。
◆セレブとオロチ
当然ながらおうちにも水槽がたくさんあるのだそう。「ここより多いですよ」。でしょうね。「やっぱりKOTOBUKIはええです」と後日送ってくれたのは、8年前に新発売されたスタイリッシュ水槽「アクストシリーズ」の証拠写真2点。※平松さん提供
こちらはラウンドタイプ。「スタイリッシュなのに使いやすくて丈夫です」。平松さん、ありがとうございます!店舗用のレグラスといいおうち用のアクストといい、メーカーに成り代わって厚く御礼申し上げます。※平松さん提供
ユニークなのは、「セレブ?な女性がよく買いにきてくれるんです」とちょっとうれしそう。「武庫之荘には高級住宅街がたくさんありますからね」。ほ~、それは地域の特徴が表れてますね。
でどんなメダカを?「黒いメダカが欲しいという人が圧倒的に多いんです」。黒っぽいメダカではなく?「よく話を聞いてみると、オロチのことみたいでした」。今オロチはありませんよね。「そう、仕入れてもすぐに売れてしまうんです!」。セレブがなぜオロチを好むのか理由はハッキリしませんでしたが、こんなニーズがあるなんて初めて聞きました。
平松さん同様、タイガースファンのお客さんも多いそうです。甲子園にもほど近い場所柄、やっぱりそうなりますよね。わざわざキワメテスタッフ♂を気遣ってくれて、「オリックスのファンのかたもこられますよ」と。さらに平松さんの娘さんがオリ姫だと聞いて、うれしくなってしまったのはいうまでもありません。
メダカといえばこのシール。平松さん曰く、「やっと一人前のメダカを作出することができましたという自分自身の証であると同時に、メダカユーザー同士の名刺代わりに使っておられますよね」。今ではすっかり定番になったアイテムですが、「私たちが若いころにはなかったです」。
小学5年生の授業にも出てくるメダカ。聞くところによると、授業ではメダカのオスとメスを見分けてペアにし、産卵から卵の中の様子を毎日顕微鏡で観察。孵化までを追いかけるという内容のようです。店ではメダカの卵を「欲しい人がいたら差し上げますよ」。以前、近くの小学校の先生が来店したことがきっかけで、卵から育てるメダカも推奨しているそうです。
◆メダカをもらっちゃった
メダカ以外にハーバーリウムの制作も手がける平松さん。
こちらはハーバーリウムつきボールペン。器用ですね~。まさかと思いきや気になって聞いてみたんですが、かつてカミソリシュートの異名をとった元・大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)の大投手・平松政次氏とは親戚関係にあるそうで。これには驚きました。
「いやいや、それだけじゃないですよ。あの“レストランひらまつ”の創始者と同姓同名なんですよ。著書まで愛読しているくらいなんですから!ワッハッハッハ(笑)!」。テンションが高すぎて、話が止まりません。
最後は、最近メダカ飼育を始めたスタッフにプレゼントしてくださった平松さん。何から何まで本当にありがとうございました!
◆エピローグ
最後に聞きたかったこと。SNSでメダカの個体しか画像アップされていないのは意図的?「そうです。来てからのお楽しみという意味からなんです(笑)」。開けてビックリ玉手箱。今回初公開となりましたが、ぜひ一度お店を訪ねてみてくださいね。
多彩な趣味を持ち、落語家として本気に入門を考えたこともある平松さんにとって、この場所がベスポシ&至福の時間。この笑顔にご利益あること間違いなし!