院内のロビーに広がるアクアな絶景。こんな病院見たことない。大阪府寝屋川市の医療法人一祐会 藤本病院では、医療スタッフの手によって水槽が管理されています。前編では主にロビーを中心とした水槽を紹介しましたが、後編では屋外に設置された専用池と産婦人科を中心に設置されている水槽をご紹介。そして、それらを支えるアクアな人たち。笑顔の絶えない愉快な仲間たちの結束が、水槽部を支えています。
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◆伝説のカメミステリー?
いきなり、「ちょっとコレコレ!」と理事長。なんですのん一体。小さなエリアには、カメのオブジェらしきものが一つ。え、これが何か?「以前、これともう一つのカメの置物がポストの下に置かれていたんです」。え、誰が?「誰かわかりませんねん」。で?「すると、知らない間にもう一つカメの置物が置かれてたんです!」。ダブルカメ?「ところがある日突然、立派なほうの置物がなくなっていたんです!」。り、理事長。お、起きてます?
結局、このカメの置物だけが残ったそうです。「立派じゃないほうがね(笑)」。コラコラ。誰が持ってきて、誰かまた持ち去ったのかは、いまだに謎。「もしこの置物を置いていかれたかたがいらっしゃったら、生まれたばかりのクサガメの赤ちゃんを差し上げますのでぜひ名乗り出てください!」。つくづくカメに縁のある理事長。実際に起きた不思議なカメの物語でした。
置物のあるスペースとは間逆の場所にあるのが、駐車場の片隅にある専用池。お~、水槽だけじゃなく池もあったとは。「でも、気付かない人のほうが多いと思いますよ(笑)」(川﨑さん)。それはもったいない。
立派に成長した金魚がまるでコイのたたずまい。オイカワやヨシノボリもいます。
花だっていつも美しく枯らさないように。常務の娘さんが率先してお世話をしているとのこと。理事曰く、「あれま〜、知りませんでした。ありがとうございます!」。
こんな立派な浄化装置とくみ上げポンプも。あくまで池専用とは驚きました。
やっぱりカメもいました。この子は親ガメ。人が近づいてもびっくりして逃げたりはしません。
いつかの貴重な産卵シーン。産卵用につくられた砂地もバッチリ。こんな生命の営みが寝屋川市のど真ん中で行われているなんて感動ものです。もしかしたら、みなさんも産卵のワンチャンに出くわす可能性だってあるのです。※
そういえば、院内のポンちゃん水槽のとなりにいるクサガメ2匹もここの出身。それにしても、いまだに謎だらけのカメミステリー。きっと、縁や命の絆を病院にもたらしてくれているに違いありません。あのポンちゃんと同じように。
◆院内最大の120㎝水槽
ロビー以外にも水槽が。4年前に新築リニューアルされた産婦人科の玄関に置かれた120㎝水槽。院内で一番大きい水槽です。
スポテッドピンクテールカラシン、イエローピンクテールカラシン、メティニス、アレステスロンギピンニスなどが。
コリドラスも同居。
流木から出たアクで自然に黒くなってブラックウォーター状態。見るからに野性的。ちなみにこの水槽にいるワイルド系のピンクテールカラシンはスポテッドとイエローで、比較的入手しやすい個体ですが、今は純粋なピンクテールカラシンの入手がかなり困難なのだとか。たまに見つけたとしても、1匹数万円はするとのこと。「昔は買えたのになあ~」と理事長。
同科受付横には、院内唯一の海水魚水槽が。「ひとつくらい海水水槽が欲しいなあという意見があったので」。ルリスズメやカクレクマノミを飼育し、子どもでも見られるような低い位置に設えました。
海水水槽の経験者がいなかったため、初期導入は川﨑さんの自宅にほど近いアクアリウムバーに依頼。きっと子どもたちにも人気があることでしょう。
◆2024年にちなんで
そして、院内で一番新しい水槽がこれ。タツノオトシゴ。辰年の2024年にちなみました。ロビーと産婦人科とをつなぐ廊下に設置され、安産・子宝を象徴するシンボルとしてはピッタリ。たっちゃんと音ちゃんと名付けられています。そのまんまですが。
2匹並んでゆ~らゆら。給餌には医事サービス課の女性職員もお手伝い。過去に海水水槽を立ち上げてもらったアクアリウムバー(近藤熱帯魚店)で入手。おお、入手先は近藤さんのお店だったんですか!川﨑さん曰く、「水槽部の新年会で、みんなが一目惚れしちゃったんです(笑)」。さすが!意外なところで意外なアクアつながり。※
同じ病棟の3階にあるリハビリテーションセンターにも水槽が1個。「当初はタコを入れてたんです」(理事長)え、あのタコ?「リハビリには体の柔軟性が必要不可欠。柔軟性といえば、やっぱりタコでしょ(笑)」。理事長自らが率先して取り組んだ「オクト計画」は3年で断念。現在はエンゼルフィッシュがメインで、管理はリハビリのスタッフで行われています。
「ウーちゃん出てけえへんかなあ」。水槽を凝視しながら呪文のような独り言を唱える理事長。ポンちゃん、タッちゃん、音ちゃん、そしてウーちゃん。何でもかんでも名前をつけてしまう理事長、生きものに対する深い愛情がうかがえます。今度のネーミングではぜひヒネリが欲しいと思うのは、キワメテスタッフだけでしょうか。
体長30㎝以上もあるウナギがエンゼルと同居中。聞くと、理事長が自宅で飼育しているウナギの中で最も温厚だったため同居が可能になったとか。「ウーちゃん、顔出せへんなあ。写真撮られるのがイヤなんかなあ」と、最後まで粘ってくれた理事長でした。
これにて理事長による本日の「水槽回診」はジ・エンド。
◆メンテも自分たちの手で
毎週火曜日、夕方からがメンテの日。その様子を少し。1人1個の水槽を担当します。今回の取材でもそうでしたが、理事長がオペ終わりにメンテに駆けつけることも少なくありません。 ※
川﨑さんも大奮闘。若いスタッフにやらせるのではなく、自ら率先してやるところに意義があるのです。えらい! ※
ここにもアクア女子がいました。水槽のメンテとは思えない、メイド喫茶御用達のスタッフのようなフリフリエプロン?が可愛すぎます。 ※
メンテはオレに任せろとばかりに、本気モードの男子水槽部員も。力仕事も得意そう。 ※
アウトソーシングを考えたことは、今まで一度も考えたことはありませんでした。「でもそろそろ数的に限界かも(笑)」と理事長。自分たちのことは自分で。それは職場や役職を越えた結束力にほかなりません。もうアクアしか勝たん!※=藤本病院提供
◆心強き医療スタッフたち
水槽ではありませんが、ここにもポンちゃんが。しかもアクリルケースに納められたフェルト細工のポンちゃんは、こいのぼりだったりサンタクロースだったり。もちろんオリジナル。ポンちゃんのファンだという、麻酔科の女医さんによるハンドメイドなんだそう。みなさん、どこまでポンちゃんが好きなんでしょう。
取材中、たまたま通りかかったポンちゃんの生みの親・情報管理課課長の田中さん。「ポンちゃんをたまたま遊び半分で描いていたら、みなさんがおお~ええやないか!と絶賛してくださいまして(笑)」。当初は今とまったく違ったポンちゃんだったそうですが、その後アップデート。何気ない落書きが、今や病院に欠かせないキャラクターに成長したというわけです。
あー、この人さっきメンテしてた?これまた通りがかりの事務部副部長 地域連携・退院支援課課長の町田さん。週一のメンテでは、産婦人科の海水水槽を担当。普段は魚ではなく、人が相手。寝屋川市の将来を担う地域医療や福祉の連携に欠かせない、アクティブなスタッフです。
メンテでヒラヒラエプロン女子の正体はこの人。臨床検査技師をしている七徳さん。数少ないアクア女子の一人です。聞くと、自分から入部を申し出たのだそう。「自宅ではアクアができないので、火曜日が楽しみなんです!」。
「カメは万年」といわれるほど、長寿を象徴する生きものとして昔から知られています。そういう点でいえば、ポンちゃんがこの病院にやってきたのは、高齢化が進む寝屋川市にとっては頼もしい存在であることは確かです。
「アクアは癒しに効果がある」。そういわれて久しいですが、最近は病院だけでなく介護施設や高齢者施設にも水槽を設置するところが増えてきました。メンタル面の拠り所として、アクアの存在は大きいものがあります。
「ドーム型のガラス天井には魚がたくさん泳いでいて、キラキラとやさしい光が差し込んでいて。それを見上げてみんなが笑顔になる。そんな水族館のような病院になればいいでしょうね」。理事長、不可能なことを大いに語るの巻。
来年は創立70周年。さすがに水族館まではいかなくても、きっと何か楽しいことをやってくれることでしょう。
2024年辰年も、半分がすぎました。猛暑真っ只中。みなさん、どうか熱中症などにはお気をつけて。