創立から、斬新なアイデアと高度な技術を駆使して業界をリードしてきたKOTOBUKI。
これまでの水槽の概念をことごとく打ち破ってきた発想は、業界をアッといわせてきました。
1990年代の後半に入ると、どちらかというと商品のクオリティーはもとより、求めやすい価格が優先される時代に。
バブル崩壊の影響といえばそれまでなんですが、アクアの市場でも例外ではありませんでした。
そんな時代に対応しつつ、KOTOBUKIはインテリア水槽をよりリーズナブルに、また水槽以外の商品ラインナップの充実も図ってきました。
しかし2003年に突然予期せぬ出来事に遭遇し、大きな転換期を迎えた時代でもありました。
今回は、創業50年の後半ともいうべき1990年代後半の商品カタログをもとに、当時を振り返ります。
◆ニーズとノウハウを生かしたモノづくり
80年代から90年代にかけて、アトロ、パラドーム、そしてアリーナと、立て続けにヒット商品を世に送り出したKOTOBUKI。水槽はインテリアの一部であるという固有の概念のもと、多くの支持を受けて市場にも大きな影響を与えてきました。そんな市場から見えてきたのが日本の生活環境でした。日本ではインテリアとしてアクアリウムを楽しむにはもう少し手軽な大きさが求められたのです。
そして最新ヒット商品であるアリーナを、小型化した「アリーナミニ」が1996年に登場。小型化することによって少なくなる水容量の水質悪化を防ぐため、アトロシリーズで好評だったカートリッジ式フィルターに加え、底面式フィルターのダブルろ過システムを、27リットルというコンパクトサイズに組み込みました。小さい水槽ながらも、アリーナの優れたDNAを継承した商品として、順調に売り上げを伸ばしました。
ここだけの話、KOTOBUKIの開発担当者いわく、この商品は今でも類をみないほどの完成度だったそうです。「アリーナを2回つくったようなものですから」と担当者。う~ん、深いですよね。
おお~、前面ラウンドガラスを採用して一世を風靡したパラドームが、さらに進化してますね~。当然KOTOBUKIのフラッグシップモデルのパラドームも、技術の向上とともにバージョンアップされ「パラドームRシリーズ」として進化しています。前面ラウンドガラスにコーナー曲げ加工を用い、ワイド感がより広まりました。また、上部フィルターには従来のカートリッジ式アトロフィルターに合わせて、一般的なダム式上部フィルター仕様も追加ラインナップされました。600サイズに関しては、ダム式上部フィルターに水中モーターを採用するところはやはり革新てきな発想ですね。上部のろ過面積を従来品より大きく確保しています。その後パラドームは、ご存じのようにこの仕様がベーシックになっていきました。
これまで数多くのヒット商品を生み出してきたKOTOBUKI。技術革新や市場のニーズに合わせた商品改革も、コストパフォーマンスが求められる時代に対応すべく、これまでの金型をうまく活用した商品開発を活発に行っていったのです。
◆ユニークな商品が次々とラインナップ
カタログの写真をみると、リビングルームではなく個別の部屋に水槽が置かれています。しかも、どうみても女子の部屋(笑)。インテリアとして確立されてきた水槽ですが、実はインテリアを好むのは圧倒的に女性だということで、こういったテイストのページがカタログに展開されるのは珍しいことではありませんでした。
1997年に登場したコンパクトサイズの「デビュー」。買ってすぐにアクアが楽しめるオールインワン水槽。まさにアクアリストへのデビューそのものの商品でした。水槽コーナー部には曲げガラスを採用、コンパクトながらワイドビューを実現。底面式フィルターと水中ポンプによる上部式フィルターのダブル効果で、ろか能力は抜群でした。特に上部フィルターにはシャワー式流水口を上部フィルターで始めて採用するなど、ここでもKOTOBUKIのものづくりへのこだわりが伺えます。そのほか、底面式フィルターにオートヒーターもすっぽり収納できるなどして使いやすさも追求、初めてアクアリウムを楽しむ人々に対しての配慮も万全でした。
おかげでデビューはヒット商品となり、長期にわたって年間数万台の販売実績を残しました。インテリア水槽としてのオールインワンスタイルと水槽サイズ、そこに製品コストがぴったりはまり、まさに市場のニーズにあった商品でもありました。
同じ年に登場したのが、「アクアビジョン」。いやいや、これ水槽なんですよ~。決してテレビではありません(笑)!もう注目度抜群!特に展示会などでは多くの注目を集めました。レンタルビデオがエンターテイメントのジャンルで大躍進していたころですね。
まさにKOTOBUKIさがあふれる、ユニークすぎる商品。やりすぎた感もちらほら(笑)。アクアビジョンは、水中式フィルター「ミニゴンS」とオートヒーターとをセットにして販売されました。
◆水槽からフレームが消える・・・
スラリと伸びた端正なスタイルがイケてます。そしてメタル特有の美しいデザインが印象的。「水槽の芸術品」というコンセプトで生まれた「メタルキューブ」は、フレームレス水槽の先駆けとなりました。水槽の曲げガラスコーナー部分にコーナープロテクターを配して、デザイン性と安全性の両立を図りました。さらに、底面式フィルターと水中フィルター(アトロカートリッジ式)によるダブルろ過方式で、機能性もバッチリでした。
1999年の総合カタログには、ロボットのお魚が起用。キャッチはひとこと、「ハッシン」。人々の好奇心をかきたてる商品開発に取り組もうと、創立当時から企業コンセプトである「生活ロマンを創造する」を、前面に押し出したのもこのころからでした。
◆何よりも安心・安全であるために
もうひとつ、忘れてはならないことがあります。1995年に起きた阪神淡路大震災は未曾有の被害をもたらし、多くのアクアユーザーも大きなダメージを受けました。そこでKOTOBUKIは初心に立ち返り考えます。「アクアリウム用品はアクアユーザーが意識することなく、安心・安全に使える製品でなくてはならない」と。
震災後開発されたすべての商品は、使用するユーザーの安心・安全に重要性を置きました。特にヒーターは、地震直後のライフラインの復旧とともに、二次災害につながる恐れがありました。水のない状態で起こる空焚きです。この空焚き状態は、万一ユーザーが使用方法を間違えたとしても容易に起こる可能性がありました。
そこでKOTOBUKI は、ヒーター内部に温度ヒューズを内蔵するという業界初の製品を発表。万一ユーザーが使用方法を間違えたとしても、発火の心配がない設計が実現したのです。このことは、今日の保温器具の基本思想を確立させ、すべてのメーカーが採用する結果に至り、後に本の観賞魚用保温器具の安全基準の法改正にもつながりました。以前ご紹介したこともありますが、商品の基本設計で事故を未然に防ぐといった考え方も、ある意味KOTOBUKIらしさであるといえるでしょう。
◆2000年に入ってさらにパワーアップ
さていよいよ2000年に突入。満を持して登場したのが「ノーヴァ」でした。ノーヴァとは「新星」の意味。その名の通り、なんと斜面コーナー曲げガラス。もちろん業界初。コーナー曲げガラスが全盛であった時代ですが、斜めのガラスをさらに曲げるなんて、なんと技術部泣かせなんでしょ(笑)
ノーヴァは今までのアクアリウムでは体感できない、水槽の中を泳ぐ魚たちを少し上からみる、という新しい発想で開発されました。また明るいブルーを随所に使い、デビュー発売後も好評だった上部式フィルターを採用しました。
この水槽長っ(笑)!今では珍しくなくなった横長タイプの水槽が登場したのもこの年でした。コーナープロテクターにはキューブで好評だったメタルのパーツを使い、底面式フィルターと水流調整つきのパワーヘッド(水中モーター)により、強力なろ過能力を実現しました。
ちなみにこの横長の水槽、何かに似てますよね。そう、あのミニチュアダックスフントとイメージがダブったことで、ダックスと命名されたそうです。ネーミングは、初代瀬川社長によるものでした(笑)
今ではすっかりおなじみの「プログレシリーズ」もこの年に登場。バリエーションは3サイズ、そして照明器具やフィルターなどの付属品が3点セット・9点セット・10点セットの中から選べるなど、アクアのキャリアによってチョイスできるのも魅力でした。
何より、照明器具や上部式フィルターなど、新シリーズのプレグレでもこれまでの関連用品が流用できるというのが、一番の魅力でした。モノをいつまでも大切にしていこうと、常にアクアユーザーの立場を考えた商品開発に取り組んでいた点も、KOTOBUKIならではといえるでしょう。
2003年。かつてのパラドームやアリーナなどのダイナミックなアクアシーンを彷彿とさせる商品が「パノラマ」でした。当時のうたい文句は「フラットでは味わえない臨場感」。水槽のコーナー部に、KOTOBUKIの高度な技術が反映された45度の曲げガラスが、美しさを際立たせていました。
同時にメタルと木目が美しい水槽台も登場し、今まで作られてたブラックスチールの水槽ラックのイメージを一新しました。
同じ年、いよいよフレームレス水槽が誕生します。クリスタルキューブは立方体のフレームレス水槽、ダックスは例によって横長タイプの水槽ですが、これは前面コーナーに曲げガラスのフレームレスとなりました。ちなみにこのダックス、奥行が190~200㎜と超コンパクト。水槽を置くスペースの少ない家庭にも設置できるとあって売れ行きも順調、登場後20年近く経った今もアクアユーザーに好評を博しています。
多様化するアクアリウムニーズの中、フィルターのあり方が大きく変わった年でもありました。パワフルなろ過能力のニーズに対応すべく外部式フィルターが登場。中国のメーカーのものをOEM機として、KOTOBUKIパワーボックスが誕生しました。
当時の中国の生産工場はまだまだクオリティーが低く、日本導入の製品検証と検品の際に不具合個所がみつかるなどして、主要な設計やパーツをすべて一からつくり直したり、日本から部品供給を行うなど、さまざまな苦労があったそうてす。決して妥協しなかったKOTOBUKI。「工場から出荷する以上、安かろう悪かろうは絶対許されない」と、全社一丸となってクオリティーを保ちながらコストパフォーマンスを実現した、いかにもKOTOBUKIらしい気合の入った商品となりました。
◆時代の終わりと始まり
同じ年、悲しい出来事が起きました。初代瀬川社長が突然の逝去。享年57歳。創業以後KOTOBUKIのみならず、ここまで業界を引っ張ってきたトップの急逝は、あまりにも衝撃的でした。水槽をインテリアとして位置づけ、革命的な思考で水槽メーカーのパイオニアとしての地位を築いてきた大きな功績。それは誰もが認めるKOTOBUKIレジェンドでした。
この大きな出来事はひとつの時代の終わりを告げ、同時に次の時代への始まりでもあったのです。
【つづく】