2003年、57歳という若さで急逝した初代瀬川社長の影響の大きさは、計り知れませんでした。
社内はもちろん、業界全体でも衝撃が全国を駆けめぐりました。
そして、この後を急遽受け継ぐことになったのが、現・瀬川豊社長だったのです。
初代社長とKOTOBUKIが築いてきた実績を、ここで閉ざすわけにはいかない。
つくれば売れるという時代ではなくなったが、時代に合ったやり方がきっとある。
そして商品構成も、これまでのゴージャスからスタイリッシュへ。
この転換期は、同時にKOTOBUKIの新時代の幕開けでもありました。
◆トップダウン方式改め自由な社風
就任した瀬川豊社長は、若いころからアクアリウムショップでお客様と接し、店長としての経験を持ち合わせていました。社長という大役を引き受けざるを得ない状況にはなりましたが、社内でのよき協力者にも支えられ独自の路線を歩むことに。それは、「社員の意見を積極的に取り入れながら、質のいい商品をつくっていこう」ということでした。どちからといえばトップダウン方式だった先代社長の方針から、自由な社風で商品を開発できる環境に変えていこうと再発進したのでした。
2003年、こうしてトップは弱冠30代という若き瀬川豊社長に引き継がれ、決して平坦な道ではない新時代を迎えることになったのです。
カタログの中をパラッとめくると、これって本当に水槽メーカーのカタログ?と一瞬目を疑ってしまうような2005年の総合カタログ。表紙も中身もシンプルですっきり。まさに、新時代到来を表現するかのようでした。
これまでなかったおしゃれなテイスト。まるで通販カタログのような雰囲気。そうそう、このころ流行りました、カタログ通販。これこそが、二代目瀬川社長と社員たちが模索した結果の新しいKOTOBUKIの顔そのものだったのです。
このころ市場では、すでにインテリア水槽が飽和状態で、もはや珍しい商品ではなくなりつつありました。類似品もたくさん出回り始めていました。そんなこともあって、おしゃれでスタイリッシュな路線へ大きく方向転換したことで、他社との差別化を図るべく再スタートを切ったのです。
◆今までにないスタイリッシュな水槽を
インテリア的な要素はそのまま残しつつ、こんなにスタイリッシュな水槽が新登場。特殊ラウンドガラスを使い、左右のどちらからでもアクアビューが楽しめ解放感にあふれています。
その名も「Face」。いかにも女性向けっぽいネーミングですよね。たとえば、対面キッチンなどでリビング側からみる家族はもとより、キッチン側から見るお母さんでもアクアリウムを楽しんでいただけるように。そして、女性でも手軽にアクアが楽しめるように、との思いがFaceに込められていました。
これこそが、自由な社風で社員の意見を取り入れながら商品化にこぎつけた商品でした。二代目社長の就任は、KOTOBUKIにとって若返りのタイミングでもありました。
そして忘れてはならないのがこの商品、「レグラスシリーズ」。2005年に初登場以来10数年、今ではすっかりKOTOBUKIの主力商品となりました。
当時の水槽はまだ「フレームがあって当たり前」の時代でした。その常識を打ち破ったのが、レグラスでした。もちろん、単に水槽枠を外しただけの単純な設計ではありません。今でこそレグラスはフレームレス水槽の代名詞になりましたが、このスタイルが確立するまで数年にわたる強度試験や水圧試験などを何度も何度も繰り返してきました。
ご存じかどうかわかりませんが、同じサイズのフレームつき水槽と比較してレグラスではガラスが厚くなっています。フレームがなくなった分、その補強としてガラスに厚みを加えつつシリコンの施工方法でカバー。特にシリコンの施工方法は、長年培ってきた水槽製造の高い技術が、惜しげもなく投入されています。加えて、インテリア水槽で培ってきたノウハウをいかすべく、前面コーナーに曲げガラスを採用するなどの高度な技術も。こうして、レグラスは高い信頼性を得ながらフレームレス水槽としての地位を築き,ロングセラー商品として定番化してきたのです。
Faceとレグラス。この両雄によって、KOTOBUKIは新時代のスタートを切ったのです。
◆トータルデザインを考える
このカタログページもおしゃれですね~。この水槽台、まったく新しい発想でデザインされました。水槽を置くための水槽台は、一般的に強度を求めるため無粋になってしまいがちです。さてさて、そこでKOTOBUKIは考えました。「リビングに置きたくなるようなスタイリッシュな水槽台をつくろう」と。
本体にアルミ材を使用し、天板にはガラス板を採用。レグラスのようなフレームレス水槽を、よりスタイリッシュに感じさせるためのトータルデザインでまとめあげられたこの水槽台は、「レグラススタンド」として発売と同時に高評価をいただいたそうです。今みても、とても10年前の商品とは思えないカッコよさが印象的です。ちなみに、水槽が置かれる位置には十分な強度が施されていますので、どうかご安心を。
◆「見せるフィルター」をつくる
また、すでに定着していた外部式フィルター『パワーボックス』のフルモデルチェンジを行ったのもこの年でした。以前のパワーボックスは、中国製のものをOEM機として主要な設計やパーツをすべて一からつくり直したり、日本から部品供給を行うなどして、クオリティーを保ちながらコストパフォーマンスを実現させてきました。しかしながら、この二代目はすでに信頼と実績のある内部構造や部品をあえて流用しつつ、KOTOBUKIによるデザインと設計によりスタイリングを一新させたのでした。このことにより、レグラススタンド同様、まったく斬新なフィルター『パワーボックスSV』が完成したのです。
デザインコンセプトは、『見せるフィルター』。一般的に外部フィルターは、ろ過槽として水槽台の中に収納されることが多いのですが、このパワーボックスSVは、レグラス水槽やレグラススタンドに似合うフィルターとしてつくられました。要するに裏方の時代は終わった、と。フィルターもついに見せる時代となり、いかにもKOTOBUKIらしい気合の入った商品となりました。
レグラス水槽、レグラススタンド、そしてパワーボックスSV。このシステマティックな組み合わせは、今までのインテリア水槽のイメージを全く新しいものへと変えました。そしてパワーボックスSVは、のちに日本から世界へと飛び出すことになります。
◆小型ライトもスタイリッシュに
これ以外の製品にもトータルにデザイン統一を図り、高価な製品からスタンダードな製品まで、そのテイストが採用されていきました。
小型水槽用ライト「フォリア アームライト」もそのひとつでした。まるでFaceのライト部分を切り取ってきたようなスタイル。当時は、大型の水草水槽にHID照明が頻繁に使われる背景もありました。そこでKOTOBUKIは、小型水槽にもHID照明のようなテイストを再現できるように、小型水槽用の吊り下げ式ライトを市場投入。特に、自由に取り付けができるよう細かな操作部分でも工夫されていました。
こちらのライトも小型水槽用で、アーム式ライト「ピクシースノー」と「フォリア」としてラインナップ。金魚用のセット水槽や、小型レグラスにマッチするサイズ感がイケてます。サイズは小さいながらも、KOTOBUKI がイメージするスタイリッシュアクアリウムを継承するデザインで統一されていることがおわかりいただけるでしょう。
◆スマートさを追求した「ろかドーム」シリーズ
さらに、水槽用フィルターもイメージ統一されていきます。セット水槽などによく使われる水中式フィルター「ろかドーム」。水槽の中で目立ってしまいがちな水中フィルターを、機械的な無骨なものではなくスマートに見せるフォルムとカラーリングでデザイン統一。また、ろ材交換時の逆流による水槽内へのゴミの拡散などをブルーのフィルターボックスがしっかり受け止めるなどして、水中フィルターの難点を克服しました。水中フィルターとしての機能性と実用性にもこだわった、ろかドーム。水槽で使わなくてもお部屋のインテリアとしても可愛らしい・・・は少し言い過ぎました(笑)。
◆「スタイリッシュ・アクアリウム」を提唱
デザインのイメージ統一は、簡単に使用できるフィルターとしてアクア市場に広がりを見せていた外掛け式フィルターにも広がります。それまでスモークグレーをベースカラーに製品化してきた商品のカラーリングを変更、本体はクリアな透明感を出しフィルター上部はほかの商品と同系色でリニューアルされました。
水槽、ライト、フィルター、それらの商品を集合させて観賞魚飼育用品は初めてアクアリウムとして成立します。エンドユーザーが商品を個別に使用しても、あるいはトータル的に使用しても、どちらの場合でも最終的なトータルイメージが崩れることがないよう統一感に配慮して商品開発に取り組んできました。これこそが、KOTOBUKIの提唱する「スタイリッシュアクアリム」だったのです。
◆ニュープログレの誕生
このころ、当初はグレーカラーでスタートしたプログレシリーズが、ブラックカラーに。現在のベースが確立しました。これが「NEWプログレ」の誕生です。オープンスタイルのフレームレス水槽(レグラスシリーズ)とは異なり、水槽枠をあえてブラックで引き締めることにより精悍さを創出しました。
◆KOTOBUKIらしさとは
2007年、新しいブランドが誕生。その名も「ブレイドシリーズ」。総合カタログとは一線を画した商品カタログは、あまりにもセンセーショナルでした。表紙をマットブラックで仕上げた上質仕様。しかも文字は箔押し仕様と、高級感がムンムン漂います。ページを開くと、唯一の国産メーカーであることが強くメッセージされ、品質への自信とこだわりが訴求されています。
このころの市場は、ホームセンターなど量販店向けの廉価な商品が大多数を占めていました。価格競争も熾烈を極めました。そんな現状の中で、「KOTOBUKIらしさをどうアピールしていくか」が、このころの大きな課題でした。「ブレイドシリーズ」は、そんな市場に一石を投じたかたちとなりました。
シーリングロボットで水槽の大量生産可能な状況の中、このシリーズの水槽に関しては奈良工場で一本ずつ職人が手づくりで生産されていきました。さらには、シーリング部に特殊加工(ワームガード)を施すことで、より高い品質を確保しています。
こちらはブレイドシリーズのHID。アルミセードとアルミダイキャストのサイドカバーを採用したオールアルミ製。コンパクトなボディーでありながら、高輝度な光の実現と最良の放熱効果で各部品にかかるストレスを開放し、長期にわたり能力低下を防ぐことができたそうです。
「ブレイドボード」と称した水槽台にも、軽くて上部なアルミフレームと木材との混合構造を採用しています。耐荷重テストでは、とんでもない記録をたたき出したとかで、今でも伝説として語り継がれているそうです。
カタログのテイストでもわかる通り、ブレイドのターゲットは、あくまでプロショップ(専門店)向けでした。そのため、ブレイドボードなどでもパーツには国産のアルミ材を使用して、高品位に仕上げました。かつてのようなゴージャス感満載の商品ではありませんが、スマートなインテリア水槽として、KOTOBUKIの意志の強さを前面に押し出したような、そんなインパクトのある商品でした。
新社長就任により、新時代が始まったKOTOBUKIのスタイリッシュ路線。実質的な世代交代となり、あらゆる面で若返りを図ったKOTOBUKIは、さらに新しい息吹を投入すべく、さまざまな新商品への着手を進めていくことに。
そこで、読者のみなさんにおわびしないといけないことが(笑)。そう、「KOTOBUKIレジェンド」シリーズ、実は第4章でジ・エンドとなるはずだったんですが、まだまだ書き足りないことが山積みでして(笑)。これで終わってしまったら、近年のKOTOBUKIの活躍がわかりませんしね~。ということで「全4巻」ではなく、あと1巻だけおつきあいくださいね。
【しつこく(笑)つづく】