それは、ある日突然やってきた-。ふとしたことがきっかけで、アクア熱に火がついた人たち。金魚のお膝元・奈良県大和郡山市で精密機械の金属加工を行うミタカ金属工業には、そんなユニークな人たちがいます。彼らをアクア熱に駆り立てたものは一体?
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◆「出会い」は全国ポイ投げ選手権
毎年、10月に大和郡山市の柳町商店街で行われる「全国ポイ投げ選手権大会」(以下「ポイ投げ大会」)。金魚すくいに使われるポイをフリスビーのごとく投げ、その飛距離を競う実にシンプルなイベントです。
最初聞いた時はなんじゃそらと思いましたが、なぜか惹かれるものがあって毎年取材を敢行。あの上田清大和郡山市長もすっかりお気に入りで、「しょーもないイベント」に認定?するほど、今や子どもから大人まで楽しめる人気イベントとして定着しました。
そんなイベントに魅せられたのか、よほど時間を持て余していたのか。第1回大会から参加し、今年の大会でついにテッペンを獲ったのが地元企業・ミタカ金属工業に勤める人たちだったのです。
しかも1位・2位を独占し、4位にも食い込むという快挙。子どもたちもたくさん参加しているというのに、何と大人げない(笑)。ちなみに1・2位の賞品は、アクアイベントらしく60㎝のセット水槽。ポイをシュッと投げただけで、2本のセット水槽をゲットしてしまうとは、おいしすぎます~。
しかも、今年から新たに採用された金・銀・銅のトロフィーも、ミタカ金属工業が製作したものだったんです。これには驚きました。
それだけではありません。参加賞として100人全員に配布された特製「ポイスタンド」も同社が製作したものだったんです。
ポイがピッタリ収まるシンデレラフィット設計。よく見ると、「投」という漢字一文字がモチーフになっています。ポイ投げ大会で使ったポイを記念に立てるもよし。新たなポイを買ってきてモチベーションを高めるもよし。世界100個限定の激レアアイテムなんです!
結局、1位・2位を独占して水槽をゲットしつつ、自社がつくったという特製トロフィーやポイスタンドまで持って帰っちゃった(笑)。ミタカ金属工業総取りの巻。とはいえ、これらのアイテムが加わったことで、例年にはない盛り上がった大会になったことだけは確かでした。
偶然にしてはあまりにも出来すぎた話。あの水槽は後日どうなったのか、トロフィーやポイスタンドをつくったのは誰なのかなどなど、気になって夜も眠れません。そんなモヤモヤを解消すべく、キワメテスタッフは晩秋の大和郡山へ向かったのでありました。
◆賞品の水槽をセットアップ
精密機械の金属加工がメインのミタカ金属工業。田畑が残る大和郡山市の住宅街の一角にありました。
早速出迎えてくれたのが、同社代表取締役・高橋和広さん。そうなんです、ポイ投げ大会の第1回目からずっと参加しているのは、ここの社長さんだったのです。「地元で行われているイベントですからね、やっぱり盛り上がって欲しいです。何気に参加してみたら、意外と面白くて。毎年参加するようになりました。フッフッフッ」。経営者として10数人の社員とその家族を支える高橋さん。日頃のストレスを発散するためにも、ポイ投げ大会が性に合っていたのかも知れません。
玄関を入ってすぐに目に飛び込んできたのは、小型水槽。さすが大和郡山、金魚がスイスイ泳いでいます。これは今回の賞品じゃないですよね?「はい。第1回目の大会の賞品なんですけど、入賞はできませんでしたが、なぜかあとでもらっちゃいました。フッフッフッ」。
社長自らが一人で参加していた記念すべき第1回大会。あまりにもシュールなイベントだけに、ほかの社員を巻き込むのには抵抗があったのか、勝って手柄を独り占めしたかったのか。ちなみにこの時は15位前後だったそうで、ビギナーズラックとはいかなかったようです。
壁には第2回目から参加したメンバーの名前も。世界4~6位だなんて、めっちゃインターナショナル。それにしても惜しかった大会だったんですね。「結果を待つ間、最後の最後で入賞を逃してしまったんです。フッフッフッ」。以後、メンバーはがっちりと固定されました。今年38年ぶりに日本一に輝いたあのチームと同じように。おーん。
そして第3回目の今年、ついにやりました。ちなみに、2回目に樹立された世界記録とはわずか1.1mの差。しかもこの大会ではトップスリーとまではいかず、社長だけ4位だったのは残念でした。いやいや、もしかしたら社員を気遣ってわざと身を持ち崩したとか?フッフッフッ。
そして今年の賞品がこれ。約束通り、立ち上げてくれました。セット水槽だっただけに、ライトやフィルターもバッチリ。やっぱり会社に水槽があると、華やかですし癒されます。
金魚は和金中心ですが、水槽に入った和金をこうして横見するのは久しぶりかも。
反対側には水耕栽培の容器も。一瞬、水槽かと思いました。高橋さん推し。子どものころから生きものが好きで、育てるのも得意だったという高橋さん。その調子で社員をしっかり育てていってくださいね。
さん然と輝く今年の賞品。いや水槽。福利厚生にも理解のあるいい会社。ポイ投げ大会だけでなく、今度はチームを組んで金魚すくい大会にも出場してみてはいかがでしょう。密着取材、させていただきます!
◆「ミタカ産」だったトロフィー
正式社名の「mITAKA」は、最初のMだけがあえて小文字表記なのは、「ミリ」を象徴。つまり、妥協のないミクロ単位の精密な技術を追求していくことよってクオリティの高い製品をつくっていこうという、会社のアイデンティティそのものなのです。
そんな会社のテクノロジーによって生まれたのが、今年から採用されたポイ投げ大会のトロフィー。工場の一角には、今も試作を重ねた足跡が残っていました。
トロフィーの製作に携わったのは、工場長の植本将章さん。そう、今年の大会で13m80㎝を投げて優勝した人そのものだったのです。実家は、当麻寺(奈良県)の参道でおみやげ物屋さんを営んでいるという、温厚で穏やかな人柄が印象的です。
3DCADを使ってパソコンから製作。シンプルなつくりながら、本体を何層にも重ね合わせながら成形していき、3Dプリンターによって立体化して完成。
ポイスタンドも同じ工程でつくられました。
「納期の関係で、時間があまりなかったのがちょっと(笑)」と植本さん、ちょっと悔しそう。その気持ち、同じクリエイターとしてよくわかります。次回も採用されるのであれば、もっと時間をかけていいものをつくっていきたい、と気合十分でした。
「お久しぶりです!」。おお誰かと思いきや、2位に輝いた営業課長・山口和也さん。あなたもきっと来季の戦力であることは間違いなし!ポイ投げ大会も会社も!ちなみに、1位・2位を独占するほどポイを飛ばせた理由は?「それは企業秘密です(笑)」。
今年からポイ投げ大会の協賛企業としても名を連ねたミタカ金属工業。トロフィーを製作したことで、会社名が広く知られることになりました。このこと自体は小さな一歩かも知れませんが、これが大きなうねりとなって事業発展につながればいいですね。
◆誰も知らなかったアクアリスト
ところで、賞品の水槽を立ち上げたのはメンバー3人のうちの誰かだろうと思っていましたが、本当のところは違いました。え、違うの?誰?誰?というわけで、陰の立役者を呼んでもらうことにしました。
水槽を立ち上げたのはこの人、エンジニアの杉本雅昭さん。高橋さんらに頼まれて水槽を立ち上げることになったのですが、このことがきっかけになって杉本さんのアクア熱に火がついてしまいました。「会社で水槽を立ち上げるなんて、うれしすぎました(笑)。家にも水槽があるので、会社に持ってきてもいいですか?とお願いしたんです」。
かつては自宅で水草水槽に励んでいた杉本さんでしたが、お子さんが生まれてネコを飼い始めたことをきっかけにアクア継続を断念。行き場を失った自前の水槽でしたが、会社の打ち合わせスペースを近々拡張することもあり、ついにOKが出たそうです。※杉本さん提供
これが新たに立ち上げる予定の杉本さんの60㎝水槽。清掃も終わり設置を待つだけ。まさかこんな社員がいてくれただなんて。技術畑の杉本さん、色々な意味で会社も安泰です。
しかも、水槽台まですでに準備。年明け早々、2つ目の60㎝水槽がデビューする日が楽しみです。「いやあ、本当によかったです。もうアクアはやめようかなと思ってましたので」(杉本さん)。
◆まだいた!隠れアクアリスト
そういえば会社に着いた時、玄関先にメダカらしき小さな魚がいる容器が複数ありました。
これは(左)高橋さんがポイ投げ大会の翌日、市内の金魚屋さんで購入してきたメダカたち。
こちらも高橋さんが、とある道の駅でメダカすくいをした時にもらってきたもの。
これはメダカ好きの社員が飼育中というメダカたち。おお、ここにも社内に隠れアクアリストがいましたか。
杉本さんの左側にいるのが、メダカ大好きの原田英樹さん。おうちではメダカを中心に飼っていて繁殖にも成功。卵や孵化した稚魚を持参して少しずつ増えているのだそう。これで何と社員の1/3がアクアに関与。この先が実に楽しみです。
現在はヒメダカやマリアージュフィッシングワイドフィンなど約30匹がすくすく成長中。今後のプランは未定ですが、もしかしたらご近所の人たちを集めてメダカすくい大会を開催したりなんかして。これぞ地域における社会貢献。ミタカとメダカ、ニュアンスが何か似てるし。
◆必然だった?大和郡山への移転
よくよく聞いてみると、先代社長(高橋さんの父・故人)も魚が好きだったのだそう。「今メダカが置いてある付近に、おっきなコンテナケースがありました。ン10万もしたらしいですが(笑)。そこにコイをたくさん飼ってました。もちろん別の場所で金魚も飼ってましたよ」(高橋さん)。
コイから金魚へ、そして水草水槽、果てはメダカまで。時代は変わっても、アクアマインドは着実に引き継がれ、会社の歴史に確実に刻まれていくことでしょう。
金魚のまち・大和郡山に会社が移転してきて早16年。もしかしたら、これは必然だったかも知れません。
そして金属加工という独自のステイタスが、大和郡山にさらなる旋風を巻き起こしますように。
おや?こんなところに2位の水槽がまだ眠っていますが。これを立ち上げる予定はまだない?「さて、どうしましょうかね。フッフッフッ」(高橋さん)。