今年の「日本ベタコンテスト2024」で2年連続総合優勝を果たした西原大輝さん。しかも前人未到のワイルドベタ出品による2連覇。ベタといえばショーベタが注目されがちですが、改めてワイルドベタの存在感を日本中に示した結果となりました。これまでのアクア歴をひもときながら、なぜワイルドベタなのか迫ってみました。
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◆玄関に輝く金字塔
玄関の扉を開くなり、いきなりアクアな風景が飛び込んできた西原家。2年連続の総合優勝は、家族にとってもエポックメイキング的な出来事だったことがよくわかります。
今年の出品者募集ポスターにも、前年総合優勝した時の西原さんのワイルドベタがビジュアル化されています。
もちろん表彰状にも名前がバッチリ。
そしてリビングにお邪魔する前の水槽チラ見せ。前人未到の2連覇を果たしたワイルドベタの飼育環境、さぞかしすごいんでしょうね。ワクワク。
本邦初公開。市販のラックを使って、比較的コンパクトな水槽を中心に構成。思っていたよりコンパクトで、ちょっと意外でした。自家繁殖バッリバリのユーザーにしては、やや物足りなく感じてしまったのはキワメテだけでしょうか。しかもどの水槽もコケひとつ見当たらないほど、ピッカピカ。はは~ん、取材に備えて2~3日前から水替えしたりゴシゴシしてたりとか?
お気に入りのコッキーナグループの水槽や、コンテスト出品を前提としたマウスブリードタイプの水槽が整然とラインナップ。といっても、水槽の種類や数・匹数もさほど多くありません。よく見ると、水槽っぽくないものもチラホラ。あー、わかった。さてはどこか別の場所に秘密の育成ファームとかがあるんでしょ。それ、差し支えなければあとで見せてくださいね。「ないですないです、本当にここだけですよ(笑)!」。またまた~。
西原家で一番大きい60㎝水槽には、グデーッとお昼寝中のカワアナゴが。「近所にユニークな魚ばかりがいるアクアショップがあるんです。たまたま通りがかって見つけたんです。こんなに大きなカワアナゴってかなり珍しいじゃないですか。マジで衝動買いしてしまいました(笑)」。
キッチンカウンターにはドジョウやゼブラダニオのいるスリム水槽がありました。すっかり景色に溶け込んでいる感じ。インテリアチックにアクセントになっいてていい感じ。水槽はオールワイルドベタかと思いきや、淡水魚も普通にいたとは。とても自家繁殖しているユーザーのおうちとは思えません。あ、でも照明がないな。
◆水槽を増やさない理由
すべての水槽には、飛び出し防止用の詰めものが。「ワイルドベタは、少しでも隙間があると簡単に飛び出してしまうんです」。ガラスブタと水槽との隙間がどんなに小さくても油断大敵。これは意外でした。
ワイルドベタには欠かせない「隠れ家」は、市販の塩ビパイプユニットを流用。掃除がしやすく耐久性もそこそこあるのだそうです。角度がついているのもいいし、ほかの魚にも利用できるかも。
枠付き水槽がメイン。どことなくクラシカル。「昔からこのタイプが好きなんですよ~」。なんでだろ~、なんでだろ~?
梅酒をつくるためのビンを積極的に活用。「とある百円均一ショップでみつけたものなんですが、水替えの時にすごく使いやすいんですよ。大型のワイルドベタのようなサイズの魚が通り抜けできない特殊な構造をしていて、ゴミや水だけ排水できるんです。しかも大容量の7ℓ。ガラス製のため温度の影響も受けにくいんです」。サイズ的にもワイルドベタを1匹飼うにはジャストサイズ。こんなんよく見つけてきたね。ちなみにおうちで梅酒は?「つくってないです(笑)」。
ほかにプラケースも効率よく配置。梅酒をつくるビンもプラケースも、「アクアって、色々なものを揃えると結構お金もかかってるんですよね。なので、アクア用品でなくても使えそうなものは積極的に使う。そうすればさらにコストパフォーマンスは可能です。水槽だけがアクアじゃありませんから」。結婚生活10数年、若いのにさすがの金銭感覚。
これ以上水槽を増やす予定は?「まったくありません(笑)。これで十分です。自家繁殖というと、広い敷地に置かれたたくさんの水槽やプラ舟というイメージがあります。うんうん、そうなるとお金もかかりますね。「それに、魚も多くなればなるほど目が届きにくくなってしまいます。魚の健康状態を正確に把握できず、大きな病気を見逃してしまう危険性もあります」。そういうことかー。「なので自分の場合はこれで十分。今の環境で可能な範囲の自家繁殖を楽しんでます」。ワイルドベタの自家繁殖においても、徹底した「少数精鋭主義」を貫いています。
◆理想は古代魚だった
門真市出身の西原さん。子どものころ、近所の銭湯に置いてあった熱帯魚のいる水槽が気に入り、毎日のように足を運んだことがアクアとの出会い。小学校では、誰も世話をしない教室の水槽の3匹のフナにエサをやったり水替えをしたり。「いきものがかりだったんです(笑)。クラスの友だちは誰もやらなかったけど、やってて楽しかったですよ」。
人に影響されない、いい意味でマイペースのB型。お母様の西原千春さんに言わせれば、「小さいころから頑固な子でした(笑)」。そんなに?「はい、す~っごく頑固でした(笑)」。一見、そんなふうには見えない西原さん。そんな一途な性格が、のちのベタ飼育に力を発揮することになるとは、ご両親も想像できなかったでしょう。
――最初に飼育した魚は?
「一般的な熱帯魚でした。ネオンテトラやグッピーといった、ごくごく普通の熱帯魚でした」
――特にお気に入りだったのは?
「やっぱりグッピーですかね。でもそれ以上に夢中になったのは、コリドラスでした。水槽のお掃除屋さんとして同居させていたんですが、次第にコリドラスに夢中になっていきました」
――何か気になることでも?
「とにかく可愛かったんです。そしてあの地味~な感じも(笑)。あまり掃除はしてくれませんでしたが、あの模様や色が好きになってきたんです」
――熱帯魚やグッピーに比べたら確かに地味。
「そうなんです。でもそういうところがいいな~と思って」
――結婚後もアクアを?
「もちろんです。実家でも使っていた150㎝水槽をリビングの今の場所に置いて、古代魚を飼い始めたんです」
――おお、いきなり古代魚。 ※
「子どものころのあこがれだったんですよ。カッコよくてアクアのヒーローそのものでした。アロワナやポリプテルス、エンドリケリーなど、一般的な古代魚はひと通り飼いました。色は相変わらず地味でしたけどね(笑)」
――普通はそれで落ち着くところです。
「当初はそう思ってたんです。ところが結婚して色々と忙しくなり、子どもができたばかりだったこともあってなかなか水槽に向き合うことができにくくなったんです。これじゃいけないなと思いました。やむを得ず規模を縮小するしかないな、と」
◆魚のいない生活なんて
――水槽を増やさないのはそんな苦い経験もあったからですね。
「そうなんです。それでもアクアをやめようとは思いませんでした。魚のいない生活なんて、考えられませんでしたから(笑)」
――それで次に金魚を?
「数は少なくていいから、リビングに置いておきたかったんです。ジャンボオランダを飼いました。それで十分満足してましたよ」
――金魚といえば品評会。 ※
「そう、それなんです(笑)!少し子どもが大きくなってきて生活に余裕が出始めて、金魚の品評会という世界にすごく興味がわいたんです。金魚の自家繁殖をしてみたいな、と」
――でも突っ走らなかった。
「金魚を自家繁殖するためには、たくさんのスペースが必要ですよね。色々考えてはみましたが、さすがにうちでは規模的に無理だなと思いました。結局あきらめるしかありませんでした」
――飼育スペースを拡大しない確固たる理由ですね。
「でも魚のいない生活は考えられなかったんです(笑)」
――どないやねん(笑)
「ある日、アクアショップで偶然プラカットを見つけたんです。ベタの存在は以前から知っていましたが、飼育する対象ではありませんでしたが、なぜか惹かれてしまったんです」
◆ベタだと誓った日
――最初はプラカットでしたか。
「そうなんです、それがベタとの出会いだったんです」
――どんなところが気に入って?
「ズバリ、とってもカッコいいところです。鮮やかな体色、そしてフレアリング時のゴージャス感もありますが、それよりもまるで肉食魚のような雰囲気を漂わせていたことに心を奪われてしまったんです。さすが闘魚といわれるだけのことはあるな、と」
――普通、ベタは可愛いといわれることのほうが多い。
「ですよね。でも自分は、可愛いよりカッコいい、だったんです(笑)」
――頑固やな(笑)
「しかもベタコンテストというのが毎年行われていて、これにも惹かれました。ベタを飼育する以上、しっかり自家繁殖させてコンテストで優勝しないと意味がない!と」
カッコいい。野性的。まるで肉食魚のような雰囲気。西原さんのショーベタに対する意識は、ほかとはちょっと違ってました。そう思い始めたら、もう後へ引く発想はありませんでした。
しかも、飼育スペースもさほどとらず、比較的手軽に飼えて公認のコンテストにも出すことができる。そうすれば、会場でほかの出品魚も見れる。リビングに水槽を置いておけば、目も届きやすい。自分のできる範囲で飼育すればんいい。そういう点でいえば、ベタ飼育は西原さんのライフスタイルにぴったりハマっていたのでしょう。
ベタコンテストは、ベタを飼育し自信をつけたユーザーが出品するのが一般的ですが、西原さんは違いました。まずはコンテストありきでした。コンテストで入賞するために、自分は何をすべきか。どんな環境を整えるのがベストか。「それしか頭にありませんでした(笑)」。見事2連覇が達成できたのは、西原さんしかない飼育ビジョンを確実に実行してきたことによる当然の結果でもあったのです。
※=西原さん提供
【後編へ続く】