奈良市の東南部に位置する正暦寺(しょうりゃくじ)。
992年に建てられ、かつては86もの塔頭があり「宗教都市 菩提山」と称された時代もありました。
時は流れて、今残っているのは福寿院客殿と本堂・鐘楼のみとなりました。
その一方で、「清酒発祥の地」としても知られています。
それは、菩提山を流れる清流がもたらした恩恵にほかなりません。
深まりゆく秋。
県下では知る人ぞ知る紅葉の名所として、かつての名残りを朱に染めています。
◆美しい清流・菩提仙川と「日本清酒発祥の地」
正暦寺へ続く県道。車同士がやっとすれ違えるだけの細い道沿いには、かつて塔頭が林立していた形跡が見え隠れします。
石垣や石仏が残っていたり、現在は駐車場であったり。
道から外れたところには、小さな神社もありました。
その昔、焼き討ちの影響で焼失する危機に見舞われ、その後何度も復興が試みられました。しかしながら江戸時代以降はすっかり衰退していったそうです。
道沿いに歩くと、心地よい清流が山間の中に響きわたっています。菩提仙川は、古くから地域のくらしに関わってきた水として、奈良県の「やまとの水」にも選定されています。
室町時代には、僧侶たちが米から「僧坊酒」を醸造したという歴史的背景も、そうした地域の人々の支えがあってのことだったのでしょう。
ここは「日本清酒発祥の地」。まぎれもない事実が、この地に刻まれているのです。
◆3,000本以上の楓の終焉
大本山正暦寺。かつては、「宗教都市・菩提山」として大きな勢力を保っていたことは、立派な石碑からもうかがえます。
早速、美しい紅葉が参道で出迎えてくれました。
菩提仙川も、清らかな気持ちで出迎えてくれているようです。
またこの季節、参道を染める1,000株以上の南天の赤い実も印象的です。
本堂の道。ここはまぎれもなく正暦寺の聖域です。
観世音菩薩と阿弥陀如来のご加護を受けられるのいわれている81段の石段を上りきると、本堂の境内が広がります。
ここにあるのは本堂と鐘楼のみで、もともとあった伽藍はすべて焼失。しかし今は、朱に染まった秋の風情が、訪れる人の心を和ませています。
紅葉シーズンもそろそろ終焉を迎えます。落葉が目立つようになってきました。
◆「インスタ映え」は拝借風景とともに
今も残っている建物のうち、もう一つが福寿院です。ここには、孔雀明王像や本尊薬師如来像などが収められています。
客殿からみる庭はまさに圧巻。借景庭園として四季折々の風景がパノラミックに展開されていますが、やはり紅葉の季節は格別です。
低い位置からみると、まるで毛氈までが楓の影響で朱に染まってくるように思えてくるから不思議です。
「インスタ映え」を意識して訪れるアマチュアカメラマンも少なくありません。
◆人に教えたくない紅葉の穴場
本堂の上をさらに行くと、ホームページにも載っていない小さな建物がぽつりとありました。もちろん参拝コースではないので、人の姿はまったくありません。
お堂なのか休憩所なのか。小さな建物の正体は定かではありませんが、ここは穴場かも知れません。
黄色や朱に染まった静けさが、ここにありました。落葉寸前なのでしょう、葉のいたみも少なくありませんでしたが、秋特有のもの悲しさを感じずにはいられませんでした。
ここでも菩提仙川のせせらぎが心地よく聞こえてきます。
「もし関西に紅葉の穴場があるとすれば?」と質問されたら、間違いなくここを教えると思います。
いや、あまり人に教えたくない紅葉スポットかもしれません。
清流と山に抱かれた、真言宗菩提山正暦寺。過去の悲しい歴史を物語るように、この日は曇天で薄ら寒い一日でした。
清らかな水のある風景には、美しい風景が必ずあります。そんなことを確信しながら、秋の最後を満喫できました。
★菩提山真言宗正暦寺のホームページはこちら
★★★今年もやります☆第3回イケてる水槽コンテスト」作品募集中!★★★
応募要領はこちら