土佐錦魚の美しさにハマって10年ちょい。それまでは熱帯魚やアロワナに夢中のアクアリストでしたが、今は金魚一筋。本業は美容専門学校の教員。金魚はあくまで趣味の領域。奥様がオーナーを務める美容室の一角には、驚きの珍百景が広がっていました。
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◆養魚スペースは美容室と共存
名古屋市中川区。閑静な住宅街で、ひときわ印象的な美容室VIVID。オープンしてはや30年以上。きっと地域の人々に長年愛されてきたのでしょう。
おろ?お店の駐車場スペースらしき場所に目をやると、ズラリと並んでいる黒い物体は一体?
な、な、なんと、駐車スペースのほぼ半分近くが黒い物体で占領されているではありませんか。
なるほど、これがウワサの養魚スペースだったのですね。話には聞いていましたが、まさかお店とこれほど密着した環境だったとは。
お店の名の通り、ここではきっとVIVIDな金魚が飼育されているに違いありません。
美容室を経営しながら、しっかり金魚を愛でる。こんな飼育環境、うらやましすぎます。
◆知られざるアクア歴
「家族(特に奥様)の理解ですか?いやぁ~もう~(笑)」。キワメテスタッフによる先制攻撃に、大笑いするしかない粉川隆幸さん。もしかして地雷踏みました?愛媛県出身。高校卒業後、名古屋へ。勤務先の美容室で奥様と一緒だったことが縁で結婚。晴れて独立開業となりました。38歳の時に、美容師から美容専門学校の教員の道へ。「おかげで日曜日も休めるようになりました」。それはやっぱり金魚のため?「いやいやいやいや(笑)」。
金魚を本格的に飼育するようになったのは、10数年前のこと。それまでは、主に熱帯魚やグッピーのオーナーだったそうです。120㎝水槽でグリーンアロワナを飼ったことがあり、ほかにも「2mの特注水槽でアジアアロワナを最大4匹飼っていたこともありますよ、つい2年前まで(笑)」。え、金魚歴が10年なのにアロワナが2年前まで?一体どういうこっちゃ?
日当たり良好。周りにマンションなどの高い建物がないので、日照時間は長そうです。何より、産地である弥富まで車で30分という好立地も、粉川さんにとってはラッキーでした。
基本外飼い。メインは40・60・80ℓのプラフネ計26個。これに加えて、30~40ℓの丸鉢が計5個。合計31個の布陣。
それぞれ強固な金網でディフェンス。ここまでやっておけばバッチリですよね。「ところが害獣からの被害がまったくないんですよ。アライグマも野鳥も。ご近所にワンちゃんがいてくれているおかげも知れないんですが」。
池やプラフネ、あるいは大型水槽用のに使われるハイパワーの水中式フィルターをすべての容器に採用。「仕事の関係で頻繁に水換えができないので万全にしています」。
とはいえ、「尾ビレにシワが入ったり、桜尾になって手を加えてやらないと品評会に出せないということがないように、水換えの頻度や飼育環境には気を使っています」。人の手を加えなくてもいい個体をつくりなさいという、かつての師匠の教えを今も忠実に守っています。
最初はわずか1列だったプラフネも徐々に増殖し現在3列に。さらに増殖の気配濃厚。明らかな越権行為。奥様は何と?「いやあ~、ワッハッハッハ(笑)」。世の中には、聞いていいことと悪いことがあるようです。
◆止まらぬ土佐錦魚愛
飼育しているのはほぼ土佐錦魚。土佐錦魚といえば、高知県では同県指定の天然記念物。丸い卵型の琉金体型と独特な尾ビレが最大の特徴で、「クルッと反転した尾ビレをヒラヒラさせて優雅に泳ぐ姿の美しさは格別です」。おうちが美容室で、しかも専門学校の教師だけに、金魚に対する美意識も人並み以上なのかも知れません。
粉川さんお気に入りの金魚をご紹介。いうまでもなく土佐錦魚。
キャリコ土佐錦魚の歳魚。親魚として20,000円くらいするそうです。ほーっ。
純血種の鈴木系東錦三歳魚。
◆健在!2mの特注水槽
「あとはね~」と店内に入っていく粉川さんを追いかけて行ったら、おお~!まだ現存していたんですね、2mの特注水槽。もうとっくにないと思ってました。「アロワナはもういませんよ~(笑)」。いやいや、わかってますってば。
アロワナのいなくなった特注水槽には、水泡眼や蝶尾などが心穏やかに居住。つい2年前までアロワナが4匹もワサワサいたとは思えません。
お店の扉を開け放つと、さっきまでいた養魚スペースが丸見え。見事なコラボレーション。
それにしてもデカい。こんなのよく特注しましたね~。来店するお客さんの反応は?「ん~、別に普通ですけどね(笑)」。いやいや、きっと呆れているのだろうと…。
この状態、奥様は何と?「アッハッハッハ(笑)」。はい、それですべてが把握できました。奥様、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
お店の中にはこんな逸品も。「中学生くらいの時につくった昆虫標本だと思います」。過ぎ去りし日、青春の1ページ。
現在は中日本トサキン愛好会で庶務を担当し、会報誌の編集も。このほか、関東土佐錦魚保存会でも活動しています。
◆秋が待ち遠しい出品候補たち
毎年品評会には数回出品。「それぞれの品評会にはそれぞれの審査方法があって、その違いを知るだけでもすごく勉強になりますよ。当然、新しい発見もあります。だから楽しいんですよね」。粉川さんが言うと説得力があります。
そういえば、去年大和郡山で開催された品評会にも出品。こちらは大の部/土佐錦魚の部で四席を受賞しました。
こちらは大の部/土佐錦魚の部で五席を受賞。このほか、大の部蝶尾の部で準々優勝を、また小の部/土佐錦魚の部では準優勝と五席を、さらに桜錦・江戸錦の部で準々優勝を受賞しました。
今年の出品候補とかもう決まってます?「ここ(丸鉢)にいるのがそうです」。おお~、選ばれし個体ばかりなんですね。「2歳ごろになると、プラフネから丸鉢飼育に昇格させるんです」。ファームから1軍への昇格と同じ。「でもたまに、品評会直前になって出来のいい個体が現れて急きょココ(丸鉢)に昇格することもあるんですよ(笑)」。なるほど、支配下登録を勝ち取るわけですね。
色変わり中の小さな土佐錦魚が泳いでいる様子を見せてもらいました。丸鉢の縁周辺を元気に泳いでいて、「この環境が土佐錦魚特有の尾の形成には欠かせないんです」。だからプラフネではなく丸鉢なんですね。
暑かった夏のオワリナゴヤの一日。この金魚たちがどのような栄光をつかんでくれるのか、秋が楽しみです。
お仕事も金魚もビビッドでなきゃね。