今時の若いモンが長屋に水族館をつくった。これだけ見ると、世間の気を引くために、あるいは観光誘致の一環のためと思われがちでしょうが、いやいやとんでもない。単なるアクアをパフォーマンスの道具としてではなく、地域に根ざした保全活動の一翼を担っていたのです。
☆ ☆ ☆
◆「衝撃的な事実」を境に
3人とも本職はサラリーマン。それぞれ会社勤めをしながら、週末はここを中心にアクアな活動を展開中。大橋さんが大学生の時、ふと講義で耳にしたのが「大阪では八尾にしかいない魚」でした。「ホント、たまたまだったんです。まさか自分の出身地にそんな魚がいたなんて思いもしなかったので、びっくりでした」(大橋さん)。一体どういうことなのでしょうか。
八尾市の東部は生駒山系の山々が連なり、麓の田畑では 農業が盛んな自然豊かな里山。大学で衝撃を受けた大橋さんは、地元で里山保全活動を行っているNPO団体に参加することで、ますますヒートアップ。それと並行して、5年前に開設された地元の施設「きんたい廃校博物館」とも深く関わってきました。
きんたい廃校博物館(通称「きんぱく」)は、廃校になった中学校を利用してつくられたもので、地元の自然や生きものを主に子どもたちに知ってもらおうという八尾市の体験施設。大橋さんはここの館長として、またほかのスタッフも運営に携わり地域の自然環境保全活動を継続中。
博物館そのものは子ども向けの施設であり、自然環境保全のための啓蒙施設。館長という立場でリーダーシップを発揮しながら、大橋さんには次なるステップがありました。「もっと枠を広げて一般の人にも里山のことや自然を知ってもらいたいなあ、と」。
なるほど。だからここが必要だったんですね。単なる思いつきなんかではありませんでした。より多くの人々に足を運んでもらって、八尾の自然や生きものに関心を寄せてもらいたかったのです。取材終盤に差しかかり、やっと腑に落ちました。
大橋さん曰く、「もしあの時、大学で衝撃的な出会いがなかったら、こんなことはしてなかったと思います」。でしょうね。ひとつの何気ない出会いが人生まで変えてしまう。アクアには、そんな水に流せないドラマもあるのです。
◆正体はニッポンバラタナゴ
ちょいちょい!「キンタイ」とは一体?そもそも、「大阪では八尾にしかいない魚」って何?読者のみなさんはご存じでしたか。キンタイとは、八尾にしかいない魚・ニッポンバラタナゴのことだったのです。地元特有の呼び方で、地域によってはまた違う言い方もあるのだとか。「体色が金色に輝いて見えることだったり、体型が比較的ひらたいことから、八尾ではこの名がついたようです」(平山さん)。
ってことで、キンタイ=ニッポンバラタナゴ登場。おお~、ここで見ることができるのですね。数匹が元気よく泳いでいます。確かにキラキラと光っていますが、婚姻色になるとやや赤みを帯びてくるのだそう。
絶滅危惧ⅠA類。コイ科バラタナゴ属。体長は約3㎝で、かつては西日本に広く分布していたそうですが、八尾では一定のエリアのため池のみに生息。ドブガイなど主に二枚貝に産卵して育つ、まさに生物多様性の象徴ともいうべき生体です。
キンタイが激減した理由は、外来種のタイリクバラタナゴやブラックバスなどによる捕食などもありますが、何といっても生息場所そのものが消失しつつあるという現実。
「ため池だけでなく、里山そのものを守ることが結果的にキンタイを守ることにもなるんです」。2つの施設の運営だけでなく、NPOの保全団体とも連携を図りながら、キンタイの保全活動に精力的に取り組んでいるのが、大橋さんたちだったのです。
いやあ、素晴らしい!単なるアクア好きの若いモンが集まって趣味の延長でやってるわけではないんや~。彼らの情熱に脱帽!ちなみに真ん中のれんさん、たまたまお客として来場し衝撃を受け、そのままスタッフとして採用されたのだそう。あれまー、いるんですよね~こういう人が結構。
レトロな空間にはこんな解説パネルも。「外来種と外来生物の違いってわかります?」と平山さん。うーん。恥ずかしながらキワメテスタッフは即答できませんでしたが、読者のみなさんならわかりますよね、たぶん。違いがわからない人はぜひこちらへ。
平山さんが描いたリアルすぎる魚の絵。好きな淡水魚はシロヒレタビラ。川魚の魅力や現状を色鉛筆で作画し、自身もイベント主催者として活動中。みんなすごい。
◆マークに込められた思い
下のマークは、それぞれ太陽・山・川を表しています。シンプルながら、里山を守っていきたいとする熱い思いが込められ、それが八尾長屋水族館のチーム名でもある「シゼンブ」のポリシーとなっているのです。
博物館や水族館の運営だけでなく、今後も生きものに関するさまざまなイベントを計画中。もちろん八尾という場所にこだわり続けていきながら。平山さん、引っ越してきたくてしょうがなかったりして。
八尾を地盤に活動するシゼンブの精鋭たち。なぜ八尾だったのか、なぜ八尾でないといけなかったのか、よくわかりました。まさかこんな長屋(失礼!)でこんな優秀な若いモンがこんなに頑張ってるとは。アクアファンであってもなくても、ぜひ足を運んでみてください。
その時はぜひ励ましのひと言をかけてあげてください。「カフェまだ?」って。