というよりも、今回は「湯のある風景」と言ったほうが適切かもしれません。
兵庫県の山あいに抱かれた静かな温泉地・湯村温泉。
地下から大量に湧き上がるお湯の温度は、なんと98度。
岩盤と断層に沿って上昇するお湯も、元を正せば地中の深いところで温められた地下水にほかなりません。
春まだ遠き2月。
残雪もところどころに。
温泉のある風景に心惹かれて、湯村温泉を訪ねてみました。
◆地下水が地中へ、そしてまた地上へ
98度のお湯を、1分間に約2,300リットルも湧出する日本有数の湯村温泉。
とはいえ火山らしきものはなく、あるのはのんびりとした温泉独特の風景だけです。
どんなメカニズムでそんな温泉が湧き出すのか、風情あるたたずまいからは想像すらできません。
こぢんまりとした温泉街には川がよく似合います。
水のある風景は、温泉街でも例外ではありません。
温泉の中心を流れるのは春来川。
大小いくつもの橋には、そぞろ歩きが楽しくなるような情緒ある名前がつけられています。
ここで2つの川が合流しています。
民家もたくさんあります。
ホテルや旅館以外にも、古くから温泉の恩恵を受けてきた人々のくらしがここにあります。
春来川には、こんな「旅人」たちもやってきます。
そして、格好の棲み家にしている魚たちもいます。
よほど居心地がいいのでしょう、気持ちは人も鳥も魚も同じです。
川沿いをそぞろ歩き。
ちょっとした遊歩道になっているので、散策にはちょうどいい感じです。
芸能人など有名人の手形がずらりと並んでいるところも。
自分の手と比べながら、ついついすべての手形をチェックしている観光客も少なくありません。
遠くから、白く立ちのぼる湯けむりがふわふわっとみえます。
多くの観光客らしい人たちが、歓声をあげています。
見ているだけでテンションが高くなってきました。
早速近づいてみましょう。
◆湯けむりに包まれて
ここは通称「荒湯」。
湯村温泉で一番高い温度の湯を湧出するポイントです。
98度の湯に、手なんて浸けられるわけがありません。
地下水は、いったん地中深くまで浸透。
そして地熱によって温められ、岩盤や断層を伝って再び地上へ。
そんなメカニズムが、湯村温泉の仕組みです。
今さらながら、水を司る自然の営み・恵みに舌を巻くばかりです。
たまごを高温の湯に浸す「温泉たまごプレイ」は、湯村温泉の観光の定番。
わずか数分の楽しみですが、老若男女の無邪気なはしゃぎぶりが印象的です。
これこそが、温泉独特の解放感なのでしょう。
おそるおそる下をのぞき込むと、とたんに高温の湯気が顔をぷわ~っと。
メガネもカメラも曇って何もみえないのに、なぜかこの暖かさに幸せを感じるのは自分だけでしょうか。
河原では、足湯を楽しむ人たちが。
冬なのに裸足。
冷たい水が流れる春来川とは、対照的なシーンです。
地元の人たちは、98度のお湯を湯たんぽに入れて「テイクアウト」。
買ったばかりの野菜を高温の湯でサッとゆでて、今夜のおかずに持って帰る人も。
温泉という自然の恵みは、地元のくらしにもしっかり根付いています。
こぢんまりした温泉街は、散歩がてらにのんびり歩くのが一番。
外湯の施設や、ちょっとユニークなお店がところどころに。
「おばあかふぇ」は、今回の旅では特に印象的でした。
こんなノボリには、ついついひかれてしまいます。
もし時間があったら、ぜひ入ってみたかった気になる理髪店。
まさに「後ろ髪をひかれる」瞬間でもありました。
雪国らしい風景もわずかに残っていました。
湯村温泉は、NHKのドラマや映画「夢千代日記」の舞台にもなったところです。
春来川が見渡せる場所には、当時主演した女優・吉永小百合さんの銅像も立っています。
観光客の絶好の撮影スポットでもあります。
建物の上からごうごうと音を立てる滝に出くわしました。
なんとここはホテルの玄関。
ちょっとびっくりな光景ですが、ホテルのランドマークとしては楽しい水のある風景です。
ちなみに、流れ落ちてくるのは温泉ではなく水だそうです。
◆宿がまるごと美術館?
今回お世話になった宿のロビーで「ウェルカム抹茶&和菓子」をいただきました。
ふと庭園をみると、ここにも水のある風景が。
夜にはライトアップも。
流れる水を夜のラウンジから眺めていると、旅の疲れも吹き飛びます。
ちなみに館内のあちらこちらに、ふと足をとめてしまう心憎い演出や美術品が。
そして、館内にも水が流れていました。
まるで宿全体が美術館のようなアートな世界が、惜しげもなく。
至れり尽くせりとはまさにこのことをいうのでしょう。
湯村温泉が見渡せる最上階の露天風呂に、ゆっくり身をゆだねて。
思わず声をあげながら吐き出す大きな吐息、そして頭の中がからっぽになる至福の時間です。
夜の春来川付近は、昼間とはまた違った風情を漂わせています。
誰もいない河原や荒湯には、もうもうと湯けむりが。
自然の営みが止むことはありません。
河原の地熱は、まさに自然の床暖房。
冬の夜でもあまり寒さを感じないのは、このおかげでもあります。
ふと見上げると、山の上には「夢」の文字が。
てっきり月のあかりかと思いきや、まさか夢に照らし出されるとは意外でした。
心がほっこりするような、真冬の「夢見」。
「みなさんの夢が叶いますように」と、語りかけられているような気がした湯村の夜でした。
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