◆ローカル色漂う温泉風情
JR大阪駅から快速電車で40分。
まるで周囲の景色が一変し、美しい渓谷が目に飛び込んできます。
ここは兵庫県の武田尾(たけだお)。
1986年に電化される以前は列車が山の中を縫うように走っていたところで、ローカル線としての風情が存分に味わえたところでもあります。
昔から紅葉と温泉で知られ、宝塚市と西宮市の県境に流れる武庫川が、景勝地ならではの水のある風景を演出しています。
武田尾駅は、兵庫県宝塚市玉瀬字イズリハという珍しい所在地にあります。
周辺に人家などはまったくありません。
以前は列車が走っていたというトンネルを少し歩きます。
トンネルを抜けししばらく歩いて振り返ると、ひときわ印象的な赤い吊り橋「たけだおばし」が。
武田尾温泉への表示もここに。
川をはさんで左側が宝塚市、右側が西宮市です(武田尾温泉側より)。
水量の多い武庫川。
白い水しぶきが印象的です。
以前ご紹介した保津峡とたたずまいは似ていますが、屋形船やボートなどの観光資源はありません。
ひなびた風情が漂う武田尾温泉(西宮市側)。
今では数軒のみが営業しています。
1641年に豊臣方の落ち武者・武田尾直蔵氏によって発見されたといわれています。
2004年、この付近は台風23号の影響によって大きな被害に見舞われました。
慰霊碑が宝塚市側の道路沿いにひっそり建っています。
台風23号で甚大な被害を受けた旅館は復興し新しく生まれ変わったそうです(宝塚市側)。
コテージ風の建物や、下には足湯もあります。
◆またひとつ温泉の灯が消える日
武庫川をはさんで宝塚市側からみた対岸の武田尾温泉「マルキ旅館」。
一番右側のすだれのかかった部屋で、作家・水上 勉が小説「櫻守」を書き上げたのだそうです。
残念ながら、同旅館は11月いっぱいで砂防工事のため休館となるのだとか。
またひとつ、武田尾温泉の火が消えることになります。
対岸だからこそみえるこんな水の風景も、11月で見納めとなりそうです。
ハイカーや家族連れの姿はさほど多くありません。
観光資源は特にありませんが、のんびり秋の一日をすごすには穴場かもしれません。
たけだおばし付近にある巨石。
一体どこから運ばれてきたのでしょうか。
◆心踊る廃線跡ハイキング
さて、武田尾駅をはさんで反対側には、かつての福知山線の廃線跡に遭遇します。
レールがないだけで、トンネルもそのまま、枕木もそのまま。
今にも列車がトンネルから姿を現し、こちらに向かって走ってきそうです。
トンネルあり鉄橋あり渓谷あり。
今では関西屈指のハイキングコースになりました。
ただし、あくまでも「自己責任ハイキングコース」。
老朽化された廃線跡ということもあり、残念ながら正式なハイキングコースとして整備されていません。
気分はすっかりスタンド・バイ・ミー♪
歩きにくいかもと思っていた枕木ですが、大人が普通に歩くにはちょうどいい歩幅です。
かつては列車が走っていたことに思いを馳せて。
豊かな水量のせせらぎや鳥のさえずりなど、自然はたっぷりあります。
しかしながら、砂防工事のために休館を余儀なくされる旅館がまた一軒。
自然を守るための工事のために、水のある風景まで失ってしまうのは寂しい限りです。
廃線跡ハイキングのように、なくなることで生まれ変わる名案が生まれることを祈るのみです。