アクアの世界には、さまざまなスペシャリストがいます。
水草に強い人、レイアウトに強い人、生体に強い人などなど。
以前ご紹介したベタ専門店・フォーチュンの石津裕基さんもそうでした。
フジワラペットファームの代表・藤原宗爾さんもその一人。
大阪市内で店舗兼養魚所を構える、若き金魚のスペシャリスト。
弱冠30歳。
ある意味、「金魚博士」。
ある意味、「期待の星」。
ある意味、将来の「さかなクン」。
らんちゅうを中心に金魚の仕入れ・生産・販売のかたわら、専門学校の講師も手がけるユニークな若手マルチ人間をご紹介しましょう。
◆一般参加OKで人気の高い「やまと錦魚園」の金魚セリ市
「大和郡山市(奈良県)で金魚のセリ市があるので、そこでお会いしましょう」。
藤原さんとの待ち合わせ場所に指定されたのが「やまと錦魚園」でした。
え、大和郡山ってあの金魚の?
しかもセリ市?
とりあえず藤原さんから指令を受けて、ミッション開始!
金魚のセリ市にうかがったのは、12月最初の日曜日。
セリ市は毎年春と冬の2回行われるそうです。
そういえばむかーし、「キワメテ!水族館」をまだやってないころ、ふらっとここにきた記憶が。
なので、今回が実質2回目の訪問です。
やまと錦魚園は、今も金魚の生産が盛んです。
敷地内の金魚資料館には今も定期的に観光客が訪れ、金魚とは切っても切れない関係にあります。
みなさんも大和郡山へお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。
資料館の奥には、どかんどかんと大型水槽が野外展示。
水槽の下には、昔金魚の運搬などに使われた道具がいっぱい。
これは面白い!
♪金魚~~~エ~~~、金魚~~~~~♪のアレですね。
歴史の重さを感じずにはいられません。
おお~、琉金をはじめ、浜錦や江戸錦、桜錦などが豪華絢爛に泳いでます。
◆いよいよセリ市に潜入!
うわっ、まだ10時すぎだというのにこのスゴイ数の人・人・人(笑)
聞いたところによると、出品する人は5時くらいから開場を待ってるそうですよ。
スゴすぎ!
まるで魚河岸!
こうした一般参加OKのセリ市は全国でも珍しいのだとか。
出品する側も落札する側も、わずかな手数料を払えば誰でもウエルカム。
「それなら一度行ってみたい!」と、これを読んで思う人は少なくないでしょうね~。
セリ市には、近隣の府県だけでなく三重県や岡山、四国からの参加者も。
「春と冬の2回、必ずきています。予算はだいたい4~5万くらい。それでもまだまだ安いので、本当にこのイベントはお得です」と倉敷からやってきたご主人がうれしそうに言うと、「毎年きているのに、観光は一切なし(笑)。買ってサッと帰るだけ。娘も孫もすっかり慣れてしまって、あきらめてますけどね(笑)」と奥様。
ちょっと笑ってしまいました(笑)
いずれにしても、良質の金魚が安く手に入るのであれば、遠くからきても値打ちがあるわけです。
一体1匹いくらくらいで買えるかって?
それはきてみてからのお楽しみということで(笑)
◆セリ市に足を運んで愛好家との交流を惜しまない藤原さん
藤原さんと会場で会えました。
この日は数匹の琉金と東錦を出品し、らんちゅう2匹を落札。
「これで儲けようなんて思ってませんから(笑)。顔見知りの人がよくいるし、どんな魚が人気なのかよくわかるし。知り合いがたくさんいるから、情報交換にもなりますしね」
いつも穏やかな表情で話す藤原さん、人柄がそのまま顔に表れているような気がします。
あらまあ、全身金魚の人も(笑)
キャラこそは藤原さんとまったく別物ですが(笑)、セリ市ではしょっちゅう顔を合わせるこの人も、藤原さんのよきブレーンです。
いわゆる「金魚づきあい」ってやつですね(笑)
さてさてセリ市といっても、さほど緊迫感はありません。
東京の築地じゃあるまいし、目が血走ってるわけでもないし(笑)
やまと錦魚園・嶋田輝也社長(写真右中央・青いジャンバー)の軽快なテンポで、手際よく進められていきます。
藤原さんとも8年以上の長いつきあいなのだとか。
洗面器には、らんちゅうやオランダがゆうゆうと。
熱帯魚のように26度に保ってなくても大丈夫なところが、金魚を飼いやすい大きなポイントです。
肉隆が美しいこと。
背中がなめらかな曲線を描いていること。
尾っぽのかたちがきれいなこと。
藤原さん曰く、いいらんちゅうを見分けるポイントだそうです。
結局セリ市が終わったのは、日の暮れかかった午後5時。
この日の最高高値は、なんと4万円でした。
みなさん、お疲れさまでした!
◆金魚の醍醐味は「自分でじっくり育て上げられること」
藤原さんがこの世界に入ったのは、約10年前。
あるペットショップのインターネット販売をサポートしたのが最初でした。
一時は、クワガタの養殖にも携わったことがあり、「倉庫まで借りて4~5年やってきましたよ」。
20代前半のころは、動物専門学校の講師助手を務めたり、小動物を扱う問屋に6年勤務したり。
子どものころから生きものが好きでしたが、ペットに関することを仕事にする気はなかったそうです。
「ただ、好きなことをして生きていきたいとは思ってました(笑)」
ああ、それは理想ですね~。
――――金魚の魅力はどういうところなんでしょう?
「育てていけば、色やかたちが変わっていく醍醐味ですかね。クワガタを育てるのも楽しいんですが、大きさの変化だけしかないでしょ?その点、金魚は育て方次第で色々な変化をみせてくれます。グッピーなんかもそうですよね。楽しいですし、やり甲斐があります。さらにそれが売れてくれれば最高です」
――――金魚との出会いは?
「金魚というより、らんちゅうですね。ある人から成熟した魚を数匹いただいて、その孵化に成功したことがきっかけでした。これで、すっかりらんちゅうの魅力にはハマりました。幸いらんちゅうの愛好家の方もたくさんいらっしゃったことで、どうやれば自分流のらんちゅうに育てあげることができるか、どうやったらうまく選別に成功できるかなどが、わかってきたんです」
――――品評会にも数多く出品されていますね。
「これはとっても刺激になります。自分の育てた魚をみてもらいつつ、ほかの魚もみせてもらうことで、自分の技量がわかりますから」
――――最初から順風満帆にいきましたか?
「いえいえ、全然です(笑)毎年愛知県の弥富で開催されている大きな大会があるんですが、最初は惨敗の連続でした」
――――なるほど、藤原さんでも苦汁を舐めることがあるとは(笑)
「そんなに簡単にはいきませんよ(笑)それも経験なんです。今では1年に5回くらい出品していますが、おかげで表彰状の数も60枚を超えました」
――――それは素晴らしい!ぜひ店内に掲げないと(笑)
「とは思ってるんですけどね~、なかなか時間がなくて」
品評会などでいい成績を収めると名が知れ渡り、それがまた忙しさに拍車をかけるのでしょう。
品評会に出品することは単に名誉だけではなく、営業利益くらい大事なことなんです。
今年の第22回金魚日本一大会で弥富市長賞を獲得しました。
中央で表彰されているのが藤原さん(藤原さん提供)。
同大会で大会会長賞を受賞(藤原さん提供)
店頭の奥につつましやかに立っているトロフィーも数本に。
まだ掲示せずにいる60枚の輝かしい表彰状は、この奥の倉庫に眠っています(笑)
大阪市鶴見区の一角にあるフジワラペットファームは、店舗というよりまさに養魚場。
〈どこよりも品質のいい金魚が安く買える〉と、電話やブログから直接買いにくるお客さんも多いようです。
「ただし、ご来店の際はあらかじめご連絡を(笑)」。
そうそう、とにかく忙しい人ですから☆
知り合いの印刷会社が企画し製品化したという金魚のペーパークラフト。
店頭でも販売中♪
来年2月から3月にかけて、いよいよ産卵が始まります。
この季節になると、毎朝産卵している魚がないかチェックが必須。
品質のいい魚を育てるためにも、やっぱり1日の始まりが肝心なんでしょうね。
水質チェックを怠らない藤原さん、まるでわが子を育てているようにやさしい☆
◆藤原さんが中国でみたオモシロ金魚事情
とにかく忙しい藤原さん、品評会やセリ市だけでなく、買いつけや視察などで全国を飛び回っています。
先日も、やまと錦魚園の嶋田社長と一緒に、中国天津で開かれている金魚のイベントへ〈海外出張〉。
「色々刺激を受けてきました」。
らんちゅうのブリーディングの第一人者(日本人)によるセミナーは大人気。
しかも日本円で2000円もするセミナーなのに、この人だかり。
金魚に対する中国の意識はハンパではありません(藤原さん提供)。
まるでプールのようないけすのような展示があちこちに。
中国では、一般家庭でも90㎝水槽は当たり前のサイズなのだとか。
ということは、必然的に魚も大きいサイズが好まれているようです。
金魚ひとつをとってみても、中国文化のスケールの大きさがうかがえます(藤原さん提供)。
金魚の展示や即売会では、日本と同じ洗面器を使用。
こういった文化は同じなんですね~(藤原さん提供)。
一転、夜のまちをぶらぶら。
何だかアヤシイ空気がそこかしこに漂っています(藤原さん提供)。
色とりどりに品種改良されたウーパールーパー。
えええええええ!!!!
いかにも中国らしいといえば中国らしいド派手さが面白すぎます(藤原さん提供)!
◆将来はビニールハウスの「金魚ファーム」誕生!?
以前取材した専門学校での講師も務める藤原さん、1年生に主に水槽管理を教えています。
「基本的に自由を尊重していますが、同じ質問を何度もしたりしてくる子も多いですよ(笑)」
いやいや、それは藤原さんが話しやすい相手だという証拠。
以前取材した時は、『なんでも話ができるやさしく頼もしい先生です』ってみんな言ってましたから~。
学生たちからも人気のある〈藤原先生〉なんです!
とにかく、いい品質の魚をつくっていきたいという藤原さんの信念に変わりはありません。
かといって、それだけだと量産していくのには限界があるのもまた事実です。
〈質のいい魚〉と〈売れる魚〉。
このジレンマが少しずつ解消していけば、すべてがきっといい方向に流れていくのでしょう。
インターネットによる通信販売が中心になりつつ今、そうした努力が必ず報われる日も近いような気がします。
きっと大丈夫!
土地でもあればビニールハウスでもつくって、最高の環境で魚を育てていくことができるんですけどね(笑)」と話す藤原さん。
「一人でやってるからこそどこへでも行けるし、結局それがいいモノとのめぐり合いにつながっているような気がします。企業にはまねのできないこうした小回りのよさを、これからも活かしていきたいと思っています」
若いながらも、夢をとことん追いつつ意外と計算のできる冷静さも持ち合わせています。
何より、「仲間」が多いことが藤原さんにとって大きな刺激でもあります。
単に情報交換といえばそれまでですが、信頼関係を構築していくにはやはり人柄が大事です。
それは、今回セリ市にうかがってよくわかりました。
どんな相手であろうと、決して差別して接しない人柄は好感が持てます。
若くて、マメで、研究熱心で、人柄もよくて、誰からも好かれて。
「あと、いいヨメさんでもきたら文句ないんですけどね~(笑)」と言った、セリ市で一緒だったあるショップオーナーのつぶやきが印象的でした☆
安心してください、金魚を大事に大事に育ててきた藤原さん、今度は奥さまが藤原さんをしっかり支えてくれることでしょうから(笑)
【オマケ】フジワラペットファームお魚ギャラリー☆
※売り切れの際はご容赦ください。
★フジワラペットファーム
538-0052大阪市鶴見区横堤2-14-18
090(1483)2283
来店の際はあらかじめ電話にてお問い合わせ、またはブログでご確認ください。