連日観光客でにぎわう古都・奈良。
近年は外国人観光客も多く、特に東大寺周辺はひときわ人気の高い観光地です。
その東大寺周辺のほんの一角に、なんと沢ガニが生息していることをご存じですか?
といってもそんなにたくさんいるわけではなく、目にするのはほんのわずかにすぎません。
古都・奈良の知られざる穴場。
1300年の歴史に関係しているのかどうかも不明。
ただ、そんな一角にも水を棲み家としている健気な生きものがいることだけは確かです。
◆「お水取り」で有名な二月堂
毎年3月12日深夜に行われる「お水取り」。「お水取りが終わると春がやってくる」といわれるほど、全国的にも有名な風物詩となっています。東大寺の境内の中でも最も高い場所にあり、長い石段を登って小高い舞台から見渡せば、大仏殿の屋根まで見渡すことができます。お水取りの時は、深夜にもかかわらず勇壮なお松明をみようとする観光客でごった返します。
そんな二月堂も、普段はさほど人は多くありません。外国人観光客に超人気の大仏殿に比べれば、雲泥の差といえるでしょう。その分、二月堂周辺をゆっくり散策することができ、静けさを好む人々にとっては好環境といっても過言ではありません。
周辺には三月堂や四月堂はもとより、や手向山八幡宮などといった、ひっそりとしたたたずまいをみせる神社仏閣もあり、ちょっとした京都的な雰囲気も醸しだしています。
二月堂から石段を下りたところには、お水取りゆかりの重要文化財の「閼伽井屋(あかいや)」があり、その周辺には幅50㎝ほどの溝を緩やかに水が流れています。
◆激減の原因はアライグマ?
そしてみつけたのがこの看板。えっ?この溝に沢ガニが?これにはびっくりです。しかも野生化したアライグマって。この付近にいるのは、鹿だけではなかったんですね。
付近の溝を探索。しかし一匹も沢ガニと遭遇できませんでした。もしかしてアライグマの仕業なのでしょうか。少し手を浸してみました。真夏だというのにひんやり。これも意外でした。
続いてここ。二月堂からの石段を下りてすぐのところに、溝が2本ありました。
ここにもさきほどと同様の看板が。かなり低い場所にあるので、これに気付く人は少ないと思います。いや、もしかすると捕獲されることを懸念した配慮なのかもしれません。みなさん、ここでもし沢ガニをみつけたとしても、決して持ち帰らないでくださいね。東大寺二月堂に成り変わってのお願いです。
そして2回目の探索を決行。まずこちら側の溝を探索してみることにしました。
あ、いました!やや赤みがかった2~3㎝ほどの沢ガニ1匹とご対面。しかしながら警戒心が強いのか、カメラを向けるとササッと石の影へ隠れてしまいます。
ここにもいました。やはり体長は2~3㎝と、やや小ぶりです。
◆沢ガニの生息は水がきれいな証拠
もう少し近寄ってみました。沢ガニが棲むだけあって、水がとってもきれいです。いつから生息するようになったのでしょうか。二月堂の「お水取り」と何か関係があるのでしょうか。何か心が洗われるようで、捕獲なんてとてもとても。アライグマの気持ちがまったく理解できません。
時々観光客が通りかかるのですが、関心がないのは沢ガニがいることに気付かないのか、ほとんど通りすぎていってしまいます。
そしてさらに裏参道と称される下り坂へ。ここにも道に沿って2本の溝があります。下へ行くに連れて幅広く、そして深くなっています。石段をひとつひとつ下りながら、土塀や石積みなどに目を奪われます。残念ながら溝に目を奪われる人はほとんどいません。
探索3回目。今度は、たまたま観光に訪れていた子どもたちも一緒です。「沢ガニがいるらしいよ」と伝えると、ガゼンやる気を見せてくれました。小学生にとっては、1300年の歴史より生きもののほうが興味あるに決まっています。
◆裏参道の風情と沢ガニ
そして発見。今度は5㎝ほどある大きさで、あまり逃げようとはしません。警戒心があまりなさそうなのは、ここがほかの溝と違って高さがあるせいかもしれません。もしかすると、アライグマも手に追えないのかもしれません。
裏参道をこのまま下っていくと、大仏殿の裏側付近に出ます。ここでも、沢ガニに対する観光客の反応は皆無でした。
さっきまで沢ガニに興味を示していた子どもたちの関心は、道端で絵を描く男性に。裏参道、どこを描いても本当に絵になります。ほのぼのとするひとコマでした。
二月堂付近には、古びた雰囲気の風景がたくさんあります。いつ訪れても人は少なく、「このあたりが奈良で一番好きな場所」という奈良ファンも少なくありません。
今回の探索で、5~6匹の沢ガニと遭遇することができました。大きさはさまざまでしたが、少ないといわれれば確かに少ないような気もします。二月堂には一見不釣り合いにみえる沢ガニ。いつの時代からここに生息するようになったのかは定かではありませんが、水がきれいだからこそこうして生息しているのは間違いありません。
アライグマよ、お手柔らかに。今はそれを祈るのみです。